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岡田斗司夫プレミアムブロマガ「『シン・ゴジラ』解説:二世政治家カップルと放射能の意味とは?」
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岡田斗司夫プレミアムブロマガ「『シン・ゴジラ』解説:二世政治家カップルと放射能の意味とは?」

2019-09-04 07:00

    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/09/04

     今日は、2019/08/18配信の岡田斗司夫ゼミ「終戦記念『シン・ゴジラ』特集、「ゴジラと核兵器」全編無料公開!」からハイライトをお届けします。


     岡田斗司夫ゼミ・プレミアムでは、毎週火曜は夜8時から「アニメ・マンガ夜話」生放送+講義動画を配信します。毎週日曜は夜8時から「岡田斗司夫ゼミ」を生放送。ゼミ後の放課後雑談は「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」のみの配信になります。またプレミアム会員は、限定放送を含むニコ生ゼミの動画およびテキスト、Webコラムやインタビュー記事、過去のイベント動画などのコンテンツをアーカイブサイトで自由にご覧いただけます。
     サイトにアクセスするためのパスワードは、メール末尾に記載しています。
    (※ご注意:アーカイブサイトにアクセスするためには、この「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」、「岡田斗司夫の個人教授」、DMMオンラインサロン「岡田斗司夫ゼミ室」のいずれかの会員である必要があります。チャンネルに入会せずに過去のメルマガを単品購入されてもアーカイブサイトはご利用いただけませんのでご注意ください)


