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  • 小飼弾の論弾 #287 「SpaceXの離れ業ロケットスーパーキャッチ、期待薄(?)のロボタクシー、賭博はどこまで合法にすべき?」

    2024-10-29 07:00
    550pt

     「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
     無料公開部分の生配信およびアーカイブ公開はニコ生・ニコ動のほか、YouTube Liveでも行っておりますので、よろしければこちらもぜひチャンネル登録をお願いいたします!

     今回は、2024年10月22日(火)配信のテキストをお届けします。

     次回は、2024年11月5日(火)20:00の配信です。

     お楽しみに!

    2024/10/22配信のハイライト

    • 『子供の科学完全読本』重版と「日本のアニメは労働搾取?」
    • 激しい進歩のなかで数少ない、役に立つ資格
    • アルゼンチンの「何回目?」と「賭博の解禁」
    • 視聴者質問「衆院選について」
    • SpaceXのスーパーヘビーにはなぜ脚がない?
    • 「一電子結合」と「窒素を取り込む藻」

    『子供の科学完全読本』重版と「日本のアニメは労働搾取?」

    山路:最初に告知というか、お知らせというかさせていただきたいと思いまして。先月出版しました『子供の科学完全読本』、こちらなんですが、発売1ヶ月で重版決まりまして。

    小飼:いやーびっくりです。

    山路:どうもどうも、皆様のおかげでございます。ありがとうございます。

    小飼:これは本当びっくりです。こういう判型の大きな本っていうのは、けっこう売るのが難しくなってきてるっていうのを聞いてたので。

    山路:だけどこれ、今回の本って紙ならではの質感ありましたしね。

    小飼:そうなんですよ、そうなんですよ。電子版もあるんですけれども。

    山路:(コメントを見ながら)買っていただいた方もいるということで、

    小飼:ありがとうございます。

    「続編の高度経済成長編、はよ」(コメント)

    山路:何かこれに関して、いいお知らせがそのうちできるといいかなと思いますね。

    「めでたい」(コメント)

    山路:ちょっとこれ、ミリオン狙っていきたいですよね。

    小飼:hundred million、じゃあさおだけ屋の山田先生よろしく、本屋さんという本屋さんを行脚して。

    山路:けっこう勉強になって、割と楽しい本に仕上がってるんじゃないかと思っておりますので、まだの方はぜひよろしくという(笑)、

    小飼:これを編纂するにあたって、こんなに知らなかったのかという。これほど知らなかった、知らなかったの体験というのは僕が、僕の著者名で出た本の中では本当にもう初めてというのか。

    山路:つまり、自分の知らなかったことについて書くという経験が、ということですね。

    小飼:そうそうそう。書いたおかげで知ることができたという。

    山路:でも、本の内容というのを理解するために本を書くのが一番というのは、昔からよく言われますよね。

    小飼:そうそうそう。知らなかったら教えろというね(笑)。誰だったっけ、それ言ってたのは。

    山路:本当に私もいい経験になりましたし、特に昭和の戦争、戦前戦中戦後とかあの辺のところってものすごく曖昧だったんで、自分でも。

    小飼:たぶん学校の授業とかでも、ないがしろにされがちなんですよね。あの近代史というのは。

    山路:なんかこう、戦争はいけないことみたいな文脈で多少言われても、それが一体どういうプロセスで起こって、どんな風な庶民が暮らししたのか、そういう解像度ではぜんぜん教えてもらってなかったですね、

    小飼:ぜんぜん出てこないね。いや、特に日本の近代史っていうのはすごい、もう最後の帝国みたいなところがありましたからね。帝国になって、帝国を潰されたという。ものすごい短い間にやったので。本当に半世紀ぐらいでバーッと膨らんで、ビヤーッと縮んだっていう。

    山路:日本人にとってだけじゃなくて、世界史的にもかなり興味深い現象だった、

    小飼:興味深いです。興味深いではすまない国々とか地域とかってありますけれども、それを加味してなおっていう。

    山路:ということで、よろしければ、ぜひ『子供の科学完全読本』をよろしくという、

    小飼:まだ持ってない方はぜひ。一家に一冊。

    スタッフ:いいですか? 『子供の科学』私、書籍版と電子書籍版両方、

    小飼:ありがとうございます!

