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マクガイヤーチャンネル 第66号 【ブロマンス映画としての『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』】
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マクガイヤーチャンネル 第66号 【ブロマンス映画としての『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』】

2016-05-09 07:00
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    マクガイヤーチャンネル 第66号 2016/5/9
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    こんにちは。連休が名残惜しいマクガイヤーです。もっと休みたい……

    若いアシスタントをお迎えしてお送りした「『シビル・ウォー』と『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』」は如何だったでしょうか?

    訂正というか、話し忘れたことがあります。アースちゃんの元ネタはアトムに加えてマグマ大使なことと、星野輝子の元ネタはサリーちゃんに加えてコメットさんですね。あまりにも『アトム』が好きすぎるのと、あんまり『コメットさん』に詳しくなくて、うっかりしておりました。



    今後の放送予定ですが、以下のようになっております。



    ○5/24(火)20時~(日程が変更になりました。ご注意ください)

    「最近のマクガイヤー 2016年5月号」

    『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』

    『ひそひそ星』

    『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』

    『ガルム・ウォーズ』

    ・史群アル仙『臆病の穴』

    その他、いつも通り、最近面白かった映画や漫画、気になったトピックについて、まったりとひとり喋りでお送りします。


    ○6/10(金)20時~

    ニコ生マクガイヤーゼミ

    詳細未定ですが、科学解説回を考えております。

    「腸管免疫と腸内フローラ(仮)」もしくは「『テラフォーマーズ』と最強昆虫決定戦」をやるつもりです。

    どっちが観たいか、是非ともお知らせ下さい!


    ○6月末(日程未定)

    「最近のマクガイヤー 2016年6月号」

    いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

    詳細未定。



    以上、ご期待ください。



    番組オリジナルグッズも引き続き販売中です。

    マクガイヤーチャンネル物販部 : https://clubt.jp/shop/S0000051529.html


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    思わずエナジードリンクが呑みたくなるヒロポンマグカップの他に


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    さて、今回のブロマガですが、童貞話はちょっとお休みして、映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』について、もう少し語らせて下さい。


    ゴールデン・ウィークといえば、夏休みや年末年始と並んで、大作映画が公開される時期です。そして、今年のゴールデン・ウィーク最も面白かった映画といえば、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』であると断言して構わないでしょう。

    公開初日に観たせいか、はたまた『コナン』『ちはやふる』といった家族連れが大挙して押しかけそうな作品のために大きな劇場が埋まっているのか、普段は人の少ない郊外のシネコンがなんと満席でした。

    アントマンが巨大化するシーンでは、小学生の観客が「すげえ」と口を開けて呆けていたことが忘れられません。

    「すげえ」映画を満席の映画館で観られるというのが、最高の映画的体験というものでしょう。そういや自分も満員の劇場で『ジェダイの復讐』『最後の聖戦』『プロジェクトA2』を観たものです。おっさんの思い出です。


    原作の『シビル・ウォー』は、かなり政治的な話でした。

    お話は、若くて生意気なニューウォリアーズというヒーローチームから始まります。どれだけ生意気かというと、ヒーロー活動をリアリティ番組に取材させて、有名になろうと試みるくらい生意気です。彼らはスタンフォードというニューヨーク郊外の街でヴィランたちと戦うのですが、なんとその中にナイトロという自爆能力を持ったヴィランがいたのです。追い込まれたナイトロは爆発し、何百名もの死者がでます。

    この事件を契機に、「自警活動」を行うヒーローに対して国民が抱いていた不信感が爆発し、ヒーローたちを監視し彼らの活動を制限するスーパーヒューマン登録法が施行されます。政府の管理下に入ればヒーローとして活動してOK、でも登録しなければ「違法ヒーロー」と見做され、逮捕されるという法律です。


    日本人的な感覚からすると、超パワーを持った超人たちが国家の管理下に入るというのは、納得のゆく話です。警察官は全員内閣府の管理化にある公務員であり、自衛隊は文民統制され、ヤクザは国に「指定」されることで初めて暴力団として認められます。

    しかし、アメリカはそれまでイギリス植民地の住人だった民衆が銃をとり、独立戦争すなわち革命を起こして独立した国です。だからアメリカの憲法修正第二条には抵抗権――政府による権力の不当な行使に対して人民が抵抗する権利が明確に認められています。つまり、国家がおかしくなった時に抵抗したり革命をおこしたりするために、銃の所持が認められているわけです。

    更に、警察よりも地域の住民が選挙で選んだり自らの身を守るためにお金を出し合って雇ったりする保安官の方が歴史が古く、その警察も保安官を補佐する目的で設置された市民自警団を起源としています。更に、独立戦争時に活躍した民兵の流れを組む州兵やテキサスレンジャーまで存在します。彼らは皆銃で武装し、銃で地域の安全と自由を守っています。

    スーパーヒーローを銃と同じようなものと考えれば、キャプテン・アメリカたちが登録法に反対し、地下に潜ってヒーロー活動をする理由がよく分かります。アメリカでは、政府がおかしければ、自らの安全と自由は自らの銃で守るものであり、銃を手にとって抵抗するのは正義の一つなのです。

