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第484号 2023.10.24発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…先週号で書いた「イスラエルよりウクライナだ」は、ライジングの読者には大好評で、やっと納得がいったという感想を多数もらった。しかし、予想通りとはいえ、これと同じ意見を唱える知識人は一人もいない。こんな意見は、マスコミには皆無である。決して「逆張り」などしていないのに、わしの意見は圧倒的少数となることが非常に多い。時には今回のように、唯一の意見になってしまうこともある。なぜ、いつもそうなるのだろうか?
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…日本保守党は、ネトウヨ党員を集めるためなら、朝鮮人ヘイトでも、障害者差別でもなんでもござれという凄まじい状態である。LGBT法を契機に動き出したところから、「もうポリコレにはうんざり!」「もう既存の大政党にはうんざり!」というような反動や幻滅が炸裂したように見えるが、その炸裂の仕方がとにかく支離滅裂だ。今月17日、日本保守党が正式に結党され、党の重点政策が発表された。そこから見えてきたのは、日本保守党=「明治アナクロ」+「江戸アナクロ」説、そして日本保守党=「安倍愛憎の結晶」説である。日本保守党は、実は「安倍晋三アンチ」なのかも!?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」…自身の考えが世の中に広がって欲しいと思う?近年、学校給食の質と量が「刑務所より酷い」くらいに低下している?逸材を見出してきた喜多川氏は日本史上で不世出の大プロデューサーでは?望月記者は「被害者」と訴える人達の発言の検証・裏取りもしなければ、各国の歴史についても一切調べようとしない?先生の反グローバリズムや反原発という考えには共感するのに、自分はその恩恵を受けているという矛盾をどう考えれば良い?左翼思想はまだ歴史が続いている日本の文化と根本的に相容れないのでは?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第513回「学歴秀才が日本を劣化させる」
2. しゃべらせてクリ!・第440回「キャンセルに負けるな!アイドルは不滅ぶぁ~い!の巻【前編】」
3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第307回「フランケンシュタイン? つぎはぎだらけの自称保守たち」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記




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第513回「学歴秀才が日本を劣化させる」

 先週号で書いた「イスラエルよりウクライナだ」は、ライジングの読者には大好評で、やっと納得がいったという感想を多数もらった。
 しかし、予想通りとはいえ、これと同じ意見を唱える知識人は一人もいない。こんな意見は、マスコミには皆無である。
 決して「逆張り」などしていないのに、わしの意見は圧倒的少数となることが非常に多い。時には今回のように、唯一の意見になってしまうこともある。
 なぜ、いつもそうなるのだろうか?

 最初に結論を言ってしまおう。
 それは、知識人やマスコミの全員が「学歴秀才」だからだ。
 学歴秀才は、テストでいい点を取ることだけを目指して生きてきた人間だ。
 出題者が求めているとおりの答案を書くことしか知らない人間だ。
 出題者が間違っているかもしれないなんて発想は、死んでも思いつかない人間だ。
 学歴秀才は褒められる解答を目指す。学歴秀才は嫌われる解答が書けない。
 だから、学歴秀才は必ず全員が同じことを言う。
 パレスチナ・イスラエル問題では、「このままでは夥しい民間人の犠牲者が出る。今は双方とも冷静になって、ただちに銃を置き、両者が対話のテーブルに着くべきだ」と言いさえすれば、100点満点の解答だ。「パレスチナ問題は放っておけ」なんて書いたら、0点なのだ。

 どうやったら真実に迫れるかではなく、どうやったら100点が取れるのかということしか考えずに生きてきた人間だけが、東大だの京大だのに入り、その後、ある者は学者になり、ある者は新聞社やテレビ局に就職する。
 だから知識人・マスコミ人は全員が学歴秀才であり、全員が同じ意見しか持たない。そういう構造が出来上がってしまっているのだ。
「AERA(10月23日号)」では姜尚中が、ハマスに対するイスラエルの報復が「現代のゲルニカ」になる恐れがあるとして「とにかく即時停戦を叫ぶ必要があります」と書き、東浩紀が「報復合戦は犠牲者を増やすだけ」として「一刻も早い停戦を望みたい」と書いている。
 二人とも、言ってることが全く同じだ。しかも、そんなことを言ったところで、何の意味もない意見だ。だが、それが求められる100点満点の解答なのだ。
 学歴秀才の知識人なんか何百人いても同じことしか言わないのだから、一人いれば用が足りる。いや、今ならチャットGPTで十分だ。

 そして大衆ってものは、そんな学歴秀才に権威を感じてしまっている。
 大衆と庶民は違う。庶民は、生活に根付いた歴史感覚に基づく自らの常識で判断する。
 だが大衆は、自分では判断しない。高学歴の偉い偉い秀才様がそうおっしゃるんだから、これが正解だと疑いもなく信じる。やがて、自分も最初っからそう考えていたとまで思い込んでしまう。そして、マスコミに登場する知識人らと同じことを、みんなで言い始めるのだ。
 テレビのコメンテーターには学歴のない芸人やタレントがよく使われるが、これなど典型的な「大衆」代表だ。学歴秀才様のお気に召す意見を言うことだけが求められ、忠実にその役割を果たすのである。
 そうして大衆は学歴秀才の意見と完全に同化し、時にはその意見に反する者をバッシングし、炎上させたりもする。
 だから「パレスチナ問題は放っておけ」なんて意見は、絶対にどこの雑誌にも載らない。たとえそれが真実かもしれないと思うマスコミ人がいたとしても、載せたらバッシングされてしまうから、怖くて載せられない。真実なんかどうでもいい。人に好かれなければ商売にならないのだ。

 ジャニーズ問題でも同じである。
 学歴秀才は全員「子供の人権を侵害したジャニー喜多川を徹底的に断罪せよ」と唱える。それ以外の意見は、決してマスコミには登場しない。
 そもそもテストで100点を取るためには、「人権」という言葉を決して疑ってはならないのだ。
 現在の法制度が全て「人権」という言葉の下に出来上がっているから、裁判官だろうと弁護士だろうと全員、「人権」は決して疑ってはならない概念として受け入れている。だから「人権」と言われたら、脳がしびれて一切の思考が停止してしまうのだ。
 一度「人権侵害」と認定されたものは、問答無用で「絶対悪」として糾弾しなければ、100点が取れない。
 だからジャニー喜多川が既に故人であるにもかかわらず、ジャニーズ事務所までも「性加害」を犯した組織として糾弾しまくり、消滅させてしまうところまで追い込んでしまうのである。