    「ゴジラが東京に上陸する」本当の理由とは

    nico_190818_03515.jpg【画像】DMMラウンジのサロンにて

     ではですね、ここまでは、誰も気にしてないかもわかんないんですけども、わかんない人もいるので、初歩的な解説っていうのをやってみました。
     じゃあですね、僕が気になったのが、最初出てくる牧悟郎博士ですね。
     あれ何なんだよ。
     前回の放送でも後半のほうで言ったんですけども、あれ必要ねえんじゃねえかというふうに思ってたんですけども。まあまあ、ちゃんと必要あるわけですね。
     なんでゴジラが出てきたのか。
     これまでのゴジラは実は第一作を除いて全て、ゴジラが出てくる、特に東京に上陸するには理由があるんですね。それは一番つまんない理由としては『ゴジラ対メガロ』のジェットジャガーが呼んだからっていうやつからですね。
     『キングコング対ゴジラ』のゴジラの闘争本能でっていう、そういうしょうもない理由もあれば、それなりの理屈が通ってる、いわゆる84年『ゴジラ』の原子力発電所の放射能を吸収するため、みたいなものもあるんですけれどもですね。
     今回のゴジラはですね、第一作のゴジラ並みに実は陸上に上がってくる理由が何にもないんですよね。
     で、普通に考えるとですね、博士が放したからだと思うんですよね。
     っていうのは、アメリカでずっとそういう新生物の研究をやってた博士がいて、で、船の中に、プレジャーボートの中に靴が揃えて置いてあって、自殺をほのめかせて、でお別れの言葉っぽい、「私は好きにした。お前たちも好きにしろ」みたいなことを書いていなくなって。
     で、それから上がってきたから「あ、わかった。これは『機動警察パトレイバー』の廃棄物13号だ」と。つまりゴジラの幼体みたいなものを持っていて、それを海に返したか、何かゴジラが生き返る陸に上がるきっかけを作って、で、そこでゴジラ復活に巻き込まれて死んだのか。もしくは自殺したんだろうな、というふうに考えるんですけども。
     何か、それだけだったらあんまりすっきりしないんですよね。
     まず、牧悟郎博士っていう人の奥さんです。
     奥さんの死んだ理由がはっきりしない。放射能障害で死んだというふうに言われるんですけども、牧悟郎博士の年齢を考えると、その奥さんの放射能障害っていうのは原爆ではないんですよね。年齢的に考えても。
     で、映画の中で言わないんですけども、これは普通に考えりゃ福島の事故だろうと。いわゆる原発事故だろうと。だからこそ政府に対して恨みを持つっていう言い方をするんですね。もし、原爆で死んだんだったら、アメリカに対して恨みを持つっていうセリフになるはずなんですよ。
     そうじゃなくて、政府に対して、日本に対して恨みを持つという表現。正確なセリフに覚えてないんですけど、そういうふうになっている限りには、日本に対しての怒りなんですね。
     その時、第二次大戦で広島、長崎に原爆が落ちたことに対して、日本に対しての怒りを持つ人ってあんまりいないと思うんです。
     じゃあ何かって言うと、おそらく福島第一原発の事故であろうと。
     で、僕が考えるのはですね、ゴジラ第一形態って言われてるわけですね。
     今、ポスターとかに出てくるゴジラは第四形態です。第四形態っていうふうに言われています。
     その前のようやっと二本足で立ったのが第三形態。
     海の中から四つん這いで出てくるのが、第三形態です。
     では、第一形態っていうのは何かって言うと、映画の中では触れられていないんですね。
     で、しっぽがバーっと上がってくるから、あのしっぽみたいなものとか映画の中に出てくる影みたいなものが第一形態というふうに思われてるんですけど、じゃあその影みたいなものにしなきゃいけない理由っていうのは何なのかって言うと。
     僕が考えるにあれは牧悟郎博士なんですよね。
     本当に全くこれ僕の妄想かもわかんないんですけどもですね。
     人間なんですよ、ゴジラの正体は。
     だからこそ理由もなく東京に上がってきて、自分の奥さんを殺した日本に対して復讐しようとして上がってきてるんですね。
     人間だからこそあのゴジラが東京を襲うシーンが悲しくなるんです。
     そうじゃなくて、ただ単に太平洋の海の底で放射性物質を食っただけの生き物が、日本に上がってくる理由がないんですよ。牧悟郎博士が船の中に残した地図って何かって言うと、ゴジラの出現予想位置と日本に対して上陸する地図が書いてるんですよね。それは牧悟郎博士の予言とか予想に見えるんですけども、そんなもの予言とか予想できるはずがないですよ。生物なんだから。
