マル激!メールマガジン 2016年2月24日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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マル激トーク・オン・ディマンド 第776回(2016年2月20日)
安倍政権ウーマノミクスの本物度
ゲスト:杉之原真子氏(フェリス女学院大学国際交流学部准教授)
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 現在、日本が抱える最も深刻な問題は何かと問われれば、多くの人が人口減少の問題を挙げるにちがいない。財政赤字、経済成長、社会の空洞化、そして移民政策の是非等々、いずれもその背後には人口減少問題がある。そして、その元凶としてやり玉に挙げられているのが、低迷を続ける出生率と、その原因として、女性が安心して子供を産んで育てられる環境整備が進んでいないことだ。
 総理になる前の2000年代前半には、男女共同参画運動やジェンダーフリー教育を保守の立場から批判し、第一次政権でも「女性政策」には見向きもしなかった安倍政権が、今回の第二次政権では打って変わって女性政策を最前面に打ち出している。
 しかし、そのアプローチはあくまで経済政策の一環という色彩が強く、従来の女性運動が大切にしてきた女性の権利や理念がなおざりになっているのではないかとの批判は根強い。フェリス女学院大学の杉之原真子准教授は、安倍政権の「ウーマノミクス」がもっぱら経済政策、とりわけ人口減少に伴う労働力の減少に対応するために、女性の労働力を活用することに政策の力点が置かれている点に懸念を表す。女性の権利という根本的な理念が置き去りになると、結果的に男性並みに働かされた上に、家事や子育てもこれまで通り女性が担わなければならないというような、理不尽な立場に追い込まれかねないからだ。
 それを避けるためには、女性の生き方や家族モデルに多様性を認め、男性の家事や育児への積極的な関与をサポートする仕組みが必要となるが、これは伝統を理由に選択的夫婦別姓にさえ同意できない現在の安倍政権の伝統的な価値観とは相容れないところがある。
 杉之原氏は、今後、安倍政権のウーマノミクスの本物度を占う試金石となるのが、第三号被保険者制度と配偶者控除制度を廃止できるかどうかだという。これらの専業主婦を優遇する制度は、いずれも場当たり的な選挙対策に過ぎなかった。ところがこれが現在まで思わぬ副作用を持ち続け、女性の社会進出の足枷となってきた。
 なぜ日本では女性の社会進出が一向に進まないのか。安倍ウーマノミクスでそれが変わることが期待できるのか。戦後の日本の政治構造が女性政策に与えてきた影響を検証しつつ、安倍ウーマノミクスの本物度を、ゲストの杉之原真子氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・日本の「女性の社会進出」政策はどう推移してきたか
・場当たり的な政策で固定化した、日本の「伝統的家族像」
・安倍政権が女性政策を訴え始めた理由とは
・女性政策は誰が実現するのか
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■日本の「女性の社会進出」政策はどう推移してきたか

神保: 今回のテーマは安倍政権のウーマノミクスです。一億総活躍社会という文脈のなかで出てきた言葉ですが、本当の目的は何なのか。女性の権利という話ではなく、経済を活性化させるために女性の労働力が必要だ、という動機だとすれば、それが本当にいいところに行き着くのかという思いはあります。

宮台: 目的と手段の関係が逆転していないか、ということですね。

神保: そういうところも含めて考えないと、「こんなはずではなかった」ということになってしまうかもしれません。ゲストをご紹介いたします。フェリス女学院大学国際交流学部准教授の杉之原真子さんです。私は『「戦後保守」は終わったのか 自民党政治の危機』(角川書店)という本で、杉之原先生を知りました。少子化、女性、家族などについて自民党による政策の歴史的な経緯を含めて書いておられます。著者は「日本再建イニシアティブ」となっていますが、これは元朝日新聞主筆の船橋洋一さんが理事長を務める独立系シンクタンクですね。

杉之原: 元々は国際政治経済と呼ばれる分野が専門で、金融規制や外資の規制などを研究していたのですが、周囲の研究者にこういうことも勉強してみたいと話していたところ、ちょうど日本再建イニシアティブから声がかかって。とても面白く、重要なテーマだと考え、参加させていただくことになりました。