    山路:お買い上げありがとうございます。

    スタッフ:電子書籍版、カラーいいですね。

    小飼:そうなんですよ。じつは紙の泣きどころというのは、やっぱり物理的に内容を紙に転写しなければいけないので、一色増えるというのはものすごいコスト増になるんですよ。電子書籍の場合っていうのはそこがかからないので、最近けっこうマンガの鉄板ベストセラーをカラー化するというのが流行ってるじゃないですか、もう特に『ジャンプ』系とかが。

    山路:私『ゴールデンカムイ』全巻買い直しましたよ。

    小飼:ははははは。

    山路:あと普通に単行本でも、雑誌掲載紙のカラーを電子版のほうはそのまま載せるみたいなやつもありますよね。

    小飼:そうそうそう。

    山路:なかなか楽しいですよね、そういうのは。

    スタッフ:あと、私4Kのでっかい大画面モニターで大写しにして新聞紙サイズぐらいでだいたい見てっていうのも、なんかすごい新鮮でした。

    小飼:山路さんもそれが、

    山路:私もやってるけど、あれいいですよね。特にBluetoothのプレゼン用のリモコンとか買ってページめくりすると楽しいですよ。ぜひぜひ、本当になんかマンガの楽しみ方が変わるんで。

    小飼:でも、これは本当に紙でなければ、こういう質感にならないというのがけっこうあるので。そうなんだよね、まだまだ電書のほうは触覚にはちょっと対応してないというのか、別体系になるので。

    山路:まあ電子版は電子版でぜひ(笑)、

    小飼:お願いします。

    山路:いただけると、というので。じゃあちょっと軽い話題からいこうかなと思うんですけど、弾さん、今期のアニメなんか見てます?

    小飼:えーとですね、今期はちょっと諸般の事情で割とリアルが忙しいおかげで、あんま見てないんですけども、『ガンダム』は見ました(笑)。

    山路:いかがでした? ちなみに『復讐のレクイエム』ですよね。

    小飼:うん、そうそうそう。

    山路:私は、かなり見応えあって、よくできてるなと思ったんですけどね。

    小飼:いや、でも白い悪魔、あんなもんじゃないでしょ。

    山路:(乗っているのが)アムロ・レイだったらもっと怖いぞと。

    小飼:もっとヤバいでしょう。

    山路:そこかいっていう(笑)。あの監督ドイツ人らしいですよね。

    小飼:そうなの。

    山路:第2次世界大戦ものみたいな、戦車戦とかのリアリティだったりとか、

    小飼:グフがかわいそう、みたいな(笑)。

    山路:あれは良かったと思うんですけどね。

    小飼:ザクとは違わなかった、でした、残念、みたいなね。ザクとは違うはずだったのにな。あっさりと。

    山路:『復讐のレクイエム』は、世界的なランキングでもかなり上位に入ってるらしいですよね。

    小飼:ただやっぱり、何が足りないんだろうな。

    山路:そうですか(笑)、足りませんでしたか。

    小飼:なんか足りないんだよね。

    山路:それは、富野節ですかね。

    小飼:もあるし、やっぱり作画崩壊が含まれてないってところじゃないですかね。一年戦争中なのに。やっぱりこういうガンダムが出てくれないと、

    山路:(テレビ版ガンダムの)「ククルス・ドアンの島」みたいな感じの(笑)、

    小飼:そうそうそう。

    山路:それはまた贅沢な(笑)。とにかく日本のアニメ今注目はされてるってことなんですけど、すごい数、『復讐のレクイエム』は3DCGですけど、2Dアニメにしてもめちゃめちゃな本数、今期だけでも出てるじゃないですか。

    小飼:いや、本当に、いやもう絶対に見切れない、倍速再生でも見切れないじゃないですか。

    山路:しかもそのクオリティっていうのが、もちろんいまいちなクオリティのもいっぱいあるんでしょうけど、すごいクオリティのものはすごいクオリティだったりとかして。私『ダンダダン』見てるんですけど、あれのもうオープニングとか、狂ったように繰り返し再生しちゃいますね。スペイン人出身のアニメーターの方がディレクションしてるらしいんですけど、素晴らしい作品でした。

    小飼:やっぱ『ジャンプ』の系統はわりと安心してアニメ化されてほしいというのは、アニメ化されていいなというのはありますよね。

    山路:あと『MFゴースト』も見てたりしますけどね、それはそれで安心して見てるというか(笑)、もう100パーセント純粋なペーパードライバーの私でもレースシーンには熱くなるものがありますしね。

