マル激!メールマガジン 2015年7月15日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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マル激トーク・オン・ディマンド 第744回(2015年7月11日)
ギリシャの言い分にも耳を傾けてみよう
ゲスト:田中素香氏(中央大学経済研究所客員研究員)
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 ギリシャの財政危機がひとまず決着に向けて動き出した。ギリシャ政府は7月9日(日本時間10日)、EUに対して増税と歳出削減を盛り込んだ新しい緊縮策を提案、12日のEU首脳会議で支援が原則合意した。6月末の債務不履行から7月5日の国民投票と、一時はユーロ離脱も取りざたされるなど混迷を極めたギリシャ危機も、一息つける状態になりそうだ。
 ギリシャ危機は2009年に13.6%もの巨額の財政赤字を隠蔽していたことが発覚し、ギリシャ国債にデフォルト(債務不履行)の懸念が広がったことに端を発する。確かにギリシャ側に問題があることはまちがないだろう。しかし、粉飾発覚後、厳しい緊縮財政を強いられてきたギリシャ経済は深刻な不況に陥っている。実行された数々の金融支援はギリシャ経済を立て直すよりも、ギリシャ国債を大量に保有していた外国の民間資本を救済するために使われた側面が大きい。ギリシャ国民には、ECB(欧州中央銀行)が民間金融機関から国債を買い取ってそのツケをギリシャに回しているだけだという根強い不満がある。
 欧州経済に詳しいゲストの田中素香氏は、一連のギリシャ問題は一国の財政問題にとどまらず、欧州統合とその根幹をなしているユーロの問題も大きく影響していると指摘する。ユーロによって為替リスクを心配せず、EU域内でビジネスができるということは、事実上、EU全体で自由貿易協定を結んでいるのと同じ状況にあるが、自由貿易の下では常に強者が大きな利益をあげる一方で、弱者は搾取されやすい。ドイツのようにユーロの恩恵を受けて富める国と、ギリシャのような搾取される国の間の格差が広がっているという。
 今回、返済が滞っているECBやIMF(国際通貨基金)の債権は、元々民間銀行の融資が焦げ付きそうになったものを、ECBなどが買い取ったものだったと田中氏は言う。そして、その多くが、EU域内の外国企業がギリシャにも入り込み、ビジネスとして投資を行った結果生じた損失という側面を持っている。なぜそのような借金をギリシャが負わなければならないのか、という思いがギリシャ国内には強く、その主張にも一理あると田中氏は言う。
 今回のギリシャ問題は、グローバリズム下の競争の中で必然的に生じる強者と弱者の問題をどう捉えるかという、より大きな課題を突きつけているのではないか。ギリシャの言い分の正当性とドイツのように画一的に原理原則の徹底を求めることの問題点を、ゲストの田中素香氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・ギリシャ危機はいかにして起こったか
・西欧の大銀行に“食い物にされた”ギリシャの全共闘的抵抗
・ドイツの覇権的振る舞いと、ギリシャの地政学的重要性
・ギリシャ批判に終始することの危険性とは
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