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第274号 2018.6.26発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしの人たち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「泉美木蘭のトンデモ見聞録」…芸術家と偏執性シリーズ、今回は超著名な児童小説『不思議の国のアリス』の著者ルイス・キャロルを取り上げる。メルヘンチックな児童小説からは想像できないほど、本人は常軌を逸した几帳面さで、完全自己管理された人生を送っていたという。彼を「ロリコン」と呼んで蔑む論調もあるが、現代の価値観で断罪できるのだろうか?「表現の自由」を妨げている者、「芸術の敵」は果たして誰なのか?
※「ゴーマニズム宣言」…史上初の米朝首脳会談は金正恩の完全勝利だった。アメリカの最大の目的だったはずのCVIDが間違いなく履行されるという確証もないまま、北朝鮮の体制保障だけを約束したのだから、これはトランプの完敗以外の何物でもない。そして日本は破滅への道ともいうべき、最悪の事態に直面させられようとしている。にも拘わらず、米朝首脳会談の後、安倍政権の支持率が上がっている。これはいったい何なのか!?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!女性の「白髪≒グレイヘア」についてどう思う?先生の「笑い」の原点は何?テレ朝がドラマ『幸色のワンルーム』の放送を取りやめた件をどう思う?芸能人にとって品行方正であることはそんなに重要?子供が起こした犯罪に、親の責任はどこまで問われるもの?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第86回「芸術家と偏執性~ルイス・キャロル編」
2. ゴーマニズム宣言・第282回「米朝首脳会談の恐るべきヤバさ」
3. しゃべらせてクリ!・第232回「御坊家総出で、すいま千円~!の巻〈後編〉」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記




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第86回「芸術家と偏執性~ルイス・キャロル編」

 今日は知らない人のいない、超著名な児童小説『不思議の国のアリス』の話。
 ディズニーアニメをはじめとして、映像作品や映画、絵画、絵本、詩など後世において世界的に相当数の派生作品が作られているが、日本では、画家の金子國義(1936-2015)が挿絵を描いたものが有名だ。

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 金子國義は、この本のほかにもアリスをモチーフにした油彩や素描など、清純なものから濃艶、エログロなものまで長年に渡ってかなりの点数を描いている。

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(金子國義ホームページ https://www.kuniyoshikaneko.com/

 また、写真の世界では、沢渡朔氏がイギリスでオーディションを行って撮影し、刊行した写真集『少女アリス』(1973)が爆発的な人気となり、芸術や思想の雑誌などの表紙を連続で飾った。モデルとなった少女は、日本でチョコレートのCMに出演したり、レッド・ツェッペリンのアルバム『Houses of the Holy』のアートワークにも登場。この写真集は何度も復刻され、45年経った現在でもかなりの人気がある。

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(沢渡朔ホームページ https://sawatari-photo.com/

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 Led Zeppelin“Houses of the Holy”(1973)のアートワーク

■ルイス・キャロルという“変なおじさん”
 数々の名作を派生させた『不思議の国のアリス』だが、もとは著者のルイス・キャロル(1832-1898・イギリス)が、知人の幼女アリス・リデルのために個人的に語った即興の物語だった。アリスへのクリスマスプレゼントとして肉筆で書かれた『地下の国のアリス』という冊子がきっかけで、アリスの兄弟や友人たちからも喜ばれ、書籍化に至ったという。

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 ちょっとヤバめのおじさんだったルイス・キャロル

 ルイス・キャロルは作家ではない。イギリスの大学クライスト・チャーチ・カレッジ(現オックスフォード大学)の数学教師で、66年の生涯のうち、54年間を学校の敷地から一歩も出ることなく過ごしたという。
 メルヘンチックな児童小説を書く人物なのだから、さぞや“ふわっ”とした詩人風情の男なのかと思いきや……これが相当な変人だったことで有名だ。

 まずルイス・キャロルは、日々のスケジュールを分刻みで自己管理しており、午後の散歩の時間まで完全に正確だった。毎日の日記は、その日に会った友人知人の名前、読んだ本、観た芝居、撮った写真、天気や気温などの記録で恐ろしいほどびしっり埋まっている。
 さらに、伝染病を恐れて、室内のいたるところに温度計をぶらさげて温度を管理・確認してまわり、自分の書いた手紙にはすべて通し番号を振っていたという。死の前日に書かれた最後の手紙は、なんと98,721番(!)だ。