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小飼弾の論弾 #288 「AI検索とエージェントで何が変わる?与党大敗で暮らしはどうなる?インサイダー取引から強殺まで相次ぐ金融不祥事」
「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
無料公開部分の生配信およびアーカイブ公開はニコ生・ニコ動のほか、YouTube Liveでも行っておりますので、よろしければこちらもぜひチャンネル登録をお願いいたします。なお、有料のYouTubeのメンバーシップでは、無料部分だけでなく、限定部分の配信もご覧いただけます(YouTubeメンバーシップでは、テキスト配信はございませんのでご注意ください)。今回は、2024年11月05日(火)配信のテキストをお届けします。
次回は、2024年11月19日(火)20:00の配信です。
お楽しみに!
2024/11/05配信のハイライト
- 楳図かずお死去とMacの新ラインナップ感想
- 「すごい技術」と「すごい技術がテイクオフする」は同じくらい重要
- 「暗号化したデータを暗号化したまま加工して戻す」技術
- 視聴者質問「ZEN大学について」と「103万円の壁と給付付き税額控除」
- 金融関係の不祥事と「政府機関の中でどこが一番腐ってるかといえば」
- すい臓がん早期発見技術と「旧列強国の賠償」
楳図かずお死去とMacの新ラインナップ感想
山路:最初はあんまり楽しくないというか、残念なニュースからなんですけども。漫画家の楳図先生が亡くなられたという、88歳。
小飼:ついに。
山路:弾さん、楳図さんの作品で思い入れ、あったりします?
小飼:やっぱり『14歳』でしょうね。
山路:チキンジョージ博士。
小飼:『14歳』も、なぜ『14歳』かって言ったら、それが公の筆筆活動の最後の作品になっちゃったからですよ。それからずいぶん間が空いてるじゃないですか。だから、そこがすごい残念ですね。まだその後も何作も描けたはずなんですよ。だから、ある意味すごい悔いが残るわけですよ。こないだ御歳90歳になった筒井康隆御大とかは、ついこないだまで書いてたわけですよね。この間やっと『カーテンコール』という、これが最後だと本人は思ってるというのを出して、でもそれ以前に大全集出してるからね。たぶん10年後にまた似たようなことするんじゃないかと、生きていれば。
山路:楳図先生ですけど、2、3年前かな、美術展は油絵だったかな、その展示会を私、見に行ったんですよ。『私は真悟』のある意味、続編的なやつをやってて、
小飼:333から飛び移れ!
山路:そうそう(笑)、エネルギーすげーあったと思うんですよね、その時点でも。なんか漫画に対してちょっとわだかまりができちゃったのがすごい残念だなと思う、
小飼:いや、漫画ではなくてよねだから掲載誌に対して、だよね。心を端折っちゃったやつらがいるんですよ。
山路:(スライドを示しながら)これ、ぜんぜん楳図さんの絵柄じゃないんですけど、ChatGPTに楳図かずお死去という記事を書いてくれてって言ったら、こんな風に。
小飼:やっぱりChatGPTに手はどうやって描くんだって言わせるべきでしたね。
山路:げんこつはこう描くんですよと。
「80、90で面白い作品で作れるの?」(コメント)
小飼:って、いや、それこそ何をおっしゃいます、で。いかん、名前が出てこない、
山路:漫画家さん?
小飼:うん、富嶽三十六景の、
山路:あー、広重、
小飼:違う違う、広重じゃない、広重じゃない、
山路:あ、葛飾北斎、
小飼:葛飾北斎だ、葛飾北斎があと90歳ぐらいの頃に、あと10年くれれば俺は完璧な作家になれると、だからもう少し寿命くれと言ってたぐらいなので。いや、そういう才能の持ち主でしたね、明らかに。
山路:楳図さんも。
小飼:うん。いや、本当にいつになったらあの絵がすごくなるのを止められるのかっていう。いや、もう本当に、もう昔から怖かったけれども。『まことちゃん』とか怖いほど面白かったし(笑)。
山路:あの絵柄でギャグをやるっていうのがすごかったですよね。
小飼:で、あの時代の人というのは現在80代後半とか、90歳以上の超高齢者に今だとなってしまうけれども、でも彼らにも本当に元気バリバリの時代というのがあって、それで彼らが元気バリバリの時代というのは人権何それ? 美味しいの、な時代で『漂流教室』とか本当にそういう時代に書かれてたので。いや、某『ザンボット3』とかで人間爆弾とかやってたというのも。
小飼:いや、本当に恐竜、ごめん(笑)、『漂流教室』、復刊した時に僕もいただいたんですよ。怖かった、しばらくページめくれなかったです、あれ。
山路:楳図さんの作品って今、全部電子化されてましたか、あ、でも『わたしは真悟』電子版で読んだな、読めますよね、Kindleとかでたぶん。
小飼:いや、あれはもともと電子の話だったので。
山路:確かに。なんていうか、インターネット普及以前にあれが描かれてたっていうのがすげえなって思いましたよ。そんな技術的な知識はご本人、そんなになかったと思うんですけど。イマジネーションがすごかったですね。
小飼:いや、でもウイルスがでっかくて触手がビョーンって伸びてたというのは、『14歳』の時のウイルスはあれなんですよ。ちゃんと肉眼で見えないはずなのに絵になってたんですけど、それが本当に良かったというのか。いや、でも楳図先生が示したもので一番大きいものというのは、一番強烈なホラーを描けるというのは一番強烈なギャグを描けるっていうのとほぼ同義だと。いや、山上たつひこがまさにそういう。
山路:ああ、こまわり君描いときながら、そのホラー、羊の、ああ、でもあれは小説、あれも漫画か、違う、あれは違う、山上たつひこ原作や、
小飼:怖いというのか、でたらめな話もいっぱい描いてますけどね。ギャグでデビューして、まぁその後ですけど、でも、楳図かずおの場合はもう、ホラーというのか、少女漫画というのか、本当に何と言えばいいのかな、漫画が描き捨てられてた頃、単行本として連載作品をリクープするというスキームがなかった頃からもう描いてらっしゃった方なので。
山路:人の感情の筋をコントロールする術をよく知ってるっていう感じなんですね。
小飼:でも、それを本当に読み捨て、本当に当時は漫画というのは読み捨てだったんですよね。後世に残す作品ではなかったんですよね。いや、『おろち』あたりでも確かそうだったと思います。
山路:おお、かなり読んでますね(笑)。
小飼:どころか『ウルトラマン』とかも描いてたんですよ。
山路:あー、覚えてる。覚えてます、『ウルトラマン』描いてましたね、楳図さん。
小飼:そういう描いては捨ての時代から漫画を描いてて、もう絶対頭からこびりついて離れないような、『漂流教室』とかものにした作家でもあるので。消えてしまったというのか、息を潜めてるギャグ漫画家の中の皆さんには、もうぜひミステリーとかでひっそり復活とかしてほしいですね。そう思いません? 岡田あーみんとか、そういう形で復活してくんないかな。
山路:相原コージさんは、最近うつ病の漫画描かれてて。
小飼:いや、本当に、でも相原コージ先生はもう初めからそういう才能はあったと思います、よいや、本当にやがて悲しき、というのは。『ムジナ』とかはまさにそうじゃないですか。
山路:確かに、確かに。
小飼:いや、だから今一番見たいものというのは榎本俊二のホラーとかね。サスペンスに近いのはあるんですよね。『斬り介とジョニー四百九十九人斬り』みたいに、もうひたすら斬って斬って斬ってみたいなのはあるんだけど、でも、まだホラーは手をつけてない。
山路:まぁそれにしても本当に惜しい人を亡くされましたが、でも大往生だったとも言えますけどもね。
小飼:年齢的にはそうだったけれども、でもあと2、3作、あと『14歳』クラスの連載作品を3作、4作は残せたはずなんですよ、ペースからいって。
山路:化け物だなぁ、つくづく。いやいや本当になんか惜しい人亡くされましたということで。じゃあ、ちょいと変わってITの関係いっておきましょうか。Macのラインナップが一新されたという。
- Apple、M4 ProとM4 Maxを発表
- Appleの新しいMac miniは、よりパワフルに、より小さく、そしてApple Intelligenceのために設計
- 新しいMacBook Pro、M4チップファミリーとApple Intelligenceを搭載
小飼:いや、いっぺんにそんなに出されてもっていう感じはしますけれども(笑)。Mac miniはあのついに来ましたね、という。
山路:ついに? 何が?
小飼:過不足のない。
山路:一番安いモデルって本当に10万、
小飼:切ってますね。
山路:本当に、なかなか買いやすいものになりましたよね。
小飼:それでいて目いっぱい積めるモデルもあって。M4も単なるM4でなくて、M4 Proでメモリも、メモリ64というのは決して多いほうではないんだけどね、今の基準では。で、ストレージが8TBあって。あと10GbEを、
山路:ああ、イーサネット、
小飼:全部詰め込むと70万超えるんだけど(笑)、
山路:10万ぐらいから70万って、ラインナップ同じ機種で幅ありますよね。ずいぶんこれ、Mac miniとか盛り盛りにメモリとかも積んだら、相当、たとえばローカルLLM動かすみたいなことにも使えたりする、
小飼:だから、そういう用途を念頭に置いてるでしょうし、さらに念頭に置いてて欲しかったと一部の人たちが強く思ってたのはラックマウント。ヘッドレスで使う用途。
山路:それに今回のMac miniは適している?
