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永野護というキャラクターデザイナーを起用するときに求められるのはただひとつ。簡単なひと言で済む。「いままでに誰も見たことのないような、すっごい奴をつくってくれ」これは僕がかつてとあるアニメ製作会社にいたとき、当時の上司、山浦氏から言われたことばです。それに対して僕は「あ、そういうのなら簡単です。いちばん得意ですから」
いやー、ぼく、このひとのこういうところ、大好きだなー。
傲岸不遜。あるいはひとによって「なんていやな奴だ」と思うかもしれないけれど、ぼくはこういうひとだから好きなのです。
ナガノのファンはみんなそうなんじゃないかな。わかりませんが。
ここにあるものは、どこまでも傲然と自分の天才を誇る態度です。
「実るほど首を垂れる稲穂かな」なんて精神はまったくない。
「どうだ。おれはすげえだろ」という子供のように真っすぐな自負があるだけです。
「どうせおれなんて……」とかひねくれがちなぼくなどから見ると、実に爽やかに思えます。
もちろん、「才能があるからそういうことがいえるんだ」という意見はあるでしょう。
しかし、いった以上はやらなくてはならないわけで、「謙虚」に振る舞っているほうがひととしてよほど楽なのに違いありません。
それにもかかわらず、永野護はビッグマウスによって自分にプレッシャーをかけ、追い込んでゆく。
そして結局、「万人を納得させる」とまでは行かなくても、ともかく口先だけの男ではないと思わせるところまではやってのけるのです。
素晴らしい生き方だと思います。もちろん、凡人に真似できるものではないことはたしかだけれど、ぼくはこういう傲岸な人間に対してあこがれがある。
まだ新潟では未公開なのですが、映画『イミテーション・ゲーム』の主人公アラン・チューリングもまたその種の「傲岸な天才」のひとりだったようです。
しかし、チューリングの場合はあまりに不遜すぎたために、周囲の理解を得られず、どんどん孤立していってしまいます。
映画がどのような結末を迎えるのかぼくはしりませんが、じっさいのチューリングの人生は悲劇に終わっています。
才能はあっても社会性がない人物は往々にしてこういった結末を迎えることになるようです。
しかし、それはかれら自身だけの責任なのか? 社会の側に問題はないのか? ぼくはあると思うのです。
社会の側が十分なクッションを持っていれば天才と衝突することはないと考えます。
チューリングを演じたベネディクト・カンバーバッチはその前に天才探偵シャーロック・ホームズを演じています。
シャーロックも奇行の目立つ天才ではありますが、しかし、社会的に孤立し切ることはありません。
ぼくはそこにはワトスン博士という「偉大な凡人」の存在を見ます。
ワトスンのような「偉大な凡人」がクッションとして間に挟まることによって初めてその真価を発揮する才能というものもあるのではないか。
ぼくはここで、田中芳樹『七都市物語』に登場するユーリー・クルガンのことを思い出さずにはいられません。
クルガンは秀抜な軍事的天才のもち主でありながら、その性格の悪さがたたってだれにも好かれません。
しかし、ただひとり、上司のカレル・シュタミッツだけがかれを信頼し、登用します。
クルガンの描写はこんな感じ。
彼は誰に対しても、冷淡で辛辣だった。自分自身に対しても、あるいはそうかもしれなかった。いつも不機嫌で、自分を「不遇な天才」と信じこみ、人を見る目のない上司たちを豚や猿と同一視しているようだった。その男を参謀長にすると聞いて、シュタミッツの知人たちは一瞬絶句し、そのあと翻意するようすすめたが、シュタミッツは我意をとおした。これ以後、カレル・シュタミッツ司令官代理は、ユーリー・クルガン参謀長の立案した作戦にOKサインを出すだけの役割を自らに課する。「不遇な天才」が才能を完全に発揮しえる環境をととのえる――それが自分の責任だと、三つ子の若い父親は考えたのである。クルガンのほうは、司令官代理の配慮を承知していたが、だからといって謝辞をのべるでもなかった。それができる性格なら、クルガンの敵と味方は、比率を逆転させていたであろう。「昔、トーマス・アルバ・エジソンという男がいて……」と、クルガンは知人に語ったことがある。「刑務所に電気椅子をセールスしてまわった男だが、そいつが言った。天才とは九九パーセントの汗と一パーセントの霊感だ、と。低能の教育者どもは、だから人間は努力しなくてはならない、と生徒にお説教するが、低能でなくてはできない誤解だ。エジソンの真意はこうだ。いくら努力したって霊感のない奴はだめだ、と」
こういうところ、さすが田中芳樹はわかっているなあ、と思わせられますね。
クルガンは非凡な天才ですが、かれのその抜きん出た才能はシュタミッツという「偉大な凡人」を得て初めて発揮されるのです。
シュタミッツは
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