     そうじゃなくて、俺はこのルートで日本に上陸するよっていう宣言なんですよね。
     だからこそ、人間だからこそあの映画は面白くて怖いんだと思います。
     人間があんな形になっちゃった。だからゴジラっていうのは人間の遺伝情報すら持ってるって今回の映画の中で言われてるんですよね。
     まあ、牧悟郎博士じゃないかもわかんないですね。
     僕考えた可能性は四つで、ひとつは、よく『機動警察パトレイバー』の廃棄物13号と同じく、新種の生物、ゴジラ幼生体だっていう考え方。
     もうひとつは牧悟郎博士自身。
     もうひとつは、あんまりこっから先は嫌な話になってくるんですけど、牧悟郎博士の奥さんの、まだなんとか生きながらえていた部分。または牧悟郎博士と奥さんの間にできた子供。
     この4つの可能性だと思うんですけども。
     たぶん牧悟郎博士自身なんでしょうね。
     だからこそ、あのゴジラは東京を破壊せずにはいられないし、で、体が熱くなったらもう一回海に帰って冷やして、それからもう一回上陸しに来て。それは何のためかって言うと、純粋に破壊するために来るんですね。
     自分を止める時っていうのは、つまり自分を止められるものっていうのは、逆に言えばそれは人類を滅ぼす力かもわからないし。人類に対して無限のエネルギーを与えるかもわからない。でも自分としてはもうそれを制御できない。
     なぜかって言うと、自分は怒りの塊、復讐心の塊って言ったら変ですけれども。そういうふうな化け物になってしまうからだ。人間が神になるっていうことは荒ぶる神になるしかないんですね。人間が善意の神になるっていうのは『まどかマギカ』ぐらいしか、俺は聞いたことがなくてですね。だいたい世界中の民話の中にある人が神になる話っていうのは、荒ぶる神に墜ちていく話なんですけれども。
     首都を破壊する時の牧悟郎博士ですね。
     『シン・ゴジラ』としての牧悟郎っていうのは、なんのために、そしてなんで矢口が戦わなきゃいけなかったのかって言うと。
     今回、矢口がやった作戦考えてください。
     それは自衛隊員達に死ねと命令して、自分たちの命が危険に晒されるっていうのを覚悟して、死んでこいと命令して、前線に立つことだったんですね。
     それは何かって言うと、福島の事故が起こった時に本当は政治家だったら、民主主義を一時否定して凍結させても自衛隊員たちに突入してメルトダウンを防げと言わなければいけなかったんじゃないかっていう、庵野秀明の問い掛けなんですね。
     それを矢口は福島ではできなかった。
     それ別に直接矢口が担当者じゃなかったんでしょうけど。少なくとも政府ではできなかった。だからこそ、奥さんは死ななきゃいけなかった。だからこそ、博士はもう一回それを避けようがない形で持ってくるわけです。
     それに対して矢口が自分の命を危険に晒して。これ後半言います。
     矢口は実は自分の政治的生命を本当に危険に晒して、たぶん彼はかなりやばい状態なんですけども。戦って、そして色んな人を犠牲にした上で勝つんですね。
     それは本当言えば、あの日、3月11日に日本政府がやらなきゃいけなかったことを、矢口がやったからこそ今回のゴジラ映画は人類の勝利として語られるお話になってます。
     っていうのが、矢口が震災の時に、あの場に適切な場所にいれば救われたかもしれない人たちの怨念として、ゴジラが出てくるって考えれば、今回の『ゴジラ』は、なんであそこで牧悟郎博士だっていうことで、すごい納得がいくんです。
     僕にしてみれば、これ別に将来ネタバレ本とかいうことで監督が言うかもしれないし、そん時には僕の予想っていうのは全然外れて、本当につまんない妄想かもわかんないんですけども。
     少なくとも冒頭に船が出てきて、あそこで謎めいたことを言って、僕は「ああ、なんか『パトレイバー』の、『劇場版パトレイバー』の焼き直しみたいなもんなのかな」と思ったんですけども。
     たぶん、それでは済まないはずで、そこまでやってるからこそ、製作者としては口が裂けても言えないっていうのは変ですけども。できるだけ隠しておきたいところなんじゃないかなというふうに思いました。
     帆場暎一みたいなもんだというふうに考えるよりは、帆場暎一みたいに「あとはお前らの好きにしろ」と言って自殺するんではなくて、自分がモンスターと化して、最悪と福音、両方を与える神となって、東京の街に屹立して「じゃあお前らどうするんだ、またあの時と同じように責任逃れをするのか」っていうようなことを問いかける人がいるからこそ、ゴジラが都心を火の海にするシーンっていうのは悲しく切ない。
     だからゴジラは人間の眼をしてるんじゃないのかなっていうふうに考えました。