小飼:どうなんだろうな、というのはスイッチの位置とかさ。
山路:あのスイッチの位置は大量導入を考えて、ではないですよね(笑)。
小飼:なんだけども、AWSとかで使ってるM1、M2というのを、一昔前のMac miniというのはやっぱり電源まわりというのはカスタムというのを、自作してたみたいですね、
山路:もうボディ分解して中身だけ並べとくみたいな感じ、
小飼:接点の部分というのは。
山路:そういう用途によってはじつはすごくお買い得なものになっているのかもしれないですよね。
小飼:(コメントを見ながら)今1Uって言ったら、ちょっとデカすぎるね、Mac Proでもそんなに容積は食わないので。
山路:まだ発売されてないんですけど、ベンチマークの、
小飼:そうか、まだ出てないのか。まぁ予約は聞くしね。
山路:ベンチマークでけっこうM4 Maxとかすごい良好な成績を上げてるみたいな。
小飼:まぁでもMaxはMac miniにはラインナップないんだ、
山路:そうですね、これはMacBook Proのほうですね。これ、来年にはMac Studioとか、あるいはMac Proとか、新しいさらにM4の上位バージョンを積んでくるんじゃないかみたいな話あって。
小飼:M4 Ultraとかね。
山路:そうそう。
小飼:いや、今回一番貧乏くじ引いたのはMac Studioでしょ。
山路:なんかね、早く出してくれと一番上位機、望んでる人もいるとは思うんですけども。なんかMacっていい感じにApple Silicon、Armチップへの移行、だいたいうまく、
小飼:華麗に、
山路:やりましたよね。
小飼:済ませましたね。いや、M1が良かった、なんと言っても。M1の頃はもう何ジェネレーションか費やしたところで、そろそろいいっていうふうな移行をするかと少なからぬ人が、僕も含めて思ってたんですけれども。M1があまりにも良かったので、みんなけっこうエイヤで乗り換えたんですよね。
「○周年モデルはやめとけ伝説」(コメント)
山路:確かに、なんかAppleの何周年モデルとか、なんだ、Spartacusとか、あとはなんかG4 Cubeみたいな、
「それに比べてIntel」(コメント)
小飼:いや、Intel大丈夫かっていう。
山路:そこのところで、
小飼:Intel息してる? 状態になってるっていう。
山路:CPU業界なんか妙にいろいろ熱い展開が続いて、Intelもそうですし、なんかIntel、Appleが買収するんじゃねえかみたいな噂記事で出てましたけど、
小飼:それはないな、
山路:ただSamsungが買収するんじゃねえかとかみたいな記事出てましたけどね。
小飼:こう言っちゃなんだけど、一番いいのはAMD買ってくれることかな(笑)。
山路:前回の「論弾」で言ったかな、そうやってAMDとIntel、ちょっとパートナーシップ、命令なんかを揃えようみたいなところでパートナーシップ結んだから、全くないわけでもない、ゼロではないと思いますけどね、可能性。その一方でCPU、Intel x86アーキテクチャーがちょっと伸び悩んでるというか、だいぶ浸食されている中でArmのほうが伸びてるんだけど、ArmとQualcommが大喧嘩しているという話なんですよね。これってどうなるんでしょうと。弾さん的にどう見ます?
小飼:どうなるんでしょうね。
山路:要はQualcommがArmからライセンス受けてArmチップを作ってたんだけど、QualcommがNUVIAっていう別の会社、これもArmチップを作ってた会社を買収して、その時のライセンスの更新をしなかったというか、拒否ったのかな? それに対してArmがいやいや、NUVIA買収して、それのことのライセンスに関しては別でしょう、それに関してはちゃんと払えよと言って、Qualcommのほうは払わねえって大喧嘩になっているという話なんですけど。
小飼:いや、でもIntelも似たようなことをしてるんですよね。Armチップ作ってたところを買って、StrongArmを作って、その後にマーベルという会社にそのIPを手放したということがかつてあったんですけれども。その時にはこれだけのニュースにはならなかったというのは、
山路:市場規模がぜんぜん違う、
小飼:も違ったし、もう当時のIntelはそれを次期の主力に育てるとかっていうつもりはもうぜんぜんなくて、もうあくまでもサイドビジネスとしてやってたので。
山路:これ、ArmとQualcommの喧嘩なんですけども、あと60日だったか、そんなぐらいでとりあえずの何らかの決着をつけないといけないみたいな話になってるらしいんですけど、これってどっちにしても、だってArmにしてもQualcommがArmのチップ作って売ってくれなかったら困るわけじゃないですか、そんなことないですか?
小飼:どうなんだろうね、Appleもライセンシーだし、みたいな感じなのかな。あとなんだかんだ言ってSnapdragonのシリーズから手を引くというのは考えがたいしとか、そういう考えなのかね、Armの立場からすると。
山路:じゃあ少々ふっかけてもというか、強く出てもQualcommとしては払わざるを得んでしょって思ってる?
小飼:そうなのかもしれない、
山路:でも将来的にQualcommって、じゃあそんなにライセンスのことでガタガタ言うんだったらRISC-Vに移行しちゃうよってことはあり得ないですか?
小飼:わからん、けどもこの世界のIPというのは意外と強いというのはQualcomm自体が勝者として体験してるからね。かつてIntelがAppleのために、
山路:モデムチップ?
小飼:そうそうそう、5Gのモデムを作ったところを、それはQualcommのIPに抵触してるっていうことで、その時はQualcommが勝ってるんですよね。それでIntelは手を引かざるをえなくなって、
山路:でAppleがなんかそのIntelの通信部門、通信チップ部門を買収してみたいな、
小飼:そうそう、
「すごい技術」と「すごい技術がテイクオフする」は同じくらい重要
山路:なるほどな、もう本当にIT業界どっちもどっちみたいな喧嘩を常に繰り広げてるっていうことではあるんですね。まぁでもいろいろ業界的には影響の大きいことだから、まぁどうなるんでしょうねと。
次これは日本の話なんですけど、これもITには関わってくるんですが、これなかなか面白い話だなと思ったんですよね。不動産IDと、あと郵便受けに紐付けられた番号ってのを組み合わせて、住所を17桁のIDで表して、宅配なんかの配達をスムーズにできねえかっていうことを実験しようという。小飼:いや、でも17桁で足りる? どうなんでしょう、そこは。もちろん人口を考えればぜんぜん足りるんだけれども、でも住所の場合、どうだろうなこれ。
山路:部屋番号分かれたりとか、あるいはそれこそ、なんか受け取るボックスごとにみたいな可能性ってありますもんね。これ、なんかどうも、
小飼:17桁とかっていうのではなくて、使用者をまたがった、たぶん各社とも私的なIDというのは多かれ少なかれ使ってるとは思うんですよ。
山路:じゃあ、そんなに劇的な効率になるかはまだわかんないって感じ、
小飼:わかんないけれども、でも日本の場合は住所の表記っていうのがちょっとデタラメに難しいですよね。たとえば京都の場合とか。
山路:なんたら下ル、みたいな、
小飼:そうそうそう。ざっくりと市区町村、何番地何番でさらにアパートメントであったら部屋番号というのはあるんですけども、ざっくりと。東京都の場合ほとんどそれでつくとは思いますけれども、京都とかね。ken_allの世界ですね。
山路:郵政省が出しているCSVデータですよね。
小飼:そうそうそう。
山路:私あれ、変換してMac用の辞書を作ったことあるんですけど、なんていうか頭のおかしい人が作ったデータ形式ですよね(笑)、なんか。本当にめちゃめちゃ例外が多いというか、処理しにくいCSVで。本当にCSVと言えるのかみたいな感じの、あれは苦労した覚えがありますけども。
でも、日本ってとにかく住所とかのなんていうんですかね、突合みたいな話っていうのがめちゃめちゃ難しかったりとかするので、その辺のところが多少なりとも改善していくといいかなと思いますけどね。とにかく宅配業者が大変すぎますもんね、今は。
で、AIの話とかいこうと思うんですが。いろいろAIの、相変わらずバンバン新しいサービスが出て。Githubなんかが自然言語だけでアプリ作れるサービス出してきたりとか。これ、どうです、まだ弾さん的には(笑)、小飼:これ最初、自然言語をアプリで生成って僕読んじゃって、え?みたいな、人工言語をアプリが勝手に作ってくれるの?みたいな、
山路:エスペラント語的なやつを(笑)、エスペラントみたいなの作れると、それは面白いですけど。これは相変わらずまだ弾さん的にはそんな使う気にはならないって感じですか?
