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記事 12件
  • 「こたつ」

    2021-02-26 07:00  
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    「こたつ、ごはん食べるからきて」 娘が僕に向かって笑いながら言った。 こたつとは僕のことだ。
     

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  • 「浜辺の果実」

    2021-02-24 07:00  
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     強い風が吹くたびに季節が改行される。三方を海に囲まれた半島の特徴なのだろうか。連日の波浪警報を経て、週末はビーサンで浜辺を歩けるほどの陽気だった。
     陽射しを浴びて浜辺を歩く。波が水底の堆積物を砂と一緒に巻き上げたせいで、様々な漂流物が打ち上げていた。中でも目を引くがオレンジだ。
     

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  • 「理想の父親」

    2021-02-22 07:00  
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     たとえば、こういう野球選手になりたいとか、こういうパテシェになりたいとか。そこにはなりたい人が思い描く理想像がある。それはなりたいと思ったものになることに主体性があるからだ。ところが、父親にはそれがないのではないか。それはなりたいと思ってもなれるものじゃないし、なりたいと思っていなくてもなってしまうものだからだ。
     

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  • 「親の心子知らず、子の心親知らず」

    2021-02-19 07:00  
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     「親の心子知らず」という言葉を親として実感する日が来るなんて想像もしていなかった。因果応報。まさにシェークスピアの四大悲劇だ。
     

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  • 「また春が来る」

    2021-02-17 07:00  
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     河津桜が咲き誇っていた。春の匂いがした。一年前に同じ桜の下で妻と娘と進級祝いの写真を撮ったときの記憶が昨日のことのように甦る。目眩がした。光の速さのような季節の巡りにまるでついて行けていない。ずっと同じ場所で足踏みしているような一年だったせいだろうか。
     

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  • 「僕の影、君の影」

    2021-02-15 07:00  
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     地面に映った影がもっとも「本当の自分」に近いような気がする。目も鼻も口も耳もないからこそ表情があるとでもいおうか。鏡に映る水面のような自分が見えないからこそ、闇の中に年齢をも超越した内面の表情が可視化されているような気がするのは、歳を重ねるにつれ、老いていく自分の外面が内面とズレているような居心地の悪さがあるからだろうか。
     

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  • 「自由の先にあるのは希望なのか、絶望なのか」

    2021-02-12 07:00  
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     旅するように暮らすんだ。十年前、海辺の町への移住を決めたときはそんな自分自身をイメージしていた。誰もいない浜辺でビール片手に青い空を漂う真っ白な雲を見上げて昔の恋に思いを馳せたりする。もちろん手にしたビールはハートランドかコロナの瓶じゃなきゃいけない。旅人に寄り添うのは缶ビールという日常ではなく、瓶ビールという非日常でなければならないのだ。だってほら、旅先では日本酒だってワンカップじゃないか。
     人生で何をもっとも重んじるか。人それぞれだと思うけれど、ぼくの場合は「自由」だった。
     

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  • 「尻拭い」

    2021-02-10 07:00  
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     たとえば馬の子どもは生まれてすぐに立ち上がることができるけれど、人間の赤ん坊は最初は寝返りすら打つことができない。他の哺乳類も生まれてからすぐに自分で動けるのに人間だけが最初は他者の手を借りなければ動くこともできない。それは人間が十月十日で生まれるからだという。本当はもっと長く胎内にいれば手足も生まれてすぐに使える状態になるのだけれど、そこまで経つと頭が大きすぎて子宮から出られなくなってしまう。それが進化の過程で知能、すなわち頭が大きくなることを選んだ人間が十月十日で生まれてくる理由なのだ、という話を知の巨人と呼ばれている著名な方に伺った。
     

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  • 「難事件」

    2021-02-08 07:00  
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     体温計が忽然と消えた。 最後に手にしていたのは娘だった。日曜の朝のことだ。起き抜けに娘の頬に触れたら熱っぽい感じがしたのでベッドの上で計るのに使ったのだ。幸い平熱だったので体温計をケースに戻したところで「じぶんではかる」と奪われてしまった。「どこに置いたの?」と聞いたが「うーん、わからない」と首を傾げる。それでも寝室から持ち出されてはいないことだけは確かだった。妻と娘と三人で寝室中をくまなく探した。ベッドの下、マットの間、毛布の中。クローゼット。午前中いっぱい探せるところは何度も探したけれど、どこにも見当たらない。体温計は寝室という密室からまるで煙のように消失していた。
     

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  • 「幻」

    2021-02-05 07:00  
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     このまま行くと、二〇二一年の今年の漢字は「幻」になるんじゃないだろうかと、ふとした瞬間に諦めにも似た溜め息が溢れることもないわけじゃない。
     

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