    庵野秀明の「責任の取り方」

    nico_190818_04220.jpg【画像】DMMラウンジのサロンにて

     それねえ、『ゴジラ』の最初に言った、パンフレットに書いてある冒頭の、庵野秀明のお言葉っていうのがあってですね。
     そこで半分ぐらい『エヴァ』のこと書いてるって言ったんですけど。
     何書いてるのかって言うと、「これ以上『エヴァ』を作れないと思った。これ以上『エヴァ』を作ったら死んでしまうと思った」っていうふうに書いてるんですよね。で、それは……もうちょっと後半で話しましょうか、そこらへんは。
     で、後ですね、僕が引っ掛かったのは、ラストの変なセリフなんですよ。
     石原さとみが、石原さとみって言っちゃうんですけど、石原さとみが、矢口に対して、ここだけ役名ですよね。
     「辞めないでよ」っていうふうに言うんですね。「辞めないでよ」
     で、「私が大統領になった時、あなたがこの国の首相になってほしい」
     「そりゃあもう傀儡政権だなあ」というふうなことで、ちょっとまあイチャイチャ? ラブラブ?
     これをもって、石原さとみはアスカの役割なんだなっていうふうな人もいるんですけども。
     そこでですね、不自然なセリフのやり取りがあるんですね。
     で「辞めないでよ」って言われた時に矢口が返す言葉が「この国の政治家の責任の取り方っていうのは辞めることだ」っていうふうに言うんですね。
     で、「辞めないでね」っていうふうに「あなたは辞めないでね」っていうふうに石原さとみに言われた時に矢口は返事しないんですよね。
     で、石原さとみが屋上にいたんですけど、屋上から降りて、フレームアウトして観客から見えなくなって、その場にいなくなってからようやっと独り言のように「俺は辞めない。辞めるわけにいかない」っていうふうに言うんです。
     すっごい不自然なセリフなんですよ。恋愛ドラマとして観ても変だし、セリフ繋がらないし。なんでそこで帰ってから喋るのかって明らかに変なんですね。
     それ何かって言うと、さっきも言った、「俺、『ヱヴァ』ちゃんと作るからね」っていう意味なんですよね。
     それは、責任を取ることは辞めることだっていうのは言ってないんですけども、言ってないっていうのは。もちろんセリフとしてはそんなことは言わないんですけども。
     宮崎駿なんですよね。宮崎駿が、「ああもう、ジブリでできることは終わった。俺の、自分の全盛期は過ぎた。だからもう俺は引退します」というのに対して、庵野は「俺は辞めません」って言ってる。
     それは宮崎駿は「お前はだから逃げたんだ」って言うんじゃないんですよ。宮崎駿はベストを尽くしたかもわかんないけど、俺はまだ責任を取りきってない。この国の人間の生き方っていうのは、自分の責任の取り方、つまりもう自分がいるべきじゃないと思ったら身を引くんだけど。まだ俺は引くべきではないと考えてるからこそ、あの『ゴジラ』のパンフレットの最後のほうに「これから『ヱヴァ』を作ります」って書くんですよね。
     『ゴジラ』のパンフレットの冒頭に書くようなことっていうのをちゃんと映画のクライマックスのラストのラストでちゃんとセリフとして矢口に言わせてるんですよ。
     それは庵野秀明のプライベート映画だからできる、ファンの人が「『ヱヴァ』いつ作るの? 本当に作るのか?」っていうのをちゃんとあいつ映画の中で答えてるんですよ。すげえ俺様映画作りやがったなっていうか、個人的な映画作りやがったなと思って面白かったんですけども。