小飼:我々はそんなに要件定義が上手なのか、ということはありますね。過去にあるゲームを自然言語で再実装する、というのは可能だと思うんですよ。『スペースインベーダー』を作ってとか、『パックマン』を作ってとか、『ぷよぷよ』作ってとか。
山路:だけど今までなかったアプリを作ろうとすると、さあ大変。
小飼:そうそうそう。それでいったん作られたところで、たとえば『パックマン』だったらパワーエサの位置をここにしてくれとか、あとパワーがかかってる時間というのをちょっと長くしろ、短くしろ、あるいは永遠にしろとか。まぁよくある不死チートをかける。そう、残機が減らないチートをかけるとかっていうのをやる程度というのはできるとは思うんですけれども。
我々の言語能力というのはじつはそこまで高いのかという。山路:あー、なんか結局コンピューターと格闘しながら、自分の中にあるものを形にしていかなきゃならんというか、自然言語でそもそも表現できてるわけじゃねえよという。
小飼:ただインターフェースにはなると思います。自然言語は。
山路:じゃあまぁこの自然言語でアプリ作れるからといって、今までアプリぜんぜん作れなかった開発者でない人がもうもりもり自在自由にアプリを作るという風になるわけではなさそうという、
小飼:ではないでしょうね。やっぱり作っては捨て作っては捨てしないと。でも、それを言ったら自然言語で物語を書く場合というのも、それやるわけですから。
山路:藤井太洋先生もおっしゃってましたもんね、そもそも人間の脳みそにとってそんな自然なことじゃないんですよ、本を書くのはということを、この前の対談でも。
小飼:ましてやアプリときたら。
山路:まだ人間とAIは距離はあるのかもしれないですよね。と言いつつ、このChatGPTがなんとかそのユーザーインターフェース、どんどん距離を詰めようと機能をもりもりと追加して、先週かな、検索機能を搭載してきたと。私、いちおう有料ユーザーなんで使って、まあまあ便利は便利ですよ、今までPerplexityとかで検索してたようなことをChatGPT上でできて、なおかつそれで検索した結果なんかをたとえばこんな指示して、こんな風に整理してくれとか、こんなデータ形式に変換してみたいな、そういうことが一つの画面でできるのは便利かなと思ったんですけど、まあまあ、これですごい検索ビジネス大きく変わるかと言われると、どうなんだろうみたいな。
小飼:いや、広告が入らない、むしろ我々が快適にそれで感じるとしたら、答えの質が高いというよりも、広告出てこないという(笑)、
山路:それはあるかもな(笑)、あとなんかとりあえずChatGPTサーチで使っているリファレンスの参照サイトっていうのが、まとめサイトじゃなくて割と信頼のできるマスメディアなのかな、それを優先的に表示するみたいで、「おわかりいただけただろうか?」みたいなやつっていうのはあんまり出てこないっていうのはちょっといいかなと思いましたけれども。
でも、これって結局、検索が云々というよりもAI企業同士の囲い込みやってるだけなんじゃねえの、という気もしたんですけど。たとえばPerplexityのユーザーとかこっちに引っ張ってこようとか、なんかそういう、全体のパイを広げるというよりはAI企業同士のなんか争いのようにも見えましたけどもね。小飼:でもこの後の話でもちょっと出てくるとは思うんですけども、AIって一体どこで金儲けするのかっていうのが、まだ見えてないところがありますね。見えてないところがあるというよりも、まだぜんぜん見えないですよね。
山路:それのことについて、このAnthropic、そういうAI企業の一つですけども、そこがClaude、AIモデルのClaudeの新しいやつでパソコン操作できるようにしたよっていう、実験的なものですけどね、そういういわゆる最近、こういうのをAIエージェントっていうようになってきてるんですけども、これがすげえことなんじゃねえのと業界では言われてたりもする。
- Introducing computer use, a new Claude 3.5 Sonnet, and Claude 3.5 Haiku
- AI、ついにパソコンを使えるようになってしまう Anthropic「Claude 3.5 Sonnet」新機能
小飼:じゃあAIエージェントができたとしましょう。我々はAIエージェントに、そもそもお金を払うでしょうか。あるいは払うとして、どういう形態で払うでしょうか。
山路:うーん。どこの部分でマネタイズする、うーん。たとえばなんかよくデモで出てる旅行計画立てるみたいなやつあったりするじゃないですか。AIエージェントにいろいろ頼んで、そういうのだったら、そこのとこに、旅行会社のところに誘導してみたいな、
小飼:でも、そうなるのがわかってたら、じゃあ人間の方がAIエージェントを出し抜かない?
山路:その有料の旅行代理店につながるようなところを回避するように、
小飼:そうそうそう、予定を作らせておいて、相見積を取らせる(笑)、
山路:確かにな、やるやる絶対やる(笑)、それ自体をAIにさせるわけですよね。
小飼:そうそうそう、
山路:相見積の処理を行わせるみたいな。そうだよな。本当に今のChatGPTみたいに毎月ナンボか取って有料で何かさせるみたいなこと以外で、確かにすごいやりにくいかもしれないですよね。AIエージェント来ても、まだマネタイズは難しいですか(笑)。
スタッフ:質問です。Yahoo!とかGoogleとかは結局どうやってマネタイズって、やっぱり広告でしたか、
小飼:広告でした、なんだかんだ言って広告でした。
スタッフ:あれらのサービスも、当初はやはりマネタイズに関しては苦戦したんでしょうか、初期の頃はわからない、
小飼:何も考えてなかった、Googleの中の人たちは。この技術すげえだろうと、こんだけすげえ技術なんだから、誰かが買ってくれるはずだったんですよ。よりにもよって、Yahoo!に買ってくれって言ったんですよね。その時Yahoo!が買ってたら、歴史変わってたんですけどね。
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小飼弾の論弾 #287 「SpaceXの離れ業ロケットスーパーキャッチ、期待薄(?)のロボタクシー、賭博はどこまで合法にすべき?」
「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
無料公開部分の生配信およびアーカイブ公開はニコ生・ニコ動のほか、YouTube Liveでも行っておりますので、よろしければこちらもぜひチャンネル登録をお願いいたします!今回は、2024年10月22日(火)配信のテキストをお届けします。
次回は、2024年11月5日(火)20:00の配信です。
お楽しみに!
2024/10/22配信のハイライト
- 『子供の科学完全読本』重版と「日本のアニメは労働搾取?」
- 激しい進歩のなかで数少ない、役に立つ資格
- アルゼンチンの「何回目?」と「賭博の解禁」
- 視聴者質問「衆院選について」
- SpaceXのスーパーヘビーにはなぜ脚がない?
- 「一電子結合」と「窒素を取り込む藻」
『子供の科学完全読本』重版と「日本のアニメは労働搾取?」
山路:最初に告知というか、お知らせというかさせていただきたいと思いまして。先月出版しました『子供の科学完全読本』、こちらなんですが、発売1ヶ月で重版決まりまして。
小飼:いやーびっくりです。
山路:どうもどうも、皆様のおかげでございます。ありがとうございます。
小飼:これは本当びっくりです。こういう判型の大きな本っていうのは、けっこう売るのが難しくなってきてるっていうのを聞いてたので。
山路:だけどこれ、今回の本って紙ならではの質感ありましたしね。
小飼:そうなんですよ、そうなんですよ。電子版もあるんですけれども。
山路:(コメントを見ながら)買っていただいた方もいるということで、
小飼:ありがとうございます。
「続編の高度経済成長編、はよ」(コメント)
山路:何かこれに関して、いいお知らせがそのうちできるといいかなと思いますね。
「めでたい」(コメント)
山路:ちょっとこれ、ミリオン狙っていきたいですよね。
小飼:hundred million、じゃあさおだけ屋の山田先生よろしく、本屋さんという本屋さんを行脚して。
山路:けっこう勉強になって、割と楽しい本に仕上がってるんじゃないかと思っておりますので、まだの方はぜひよろしくという(笑)、
小飼:これを編纂するにあたって、こんなに知らなかったのかという。これほど知らなかった、知らなかったの体験というのは僕が、僕の著者名で出た本の中では本当にもう初めてというのか。
山路:つまり、自分の知らなかったことについて書くという経験が、ということですね。
小飼:そうそうそう。書いたおかげで知ることができたという。
山路:でも、本の内容というのを理解するために本を書くのが一番というのは、昔からよく言われますよね。
小飼:そうそうそう。知らなかったら教えろというね(笑)。誰だったっけ、それ言ってたのは。
山路:本当に私もいい経験になりましたし、特に昭和の戦争、戦前戦中戦後とかあの辺のところってものすごく曖昧だったんで、自分でも。
小飼:たぶん学校の授業とかでも、ないがしろにされがちなんですよね。あの近代史というのは。
山路:なんかこう、戦争はいけないことみたいな文脈で多少言われても、それが一体どういうプロセスで起こって、どんな風な庶民が暮らししたのか、そういう解像度ではぜんぜん教えてもらってなかったですね、
小飼:ぜんぜん出てこないね。いや、特に日本の近代史っていうのはすごい、もう最後の帝国みたいなところがありましたからね。帝国になって、帝国を潰されたという。ものすごい短い間にやったので。本当に半世紀ぐらいでバーッと膨らんで、ビヤーッと縮んだっていう。
山路:日本人にとってだけじゃなくて、世界史的にもかなり興味深い現象だった、
小飼:興味深いです。興味深いではすまない国々とか地域とかってありますけれども、それを加味してなおっていう。
山路:ということで、よろしければ、ぜひ『子供の科学完全読本』をよろしくという、
小飼:まだ持ってない方はぜひ。一家に一冊。
スタッフ:いいですか? 『子供の科学』私、書籍版と電子書籍版両方、
小飼:ありがとうございます!