    小飼:そうだ、セルアニメっぽいやつでも、今は実際はコンピューターで作ってるわけですよね。コンピューターで作れるようになったっていうのも、アニメの本数が増えたっていうことにものすごい貢献してるでしょうね。

    山路:しかし本数が増えたって、ナオヤさんがブックマークしてたこの記事によると、一つのスタジオで一つのシーズンで9つ、

    スタッフ:いや、今のシーズン。今のシーズンで今、要はその週に放送するアニメが9本、

    山路:1つのスタジオで9本抱えてるところもあったりするとかいう。本当になんていうか、ちゃんとディレクション、マネジメントできてるのかみたいな話もあるんですけど。そこのところで問題なのが、国連からも日本のアニメは労働搾取じゃねえかということを、

    小飼:すごい、ILOから物言いがついたという。

    山路:この記事のタイトルによると、Netflixなんかからそのうち弾かれんじゃねえの、みたいな。もうウイグルで作ってるアパレル製品みたいな扱いに。これ、今そのアニメーターの労働環境がひでえみたいなことっていうのは散々言われてて。

    小飼:もう昔からですよね。もう虫プロの頃からですよね(笑)。

    山路:手塚治虫の。これってどうしてったら適正な水準の賃金っていうものが、制作に携わっているスタッフとかに行き渡るようになるんでしょうかと。

    小飼:えーとね、ならない。

    山路:ならない。

    小飼:なぜかっていうと、好きでやってるから。
     だってマンガって労働搾取とは言わないじゃないですか、少なくとも同人誌の作品を描いてても、それは労働搾取って言わないじゃないですか。それで二桁、下手すると一桁しか出なくても、明らかに食ってけないけれども、食ってけないというのが認められちゃってるものですよね、コンテンツ産業というのは。むしろそれが当然の状態だと。という一方で、現在のアニメというのは立派な産業でもあるわけですよね。けっこうな部分というのが、海外に外注されてて。ものによっては北朝鮮で作られてたっていうので問題になったりもしたじゃないですか。そういうところというのは、あくまで労働なんですけれども。いや、これ前から言ってるように、労働しなければ食べていけないっていうのは、じつはもともと破綻してるし、それで回るようになったというのは本当に人類の歴史の中でわずかなものだし。

    山路:昔はある意味、家族に養ってもらってたから、その地域でなんだかの形で養われてたとか、

    小飼:そうそうそう、

    山路:稼ぎ手、稼ぐやつがちょっといて、そいつが面倒見てたみたいな形もあったりしたわけですもんね。

    小飼:そうそうそう。でも、前にも言ったように今のアニメというのは、まあ確かに産業でもあるわけですよね。同人誌ってべつに、(締切を守れなくて)流しちゃってもいいわけじゃないですか。アニメってなかなかそうはいかないですよね。もうけっこう厳密なスケジュールが組まれてて、それに合わせるようにいっぱい外注使うわけですよね、北朝鮮も含めて。

    「ベーシックインカムはよ」(コメント)

    小飼:なんですよ。

    山路:今の段階で言うと、個人の「好き」に金を動かす人たちがつけ込んでるところがないですかと、

    小飼:あるあるある。それでやっぱりちゃんと産業としてやってるところだってあるわけじゃないですか。ジブリとか京アニとか。

    山路:(『ダンダダン』を制作している)サイエンスSARUも労働環境はいいみたいな話を、ちょっと聞きましたけどね。じゃあなんていうんですかね、アニメ制作会社の経営者の問題だったりもするんですか、多くは。

    小飼:そうなるでしょうね。

    山路:うーん、そこのところのきちんとビジネスとして成立させる手腕みたいなもんだったり。

    小飼:うん。いや、そもそもこんなに作品数がいるのかと、そう、思う一方で、アニメ化の障壁というのが下がったというのはめでたいことでもありますよね。

    山路:それはテクノロジーの発展でってこと?