    二世政治家のカップルと放射能の意味

     で、最初にちょっとさっき話した、では矢口は、僕生命を危機に晒して、政治家の生命を危機に晒してっていうふうに言いました。それはどういう意味かっていうと、大変『ゴジラ』は特殊な人物設定してます。
     主人公の矢口は二世なんですよね。つまり世襲で政治家になってるんですよ。
     で、これは、途中で赤坂さんっていう矢口の友達なんですけど矢口より出世してる人がですね、他の大臣と話してる時にアメリカから来る石原さとみじゃないんですけど(笑)、アメリカから来る石原さとみなんだけども。カヨコ・アン・パターソン、パターソン家の令嬢で、「もう金もあれば人脈もあれば本当に何もかも恵まれたんだ。お前には苦手だろ」って言ったら「いやあ、矢口と同じで生粋の政治家タイプですよ」って言うんですね。
     ここでわかるのが、矢口っていうのは地盤看板を継いだ二世の政治家。
     変ですよね。
     普通ね、日本の映画ではこういう二世の政治家を主人公にはしないんです。
     どちらかって言うと、赤坂みたいな叩き上げの、下から上がってきた者が主人公になるんですけど。
     じゃあなんで二世の政治家にしたのか。
     なんで二世同士のカップルにしたのかって言うと、この後半のヤシオリ作戦なんですよ。
     ヤシオリ作戦で、特殊なことに全員マスク被ってるんですね。特殊でもなんでもないです。
     あそこは放射能障害がありますから、で、途中で放射能障害があるから危険です。もう全員マスク被ってるから、もうセリフがくぐもってしょうがないんですよ。
     是非Blu-ray出すときは日本語の字幕を、日本語のセリフに日本語の字幕を入れてほしいんですけれどもですね。
     なんでねえ、何が危険だったのかって言ってると、もちろん放射能障害で直接的な生命の危険はあるんですけども。それ以上に、あるのは実に簡単で、子供ができなくなるということなんですね。
     ここで思い出していただきたいのは、矢口は世襲の二世の政治家でですね、で、カヨコ・パターソンも二世の政治家なんです。
     二世の政治家、家を継いでる政治家にとって最も危険なのは子供ができないことなんですよ。
     それはもう真田丸の、豊臣秀吉の悲惨な老後を見て頂いてわかる通りですね。
     二世の政治家にしたっていう設定は何なのかって言うと、その二世が自分たちの政治的生命。
     これ生命を危機にするって言ったら、視聴者、観客に分かり易すぎるからなんですね。
     それよりは観客にわかりにくい、こいつらは自分の子供ができないイコール自分の地盤看板を継いでくれる存在ができないようになるのを懸けながらやってる。
     命を懸けて戦うっていうのを、別のフィールドで見せてるわけですね。だからこそ、クライマックスの矢口の表情というのは、そこまで決意してる人間だからこそ、他の人間に「下がってください、下がってください」って言われても、あの現場にいることを選ぶんですよ。
     これが、これまでの怪獣映画だったら、ゴジラのビームが届きそうだとか周りの人間が死んでるとか、攻撃を受けてそれで頑張ってる、怪我しても頑張ってるみたいなことを書くんですけど。
     そうではなくて、被爆して子供ができなくなる体になるかもしれないっていう、本当に僕らが日常生活の中で、原子力と共にいるからこその危機をマジでど真ん中に放りこんできた。
     それをクライマックスに持ってきて、おまけに映画の中で、ほとんど全ての人が気が付かなくてもいいやーって感じで出してきてるのが「おお、すげえ、庵野やったぜ!」って思いました。
     たぶんねえ、今回の映画っていうのは庵野秀明にとっての『On Your Mark』なんですよね。宮崎駿にとっての『On Your Mark』っていうのは、これイベントとかでは語っているんですけども。公開放送とかであんまり言ったことないんですけど。
     『On Your Mark』っていう、宮崎駿のアニメがあります。
     それは最後、翼の生えた少女が新興宗教の団体に捕まって、で、警官の主人公がそれを助けだすっていう話なんです。
     で、それは全て妄想かもしれないっていうことなんですけども。
     翼が生えた少女が空へ帰る時に、赦しの表情っていうのをするんですね。
     下を向いて、赦す表情っていうのをして。で、そしてキリスト教のモチーフとなっている手と手が先だけが触れ合っている描写から離れていくというのがあるんです。
     あれは何なのかって言うと、手の平ではなくて甲のほうにキスをする。送り出す男のほうが。
     これら全て、聖なる者に対する表現であってですね。
     赦しっていうのを与えてくれるんです。
     宮崎駿はなんで空を飛ぶ女の子に赦してもらわなければいけなかったのかって言うと、それは彼の作家人生っていうのかかった話で。
     まあそれ今日ここで話すことではないんですけどもですね。
     宮崎駿は逆に『On Your Mark』を作ることでそっから先、『風立ちぬ』に至るまでの自分っていうものを出す映画が作れるようになったんですね。それまでの宮崎駿の映画っていうのは、ちょっと四方八方塞がっていて、例えば、針葉樹文明とか、そういう人から聞いた話みたいなもんで。
     なんか難しいちゃんとした話っていうのをやんなきゃいけないっていうふうなものが、自分個人に対して、今まで自分が作ってきた空を飛ぶ女の子みたいなものから赦されることによって、「ああ、じゃあ、俺の本音の映画作ってみよう」っていうふうになれた。
     同じように今回の『シン・ゴジラ』っていうのは、自殺も考えた、つまりものを作れなくなった、死ぬことしか考えられなくなったって庵野が、なんで『シン・ゴジラ』作ったのかって言うと、それはもう『シン・ゴジラ』の中で赦されて癒されたと思うから次に至る道っていうのが見えた、ということだと思うんですね。
     そういうふうに考えて、個人映画として見たほうが面白いんで、ちょっと後半、原子爆弾の話する時に、言いにくい話なんですけども、庵野くんのお父さんっていうのは、本人もインタビューで言ってるから大丈夫だと思うんですけども、身体障害者なんですね。片足のない身体障害者であってですね。
     それは戦争中に生きてた人ですから、そういうふうな人もいっぱいいたんですけども。
     そういう人との関係で、原子爆弾っていうものを肯定せざるを得ないんじゃないのかっていうふうに思ってる庵野秀明っていうのを、ちょっとそれはあんまり大きい声で話すようなもんでもないんですね。
     後半のほうで話そうと、思います。
     そのあたりの庵野くんの思い、個人の思いっていうのと映画の中のセリフっていうのが重なっているので、後半のクライマックスのヒロインとのセリフのやり取りが見てる人にとって、ちょっとわかんなくなってんじゃないかなっていうふうに思います。