山路:お買い上げありがとうございます。
スタッフ:電子書籍版、カラーいいですね。
小飼:そうなんですよ。じつは紙の泣きどころというのは、やっぱり物理的に内容を紙に転写しなければいけないので、一色増えるというのはものすごいコスト増になるんですよ。電子書籍の場合っていうのはそこがかからないので、最近けっこうマンガの鉄板ベストセラーをカラー化するというのが流行ってるじゃないですか、もう特に『ジャンプ』系とかが。
山路:私『ゴールデンカムイ』全巻買い直しましたよ。
小飼:ははははは。
山路:あと普通に単行本でも、雑誌掲載紙のカラーを電子版のほうはそのまま載せるみたいなやつもありますよね。
小飼:そうそうそう。
山路:なかなか楽しいですよね、そういうのは。
スタッフ:あと、私4Kのでっかい大画面モニターで大写しにして新聞紙サイズぐらいでだいたい見てっていうのも、なんかすごい新鮮でした。
小飼:山路さんもそれが、
山路:私もやってるけど、あれいいですよね。特にBluetoothのプレゼン用のリモコンとか買ってページめくりすると楽しいですよ。ぜひぜひ、本当になんかマンガの楽しみ方が変わるんで。
小飼:でも、これは本当に紙でなければ、こういう質感にならないというのがけっこうあるので。そうなんだよね、まだまだ電書のほうは触覚にはちょっと対応してないというのか、別体系になるので。
山路:まあ電子版は電子版でぜひ(笑)、
小飼:お願いします。
山路:いただけると、というので。じゃあちょっと軽い話題からいこうかなと思うんですけど、弾さん、今期のアニメなんか見てます?
小飼:えーとですね、今期はちょっと諸般の事情で割とリアルが忙しいおかげで、あんま見てないんですけども、『ガンダム』は見ました(笑)。
山路:いかがでした? ちなみに『復讐のレクイエム』ですよね。
小飼:うん、そうそうそう。
山路:私は、かなり見応えあって、よくできてるなと思ったんですけどね。
小飼:いや、でも白い悪魔、あんなもんじゃないでしょ。
山路:(乗っているのが)アムロ・レイだったらもっと怖いぞと。
小飼:もっとヤバいでしょう。
山路:そこかいっていう(笑)。あの監督ドイツ人らしいですよね。
小飼:そうなの。
山路:第2次世界大戦ものみたいな、戦車戦とかのリアリティだったりとか、
小飼:グフがかわいそう、みたいな(笑)。
山路:あれは良かったと思うんですけどね。
小飼:ザクとは違わなかった、でした、残念、みたいなね。ザクとは違うはずだったのにな。あっさりと。
山路:『復讐のレクイエム』は、世界的なランキングでもかなり上位に入ってるらしいですよね。
小飼:ただやっぱり、何が足りないんだろうな。
山路:そうですか(笑)、足りませんでしたか。
小飼:なんか足りないんだよね。
山路:それは、富野節ですかね。
小飼:もあるし、やっぱり作画崩壊が含まれてないってところじゃないですかね。一年戦争中なのに。やっぱりこういうガンダムが出てくれないと、
山路:(テレビ版ガンダムの)「ククルス・ドアンの島」みたいな感じの(笑)、
小飼:そうそうそう。
山路:それはまた贅沢な(笑)。とにかく日本のアニメ今注目はされてるってことなんですけど、すごい数、『復讐のレクイエム』は3DCGですけど、2Dアニメにしてもめちゃめちゃな本数、今期だけでも出てるじゃないですか。
小飼:いや、本当に、いやもう絶対に見切れない、倍速再生でも見切れないじゃないですか。
山路:しかもそのクオリティっていうのが、もちろんいまいちなクオリティのもいっぱいあるんでしょうけど、すごいクオリティのものはすごいクオリティだったりとかして。私『ダンダダン』見てるんですけど、あれのもうオープニングとか、狂ったように繰り返し再生しちゃいますね。スペイン人出身のアニメーターの方がディレクションしてるらしいんですけど、素晴らしい作品でした。
小飼:やっぱ『ジャンプ』の系統はわりと安心してアニメ化されてほしいというのは、アニメ化されていいなというのはありますよね。
山路:あと『MFゴースト』も見てたりしますけどね、それはそれで安心して見てるというか(笑)、もう100パーセント純粋なペーパードライバーの私でもレースシーンには熱くなるものがありますしね。
小飼:そうだ、セルアニメっぽいやつでも、今は実際はコンピューターで作ってるわけですよね。コンピューターで作れるようになったっていうのも、アニメの本数が増えたっていうことにものすごい貢献してるでしょうね。
山路:しかし本数が増えたって、ナオヤさんがブックマークしてたこの記事によると、一つのスタジオで一つのシーズンで9つ、
スタッフ:いや、今のシーズン。今のシーズンで今、要はその週に放送するアニメが9本、
山路:1つのスタジオで9本抱えてるところもあったりするとかいう。本当になんていうか、ちゃんとディレクション、マネジメントできてるのかみたいな話もあるんですけど。そこのところで問題なのが、国連からも日本のアニメは労働搾取じゃねえかということを、
小飼:すごい、ILOから物言いがついたという。
山路:この記事のタイトルによると、Netflixなんかからそのうち弾かれんじゃねえの、みたいな。もうウイグルで作ってるアパレル製品みたいな扱いに。これ、今そのアニメーターの労働環境がひでえみたいなことっていうのは散々言われてて。
小飼:もう昔からですよね。もう虫プロの頃からですよね(笑)。
山路:手塚治虫の。これってどうしてったら適正な水準の賃金っていうものが、制作に携わっているスタッフとかに行き渡るようになるんでしょうかと。
小飼:えーとね、ならない。
山路:ならない。
小飼:なぜかっていうと、好きでやってるから。
だってマンガって労働搾取とは言わないじゃないですか、少なくとも同人誌の作品を描いてても、それは労働搾取って言わないじゃないですか。それで二桁、下手すると一桁しか出なくても、明らかに食ってけないけれども、食ってけないというのが認められちゃってるものですよね、コンテンツ産業というのは。むしろそれが当然の状態だと。という一方で、現在のアニメというのは立派な産業でもあるわけですよね。けっこうな部分というのが、海外に外注されてて。ものによっては北朝鮮で作られてたっていうので問題になったりもしたじゃないですか。そういうところというのは、あくまで労働なんですけれども。いや、これ前から言ってるように、労働しなければ食べていけないっていうのは、じつはもともと破綻してるし、それで回るようになったというのは本当に人類の歴史の中でわずかなものだし。山路:昔はある意味、家族に養ってもらってたから、その地域でなんだかの形で養われてたとか、
小飼:そうそうそう、
山路:稼ぎ手、稼ぐやつがちょっといて、そいつが面倒見てたみたいな形もあったりしたわけですもんね。
小飼:そうそうそう。でも、前にも言ったように今のアニメというのは、まあ確かに産業でもあるわけですよね。同人誌ってべつに、(締切を守れなくて)流しちゃってもいいわけじゃないですか。アニメってなかなかそうはいかないですよね。もうけっこう厳密なスケジュールが組まれてて、それに合わせるようにいっぱい外注使うわけですよね、北朝鮮も含めて。
「ベーシックインカムはよ」(コメント)
小飼:なんですよ。
山路:今の段階で言うと、個人の「好き」に金を動かす人たちがつけ込んでるところがないですかと、
小飼:あるあるある。それでやっぱりちゃんと産業としてやってるところだってあるわけじゃないですか。ジブリとか京アニとか。
山路:(『ダンダダン』を制作している)サイエンスSARUも労働環境はいいみたいな話を、ちょっと聞きましたけどね。じゃあなんていうんですかね、アニメ制作会社の経営者の問題だったりもするんですか、多くは。
小飼:そうなるでしょうね。
山路:うーん、そこのところのきちんとビジネスとして成立させる手腕みたいなもんだったり。
小飼:うん。いや、そもそもこんなに作品数がいるのかと、そう、思う一方で、アニメ化の障壁というのが下がったというのはめでたいことでもありますよね。
山路:それはテクノロジーの発展でってこと?
