『Hi-Five』
アメリカ合衆国テキサス州ウェーコで結成された5人組コーラスグループ。1990年代前半に数々のヒット曲を送り出す。解散・再結成の後、2007年にリード・ヴォーカルのトニー・トンプソンが死去。2017年にはNewアルバム『Legacy』をリリース。
<TSUYOSHI評>
個人的になんだかんだで『I Like The Way (The Kissing Game)』の印象が強いハイ・ファイヴ。ジャクソン・ファイヴ以降、バブルガムな香りを放つアーテイスト(およびグループ)が時代と共に現れては消えるR&Bの世界。ニュー・エディション、テディー・キャンベル、ソウル・フォー・リアル、イマチュア等々。変声期前の子供が大人びた目線で歌う姿に可愛さを覚えるという、人間の深層心理をついたかのような商法がR&Bの世界には未だ存在する。ハイ・ファイヴのリード・ヴォーカルであるトニー・トンプソン。『I Like The Way (The Kissing Game)』をレコーディングした時は多分変声期が終わった直後だったと思われるが、まだまだ子供っぽさが残る歌声。失礼ながら当時15才のティーンが歌っているとは知らずに、声や歌いグセにスター然とした特徴はないけれど、とりあえずとても上手い歌だなぁとは思っていた。今になって思えば15才でこれほど歌えるのは稀な事であると分かるのだけれども。またトニーのルックスがよかったというのも売れた要因だとも思う。しかしながら、なによりこの楽曲の良さがハイ・ファイブの成功へと導いたはず。なんせテディー・ライリー作。テディー自身のグループ”ガイ”のニュー・ジャック・スウィングの到達点であった2ndアルバム『The Future』と同時期の作品ながら派手さを抑えた結構シンプルなアレンジ。リズムはちゃんとワシントンゴーゴーの弱めシャッフルたる”ニュー・ジャック・スィング”ではあるが、トータルではキャッチーで耳なじみがいい印象。それにしてもこの時期のテディー・ライリーのスネアは親の敵かの如く音量がデカい。
その後ハイ・ファイブはヒット曲を連発していくが、テディーが手掛けた『I Like The Way (The Kissing Game)』や『I Just Can’t Handle It』のようなオリジナリティー溢れる曲もあれば、どことなくどこかで聴いたような印象を覚える曲もあるわけで。『Unconditional Love』は今にもアレキサンダー・オニールが歌い出しそうなジミー・ジャム&テリー・ルイス風だし、『Never Should’ve Let You Go』はベビー・フェイス『Whip Appeal』っぽいし、なんて聞き方も楽しい。ザ・ディール『Two Occasions』やフレディ・ジャクソン以降のブラコンっぽいサウンドやメロディー、且つツインボーカルスタイルの『I Can’t Wait Another Minute』だと、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック『Please Don’t Go Girl』や最近のブルーノ・マーズ『Versace On The Floor』あたりが似ているかなと思うが、なぜか私はミリ・ヴァニリの『Girl I’m Gonna Miss You』 を思い出してしまう。
そんな中、ハイ・ファイヴの2ndアルバムからのシングルでもあった『Quality Time』(https://youtu.be/0z6qOb2BG8Q)はR・ケリーのペンによる曲。これはテディー・ライリーの”ガイ”におけるバラードの際の曲調や音色(おんしょく)にインスパイアを受けたであろうプロダクションで、今にもアーロン・ホールが吠えだしそうな佳曲。R・ケリーですら彼の初期のキャリアにおいては時代のトレンドにベッタリと則したプロダクションをしていた訳だが、そんな中でもR・ケリーらしさというのが垣間見える所がオリジナリティーがあって嬉しいところ。この曲のトニー・トンプソンの歌い回しを聴くと、R・ケリーがあらかじめ仮で入れておいた歌をなぞりながらレコーディングしたんだろうな、と想像が膨らんで面白い。
<西崎信太郎評>
実際のところ真意は分かりかねますが、恐らく影響を受けたのだろうなと思う、日本人なら誰もが知っているであろう、あの国民的グループが披露するあのクルクルダンス(結局のところ正式名称は何なんでしょうか)。あのダンスの振り付けの元とされたであろう曲が、ハイ・ファイヴの"I Like The Way (The Kissing Game)"。https://www.youtube.com/watch?v=vF3MB0U6DO8
フロントマンのトニー・トンプソンを中心に、R&B黄金期の'90年代に華々しい活躍をした正統派ヴォーカル・グループ。ハイ・ファイヴが登場した'90年代初期は、'80年代後期にテディ・ライリーによって生み出されたニュー・ジャック・スウィングが過渡期を迎え、ニュー・ジャック・スウィングに清涼感が加えられたサウンドへと移行していき、シェレール、アレクサンダー・オニール、SOSバンドの成功を引っさげて、ジャム&ルイスがシーンを席巻し始めようとしていた時期。トニーの甘酸っぱい魅惑のテナー・ヴォイスは、先にシーンで存在感を表したテヴィン・キャンベル同様、まさに時代が求めていた喉。冒頭で紹介のテディ・ライリーによる"I Like The Way (The Kissing Game)"は、全米チャート1位を記録するなど、まんまと大ヒット。ボーイズⅡメン、ジョデシィと並び、'90年代を代表するR&Bグループとなりました。
まぁ、しかし何故こうも偉人の死は早いのでしょうか。トニーの訃報が入ったのは'07年のこと。享年31歳。他のメンバーに怒られてしまいますが、やはりハイ・ファイヴ=トニー・トンプソン。グループの要がかけたことは、あまりにも損失が大きすぎまして、しかし実際のところメンバーもそのことは重々理解していることだったりもします。しかも、グループを襲った悲劇はトニーの死だけにとどまらず、事故、重罪で逮捕される者など、かつてのプラチナム・グループも散々な姿に。
そんなハイ・ファイヴ。トニーの没後再び動き出したのは'14年。『Hi Five The EP』をリリースし、再びR&Bシーンにてグループの名が飛び交いはじめました。僕自身が彼らにコンタクトを取ったのもこの時期。グループの現リーダーは、セカンド・アルバム『Keep It Goin' On』からメンバーとなったトレストン・アーヴィー。トレストンも、銃弾を被弾した悲劇を体験した内の1人。この経験がグループを再起させようと決意させたとのことでした。
今年でトニーが亡くなって10年が経ちます。そんなグループにとって節目の年に、彼らとコンタクトを取り続けて、ニュー・アルバム『Legacy』を日本先行でリリースさせていただきました。'90年代のメンバーは、トレストン、シャノン・ギル、マーカス・サンダースの3人。現シーンに合わせてアップデートし、ハイ・ファイヴらしいスウィートなエッセンスは継続された偉大なグループの意欲作。よろしかったら是非聴いてみてください。 https://www.youtube.com/watch?v=ixwWGt_8qws