ゾルゲはソ連のスパイであった。それは事実である。尾崎等が協力した。それは事実である。では彼等の活動で日本に実害を与えたか。それは全くない。一般に「ゾルゲは関東軍がソ連極東に侵入しないことを連絡した。これでソ連は極東軍を西に展開でき、モスクワ陥落を防いだ。大変な功績があった」とあるが、ゾルゲ等が関東軍がソ連の攻撃がないと報告できたのは9月以降、ソ連は8月中旬以前に、極東軍を西部戦線に投入する決定をしており、ゾルゲ情報は関係ない。
では何故ゾルゲ等が捕まったのか。
近衛首相を追い落とすためである。開戦に反対する近衛を、追い落とし、東条が首相の座に就くためである。尾崎秀実は近衛の側近と言われ、彼がソ連のスパイであれば、近衛内閣はもたない。それがゾルゲ事件の本質である。
それで次の人々が死等の被害を受けた。
ゾルゲ 死刑(1944年11月7日執行)
ヴケリッチ無期懲役(1
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「思想信条に基づく政治犯」の扱い方である。どんな組織にも入らない一庶民の自由な発言問題ではないと、とらえると大きな間違いである。
国家の通常時であれば大きな問題に発展することは少ないが、緊急時には、事態に対する対応に温度差が出てくるのは否定できない。冷静な判断が下されるより、事態を乗り切る積極策が主導権を握るようになるのは、依存的順応性に富んだ国民性を考えれば、当然の成り行きです。体制側の趣旨に国民が賛同してくれるのです。いくら正当性を主唱しても、何らかの犯罪名目をつけて犯罪性を認定すれば、犯罪者になってしまうのです。国民が自立していればこのようなことが起きないのですが、今まで、教育の現場で自立の教育がどのように実施されてきたか、ほとんどされていないでしょう。むしろ、教師に逆らうものは、評価などで仕返しをされ、物言わない生徒が増えてきたといえる。孫崎さんは、立場があり指摘されないが、保守的リベレルが体制に加担しているのであり、保守体制だけの問題ではないでしょう。
リベラルも革新的リベラルでなく保守的リベラルの道を選択すると、野党であっても、自民党と同体質になる。スパイ問題も、革新的であれば、スパイ活動が暗躍することは少ないが、左右どちらにしても保守的であるがゆえに、スパイ活動が不可欠となるのです。米国、中国、ロシア、北朝鮮の実態に目を向けるべきでしょう。日本は、スパイなど活躍しようのない開けた民主的革新国家であり、共謀罪の法定化など必要悪といえる。不必要なのです。スパイの暗躍する偏った保守的国家にすべきではない。
私は狭い意味の諜報活動ではなく、もっと広い意味での世論工作に重きを置いているので、「彼等の活動で日本に実害を与えたか。それは全くない」という孫崎意見には反対です。理由の詳細は前にも書いたのでしるしませんが、ゾルゲは「ソ連邦英雄」の称号が贈られ、今もロシア駐日大使が東京近郊のゾルゲの墓に参る慣行だそうです。尾崎もソ連から死後に叙勲されているそうです。
ソ連やロシアは、かれらの価値をちゃんと理解し評価しているということだとおもいます。
ところで、孫崎さんの記述のなかで「開戦に反対する近衛を、追い落とし」というところは重要です。つまり、軍と検察が「開戦に反対する勢力」(そのなかには昭和天皇もはいっていたという人も多い)を押し込めたと言うことです。当時、内閣や内閣総理大臣にもっと高級官僚をグリップするチカラがあれば、戦争はおきなかったかも知れないということですね。
今起きている加計問題を想起すると、日本の内閣や内閣総理大臣まだまだ強い存在になっていないのだなあと思います。
冤罪を堂々とやってのけれるような環境が共謀罪関係の法律の制定により出来上がる。
安倍政権とその周辺の思い上がった連中はその法律の本質をよく知って立法に取り組んでいるとはとても思えない。何故なら、彼らは総じて歴史のまともな知識があるようには見えないし、今回の共謀罪関連法は米国の圧力に条件反射的に応じて、その法律の意味するところの奥行きは彼らには分かりにくかろう。
ゾルゲ事件のでっち上げは治安維持法はあってこそ可能だったのだが、勿論、それだけではない。東条首相、井本検事、布施検事といった陰険極まりないサイコパスがいたからだと私は考えている。このようなサイコパスは右寄りだとか左寄りだとかは関係ない。金や出世も直接のサイコパス誘因とはなり得ない。また価値観とも無縁。全体主義体制で必ず発生する。ナチスドイツ、スターリンのソ連、現在のネオコン主導の米国の複層体制下にその存在の多さに驚かざるを得ない。
安倍体制がこのまま進み成熟すれば、今後、かなり高い確率で陰湿な東条タイプが登場してくるだろう。チャイルデイッシュな安倍さんなんかはあっというまに引きずり降ろされるだろう。
孫崎さんの議論のロジックには気になる点があります。
「ゾルゲ情報はソ連軍の行動に影響を与えなかった」「東條が近衛追い落としに事件を使った」からゾルゲたちは冤罪だといっているようにみえるところです。
仮に、「ゾルゲ情報がソ連軍の行動に影響を与えた」「東條が近衛追い落としに事件を使わなかった」としたら、孫崎さんはゾルゲたちが有罪だというんでしょうか?言わないんでしょ。
ですから、「ゾルゲ情報がソ連軍の行動に影響を与えたかどうか」「東條が近衛追い落としに事件を使ったかどうか」の二点は、ゾルゲたちが有罪かどうかの論点とは、孫崎さん自身の立場からも無関係なのです。
さらに、ゾルゲたちが治安維持法に違反していたことは証拠により明らかです。治安維持法が悪法かどうかの論点は別にありますが、治安維持法に違反していたことは間違いないのだから、こういうのは普通の意味では冤罪とは言いません。
まあ、孫崎さんの議論の流れは理解できるので、孫崎さんに強くつっこもうという気にもならないのですが、ここらへんの用語の意味が、わからない人もいるようなので、注意を喚起しておきます。
全体主義体制ということばもねえ。
近衛は大政翼賛会で、全体主義を主導するナチスやソ連共産党的な党をつくろうとしたわけですが、そのこころみは、まさに東條によって阻まれます。大政翼賛会は形骸化し、戦争開始も戦争指導も大政翼賛会指導下でおこなわれたものではありませんでした。
近衛中心の大政翼賛会体制がかりに機能していれば、戦争を避けられたかも知れないことは、孫崎さん自身の記述からもうかがい知れるところです。
雰囲気で歴史を知った気になっていることの弊害は大きいですね。
東條がヒトラーとは比べるべくもない、ただの官僚であったことは、すでに多数の知るところですね。
あの戦争は官僚によっておこなわれたのです。官僚をグリップすることの重要性が示唆されますね。