    しかし、問題は自由と安全が対立する時です。


    同じようなヒーロー登録法は『ウォッチメン』でも『Mr. インクレディブル』でも描かれました。特に『キングダム・カム』は、「ヒーロー活動に伴う大量の犠牲者発生」→「ヒーローへの不信感の高まり」→「二派に分かれて争うヒーロー」という流れが完全に同じだったりします。

    それでは、『シビル・ウォー』の何が新しかったのかというと、大きく分けて2点あります。

    一つは、外伝でもアニメ映画でもなく、アメコミの主流となるオンゴーイングのシリーズで、マーベルユニバース(と呼ばれるヒーローが住む世界)全体を巻き込むクロスオーバーイベントとしてやりきったことです。大衆の信頼を得ようと正体を明かすスパイダーマン、あくまでも今回の事件の原因となった「悪人」であるナイトロを追うウルヴァリン、既にミュータント登録法を経験した経緯から事態を静観するX-MEN……といった、それぞれの立場による違いを描いたのは、『シビル・ウォー』が始めてでした。

    もう一つは、911とそれに続く愛国者法の隠喩としてのストーリー展開です。『シビル・ウォー』は2006年から2007年にかけて連載されましたが、ナイトロによる爆発事故は3千人以上の犠牲者を出した911を、スーパーヒューマン登録法は国民を監視する愛国者法を連想させるものになっています。特にタイ・イン(関連誌)の一つである『フロントライン:シビル・ウォー』は圧巻で、スパイダーマンが勤める新聞社は「まるでFOXニュースのような」右翼的な紙面となったり、ニューウォリアーズ唯一の生き残りメンバーであるヒーローに世間の非難が集中した挙句、刑務所に収監されたり、主人公であるジャーナリスト二人が「この法案で最も得をするのは誰か?」という観点から事件の核心に迫っていこうとしたりするエピソードが描かれます。どこからどうみても力の入ったポリティカル・サスペンスで、アメコミとはこのような物語も送り出す幅の広さがあったのかと驚かされた作品でした。



    そんな傑作コミックの映画化が『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(以下、映画『シビル・ウォー』)なわけですが、映画化にあたって、ヒーローたちの政治的な立ち位置というか、メタファーとしての役割が、若干異なるものになっていたのですよ。

    映画『シビル・ウォー』では、生意気な若者ヒーローチームではなく、アベンジャーズそのもののヒーロー活動により発生した犠牲者が問題視されます。「あれは単なる若者チームの暴走で、経験を積んだおれ達ならあんな失敗しないから」という言い訳が通用しないのです。

    また、映画『シビル・ウォー』は、アメリカ国内の話ではなく世界レベルの話になっています。問題視される事故や事件はアフリカのナイジェリアやヨーロッパの(架空の国)ソコヴィアで起こったものですし、「ソコヴィア協定」にてアベンジャーズを管理下に置こうとするのはアメリカ政府ではなく国連ですし、映画は主にアメリカ国外を舞台としています。

    この結果として、キャプテン・アメリカが代表するものが、「アメリカにおける一つの正義」ではなく、「アメリカの軍事的パワー」にみえてくるのです。

    キャプテン・アメリカのいう「お上が敵と定めた者たちと戦うことを強制されるのは嫌だ」というのは、歴史的経緯からいってアメリカ国内の話であれば正義なのですが、「お上」が国連だったら話が別です。我々は国連安保理決議に基づかずイラクに侵攻したアメリカ(と有志連合)が、その後泥沼のような「テロとの戦争」に入り込んだのを知っています。映画の冒頭、キャップに率いられてナイジェリアのラゴスで強奪テロを防ごうとするアベンジャーズたちは、「テロとの戦争」のために他国に乗り込み、当事国の許可を得ず戦うネイビーシールズそっくりです。アイアンマンのいう「おれ達は大量破壊兵器みたいなもの凄い力を持っているのだから、皆から監視して貰った方が安全だし、皆からの信頼も得られる」という意見は、国際政治においては圧倒的に正しいのです。

    去り際に星のついた盾を置いてゆくキャップは、まるで最後に保安官バッジを棄てる『真昼の決闘』のゲイリー・クーパーやダーティ・ハリーのようです。そして、それはアメリカ的正義(もしくはアメリカにおける正義)の限界や、現実に敗北するアメリカ的理想を表しているわけです。


    映画『シビル・ウォー』の作り手たちは、それをよく分かっています。キャプテン・アメリカは、アイアンマンに説得されて、協定に署名しようとする一歩手前までいきます。アイアンマンがスカーレット・ウィッチを軟禁状態に置いていることが話題に出なければ、キャップは署名していたでしょう。

    もっといえば、原作コミック『シビル・ウォー』で描かれたアメリカにおける「個人の自由」と「全体的な平和」の対立というテーマは、映画の前作でありスタッフも共通している『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』の方でしっかり描かれていました。

    (参考リンク : http://d.hatena.ne.jp/macgyer/20140424/1398346722


    にも関わらず、観客である我々が思わず映画『シビル・ウォー』のキャプテン・アメリカに感情移入してしまうのは、本作の登場人物たちが、建前上はもっともらしいことを言いつつも、本心はあくまでも私怨で動いているからでしょう。

    それもBL的な……と表現すると誤解を呼びそうですが、ブロマンス的な私怨、と書けば理解して貰い易いかもしれません。



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