    小飼:テクノロジーの発展だけではなくて、

    山路:配信サービスとかの、

    小飼:配信サービスとか、そうです。

    山路:マネタイズの手段が増えたというのがありますよね。これってベーシックインカムはすぐにはできないにしても、なんかお上がコラッていうことではないんですか。たとえば制作委員会のあり方みたいなこととかっていうのは、何らかの形で法規制をしたほうがいいんじゃないかとか。最近ちょっと議論で出てきたのは、制作に関わる制作会社にもIPを持たせる、何パーセントかはIPの権利を持たせるみたいな方向を、

    小飼:いや、でもIPを持たせてもちゃんとアニメーターの皆さんに分配がいくのかな、とも思いますね。

    山路:ああ、権利は単に与えられるだけでは意味がなくて、それを上手に活用して儲けるノウハウがないと、あんまり意味がない。

    小飼:そうそうそう。

    山路:うーん、なるほどね。まぁしかし、今の話を聞いてる限り、

    小飼:いや、だから時間制限とかはできるかもしれない。あるいはもう、もう同人誌方式で今期間に合いませんでした、のノリというのもあるというのか、最近出てるじゃないですか。

    山路:増えてますよね。

    小飼:増えてます、増えてます。

    山路:なんか同じ話数、何回も放映したりとか。

    小飼:そうそう、

    山路:総集編がやたら多かったりとか(笑)。

    小飼:もうあるいは延期しちゃったりとか。

    山路:うんうんうん。

    小飼:労働時間というよりは拘束時間制限っていうのはやってもいいと思います。

    山路:これ、でも難しいのがアニメーターって必ずしもサラリーマン、従業員じゃなかったりするじゃないですか、

    小飼:あのね、ずるいのはフリーランスっていうことに形の上ではしてるんですよね。その場合も、ちゃんと下請け法という法律があるんですけれども、労基法以上に守られてない法律なので。

    山路:じゃあなんか政府がやることがあるとしたら、きちんと下請け法を厳密に運用するみたいな話だったり?

    小飼:そう、いや、まあでもどこまで厳密にできるのかねっていう。いやー、なんか日本の法治というのは「法で納める」と書く法の法治というのは、ぶん投げの、放り投げる法の「放置」という側面というのもでかいので。

    山路:あー、仕事してねえと、行政が。

    小飼:いや、でも、そもそも行政がコンテンツ産業に絡むと、ろくなことにならないというのは、なんだったっけ、クールジャパンだっけ、狂うジャパンだっけ。ただこの場合というのはもう本当に、単純に労務を過剰提供させてるという。いや、たとえば時給、2500円だと8時間、1日8時間拘束されるとして2万円になるけれども、じゃあ16時間拘束してトイレの時間と寝る時間を除けば、全部働かせていいって言ったら、そういうことにはならないでしょ。いや、仕事と仕事の間のインターバルっていうのを少なくとも11時間置こうっていう、

    山路:ドライバーなんかのそういう、

    小飼:あるわけじゃないですか、はい。それはやってもいいと思う。志願者が多い分野でも。

    山路:しかし、なり手の多い業界っていうのは本当になかなか買い手市場になっちゃいますよね。

    小飼:全世界的ですね。

    激しい進歩のなかで数少ない、役に立つ資格

    山路:じゃあちょっともう一つ、労働に関してなんですけど。今度はSE業界、これ、SE業界で派遣社員の経歴詐称を派遣会社が支持したという。要はプログラマー経験が全くないのに、「できます」と経歴を偽っていけと。もうこんなの一発アウトな案件だと思うんですけど。

    小飼:なはずなんですけれどもね。

    山路:なんかこう、プログラマーとかなめられてません?

    小飼:プログラマーに限らないと思うよ。

    山路:なんでこんなやり方がまかり通るのかってもうびっくりなんですけど。

    小飼:やっぱり、今なお急成長してる産業なので、クオリティコントロールが難しいってところはありますよね。士業というのは大抵の場合は、けっこう厳格な資格があるじゃないですか。たとえば建築だったら建築士というのがありますし。で、それの極北というのは医師ですとか、弁護士なんですけれども。ITに関しては、それでいちおうはIPAがいろんな資格を出してますよね。けれども、それが当てにならないんですよね。

    山路:はー。情報処理なんたら試験、何級じゃないのか、

    小飼:昔は一種二種ってあって、今は名前変わってるんですよね、応用なんちゃらとか。分かれてるわけですよ、セキュリティなんちゃらとかっていうのも。それもあんま当てになんないんですよね。

    山路:弾さん、昔CTOやってた時に採用する時にコードを書かせるみたいなことを言ってましたね。

    小飼:一番いいのはコードを見せてくれ、なんですけれども。今だったらGitHubがあるので、それはすごい楽ですね。

    山路:(SEの派遣では)GitHubに自分のコードを乗せとくとかの、そういうことができる人とかまでは求めてない?

