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「おばあちゃんの空豆」
コメ0 草の根広告社 30ヶ月前
南房総にあるおばあちゃんの畑から空豆が届いた。おばあちゃんというのは、ぼくの農作の師匠だ。70年以上、農業とともに生きてきた人。彼女が耕してきた土で育った空豆は数ある野菜の中でもファンの多い極上の逸品だ。豆を包む白い綿が羽毛布団のようにふかふかで豆自体もとても甘い。旬も短く、5月の二週間だけしか...
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「本当に贅沢なのはどっちなんだろう」
コメ0 草の根広告社 32ヶ月前
スーパーマーケットで刺身の盛り合わせを買わなくなって久しい。スーパーの刺盛りは世界の漁業の縮図だ。モーリタニアの蛸。ロシアの鮭。インド洋のまぐろ。フィリピンのイカ。日本のイナダ。そういった世界の海産物が三切れずつくらい盛られている。この一皿のために何人の漁師が汗を流しているのか。この一皿のため...
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「2022年3月3日」
コメ0 草の根広告社 33ヶ月前
海沿いの道を娘と手を繋いで歩いていく。朝の9時を過ぎていた。通勤通学も一段落したのか、車の往来も少ない。人もほとんど歩いていない。同じように登園を自粛している友達とばったり会えるのではないかと目を光らせている娘の姿に胸が痛む。「あ!」 葉を揺らして木から降りて来た小動物に娘が声を上げた。その声に...
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「世界が終わった後の夜に」
コメ0 草の根広告社 33ヶ月前
静かな夜だ。吹きすさぶ海風しか聞こえない。冷気が窓越しに伝わってくる。電気膝掛けの温度レベルをひとつ上げる。妻と娘が作ってくれたバナナナッツブラウニーを食べ、ウイスキーを舐めながら、一日を振り返る。
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「花を咲かせるんだよ」
コメ0 草の根広告社 33ヶ月前
菜花を食べるたびに思い出す言葉がある。「食べたあんたが代わりに花を咲かせるんだよ」 農業歴80年を越えるかしこおばあちゃん。僕の畑の師匠の言葉だ。菜花は二月のこの時期に花を咲かせる直前の蕾を食べる。花を咲かせるために充填したエネルギーを橫から掻っ攫って食べてしまうのだ。人間の営みの何たる残酷なこ...
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「僕らだけが取り残された浜辺で」
コメ0 草の根広告社 40ヶ月前
自分たちだけが世間から取り残されている、という孤独を感じることが増えたのは2016年に子どもが生まれてからだ。合理性とか利潤追求が重視される現実社会とは大きく懸け離れた神話的な時間軸にどっぷりと浸かって生きているからかもしれない。子どもが発熱して保育園を休んだりすると尚更だ。仕事もままならない中で...
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「海辺の夏の風物詩」
コメ0 草の根広告社 40ヶ月前
海辺の町で暮らすのに欠かせない道具のひとつに、「天突き」がある。木の部分に「心太」と書いてある奴だ。心太と書いて「ところてん」と読むことを僕はこの町で暮らすようになって初めて知った。
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「2021年7月7日」
コメ0 草の根広告社 41ヶ月前
「一年に一度、かささぎさんが橋になって織り姫と彦星を会わせてあげるんだって」 娘が暮れゆく空を見上げながら、保育園で聞いた七夕の伝説をそんな風に話してくれた。かささぎが橋になるなんて初めて聞いたような気がした。いや、子どもの頃に聞いたのかもしれないけど、とうの昔に忘れてしまったのかもしれない。な...
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「好きな海を嫌いになって欲しくない」
コメ0 草の根広告社 43ヶ月前
連休明けの誰もいない浜辺をランニングしていた朝のことだ。地元の小学生が三十名ほど列を為してやってきた。赤青黄色の体育帽子。一年生から三年生くらいだろうか。遠足か何かかなと思っていると、おもむろにリュックの中からビニール袋とトングをひとり一つずつ取り出して、浜のゴミ拾いを始めた。
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「プラスティックの海」
コメ0 草の根広告社 44ヶ月前
子どもの頃に受けた映画『猿の惑星』のラストシーンの衝撃は今も僕の胸にはっきりとした傷跡を残している。 宇宙の果てを目指す航海で不時着した未知なる惑星。船長のテイラーがそこで見たのは原始生活を送る人間が武器を手にした猿に支配される姿だった。なぜそんな非人道的なことをするのかと問う彼に対して「人間...
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「海辺の町、春の仕事」
コメ0 草の根広告社 45ヶ月前
地平線まで続く半島の広大な畑が春大根と春キャベツで溢れている。初めて見たときはそのとんでもない量に驚いた(これだけあっても県内の食料自給率は数%に過ぎないことも含めて)。でも何年か暮らしていると今度は出荷できない規格外のものが余りに多いことに驚かされる。少し曲がっている大根とか、大き過ぎるキャベ...