以前、人間は恐怖心から嘘にコロッと騙されてしまうと書いた(「人はなぜ明らかな嘘をコロッと信じ込んでしまうのか?(2,262字)」)。人間は、耐えられないほどの恐怖を感じると、それを和らげるための「物語」を欲する。その時に、他人から嘘を教えられると、それをコロッと信じてしまうのである。
例えば、不運なことが立て続けにあった時、占い師から「この壺を買えば運気が上向きますよ」と言われると、「不運による恐怖」を和らげたいため、ついそれを買ってしまうのだ。

恐怖心というのは、それほど強い支配力がある。人間には、喜怒哀楽とさまざまな感情があるけれど、恐怖心ほど人を強く支配する感情は他にない。
人は、喜びのためだったり、怒りのためだったり、悲しみのためだったり、ましてや楽しみのためにはなかなか動かない。子供に「飴をやるからお使いに行ってきて」と頼んでも、遊びに夢中になっていれば言うことを聞かない。彼らは、飴をなめる楽しみや喜びを平気で我慢する。
しかし、人は恐怖のためにだったらすぐ動く。遊んでいる子供に対して「お使いに行かなければ鞭で打つわよ」と厳命すれば、すぐさまお使いに飛んでいく。飴をなめるのは我慢できても、鞭で打たれるのは我慢できないからだ。

では、なぜ「恐怖心」はここまで人の心を支配するのか? 今回は、そのことについて考えてみる。