    小飼:っていうのか、それができない分野っていうのはけっこうあるんですよね。

    山路:メンテナンスみたいなもんだったり、

    小飼:あるいはNDAに抵触してしまうとかね。僕もGitHubに載せられないコードって、けっこうありますよ。これを載せると法的に刺されるっていうのはありますよ、NDAの下でっていうのは。

    山路:あとはサーバー管理みたいなものっていうのも、何をどうするっていうのを、その能力をアピールするのって難しいですよね。なんかこう、実績とか、人の紹介とかでなければ。

    小飼:まあでもやっぱり作品があるっていうのは強いですね、この世界。そういう意味では、どちらかというとそういう資格が確立された建築土木ですとか、医療ですとか、法的サービスとかよりも、芸術のほうに近い、マンガ家とかのほうに近い。やっぱり作品があるのは強いので。私これ作りましたっていうのは、これが最強のカードなので。

    山路:それこそ、いわゆる、税理士とかみたいなこの試験を受けていれば一定度基準クリアしてるみたいなやつを、基準を簡単に設けることが難しいわけなんですね。

    小飼:基準そのものが時代でコロッと変わってしまう。

    「未経験なのに経験者って肩書きでねじ込まれてる若手、何人か見た」(コメント)

    山路:って、やっぱ普通にあるみたいですね。

    小飼:でしょうね。でも、やっぱり作品で判断されるというのは本当に、氷山の上の部分で、その下の部分というのは僕もこうです、とはちょっと言い切れない。特によSIerとかって呼ばれる世界というのは、僕は間接的にしか知らないですね。

    山路:企業向けにSAPを導入するみたいな、

    小飼:そうそうそう、

    山路:それって何をどうその人のスキルがあるかって、人のコネとかそういう紹介とかでないと、なんか分かんないですもんね。いやー、なかなか、とりあえずはそういう経歴詐称を指示した派遣会社とかは全部しょっぴくしかないとは思うんですけどもね。

    小飼:どこにもいっぱいあるけども、でも本当に資格の価値というのがこうもさっさと変わってしまうというのはね。

    「いっぱいあるよ」(コメント)

    山路:って書いてありますね、なるほど。

    小飼:要するに経歴詐称、

    スタッフ:このSE業界ってたぶん旧派遣法時代からの古式ゆかしい派遣だった業種だったはずですけど、

    小飼:です、です、です。

    スタッフ:その当時から、私はその派遣だったんですね。の当時から比較すると、なんかちょっと緩いなって感じが、経歴詐称なんてありえないですからね。

    山路:へええ。

    スタッフ:その旧派遣法時代。私は確か日立直下の系列の派遣会社だったんですけど、すごい事前面接とかもやったりとかっていうのありましたから。

    山路:じゃあ、いろんなところでこうガバガバになってきてるっていうことなんですかね。そういうところというのが。これは本当にちょっと、ちゃんと派遣会社のほうを取っ捕まえるみたいなことは政府のほうにはやってもらいたいもんだと思いますけども。

    小飼:やっぱ物事の進歩が激しすぎる、少なくとも激しすぎたんだよね。そういうところにあって数少ない、役に立つ資格というのはじつはコンピューターサイエンスの学位です。数少ない信頼のおける。進歩が激しいと言っても、変わらない部分っていうのはあるわけですよね。そういう部分っていうのをきちっとやってるところというのを見る、というのはありですよね。