    ゴジラのしっぽから生まれてエヴァンゲリオンへと繋がっていく

    nico_190818_04850.jpg【画像】DMMラウンジのサロンにて

     で、これも、色んなところネットで書かれているラストのしっぽの中から生まれてくるものですね。
     もうこれ前回の後半でも話したんですけども、基本的に見てみたら、ゴジラの小さいやつなんですよ。人間みたいに見えるんですけども、ちゃんとゴジラの背びれが付いてるんですね。
     ただその背びれが、ゴジラのような、僕が見た限りでは三対ではないんですね。
     つまりセンターに一枚、両脇に二枚ある背びれではなくて、両側に二枚あるようなタイプのゴジラの背びれに見えたんで。
     あれがそのまんま伸びたら翼になるんではないか。
     そうすると本編の中で言われている、「有翼となって大陸間を飛翔する」ゴジラの中には、普通のことを難しい言葉で言うくせがあるのでですね、「有翼となって大陸間を飛翔する」っていうのは、羽が生えてよその島まで飛んでいけるっていう意味なんですけどもですね(笑)。
     そういうふうな存在になると。
     で、羽が付いた人型の生物で、群れをなして口からプロトンビームを吐くっていうのは、俺が知ってる限り巨神兵しかないんですけどもですね(笑)。
     巨神兵として考えてもいいですし、使徒と考えてもいいと思ったので、僕はあれを『ナウシカ0』と呼んでもいいし、『エヴァンゲリオン』の第0話と呼ぶことも可能だろうと。いわゆる『巨神兵東京に現わる』っていうのにこっから先繋がるような話だと思ってもいいし。
     じゃあ、そこでですね、今日ちょっとオフ会で聞かれたんですけど、では『エヴァ』との設定のズレはどうするんですか?
     例えば、ファーストインパクトっていうのはこういうふうなことでっていうふうになってたことがあるんですけどっていうの聞かれたんですけど。
     僕その時答えたのは「いや違う。庵野が前に『シン』と付けたら、前の設定はご破算にするよという意味だ」と。つまり、『シン・ヱヴァンゲリヲン』って言った瞬間に「はい、みんなの大好きな惣流・アスカ・ラングレーはいなくなります。こっから先は式波・アスカ・ラングレーになります」っていう、前の設定はなくなっちゃうんですね。
     と同じようにですね、『シン・ゴジラ』っていうものを作った瞬間に、これまでの『ゴジラ』の設定もなくなると同時に、おそらくこれまでの庵野秀明作品の設定もゼロ設定化されるというふうに考えたほうがいいんでですね。
     別に僕はあのまんま、『シン・ゴジラ』から『ヱヴァンゲリヲン』に繋がってもなんら不思議ではないというふうに思うんですけれども。
     どちらかって言うと、『デビルマン』のラストに近いですね。人類最後の日に神は復活して、天使と共にこの世界を作り直す、滅ぼすはずだったのが、そんな神様を殺してしまったんだ。いわゆる『もののけ姫』における神殺しのようなことを。
     さすが本当にこれまでの作品、総ざらえですね。
     人類は神様を殺してしまった。神様を殺してしまった私たちはこれからどうすればいいんだろう、っていうのが今回の『ゴジラ』のメインプロットだと思うんですね。
     だからその中でゴジラが神として語られるとか、綴りの中に「GOD」と入ってるって何回も何回も石原さとみが変な英語で言いますけどもですね(笑)、それは何かって言うと、今回の話は神殺しの話なんだっていうふうなことだと思います。
     ではですね、一般が終わっちゃいますね。こっから先、長いんですよこっから先、実は限定で話そうと思ったこと。それは何かって言うと。
     『ナカイの窓』っていうバラエティ番組でちょっと前に声優スペシャルっていうのがあったんですけども。
     まあ、めちゃくちゃ見てて痛々しかったんですよね。
     なんで、僕らが見る番組で、別に普通に声優さんが出てるアニメは面白いし、声優さんが声優さん達だけでやってる番組は面白いのに、なんで普通の番組に出てくる声優さんっていうのは、なんか痛いんだろうな、とかですね。
     あと、『シン・ゴジラ』が変えてしまうものですか。
     今回の『ゴジラ』っていうのが果たして名作なのかそうなのかっていう問題。
     で、どういう影響を映画界全体、特にハリウッドに向けて変えていくのかっていうふうなことをですね、後半語りながら。後ろのほうでは原子爆弾の話もしていこうと思います。
     ここで限定に切り替えたら、なかなか酷いと思うんでですね(笑)。
     コメントのほう、ちょっと拾ってみましょうか。

    「それ、まとまるのか?」(コメント)

     いやあ、いやあ、9時半までに終わるかどうかわかんないけど、俺は今恵比寿にいて、早く吉祥寺に帰って真田丸の続きが見たいので、なんとかまとめようと思うんですけどもですね。

    「海外の反応が気になる」(コメント)

     そうなんですよね。わりとねえ、海外では評判がよくないというか、日本で見た、海外の人の評判がよくないという話もあるんで、それはわかるはわかるんですよね。

    「海外で上映した?」(コメント)