小飼:テクノロジーの発展だけではなくて、
山路:配信サービスとかの、
小飼:配信サービスとか、そうです。
山路:マネタイズの手段が増えたというのがありますよね。これってベーシックインカムはすぐにはできないにしても、なんかお上がコラッていうことではないんですか。たとえば制作委員会のあり方みたいなこととかっていうのは、何らかの形で法規制をしたほうがいいんじゃないかとか。最近ちょっと議論で出てきたのは、制作に関わる制作会社にもIPを持たせる、何パーセントかはIPの権利を持たせるみたいな方向を、
小飼:いや、でもIPを持たせてもちゃんとアニメーターの皆さんに分配がいくのかな、とも思いますね。
山路:ああ、権利は単に与えられるだけでは意味がなくて、それを上手に活用して儲けるノウハウがないと、あんまり意味がない。
小飼:そうそうそう。
山路:うーん、なるほどね。まぁしかし、今の話を聞いてる限り、
小飼:いや、だから時間制限とかはできるかもしれない。あるいはもう、もう同人誌方式で今期間に合いませんでした、のノリというのもあるというのか、最近出てるじゃないですか。
山路:増えてますよね。
小飼:増えてます、増えてます。
山路:なんか同じ話数、何回も放映したりとか。
小飼:そうそう、
山路:総集編がやたら多かったりとか(笑)。
小飼:もうあるいは延期しちゃったりとか。
山路:うんうんうん。
小飼:労働時間というよりは拘束時間制限っていうのはやってもいいと思います。
山路:これ、でも難しいのがアニメーターって必ずしもサラリーマン、従業員じゃなかったりするじゃないですか、
小飼:あのね、ずるいのはフリーランスっていうことに形の上ではしてるんですよね。その場合も、ちゃんと下請け法という法律があるんですけれども、労基法以上に守られてない法律なので。
山路:じゃあなんか政府がやることがあるとしたら、きちんと下請け法を厳密に運用するみたいな話だったり?
小飼:そう、いや、まあでもどこまで厳密にできるのかねっていう。いやー、なんか日本の法治というのは「法で納める」と書く法の法治というのは、ぶん投げの、放り投げる法の「放置」という側面というのもでかいので。
山路:あー、仕事してねえと、行政が。
小飼:いや、でも、そもそも行政がコンテンツ産業に絡むと、ろくなことにならないというのは、なんだったっけ、クールジャパンだっけ、狂うジャパンだっけ。ただこの場合というのはもう本当に、単純に労務を過剰提供させてるという。いや、たとえば時給、2500円だと8時間、1日8時間拘束されるとして2万円になるけれども、じゃあ16時間拘束してトイレの時間と寝る時間を除けば、全部働かせていいって言ったら、そういうことにはならないでしょ。いや、仕事と仕事の間のインターバルっていうのを少なくとも11時間置こうっていう、
山路:ドライバーなんかのそういう、
小飼:あるわけじゃないですか、はい。それはやってもいいと思う。志願者が多い分野でも。
山路:しかし、なり手の多い業界っていうのは本当になかなか買い手市場になっちゃいますよね。
小飼:全世界的ですね。
激しい進歩のなかで数少ない、役に立つ資格
山路:じゃあちょっともう一つ、労働に関してなんですけど。今度はSE業界、これ、SE業界で派遣社員の経歴詐称を派遣会社が支持したという。要はプログラマー経験が全くないのに、「できます」と経歴を偽っていけと。もうこんなの一発アウトな案件だと思うんですけど。
小飼:なはずなんですけれどもね。
山路:なんかこう、プログラマーとかなめられてません?
小飼:プログラマーに限らないと思うよ。
山路:なんでこんなやり方がまかり通るのかってもうびっくりなんですけど。
小飼:やっぱり、今なお急成長してる産業なので、クオリティコントロールが難しいってところはありますよね。士業というのは大抵の場合は、けっこう厳格な資格があるじゃないですか。たとえば建築だったら建築士というのがありますし。で、それの極北というのは医師ですとか、弁護士なんですけれども。ITに関しては、それでいちおうはIPAがいろんな資格を出してますよね。けれども、それが当てにならないんですよね。
山路:はー。情報処理なんたら試験、何級じゃないのか、
小飼:昔は一種二種ってあって、今は名前変わってるんですよね、応用なんちゃらとか。分かれてるわけですよ、セキュリティなんちゃらとかっていうのも。それもあんま当てになんないんですよね。
山路:弾さん、昔CTOやってた時に採用する時にコードを書かせるみたいなことを言ってましたね。
小飼:一番いいのはコードを見せてくれ、なんですけれども。今だったらGitHubがあるので、それはすごい楽ですね。
山路:(SEの派遣では)GitHubに自分のコードを乗せとくとかの、そういうことができる人とかまでは求めてない?
小飼:っていうのか、それができない分野っていうのはけっこうあるんですよね。
山路:メンテナンスみたいなもんだったり、
小飼:あるいはNDAに抵触してしまうとかね。僕もGitHubに載せられないコードって、けっこうありますよ。これを載せると法的に刺されるっていうのはありますよ、NDAの下でっていうのは。
山路:あとはサーバー管理みたいなものっていうのも、何をどうするっていうのを、その能力をアピールするのって難しいですよね。なんかこう、実績とか、人の紹介とかでなければ。
小飼:まあでもやっぱり作品があるっていうのは強いですね、この世界。そういう意味では、どちらかというとそういう資格が確立された建築土木ですとか、医療ですとか、法的サービスとかよりも、芸術のほうに近い、マンガ家とかのほうに近い。やっぱり作品があるのは強いので。私これ作りましたっていうのは、これが最強のカードなので。
山路:それこそ、いわゆる、税理士とかみたいなこの試験を受けていれば一定度基準クリアしてるみたいなやつを、基準を簡単に設けることが難しいわけなんですね。
小飼:基準そのものが時代でコロッと変わってしまう。
「未経験なのに経験者って肩書きでねじ込まれてる若手、何人か見た」(コメント)
山路:って、やっぱ普通にあるみたいですね。
小飼:でしょうね。でも、やっぱり作品で判断されるというのは本当に、氷山の上の部分で、その下の部分というのは僕もこうです、とはちょっと言い切れない。特によSIerとかって呼ばれる世界というのは、僕は間接的にしか知らないですね。
山路:企業向けにSAPを導入するみたいな、
小飼:そうそうそう、
山路:それって何をどうその人のスキルがあるかって、人のコネとかそういう紹介とかでないと、なんか分かんないですもんね。いやー、なかなか、とりあえずはそういう経歴詐称を指示した派遣会社とかは全部しょっぴくしかないとは思うんですけどもね。
小飼:どこにもいっぱいあるけども、でも本当に資格の価値というのがこうもさっさと変わってしまうというのはね。
「いっぱいあるよ」(コメント)
山路:って書いてありますね、なるほど。
小飼:要するに経歴詐称、
スタッフ:このSE業界ってたぶん旧派遣法時代からの古式ゆかしい派遣だった業種だったはずですけど、
小飼:です、です、です。
スタッフ:その当時から、私はその派遣だったんですね。の当時から比較すると、なんかちょっと緩いなって感じが、経歴詐称なんてありえないですからね。
山路:へええ。
スタッフ:その旧派遣法時代。私は確か日立直下の系列の派遣会社だったんですけど、すごい事前面接とかもやったりとかっていうのありましたから。
山路:じゃあ、いろんなところでこうガバガバになってきてるっていうことなんですかね。そういうところというのが。これは本当にちょっと、ちゃんと派遣会社のほうを取っ捕まえるみたいなことは政府のほうにはやってもらいたいもんだと思いますけども。
小飼:やっぱ物事の進歩が激しすぎる、少なくとも激しすぎたんだよね。そういうところにあって数少ない、役に立つ資格というのはじつはコンピューターサイエンスの学位です。数少ない信頼のおける。進歩が激しいと言っても、変わらない部分っていうのはあるわけですよね。そういう部分っていうのをきちっとやってるところというのを見る、というのはありですよね。
山路:なるほど。じゃあちょっと次に、ノーベル賞が先週、先々週とかいろいろ立て続けに発表されましたけど、
- Press release: The Nobel Prize in Chemistry 2024 - NobelPrize.org
- 2024年のノーベル化学賞に、AIでたんぱく質の構造予測に成功した研究者ら3人
小飼:本当にAI、ここまでAIの年というのは、自然科学のやつはもう全部AI絡みでしたからね。ほんとAIに席巻されたという。
山路:普通同じような分野の研究ノーベル賞の違う部門で受賞って、あんまりなかったような気がするんですけどね。
小飼:いや、まあでもマリー・キュリーみたいに化学賞と物理学賞、両方取ったという例も、
山路:同じ年じゃないじゃないですか、
小飼:同じ年ではない、でも同じ人物が、で。
山路:物理学賞で基本的な理論の人が取って、そんな化学のほうでその応用の取ったというのはすごいことだったなと思ったんですけども。
小飼:本当にAI、自然科学のほうはAIが席巻した。
山路:ある意味これって、AIに投資しようかなっていう思ってた人に対してノーベル賞の委員会がお墨付きを与えたみたいなところがあるのかなっていう(笑)。
小飼:そうね、だとしたらちょっと遅いというのか。まぁでもノーベル賞ってそうだからね、本来はこの賞金でさらに研究に励んでくれよ、なんですけれども、もう、
山路:DeepMindの人なんか、もう超金持ちやんみたいな(笑)、
小飼:そうそうそう、
山路:ノーベル賞、経済学賞も発表されたんですけど、この経済学賞の意義というか、これって今回受賞したアセモグルさんでしたっけ、その方が言ってる、受賞されたんですよね。私、私この方の本はちょっと読み始めたところなんですけど、まだ読み始めたところで偉そうなことを言うんですが、要はこの方がおっしゃってるのはテクノロジーの進化っていうのをべつにほっといたらみんなが幸せになるとか、豊かになるってことはぜんぜんなくて、そこのところできちんとした制度みたいなものがあって、富を分配させるようなそういうような制度ができて初めて、そういうふうにちゃんとテクノロジーの恩恵をみんな受け取れるんだ、みたいな話をしてるというふうに理解したんですけど。これってなんか、当たり前といえば当たり前のような、そうでもないのか。
小飼:いや、けっこう、まあ要はたぶん、この手の分配の嚆矢というのは郵便制度だと思うんです。
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小飼弾の論弾 #286 「ゲスト:SF作家 藤井太洋さん・戦争と人類のその先を描く『マン・カインド』、AI開発は規制すべき?アメリカ第二次内戦は起こる?」
「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
無料公開部分の生配信およびアーカイブ公開はニコ生・ニコ動のほか、YouTube Liveでも行っておりますので、よろしければこちらもぜひチャンネル登録をお願いいたします!今回は、2024年10月8日(火)配信のテキストをお届けします。
次回は、2024年10月22日(火)20:00の配信です。
お楽しみに!