    山路:なるほど。じゃあちょっと次に、ノーベル賞が先週、先々週とかいろいろ立て続けに発表されましたけど、

    小飼:本当にAI、ここまでAIの年というのは、自然科学のやつはもう全部AI絡みでしたからね。ほんとAIに席巻されたという。

    山路:普通同じような分野の研究ノーベル賞の違う部門で受賞って、あんまりなかったような気がするんですけどね。

    小飼:いや、まあでもマリー・キュリーみたいに化学賞と物理学賞、両方取ったという例も、

    山路:同じ年じゃないじゃないですか、

    小飼:同じ年ではない、でも同じ人物が、で。

    山路:物理学賞で基本的な理論の人が取って、そんな化学のほうでその応用の取ったというのはすごいことだったなと思ったんですけども。

    小飼:本当にAI、自然科学のほうはAIが席巻した。

    山路:ある意味これって、AIに投資しようかなっていう思ってた人に対してノーベル賞の委員会がお墨付きを与えたみたいなところがあるのかなっていう(笑)。

    小飼:そうね、だとしたらちょっと遅いというのか。まぁでもノーベル賞ってそうだからね、本来はこの賞金でさらに研究に励んでくれよ、なんですけれども、もう、

    山路:DeepMindの人なんか、もう超金持ちやんみたいな(笑)、

    小飼:そうそうそう、

    山路:ノーベル賞、経済学賞も発表されたんですけど、この経済学賞の意義というか、これって今回受賞したアセモグルさんでしたっけ、その方が言ってる、受賞されたんですよね。私、私この方の本はちょっと読み始めたところなんですけど、まだ読み始めたところで偉そうなことを言うんですが、要はこの方がおっしゃってるのはテクノロジーの進化っていうのをべつにほっといたらみんなが幸せになるとか、豊かになるってことはぜんぜんなくて、そこのところできちんとした制度みたいなものがあって、富を分配させるようなそういうような制度ができて初めて、そういうふうにちゃんとテクノロジーの恩恵をみんな受け取れるんだ、みたいな話をしてるというふうに理解したんですけど。これってなんか、当たり前といえば当たり前のような、そうでもないのか。

    小飼:いや、けっこう、まあ要はたぶん、この手の分配の嚆矢というのは郵便制度だと思うんです。

     
  • 小飼弾の論弾 #286 「ゲスト:SF作家 藤井太洋さん・戦争と人類のその先を描く『マン・カインド』、AI開発は規制すべき?アメリカ第二次内戦は起こる?」

    2024-10-16 10:50
    550pt

     「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
     無料公開部分の生配信およびアーカイブ公開はニコ生・ニコ動のほか、YouTube Liveでも行っておりますので、よろしければこちらもぜひチャンネル登録をお願いいたします!

     今回は、2024年10月8日(火)配信のテキストをお届けします。

     次回は、2024年10月22日(火)20:00の配信です。

     お楽しみに!

    2024/10/08配信のハイライト

    • SF作家藤井太洋先生を迎えて
    • AIが書いた長編小説のレビューはだれがやる?
    • ドーンとくる本が最近ない、という欠乏感
    • 「設計のセンス」と「AIがアシストしてくれないソフトウェアを使ってくれる人」
    • 『マン・カインド』と『シビル・ウォー』から考えるアメリカ
    • 「2045年に大人のポストヒューマンがいるということ」

    SF作家藤井太洋先生を迎えて

    山路:今日はSF作家の藤井太洋先生をお迎えしております。

    小飼:まさかまさかの。

    藤井:よろしくお願いします。

    小飼:あ、そうだ、星雲賞受賞おめでとうございます。

    山路:おめでとうございます。

    藤井:2年前に(笑)。

    小飼:いや、2年前も、だよね、すごいよな。

    山路:同じ作品で、改稿したやつでもう1回受賞っていうのはあるんですか?

    藤井:星雲賞のレギュレーションではダメですね。

    山路:ダメなんですか(笑)?

    藤井:フォーマットが思いっきり変わって長編が短編になるとかだったら、部門変えて、

    山路:直木賞とかあえていってみる?(笑)

    藤井:自分で行くものではないですからね(笑)。あれは日本文学振興会の人が候補作に入れてくれないといけない。

    山路:2017年から2021年の間、SFマガジンに連載した作品を大幅に改稿した、この作品『マン・カインド』ということになるわけですよね。9月発売ですよね。ちょうど出たばっかで。

    小飼:そうそう。

    山路:すでにいろんなところで話題になってまして、一昨日でしたっけ? 小島秀夫さん、『メタルギアソリッド』で知られるゲーム制作者の小島秀夫さんが絶賛のコメントを、しかも英語でも、

    藤井:びっくりしました。

    山路:ゲーム化されるんじゃないですか、この流れだと(笑)。

    藤井:されてほしいですね。

    山路:『メタルギアソリッド』のノリで。

    小飼:『メタルギアソリッド』というよりも、僕はゲームでないので、どっちかというと『DEATH STRANDING』だっけ?

