マル激!メールマガジン 2018年9月12日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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マル激トーク・オン・ディマンド 第909回(2018年9月8日)
障害者を雇うことがなぜ社会にとって重要なのか
ゲスト:藤井克徳氏(日本障害者協議会代表)
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 そもそもこの人たちは、障害者を雇うことがなぜ社会にとって重要なことなのかを本当に理解しているのだろうか。
 中央省庁の8割が、雇用している障害者の数を水増ししていたという。去年の段階で、国の行政機関の障害者雇用率は法律で定められた2.3%をクリアしているとされていた。しかし、厚生労働省は8月28日、去年6月1日時点で国の33行政機関の障害者雇用率が実際は1.19%にとどまっていたことを公表した。実際に雇っている障害者の数が3,396人分不足していたことになる。水増しは地方自治体、立法府、司法にまで拡がっていた。
 42年前に障害者の法定雇用率が定められてから、民間企業は雇用率を達成するために努力を続けてきた。制度が導入された当初の雇用率は1.5%だったが、去年の実雇用率は1.97%まであがってきていた。一定の規模を超える民間企業に対しては、法定雇用率が達成できない場合、不足分に対して「障害者雇用納付金」の名で一人あたり5万円のペナルティまで課されているが、行政機関については、性善説が前提にあるため、ペナルティは設けられていなかった。そもそも率先して障害者雇用を推進する立場にある行政機関で不正が行われていたことは想定外のことであり、障害者たちは一様に大きな衝撃を受けている。
 日本障害者協議会代表で自らも視覚障害がある藤井克徳氏は、中央省庁が水増しをしてきたことで、障害者の雇用機会が奪われてきた現実があると指摘する。実際、公務員試験で上位の成績を修めながら採用されなかった障害者もいる。
 藤井氏はまた、政府がこのような不正を行っていると、政府が発表するデータが信用されなくなることも懸念する。結果的にここまでの日本の障害者の雇用をめぐる政策は、水増しされたデータを元に実行されてきたことになり、その正統性さえ揺らぎかねない。また、民間企業を指導する立場である省庁がこのようなことをしていては、民間企業も本気で障害者雇用を進めようとしなくなることが危惧されると、藤井氏は語る。
 今年4月から、障害者の法定雇用率は民間企業2.2%、国・地方公共団体等は2.5%に引き上げられた。しかしこの数字は現在、日本の人口全体に占める障害者の割合が7.4%であることを念頭に置くと、依然としてかなり低い水準にとどまっている。藤井氏はその背景には、効率や生産性を理由に障害者を排除する考えが根強く残っていると指摘する。
 障害者雇用は、障害者にとっての安定した収入の場を保証するだけではなく、職場環境をより働きやすいものに変え、仕事の内容に豊かさと幅を持たせる効果がある。障害者が生きやすい社会は当然、健常者にとっても生きやすい社会になるからだ。ことに政策を立案する立場にある政府機関では、政策決定過程に当初から当事者である障害者が参画していることが、実効性のある政策を作成する上でとても重要になる。
 障害者がともに働くことにどういう意味があるのか。なぜ、障害者を雇うことが社会にとって重要なことなのか。障害者問題に長年取り組んできた藤井氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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今週の論点
・障害者雇用の“水増し”の実態
・何のための「生産性」なのか
・意識や倫理の問題にせず、先に政策を動かせ
・問われているのは、日本がまともな社会かどうか
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■障害者雇用の“水増し”の実態

迫田: 先月末、中央省庁の8割で障害者雇用の水増しが発覚しました。厚生労働相は8月28日、去年6月1日時点の国の33の行政機関の雇用率の調査結果を公表し、約8割にあたる27機関で計3,460人の不適切な算入があったと発表しました。地方自治体分についてはまだ調査中で、9月末をめどに発表するとしています。再発防止策を10月にも取りまとめるということですが、宮台さんはこのニュースを聞いてどう思われましたか。

宮台: 自民党に杉田水脈という本当にダメな参議院議員がいて、LGBTは子供を産むことのない結婚につながるから生産性が低く、つまり社会に貢献しない存在だから認められない、というふうなことを言ったんです。僕はラジオで、基本的には優生思想も生産性の思想であり、これはナチズムにつながる発想で、人間の価値を生産性でカウントするというのはとんでもない、ということを申し上げました。今日は何のための経済で、何のための生産性なのか、ということを話さなければいけません。

迫田: ゲストには、日本障害者協議会代表の藤井克徳さんをお迎えしました。ご自身も全盲でいらっしゃいますが、障害者にかかわるさまざまな問題で活動されています。まず、今回の水増し問題を最初にお聞きになって、どう思われましたか。

藤井: まさか、という思いでした。そして、次の瞬間に浮かんだのは「なぜ」という感覚です。もし水増しがなければ、相当多くの障害者に働く場があったはずです。単年度で3,369人ということなので、累計していくといったいどれだけの人が雇用の機会を奪われていたのかということがあります。その“固有名詞なき被害者”という問題をどうするのか、ということがひとつです。