     いや、してないです。してないです。日本で見た海外の人の評判が悪いよっていうブログを僕何件か見たので、ああ、なるほどなと思ったんですけども。それも後半でちょっと話をしてみます。
     というわけでですね、じゃあ一般のほうはこれぐらいにしようかな。
     ちょっとさっき話した通り、僕の中でゴジラは、牧悟郎博士というふうなことで、わりとそういうふうに考えれば、全ての筋道がすーっと納得、通るんで、早いことこれを皆さんに発表したかったということで。
     一般放送はこのあたりにさせていただきたいと思います。
     それでは限定のほうに切り替えてください。

    映画にはもう「内面の闇」はいらない

     さて、『シン・ゴジラ』の影響で言うと、前も言ったんですけど、怪獣映画としては、95点、映画としては65点というのが、僕の中の数字なんです。わりと一般映画としては、そんなによくないですけど、怪獣映画としては極めて優れている。
     で、『エヴァ』の続編としては120点。これは前回から言ったのと数字変わらないです。影響力で考えると、わりとはかりしれないと考えています。なんでかっていうと、日本の映画人、プロデューサーにですね、今まで何が足りなかったのかっていうのを考えさせる、すごいいい材料だと思うんですね。
     まずもう『アベンジャーズ』が成立しないっていうのを、言ってしまってる。『エヴェンゲリオン』以降アニメが変わってしまったんです。それは『機動戦士ガンダム』が登場した時に、子供だましのロボット戦争ものが駆逐されたのと同じようなものですね。それまではまだ『マジンガーZ』『ゲッターロボ』のにおいっていうのをテレビアニメ残してたんですけども、『ガンダム』のあと、すぐではないんですけど、徐々に徐々に、昔のようなロボットアニメっていうのがどうしても成立できなくなっちゃった。
     それはなんで、軍事として考えるとか、敵もひとりの人間として考えるとか、あと燃料の問題考えるとか、いろんなリアリティがロボットアニメの中に入ってきちゃったから、昔のようなロボットアニメがもう作れなくなっちゃった。ロボットアニメを終わらせてしまったのが『ガンダム』だと思うんです。
     と同じように、『エヴァンゲリオン』っていうのは、無邪気なキャラっていうのを終わらせたんです。俺は『セーラームーン』を終わらせたのは『エヴァ』だと思ってます。何が違うのかっていうと、『セーラームーン』の中には無邪気なキャラってのが出てくるんです。今もいる気がするんですけど、『セーラームーン』の以外のセーラーマーズとか、セーラージュピターのような、単純なキャラクターがアニメの中で出せなくってしまった。『エヴァンゲリオン』のように、内面がどろどろしてるものでないと、みんな見た気がしないんですね。
     そうすると、セーラーマーキュリーとかが持ってる、勉強が好きでこんなキャラっていうのが、一段うすく浅く見えてしまう。なのでセーラムーンっていうのは『エヴァ』が登場すると、消えてしまって、じゃあ幾原君はどうなったかというと、『少女革命ウテナ』を作るしかなくなってしまった。あそこまでどろどろなものをもってくるしかなかった。
     『エヴァンゲリオン』っていうのが無邪気なキャラクターってのを終わらせて、そのあと萌キャラによってもう一回純粋なキャラっていうのが復活するんだけど、えらい時間がかかってしまいました。で、たぶん『セーラームーン』を『エヴァ』が終わらせて、そのあと『ウテナ』に行って、『ひぐらし』に行って、『ハルヒ』でキャラが踊るようになって『おそ松さん』っていう、ここまでしないと。アニメのキャラって。
     でももう無邪気なものは、失ったものは取り戻せない。『ウテナ』『日暮し』『ハルヒ』で踊る、『おそ松さん』に至るまでのアニメのキャラクターの人格の変容って『エヴァ』が作っちゃってるようで、もう戻れないものだと思います。
     で、なんで『アベンジャーズ』が成立しないのかというと、『アベンジャーズ』の最近の作品、特に『キャプテンアメリカ シビルウォーズ』という、アメリカでどんなに興行成績が上がろうと、やっぱりちょっとおもしろくない。
     それはなんでかっていうと、『エヴァ』の逆だからです。あ、『ゴジラ』の逆だからです。
