『R. Kelly』(R・ケリー)
アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ出身のシンガーソングライター、音楽プロデューサー。
セクシャル&センセーショナルなリリックと極上のメロディー、時代性を巧みに読みとったサウンド・プロダクション、その全てを兼ね備えた傑作群は人々を虜にし、“時代のR&Bセックス・シンボル”となる。
<TSUYOSHI 評>
ことブラックミュージックにおいては才能の固まりと言うべきお方。器用貧乏という言葉があるが、結局のところそれは物事に対するスタンスが広く浅いがゆえの四字熟語。しかしながらR・ケリーは、もちろん本人の努力もあっての事だと思うが、ただただ器用。今までの長いキャリアの中のほぼ全ての曲が自作自演。しかも、歌・作曲・アレンジ・音質の追求のどれにおいてもほぼトップと言っても過言ではない。ブラックミュージック界のポール・マッカートニーと言えば分かりやすいか。
チョウチンアンコウみたいなライトを頭に装着し、パブリック・アナウンスメントを引き連れ『She’s Got That Vibe』を歌っていた頃からすでに歌は巧かったのだが、年々その説得力は増してきている。歌は技術職。練習だけしていてもなかなか上手にはならない。この方はワーカホリックだそうで、という事はスタジオでの録音回数が多分ハンパないと推測される。スタジオ録音とはもちろん「練習」ではなく「本番」である。私の経験上からの意見だが、100回の練習よりも1回の本番の方がその後の技術向上に何倍も役に立つ。スタジオ録音に臨むことや本番のLiveに臨むことを繰り返すたびにその技術は成長をしていく。歌の説得力という観点だけで言えば各々の人となりが大きく作用してくるが、人となりだけでは技術は向上しない。幾度となく本気で歌い倒してきているからこその、あの説得力。あの歌力。歌っている人には特に注意して欲しいポイントである。
この歌の良さを表現するハードとしての楽曲の良さも、これまた秀逸。コンテンポラリーなR&Bからストリート臭強めのR&B、ときにはレゲエ、ときにはゴスペル。終始時代を踏み外さず、時にはトレンドを作り出しながら、素晴らしいバランス感覚で高品質の楽曲を量産し続けている。個人的にR・ケリーを強く意識し始めたのは実はこの曲作りの観点からで、そのきっかけはアイズレー・ブラザーズの『Let’s Lay Together』(https://youtu.be/AqlQ1eqLRmk)という曲を聴いてからである。アイズレー・ブラザーズの復活を告げた名盤『Mission To Please』に収録されたこの曲、R・ケリーのプロデュースによるシンプルなスロー・ジャムであり、絶妙な熱を保ちながら感情のヒダにすっと入り込んでくるような不思議な魅力を持った佳曲。とにかくこの曲に魅了された私は一時期R・ケリーに相当のめり込み、そのおかげで曲作りにおいて彼の楽曲から多くの影響を受けた。単なる楽典的な事は言うに及ばず、アレンジにおける音像の配置の仕方とか。マスタリングの観点で言っても、その音は程よく温かいのに歪まずクリアで聴き心地よく且つ聴き応えがあるといった具合。彼には様々な観点で語るべき事柄が多過ぎてどれだけの人が認識しているのか分からないが、とにかくR・ケリーの録音物の音は本当にとてつもなく良い。この事は、世の中に自分の歌であったり作品を聞いてもらおうとするためにはとても重要な事なのである。
彼が手掛けた作品の中で私が好きな曲を紹介したい。ホイットニー・ヒューストンの『I Look To You』(https://youtu.be/5Pze_mdbOK8)。これまた言わずもがなホイットニーの復活を示した名曲。先のアイズレーといい、アーティストの復活を助けるねぇ。まるで野村再生工場みたい。この曲が発売される以前の映像(https://youtu.be/8Zig5YIAk9I)がある。R・ケリーがこの曲を一節歌っている。80年代にワイナンス・ファミリーが示したコンテンポラリーなゴスペル直系の曲調である事がこれを聞いて分かると思う。本当に素晴らしい曲である。マイケル・ジャクソンの『You Are Not Alone』然り、自身の『I Believe I Can Fly』もまた然り。時折放つこの方向のR・ケリーを個人的にもっと聴いてみたいところだ。
<西崎信太郎 評>
R&Bを愛する者として、自分の許容範囲内の中で、日々このジャンルを日本で盛り上げるべく、色々な術を考えている訳ではございますが、正直色々な雑音も耳に入ってくる訳でして。「R&Bは、今低迷している」とか。先日、R・ケリーのライブをアメリカで観てきました。R・ケリーのライブを観るのは初めてでしたが、見終わった後に包まれた何とも言えない安堵感。一言「1つの事を突き詰める男はカッコいい!」。道に迷うっていう事は無いんですけど、既述の雑音が大きかったりすると、妙な孤独感を味わう事もあったりするわけですが、R・ケリーのライブを観たら、いかに自分の悩みが小さい事やら。48歳にして、あの舌使い、腰使い。そこは関係ないか(笑) 僕が初めて聴いたR・ケリーの曲は、確か"I Believe I Can Fly"。バスケが好きなので、僕が高校1年だった時に、この曲が使用されたマイケル・ジョーダン主演の映画『Space Jam』を観に行った記憶があります。で、そこから"Your Body's Callin"や"Bump N' Gring"というR・ケリーの真骨頂であるエロティシズムな世界へと遡って聴いていった訳ですが、僕が観に行ったライブは、ラス・べガスでの公演。しかも夜の22:30以降のスタート。"I Believe I Can Fly"のような爽やかな曲を歌う訳もなく、もちろん野郎達に目を向ける訳もなく、終始会場のギャル達との時間を楽しむキング・オブ・R&Bっぷり。しかもステージ上の後方にはソファやバー・カウンターをわざわざ設置。自分が座って歌うのかと思ったら、とりまきのギャル達がソファに座ってただ酒を飲んでいるという、これぞケリー流の女性へのおもてなし。「徹子の部屋」ならぬ「ケリーの部屋」に迷い込んだようなセット、また1つ「R&Bとは何ぞや」という事を教わりました。
アメリカに行くと毎回感じる事の1つは、各々の自己主張がハッキリしている。自分の好きなモノはこれ、嫌いなモノはこれ。他人の目なんか気にしないし、何より自由を楽しんでいる。日本では、短期的な流行的な部分で音楽ジャンルを捉えられちゃったりしている風潮があったりしますが、自分の好きなR&Bというジャンルを突き詰めるR・ケリーのスタンスに、単純に勇気づけられました。まぁR・ケリーのストレートすぎる歌詞観をそのまま日本に持ってきても、文化の違いがありすぎて、そりゃ抵抗があるでしょうけど(笑) 英語でのライブだったら英語圏で、日本語のライブなら日本で観るのが一番、ライブは生物だと改めて感じました。
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