2024/10/08配信のハイライト
- SF作家藤井太洋先生を迎えて
- AIが書いた長編小説のレビューはだれがやる?
- ドーンとくる本が最近ない、という欠乏感
- 「設計のセンス」と「AIがアシストしてくれないソフトウェアを使ってくれる人」
- 『マン・カインド』と『シビル・ウォー』から考えるアメリカ
- 「2045年に大人のポストヒューマンがいるということ」
SF作家藤井太洋先生を迎えて
山路:今日はSF作家の藤井太洋先生をお迎えしております。
小飼:まさかまさかの。
藤井:よろしくお願いします。
小飼:あ、そうだ、星雲賞受賞おめでとうございます。
山路:おめでとうございます。
藤井:2年前に(笑)。
小飼:いや、2年前も、だよね、すごいよな。
山路:同じ作品で、改稿したやつでもう1回受賞っていうのはあるんですか?
藤井:星雲賞のレギュレーションではダメですね。
山路:ダメなんですか(笑)?
藤井:フォーマットが思いっきり変わって長編が短編になるとかだったら、部門変えて、
山路:直木賞とかあえていってみる?(笑)
藤井:自分で行くものではないですからね(笑)。あれは日本文学振興会の人が候補作に入れてくれないといけない。
山路:2017年から2021年の間、SFマガジンに連載した作品を大幅に改稿した、この作品『マン・カインド』ということになるわけですよね。9月発売ですよね。ちょうど出たばっかで。
小飼:そうそう。
山路:すでにいろんなところで話題になってまして、一昨日でしたっけ? 小島秀夫さん、『メタルギアソリッド』で知られるゲーム制作者の小島秀夫さんが絶賛のコメントを、しかも英語でも、
藤井:びっくりしました。
山路:ゲーム化されるんじゃないですか、この流れだと(笑)。
藤井:されてほしいですね。
山路:『メタルギアソリッド』のノリで。
小飼:『メタルギアソリッド』というよりも、僕はゲームでないので、どっちかというと『DEATH STRANDING』だっけ?
山路:ああ、『DEATH STRANDING』。
小飼:あっちのノリじゃないですか(笑)。
「宅配ゲーム」(コメント)
山路:小島秀夫さんも、絶賛されているという『マン・カインド』でございます。今回は『マン・カインド』をメインに、取り上げられているトピックや、創作にまつわるお話をいろいろお聞きしていこうと思うんですが。まず『マン・カインド』というのがどういう話かというところなんですけれども、これって今から20年後の舞台ですよね、ちょうど2045年。
藤井:はい、そうです。
山路:で、アメリカで第2次内戦が起こって、そこから13年後という非常にリアリティのある設定になっております。で、この20年経って、このSF的アイテムの数が盛り込まれている、SFガジェットというかアイテムすごいじゃないですか、もうなんていうか。外骨格に多脚ローダー、拡張現実、デザイナーベイビー、さらにここのところでたぶん、この小説にしか出てこない概念だと思いますが、公正戦ですよね。
小飼:いや、でも逆に、今挙げたフレーズというのは、もはや現代人はSFとは捉えてないんじゃないかと。
山路:なるほど。
小飼:たとえば、この辺のガジェットというのはもう攻殻機動隊にいっぱい出てくるんですけど、たぶん今の人たちって攻殻機動隊ってSFじゃないと思うんですよね。
藤井:エクソスケルトン、外骨格にしても、今介護施設とかで補助のために下半身にローダーをつけたりとかする人いますし、あと私まだSFで1回も書いてないんですけど、空調服。今もう現実ですよね。あれを書いたSF作家ってあんまりいないんですよね。毒ガスに包まれた世界みたいなレベルじゃないと出てこないものが、今現実に、それこそ服を着て歩いてるみたいな。
小飼:逆に空調服というのは、それとは真逆に人体で冷やしてるっていうところが、むしろローテクなところが、ニューアイデアなんですよね。
藤井:すごいですよね。
小飼:今時の都内の宅配というのはチャリだったり、荷車だったりで、人力じゃないですか。人力強ええ、んですよね(笑)。だからその辺の、何でもかんでも技術でやらないというのか、人間の筋肉もミックスリアリティに含まれているという点では、この作品とかまさにそうなので。
山路:子供の頃、自転車で荷物を運んでるとは思いませんでしたもんね。
藤井:21世紀になってね。
山路:意外にそれがリアルな現実だったというところが。
藤井:そう、大八車とか。
山路:21世紀ももう四半世紀過ぎようとしているあたりでそれですからね。
小飼:いや、大事なんですよ。
藤井:そう。結局ね、肌身に、自分の手で動かすとか、そういうリアリティけっこう強くてですね。
山路:私、電動アシスト自転車とか出てきたとき、そんなの意味ないやろって思ったんですよね。初め聞いたときは。でも、それがこれほどに普及するっていうのは驚きですし。
「帆船復活してるのも驚き」(コメント)
小飼:復活しきってはないんだけれども、商船とかで搬送アシストっていう形のやつはありますね。だから、コンピューター制御の柱を立ててっていう。
山路:で、この『マン・カインド』なんですけど、どこまでストーリーのあらすじとして最初のほう言っちゃっていいのかな? 先生から直接言ってもらったほうが安心かな(笑)?
小飼:プロローグの部分っていうのは早川オンラインで公開してるので、その範囲であればネタバレ可能という。
藤井:僕はぜんぜん大丈夫です。
山路:そうですか。じゃあ、この作品世界での特徴、公正戦。公正な、フェアな公正ですよね。それに戦争の戦で公正戦。
小飼:公正証書の公正。
山路:ある公正戦の中で、戦争犯罪、捕虜の虐殺っていう事件を当事者の片方が起こすんですけれども、それを配信しようとしたジャーナリスト、しかしその記事が配信されないっていうところから始まって、なぜそれ記事が配信されなかったのか。その戦争犯罪を起こした当事者自身が、その戦争犯罪であるっていうことをわかりながら捕虜を虐殺してる、それは一体なぜなのかっていうところの謎解きから始まるという感じでいいですかね。
小飼:そうなんですよ。だから、公正戦って何ぞやっていう感じでしょうね。だから初めそこだけ見てると、アンパイヤ付きのドンパチ、要は人数が限られてて、一定の目的を達すると勝敗がつくと。要は普通は相手のリーダーを無力化するとか、そういう感じなんですけれども。だから、公正というのは、極論してしまえば何でもありの世界ではなくて、その一定のルールに則って戦う範囲であれば戦ったよしで、反則をしてしまうと、反則負けを取られるという。
山路:この世界での戦争っていうのは、公正戦だけではないわけなんですよね。
藤井:そうですね。
山路:これって、公正戦と、普通の、まあ言ってみたら従来型の戦争? なんていうか、ルールなしでやる戦争と、公正戦、その戦争の当事者がどっちを選ぶっていうのはどうやって決めるんですか?