     冒頭で言った『シン・ゴジラ』の弱点とも言える感情移入できるキャラがいないっていうのは、逆に言えばそんなに感情移入するキャラが必要ですか? って問いかけにもなる。そんなに人間ドラマが、そんなに家族が、そんなに自分の内面が必要ですか。
     『シン・ゴジラ』では、全く見えない牧悟郎博士にだけおそらく内面があって、それ以外のキャラはぜんぶ表面上の動機で動いている。でも、それでちゃんとおもしろい映画ができてる。
     じゃあそれをちゃんと守って、ハリウッドの映画として成立するようにしたら、『アベンジャーズ』の最近のシリーズとか、マーベルの最近の『スパイダーマン』とか『バットマン』みたいに、おもしろくするのにやたら図体が重たいキャラクターっていうのかな、図体が重たいっていうのは、体重がでかいとか筋肉があるとかそういう意味じゃないんです。内面が重たいキャラクターが、出てきて取り回しがすごい不便なんですね。なので『デッドプール』みたいなアクロバチックなものを出さないかぎり、なかなかおもしろくならない。
     闇はもういらないんですよ。『アイアンマン』くらいでちょうどいいんですよ。
     金持ちだー、武器も売ってる、おお、俺の武器悪いことに使われてる、えらいこっちゃ、アイアンマンスーツ作った、敵もアイアンマンスーツででてきた、戦うぞー。これくらいでちょうどよかったんですけど。
     これを何人も集めて、それぞれの見せ場を作ろうとした瞬間に全員が持ってるトラウマが、もう2トンを超えちゃって2トン車に載らないんですよ、2時間映画っていう2トン車に載るトラウマは2トンが限界なんですけど、全員のトラウマ合計したたぶん10トンぐらいあるんですよね。
     なので、『シビルウォー』がすごく苦しい映画になっちゃった。
     『まどマギ』ぐらいだったらいいですけど、だからといって『ガルパン』は僕はもう無理なんですよ。『ガルパン』に関して面白いと思う、面白いと思うのは後半の戦闘シーンが面白いのかっていうと、『ガルパン』は『ガルパン』で無邪気な時代に戻りすぎなんですよ(笑)、「もうちょっと闇があるだろ」と。闇がなくていいと言った覚えはないです。
     『マッドマックス』を見てみると、めんどくさい闇はないんだけどちょいとあるじゃん、『ガルパン』ちょっと軽すぎるよと、重いの戦車だけじゃんていうような作品になってしまってる。思い切って『マッドマックス』まで振り切れたらOKだから、『ガルパン』は後半の30分があるから大傑作だとほんとに思ってるですけど。その意味では『シン・ゴジラ』と同じですよね。映画としては65点だけれど、『ガルパン』としては120点の出来があの『劇場版ガルパン』なんですよ。
     あとですね、今回の『シン・ゴジラ』が変えてしまった、僕らの認識、って言っちゃったらみなさんに押しつけになって失礼なんですけれども、少なくとも僕のなかでは「押井守はもういらない」っていうことがはっきりしたことですよね(笑)。
     押井守はもう映画評論家でいいじゃないですか、山本晋也さんでいいじゃないですか。山本晋也が出てくるときは「映画監督」ってテロップが出てくるけど、だれも新作期待してないでしょ。で、押井守がどんなにがんばっても、奇跡が起きても、『シン・ゴジラ』を作れないですよ。それがもうはっきりしたんですからね、これから先、押井守は映画評論家として生きていただくのがベストだと思うんですよね。
     そういうふうに押井守ってこれまで、こんなこと言ってるし、こんな企画もあるみたいだから、やっぱり映画監督としていてほしいな、チャンスあげたいな、がんばってほしいなと思ってたんですけど、『シン・ゴジラ』を見た瞬間に、押井さんがいたらやるべきことをもう全部やってしまったから、もうこれ以上彼を追い詰めるべきではない(笑)というか、『ガルム・ウォーズ』ももうあったんだし、もういいんじゃないかと思いました。
     で、最初に言った、日本の映画プロデューサーのものの見方が変わるんじゃないかっていう話なんですけれど。そうだ、副知事がいいですね、押井守さんには東京都の副知事になっていただくのが一番いいでしょう。小池百合子さんよろしくお願いします。
     日本映画のプロデューサーに対して、この『シン・ゴジラ』を見たら変わるだろうなと思ったっていうのが、アイドルが出るマンガ原作映画っていうのはもう終わるだろうなっていうふうには思いました。


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