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記事 5件
  • キマイラ鬼骨変 一章 獣王の贄(にえ) 4 (1)

    2013-07-31 00:00  
    5

     一瞬、九十九三蔵は、出遅れていた。
     最初に、宇名月典善が疾(はし)り、それに、菊地良二が続いた。
     身を潜めていた所から、ライフルを持った男たちが、宇名月典善の後を追った。
    「九十九くん、きみは、ここにいなさい」
     久鬼玄造が、九十九の動きを制するように、そう言ったのだ。
     玄造は、八津島長安(やつしまちょうあん)の背を押し、
    「ゆくぞ」
     動いた。
     すぐそこに停められていた、空の保冷車の助手席に、玄造と、八津島長安は乗り込んだ。
     巫炎が乗っていない方の、空の保冷車だ。
     運転席には、はじめから山野丈二(やまのじょうじ)が座っている。
    「県道の方だ」
     玄造は言った。
     久鬼麗一が落下した方角――それは、県道の方角であった。
     県道から、この牧場まで、森の中を私道が通っている。
     その私道か、県道のどこかへ、玄造は保冷車を停めて、待つつもりなのだ。
     かっ、
     と、保冷車のヘッ

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  • キマイラ鬼骨変 一章 獣王の贄(にえ) 3 (2)

    2013-07-24 00:00  
     どれだけ時間が過ぎたであろうか。
     その時、銃声が聴こえた。
     たあん……
     という音。
     近くはない。
     しかし、それほど遠くというわけでもない。
     だが、銃声とわかる。
     間違いない。
     そしてまた、
     たあん、
     たあん、
     と、合わせて三発の銃声を、龍王院弘は聴いた。
     どこかで、何かあったのか。
     あの獣が、どこかで誰かを襲い、銃で撃たれたのか。
     こんなところで、しかも夜に銃を持って歩く人間などいるであろうか。
     これは、つまり、その銃の持ち主は、偶然に銃を所持していたのではないことになる。
     銃を必要とするものの存在を意識していたからこそ、銃を持ってきたのであろう。
     仮に、その人間が、あの獣に襲われて銃を発射したというのなら、一発ではしとめられなかったことになる。
     三発――
     その三発で、あの獣がしとめられたのか。
     まさか――
     銃で撃つといったって、あの獣のどこをね
  • キマイラ鬼骨変 一章 獣王の贄(にえ) 3 (1)

    2013-07-17 00:00  
    19

     龍王院弘(りゅうおういんひろし)の身体は、まだ震えていた。
     しでの幹に背を預けていなければ、その場にへたり込んでしまいそうだった。
     膝が、がくがくとしている。
     全身が細かく震えている。
     全ての力を、あの一瞬で使いきってしまったようであった。
     筋肉に、強い負荷がかかった後、その部位が震えることはある。
     もちろん、それもあるだろう。
     だが、それだけではない。
     恐怖。
     それはある。
     疲労。
     もちろん、それもある。
     しかし、その中に、間違いなく混ざっているものがある。
     それは、うまく言えない。
     言葉にならない。
     あの、圧倒的な力に対しての畏怖(いふ)。
     おそらくは感動も混ざっている。
     そして、自身の肉体への驚嘆。
     こんなことが、できたのか。
     自分の肉体が、あのように動いたのか。
     あのように機能したのか。
     間違いなく、自分は、あの時死んで、喰われていた

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  • キマイラ鬼骨変 一章 獣王の贄(にえ) 2  (2)

    2013-07-10 00:00  
     あの時、自分の肉と心は、憎しみで満たされていた。
     憎悪。
     哀しみ。
     絶望。
     怒り。
     そういうものに身も心も支配された時、訓練したことの何もかもを、自分は忘れ果てていた。
     愛する妻――
     久鬼千恵子。
     そして、息子の麗(れい)。
     妻の胎内にいる、子供。
     それらの生命が、すでにこの世のものでないと思い込んでしまったのだ。
     久鬼玄造が、彼らを連れ出したのだ。
     日本へ――
     その久鬼玄造を、自分は追った。
     そして、彼らが死んだということを自分は知ったのだ。
     いや、思い込んでしまったのだ。
     そして、自分はキマイラ化し、台湾で殺戮(さつりく)を繰り返した。
     九十九三蔵(つくもさんぞう)と猩猩(しょうじょう)によって、自分は捕えられ、自らを滅した。
     しかし――
     久鬼玄造や、麗が、そして千恵子の胎内にあった子が大吼鳳(おおとりこう)として日本で生きていることを自分は知っ
  • キマイラ鬼骨変 一章 獣王の贄(にえ) 2  (1)

    2013-07-03 00:00  
    64
    一章 獣王の贄(にえ)

     巫炎(ふえん)は、闇の中で腕を組み、胡坐(あぐら)をかいている。
     保冷車の中だ。
     いや、正確に言うのなら、保冷車の中に入れられた檻の中だ。
     ジーンズをはき、Tシャツを着て、その上に綿のシャツをひっかけている。
     闇の中だが、眼を開いている。
     開いたその眸が、青く光っている。
     しかし――
     保冷車とはよく考えたものだ。
     普通の車であれば、それがどのようなタイプのものであれ、逃げることはたやすい。窓のガラスを割って、そこから外へ出ればいいだけのことだ。
     たとえ、それが強化ガラスであろうが、フィルムを貼ったものであろうが、いったんキマイラ化してしまえば、割ることはできる。
     ドアだって、蹴破ることくらいはできるであろう。
     それは、久鬼玄造(くきげんぞう)も承知している。
     だからと言って、檻の中に巫炎を入れて、その檻をトラックの荷台に載せてゆくのでは

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