藤井:それは攻める側が基本的に選ぶ形になっています。前提としては。もともと公正戦というのは、両方の申し合いによって成立するケース、今、『マン・カインド』の時代、2045年には両方の申し合いで成立しているんですけど、成立する段階においては、基本的には攻めていく側、つまり抵抗する側だったりとか、独立を宣言する側だったりする人たちに対して攻めていく側が「いや、私たちは公正にやるからね」みたいな。「ちゃんと勝利条件を提示するよ。今から送る一部隊を潰したら、君たちの勝ちでいいからね」っていうふうに勝手に提示するわけです。そういう形での、かなり歪んだあれです。
小飼:やくざの地上げだ(笑)、
藤井:正面から潰していけば、勝敗は完全に決まっちゃうんですよ。なんですけど、それは持てる国も、非対称戦争の時代ですからね。なんですけど、そこに「いや、私たちは正しくやるからね」っていう言い訳をつけるために、少数の部隊で「はい、これ倒せば勝ちです。やってみてください。どうぞ」みたいな、そういう勝利条件に引きずり込んでいくためですね。
山路:これは結局、持てる国が世界からの批判を避けるための建前ということでもあるわけなんですよね。
藤井:ただ、そこで相手がもしも(ルールを)破ったら、容赦のない物量戦争で引き潰しますよ、みたいな、そういうことですね。それを武力と経済力を背景にした、瞬間的な正しさの演出みたいな感じ、ではあります。
小飼:それで一つ思い出したのが、ナチスが占領しているところの、東欧のどこか、ウクライナだったっけな。サッカーやって、それでナチス側のチームを打ち負かしちゃうんだけど、全員射殺されちゃうわけです(笑)。
山路:笑い事じゃないな。
小飼:でも、度を超えた悲劇というのは、喜劇と区別がつかないという。
山路:しかし、それを言うんだったら、ジャンケンで決めてもいいんじゃないか、みたいな気はしてくるところなんですけどね。
藤井:実際、オバマ大統領がやっていたドローンによる要人暗殺なんかも、引き金を人間の手に置くという原則を基本的には守っていたわけなんですね。それでアメリカ人のオペレーターが、けっこうPTSDになったりとかしてたんですけど。それでも、ここに責任がありますよ、私たちは責任を取るつもりですよ、というそういう。
小飼:そうか。そこもヒントだったんですね。
藤井:そう。そういう、自分たちに責任がありますっていう、アカウンタビリティがありますよっていう、そこを、演出ですね、演出というよりも、宣言ですね。そういうところから生まれている概念。そういうところからヒントを得て作った概念ですね。
小飼:ヒントといえば、ついさっき入ったニュースでノーベル物理学賞、ヒントンの先生が受賞した。
山路:そこからくるの(笑)、
藤井:あれが物理学賞なんだって。
小飼:でしょ? でしょ?
藤井:でも、そうだねって感じですよね。
小飼:ちなみにもう一人は、ホップフィールドとの共同受賞です。でも、本当にワントピックで、まるっと受賞なので。しかも、ニューラルネットなんですか? っていう。
山路:20世紀にすでに出てきたニューラルネットワークの原理っていうことに関して賞が与えられたっていうことなんですね。
小飼:だから、今もうそれ、もう満開だもんね。咲きまくってるもんね。
山路:これは弾さん的には、あるいは藤井先生的には、このノーベル賞の受賞っていうのは意外でした? お二人から見て。
藤井:私は物理学賞で取るとは思ってなかったです。
山路:フィールズ賞みたいなもんだったりとか?
藤井:いや、数学系とか。ノーベル賞の中でコンピューター科学に適した賞っていうのは特にないんです、部門はないんですけど、それでも、数学かな? 数学じゃないや、何が適してるのかなっていうと、確かに他にないんじゃないんだけど。
小飼:強いて言うと、むしろphysiology、生理学賞?
藤井:そうですね。生理学賞ですね。
山路:言ってみたら、人間の知性みたいなものを工学的に再現したみたいな文脈で。
小飼:そうそうそう。だから、まさに神経がヒントだったわけじゃないですか。いや、でもノーベル賞に値する業績だっていうのは間違いないところで、じゃあどのノーベル賞? っていう時に。数学があれば、これが一番楽だと思うんですけれども(笑)。でもけっこう、物理学の人も評価してるので、結果としてこれはこれでアリなんじゃないかと。こう言っちゃなんだけれども、オバマも平和賞取ったのだし。ひでえ言い方(笑)。
山路:暗殺とかもしてる(笑)、
藤井:だいぶ程度が違うと思いますけど(笑)。でも実際、物理学でエントロピーを扱う、実際エントロピーの話だと考えるとすごいことですからね。
小飼:エントロピーっていうのはもう情報にも熱力学にも出てくる概念で、しかもブラックホールを通して繋がってるっていうことがわかったというね。そういうのを考えると物理に、いつ物理になるか。
山路:情報を扱う分野はとりあえず物理学賞に放り込んでおけば、まあなんとかなるやっていうことが、前例ができた。
小飼:前例ができた。前例ができた。いや、だから、すごい、なんてタイムリーなんだというね。なんてタイムリーなんだという。
山路:じゃあちょっとAIの話で続けるんだと、『マン・カインド』のほうって、AIは今みたいな形でのLLMが大活躍みたいな感じではないですよね。ジャービスみたいな名前をつけて、Hey、Siriみたいな感じで使って。まあユーザーインターフェースとしてAIはちょっと登場しますけれども。
藤井:でも主人公の迫田が、記事を書くのにはAIをバリバリ使ってますから。もう彼は書かない記者なので。
山路:映像を全部流し込んで、それを起こさせるみたいな。
小飼:だからそこはよく当てましたよねっていう。LLMみたいな力技だったらっていう予測までしてらっしゃったとかどうかはわからないけれども。いや、でも本当にLLMって力技だもん。とにかくニューロンいっぱい用意して、それでぶっ叩く技なので。
山路:相変わらずAIが熱くなっているというか。最近だと孫さんが発表、特別講演でもう10年以内には超知性が来るぞみたいなことをぶち上げてたりしますけれど(笑)。その文脈でいうと、藤井先生としてのタイムスパンというか、どんな感じで見てます? 今のAIの進歩のロードマップ。
藤井:AIって言われているインアウト、I/Oの中で何が行われているかは正直わからないんですけど、あれにどんな肉体をくっつけてあげると超知性と私たちは感じるのかなみたいな。そこには興味がありますね。本当はワンラインの、テキストチャットのワンライナーだとあれ以上のことはできないわけですね。それにたとえば電力制御とかのI/Oとかを繋いでしまうと、電力制御はなんだか知らないけどやってしまうものになるわけですよ。なのでどういう肉体をあれに与えてあげるかっていうのがすごく、どういう手を上げるか。だからAGIに私たちは何を期待するんでしょう、ということですね。
小飼:あと、そもそも我々以外に、違った、地球外知性体っているのかっていう質問をまだ生きている時のホーキング博士に言ったら、知性体どこにいるんですかみたいな答えが帰ってきたことがあったけど(笑)、それはとにかくとして、仮にそういった超知性ができたとして、我々にそれが認識できるのかという。『はたらく細胞』というマンガがありますけれども、あれ僕、じつは苦手で。なんで苦手かっていうと、擬人化されているから。人の理屈が働かないんですよね。個々の人には人権があるわけじゃないですか。少なくとも文明人の社会ではそういうことになっていますよね。ないんですよ。細胞というのはいくらでも使い捨てにできるわけですよね。
山路:そういう立場に我々も知らない間になっている可能性もあるという、超知性ができたときは。
小飼:そうそうそう。だから超知性の細胞なのかも。
山路:もしかしたら変な感じの事故死が最近増えたなとか、そういうことで初めて認識するとか、そういうことになるのかもしれない。
小飼:そうそう、なんかプリウスミサイルが減っているぞとか。
AIが書いた長編小説のレビューはだれがやる?
「AIの創作物が人間の創作物を超えるのはいつになると思いますか?」(質問)
藤井:超える、少なくともスピードだけでいうともう超えてますよね。速さだけでいうとね。間違いなく(笑)。
山路:超えるとはそもそも何ぞや、という。
藤井:そうそう。で、売れるかどうかでいうと、売る人がいればその時にAIの創作物のほうが売れちゃうんじゃないでしょうかね、と思います。
山路:面白い小説というのは書けると思いますか? LLMの延長上に。
藤井:書けるとは思います。ただ小説って特に長編小説なんですけど、文章の量としてはけっこう不自然に長いんですよね。LLMとかで破綻なく出せる文章の長さってそんなに長くないじゃないですか。それってインプットしているテキストの長さ、4500文字から1万文字、日本語で言うと、ぐらいのテキストを大量に読んでいるから、それぐらいでまとまって出てくるんですけど。でも人間に、普通の人に何かまとまった文章を書かせてもそれ以上の長さのものってなかなか出てこないんですよ。長編小説ってこの(『マン・カインド』の単行本を見せる)厚みを作るために、3000円とか2000円とかで売るためにこの厚みを作るわけですね。すごい工夫するんですよ。キャラクターを増やしたりとか、裏切りを作って物語をフリップさせたりとか、あと伏線を置いておいて回収するとかみたいな。けっこう工夫してページを増やす。
山路:そんなこと言っちゃっていいですか(笑)?
