マル激!メールマガジン 2019年6月26日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第950回(2019年6月22日)
医師と製薬会社の利益相反を監視せよ
ゲスト:谷本哲也氏(内科医)
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 医師と製薬会社の利益相反は様々な問題を引き起こす。医師が特定の製薬会社と癒着すれば、患者にとって最適な薬が処方されない危険性が生じる。本来は不要な薬が大量に処方されれば、財政的にも負担になるし、薬の種類によっては薬物依存になる怖れもある。
 実際、オピオイドの過剰摂取による年間の死者数が5万人を超え、全国の依存症者数も400万人以上と言われるアメリカでは、オピオイド依存症が蔓延した背景に製薬会社と医師の癒着関係があったとして、目下、製薬会社や医師に対する厳しい責任追及が行われている。
 現在の危機的な状況の発端となったとされるオピオイド鎮痛薬『オキシコンチン』の製造元の製薬会社パデュー・ファーマは、オクラホマ州政府との間で2億7,000万ドル(約300億円)の損害賠償の支払いで合意したほか、少なくとも45の州政府から同様の損害賠償訴訟を起こされている。オピオイドを販売するテバ、インシス、ジョンソン・アンド・ジョンソンなどの製薬会社も、軒並み多額の損害賠償訴訟を起こされ、既にインシスは破産に追い込まれている。同時に、不当に処方箋を乱発してオピオイドを供給した医師に対する刑事告発も進んでいる。蔓延が始まってから20年あまりが過ぎた今、やや遅きに失した感は否めないが、アメリカもようやく製薬会社と医師の癒着に本気でメスを入れ始めている。
 一方、2013年に未曾有の利益相反事件「ディオバン事件」で、製薬会社と医療機関の利益相反が白日の下に晒された日本はどうだろうか。内科医で著書『知ってはいけない薬のカラクリ』で製薬会社と医師の利益相反問題に切り込んだ谷本哲也氏は、日本では未だに製薬会社が医師への利益供与が広く行われ、「医師がどの薬を処方するかは、製薬会社のMR(営業担当)が持ってくる“弁当”に左右されているのが実情」と指摘する。製薬会社の高級弁当持参の医師詣では常態化していると見え、多くの弁当屋のサイトが製薬会社向けに特化したページを設け、2,000円以上の高級弁当をラインナップしている。
 実際、全国31万の医師の3分の1に当たる9万8,000人が、製薬会社から何らかの謝金を受けとっていることが明らかになっている。
 医師が処方する「医療用医薬品」の市場規模は10兆円を超え、われわれが日々CMなどで目にする市販薬の市場よりも10倍以上も大きい。しかし、市販薬と異なり、処方薬は一般に向けた広告が禁じられている。少しでも多く自社の薬を使って欲しい製薬会社は、医師に直接営業攻勢をかけようとすることになる。メディアも大スポンサーの製薬会社は批判しにくいこともあり、医師と製薬会社の癒着関係や利益相反には元来、チェック機能が働きにくい構造がある。
 そこで谷本氏が所属するNPO「医療ガバナンス研究所」は、NPOメディア「ワセダクロニクル」と共同で、製薬会社から医師個人に流れる資金を調査し、それをデータベース化して公開している。これはワセダクロニクルのウェブサイト「マネーデータベース・製薬会社と医師」で医師の名前を入力すれば、その医師がどの製薬会社からいくら受け取っているかが、たちどころにわかるというものだ。
 アメリカは製薬会社と医師の利益相反に甘かったばかりに、製薬会社から接待攻勢をかけられた医師が大量のオピオイド処方箋を乱発し、結果的にアメリカ全土を薬物依存症の惨禍に陥れた。日本も弁当程度で済んでいればいいが、構造的にチェック機能が働き難くなっている以上、いつ暴走し社会に脅威をもたらさないとも限らない。いや、既にそのような事態が起きているのに、われわれが気がつかないだけなのかもしれない。
 製薬会社と医師の利益相反の実態とその結果起きる弊害、それをチェックする新たな試みなどについて、谷本氏とジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・医師を動かす、知られざる「弁当」問題
・製薬会社が医師に支払っている「272億円」
・そもそも薬の価格はいかにして決まっているのか
・利益相反の内側にいるメディアの問題
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■医師を動かす、知られざる「弁当」問題

神保: 今回はキリのいい950回目ですが、キーワードは「弁当」――つまり、利益相反です。なかでももっともわかりやすい事例の一つとして、この番組を観ている方も何らかのかたちでかかわっている、薬の問題を取り上げます。
 ゲストは内科医で、著書に製薬会社と医師の利益相反問題に切り込んだ『知ってはいけない薬のカラクリ』がある谷本哲也さんです。