マル激!メールマガジン 2019年8月7日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第956回(2019年8月3日)
MMTは日本経済の救世主となり得るのか
ゲスト:小幡績氏(慶應義塾大学ビジネススクール准教授)
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 経済が鈍化した時、政府が財政赤字を気にすることなくジャンジャン国債を増発して公共投資を増やすことで景気をテコ入れできれば、どんなにいいだろう。そして、その借金返済のためには、ジャブジャブ通貨を発行して返済に充てればいいなんて話があれば、政治家でなくても大喜びで飛びつくはずだ。
 もちろん、そんなことをすれば、たちまち通貨の価値は暴落し、インフレが頭をもたげ、市民生活が破壊されるのは必至だ。少なくとも経済学の世界でそれは常識だった。だからこそ、これまでそのような政策は御法度とされ、国家の体を成していない破綻国家や独裁国家以外は、そのような政策は採用されてこなかった。
 しかし、今、自国の通貨建ての国債を発行できる国はデフォルトに陥ることを気にせず積極的に国債を発行して景気刺激策を進め、借金の返済は通貨の発行で賄えばいいんだという「経済理論」が、世界中で注目されている。
 それがMMT(modern monetary theory=現代貨幣理論)と呼ばれるものだ。
 経済学の世界では同様の主張は以前から存在したが、既存の経済学の常識をことごとく覆すこのような理屈が本気で受け止められる事はなかった。しかし、MMT論者の一人だったニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授が、2016年の米大統領選でヒラリー・クリントンと民主党の公認候補争いでデッドヒートを演じたバーニー・サンダースの経済アドバイザーに就いたことで、アメリカでもMMTの認知度が一気に高まった。
 民主社会主義者を自認し、バラマキとも思える再分配政策を主張するサンダースは、その財源として富裕層や企業に対する増税と併せて、ケルトンの主張に沿った国債の増発を主張した。更にアメリカでは、18年の中間選挙で最年少当選を果たして注目を集めたアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員が、その政策「グリーン・ニューディール」の中でMMTの主張を取り入れたことで、アメリカではMMTに対する注目が俄然高まった。
 一方、日本ではそもそも未曾有の金融緩和と財政支出をセットで行うアベノミクス自体が擬似MMTと言ってもいいような性格を持っていたため、これまでMMTが大きく注目されることはなかったが、此度の参院選で大躍進を果たしたれいわ新選組の山本太郎氏が、立命館大学の松尾匡教授らのアドバイスに基づいて、MMTの主張を採用する政策を打ち出したことで、MMTへの関心の度合いが高まってきている。
既存の経済理論の枠組みをことごとく無視するかのようなMMTの理論的枠組みを、クルーグマン、サマーズといった主流派経済学者たちはいずれも酷評している。しかし、主流派経済学者たちの主張に沿った経済運営を続けてきた結果、リーマンショックは防げなかったし、各国で経済格差が広がり、それが政治不安まで生んでいることも事実だ。
 経済は専門性が求められる分野ではあるが、MMTとMMTをめぐる論争は、われわれに多くの視座を与えてくれているので、継続的に見ていきたい。まずその第一回目として、行動経済学が専門で、主流派経済学とも一定の距離を置いている慶應義塾大学の小幡績准教授に、MMTとはどのような理論なのか、どのような批判が上がっているのか、そしてなぜ今注目を集めているのかなどをジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。

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今週の論点
・MMTは「貨幣は無視する」という理論
・日本の“インフレ体温計”は壊れている
・サマーズ「MMTはブードゥー経済学である」
・過度な期待を集めたマクロ経済学の限界
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■MMTは「貨幣は無視する」という理論

神保: 今回のテーマはMMT(modern monetary theory=現代貨幣理論)ということで、事前に資料をお渡ししましたが、宮台さん、どんな印象でしたか?

宮台: ここまで話題になっていますが、その妥当性に関する議論があまり出てきておらず、反緊縮派の背後にMMTがあるんだ、という話ばかりを聞いています。中身について資料を読んでも、いまいちよく分かりません。日本の労働生産性、潜在成長率、最低賃金など、“盛れない指標”がいずれも悪いなかで、貨幣を刷るとか、貨幣を使うということを政府や日銀が行なうことで、なにかいいことがあるのでしょうか。

神保: そうですね。主流の経済学者たちからの批判を見ると、箸にも棒にもかからないような言い方になっています。ただ一方で、これまで主流の経済学に則ってきた結果がこの状況なのではないか、それがナンボのものか、と思う部分もあります。