藤井:増やしてるわけじゃないんですけど、この長さのボリュームのテキストを楽しむっていう、このエンターテイメントの。要は建物を大きくする、ジェットコースターをでかくする。あるいは、
山路:読者の時間を拘束して、入り込ませる、体験をさせるっていうことですね。
藤井:そう。でも思いっきり楽しんで1週間なり2週間なり、今、速い人も2、3時間以上は絶対かかるので、そういう楽しみを得る。
小飼:長いのがトレンドですね。今、特に。
藤井:今、もっと長いですもんね。私の日本の小説なんてこんなもんですけど、アメリカの小説とかだいたいこんな厚みになってきてますから。
小飼:いや、ほんとに。900ページくらいがデフォルトですかね。
藤井:増えてます。増えてます。あれってやっぱりその長さにするためのテクニックがすごいいるんですよ。やっぱり。あれは明らかに人間の自然な思考から出てこないので、一発では。何回も繰り返して作るとか、設計を考える、キャラクターの造形を考えるとか、そういうことを積み重ねていかなきゃいけないんですよね。AIも当然できるんでしょうけど。
山路:最近だとOpenAIから「o1」が出てきたじゃないですか。そこのところで推論とかができるようになったみたいなことは言われてるんですけど。
小飼:いや、できてるように見えないなー。
山路:小説とかのテクニックみたいなものっていうのを抽出して、そういうものを学ばせることが可能なのか、
藤井:でも、LLMってそういうふうにものを書いてないですからね。基本的は確率でしょう
山路:だから、それがLLMの延長なのか、あるいは別の仕組みが必要なのかわからないですけど、そういうふうな小説家のテクニックみたいなものまで明文化じゃないけども、学習することが、
小飼:いや、そもそもテクニックというものが幻想だったという。
藤井:うん、だと思いますよ。私は、たとえば小説書くときにプロットを描いたりとか、絵を描いたりとか、こうしてキャラクターを作るとか原則をけっこうこういうふうにして作るんだって言ってますけど、おそらくそういうふうに作ってないですし、頭の中では。これをプログラムで書けって言われると、絶対に穴がボロボロあるわけですよね。AIを使うと、Pythonとかで書くと間違いなく穴だらけになるんですけど、今のo1-previewとかにやらせると、それっぽい形のことはたぶんできると思うんですよね。なんですけど、なんだかんだ言って、小説ってレビューするのはむちゃくちゃ大変で、たとえばo1に30万文字の小説を書かせるようなプロセスは作れると思うんですけど、誰がレビューするんですか? それみたいな。
山路:矛盾ないストーリーになっているか、いちおう、整合性は確認させることはできるかもしれないけど。
藤井:手で書いた小説って、書いてる人は少なくとも面白いと思って全部のパートを書いてるんですよ。なんですけど、o1が出してきた30万文字のテキストの全パートがちゃんと読めるくらい面白いかっていうのをレビューする人は誰なんだ? みたいな。
山路:新人賞の第1次選考どころじゃないっていう(笑)。
藤井:どころじゃないね。新人賞の応募だったら、ダメなものは「ごめんなさい」って言って横に避けとけばいいんですけど。
小飼:あと、どれが売れるかっていうのは、これが工業製品だと、いい悪いっていうのはビシッと決められるわけです。性能というのは、押し量ることもできるわけです。おかげで、たとえば、ベンチマークの時にチートコードを中に入れるとかっていうのも出てくるわけですけども、文芸作品の面白いっていうのは、これまた別で、読者も千差万別なようでいて、よく売れる、よく読まれるっていうのも、これまた変わってくるわけですよね。なろう系がこれだけ出てきたっていうのも、チープに仕入れられるっていうのも大きいんですけれども、読むのも楽、あんまり脳が疲れないっていうのもかなり大きいと思いますよ(笑)。
藤井:でも、あれだけのテキストのボリュームのテキストを読んで楽しむっていう体験は間違いなくエンターテイメントで。仮にですよ、『転スラ』クラスのボリューム27巻とかやつをo1-previewとかにやらせたとして、本当誰がレビューするんだろうなって。大変だと思いますよね、こればかりは。生成AIで絵を作った時っていうのは、レビューはかなり短い時間で、小説に比べるとね、けっこう短く済むんですよ。もちろん絵を描く人にとってしてみると、ここのタッチがちょっと油絵から出力したはずなのに、ここに絵の具が透明にかかっちゃってるよ、おかしいじゃんみたいなのとかわかりますし。
小飼:あと指が6本ある。
藤井:それはすぐにわかるから(笑)。
小飼:だいぶ減ってきてる。
藤井:だいぶその辺は減ってきてる。音楽作るやつとかも、ゲームミュージックとか最近AIで作ってるケースあるじゃないですか。でも聞いてると、おかしいところがけっこうあったりするんです。たとえば、ドラムセットが曲が始まった時と終わる時で変わってるんですよ。4タムのドラムだったはずなのに、なんかタムが6つに増えてるぞとか、さっきまでは、このブレークに使ってるタムなかったろうとか、チューニング変わってるじゃん、バスドラム4つとか5つとか持ってるのとか。変わるんですよ。それはドラマーの人にとっては我慢のならない違いなんですよね。ドラマー10人とかやってきて録音するのか、それ。っていうか、俺に叩かせろみたいな。だけど、それをゲームに使う人にとってみると、けっこうどうでもいい差だったりとかするわけですよね(笑)。
山路:99パーセントのやつを求めようとすると大変だけど、80点くらいなら、いっぱい作れるみたいな感じの。
藤井:いや、それがね。だから我慢できる出力の形態とできない形態があって。作家側、作ってる側からすると我慢できないものがかなり増えるんですね。当事者だったら。小説ってけっこう、我慢できないレベルが、かなり我慢ができないと思うんですよ。
山路:確かに、1文字間違ってても、イラスト1ピクセル絵で間違ってても誰も気にしないとは思うけど、
小飼:あっとね、オブジェクション(異議)言わないと。
山路:えっ? 今のどこにオブジェクション?
小飼:あのさ、なろう系とかはさ、本当に誤字、脱字だらけですよ。
山路:あ、そっか、そっか(笑)。
小飼:で、誤変換、過変換だらけだけれども、読まれるわけじゃん。で、いちおうこれが売れるのであれば、商品化される時に、そういうところっていうのはある程度直されるじゃん。アニメ化された場合とかっていうのは、さらにプロットとかっていうのもおかしいところっていうのが直されたりするわけじゃん。だから、じつはけっこうドラフト段階、あれこれおかしいぞっていうのがいっぱい混じってる段階で、だから演奏ミスがいっぱいある段階でも、意外と人って聞いてくれるんじゃないかという。
藤井:それありますよね。
山路:なるほど。商業出版の編集者がいろいろ書き直し、いろいろやりとりしてるような段階が、もうウェブ投稿の。
小飼:だから僕みたいなうるさい奴のことというのは、聞いちゃダメなんだよね。本当思う、だからなんでここは等幅フォントじゃないんだとかね(※編注:『マン・カインド』の本文中、コマンドの記述については等幅フォントにすべきと主張している)。
藤井:ごめんなさい(笑)。
小飼:そういうこと言うのは(笑)、
山路:本当に読者の言うこと聞いちゃダメですよね。
小飼:あんま聞いちゃダメなんですよ。
藤井:気づいて直す、プログラムコードの中に「¥」が入ってるとかね、ここバックスラッシュだろっていう。
小飼:その通りですね。
山路:逆にいろいろ背景を想像させてしまいますよね。バックスラッシュでなくて「¥」が入ってるっていうのは(笑)。
小飼:でも文芸作品の場合っていうのは、そういうのは必ずしも瑕疵ではないんですよね。だから本当にアバタもエクボというやつ。もうアバターもエクボというやつで(笑)。結局のところ、AIが明らかに人間よりも強いって言えるものというのは、強いルールを設定してあるんですよね。囲碁にしても将棋にしても。これがもっとお金が儲かる部分だとすると、だからプロテインフォールデイング、タンパク質の畳み込みとか、そういったところっていうのはもうガッチシ、どっちがいいのかっていうのが判定できるじゃないですか。
山路:そうか。小説なんかって何が面白いのかっていう判定基準みたいな、そういうルールとかがまだ誰も知らないというか。
藤井:あと、難しいのが小説だったり絵画だったりとか、このパブリッシュするものに関しては、誰か説明できないと、アカウンタビリティが必要なんですよね。出版した人は。説明できなきゃいけないんですよ。そういう意味では、説明できるんだったら全部AIで出したっていいんじゃないの? っていうふうに私なんかは思うんですけど。もちろん。
小飼:これでいいのだ、ができれば。
藤井:そのAIが適切に作られているという前提が必要ですけどね。とはいえ、
山路:最近、OpenAIがo1を発表した時に言ったのが、途中のchain of thoughtsは明らかにしないですよって。とりあえずo1に関しては、もうそれでいきますよってことを宣言した。途中で不適切な考えがあったとしても、それを明文化すると問題になってみんな使えなくなるんだったら、頭の中で考えているようなものは非表示にすることによって、より高い推論とかを実現するようにしますよみたいなことをOpenAIは言っていたりするんですよね。それが今後どうなるかっていうのはわからないですけれども。
藤井:でも、AIに関して言うと、透明性を求めているカリフォルニアだったりとかEUだったりとかの規制との当局とのやり取りの過程で、研究者たち、開発者たちも考えるところがたぶん増えてくると思いますね。
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