    山路:ああ、『DEATH STRANDING』。

    小飼:あっちのノリじゃないですか(笑)。

    「宅配ゲーム」(コメント)

    山路:小島秀夫さんも、絶賛されているという『マン・カインド』でございます。今回は『マン・カインド』をメインに、取り上げられているトピックや、創作にまつわるお話をいろいろお聞きしていこうと思うんですが。まず『マン・カインド』というのがどういう話かというところなんですけれども、これって今から20年後の舞台ですよね、ちょうど2045年。

    藤井:はい、そうです。

    山路:で、アメリカで第2次内戦が起こって、そこから13年後という非常にリアリティのある設定になっております。で、この20年経って、このSF的アイテムの数が盛り込まれている、SFガジェットというかアイテムすごいじゃないですか、もうなんていうか。外骨格に多脚ローダー、拡張現実、デザイナーベイビー、さらにここのところでたぶん、この小説にしか出てこない概念だと思いますが、公正戦ですよね。

    小飼:いや、でも逆に、今挙げたフレーズというのは、もはや現代人はSFとは捉えてないんじゃないかと。

    山路:なるほど。

    小飼:たとえば、この辺のガジェットというのはもう攻殻機動隊にいっぱい出てくるんですけど、たぶん今の人たちって攻殻機動隊ってSFじゃないと思うんですよね。

    藤井:エクソスケルトン、外骨格にしても、今介護施設とかで補助のために下半身にローダーをつけたりとかする人いますし、あと私まだSFで1回も書いてないんですけど、空調服。今もう現実ですよね。あれを書いたSF作家ってあんまりいないんですよね。毒ガスに包まれた世界みたいなレベルじゃないと出てこないものが、今現実に、それこそ服を着て歩いてるみたいな。

    小飼:逆に空調服というのは、それとは真逆に人体で冷やしてるっていうところが、むしろローテクなところが、ニューアイデアなんですよね。

    藤井:すごいですよね。

    小飼:今時の都内の宅配というのはチャリだったり、荷車だったりで、人力じゃないですか。人力強ええ、んですよね(笑)。だからその辺の、何でもかんでも技術でやらないというのか、人間の筋肉もミックスリアリティに含まれているという点では、この作品とかまさにそうなので。

    山路:子供の頃、自転車で荷物を運んでるとは思いませんでしたもんね。

    藤井:21世紀になってね。

    山路:意外にそれがリアルな現実だったというところが。

    藤井:そう、大八車とか。

    山路:21世紀ももう四半世紀過ぎようとしているあたりでそれですからね。

    小飼:いや、大事なんですよ。

    藤井:そう。結局ね、肌身に、自分の手で動かすとか、そういうリアリティけっこう強くてですね。

    山路:私、電動アシスト自転車とか出てきたとき、そんなの意味ないやろって思ったんですよね。初め聞いたときは。でも、それがこれほどに普及するっていうのは驚きですし。

    「帆船復活してるのも驚き」(コメント)

    小飼:復活しきってはないんだけれども、商船とかで搬送アシストっていう形のやつはありますね。だから、コンピューター制御の柱を立ててっていう。

    山路:で、この『マン・カインド』なんですけど、どこまでストーリーのあらすじとして最初のほう言っちゃっていいのかな? 先生から直接言ってもらったほうが安心かな(笑)?

    小飼:プロローグの部分っていうのは早川オンラインで公開してるので、その範囲であればネタバレ可能という。

    藤井:僕はぜんぜん大丈夫です。

    山路:そうですか。じゃあ、この作品世界での特徴、公正戦。公正な、フェアな公正ですよね。それに戦争の戦で公正戦。

    小飼:公正証書の公正。

    山路:ある公正戦の中で、戦争犯罪、捕虜の虐殺っていう事件を当事者の片方が起こすんですけれども、それを配信しようとしたジャーナリスト、しかしその記事が配信されないっていうところから始まって、なぜそれ記事が配信されなかったのか。その戦争犯罪を起こした当事者自身が、その戦争犯罪であるっていうことをわかりながら捕虜を虐殺してる、それは一体なぜなのかっていうところの謎解きから始まるという感じでいいですかね。

    小飼:そうなんですよ。だから、公正戦って何ぞやっていう感じでしょうね。だから初めそこだけ見てると、アンパイヤ付きのドンパチ、要は人数が限られてて、一定の目的を達すると勝敗がつくと。要は普通は相手のリーダーを無力化するとか、そういう感じなんですけれども。だから、公正というのは、極論してしまえば何でもありの世界ではなくて、その一定のルールに則って戦う範囲であれば戦ったよしで、反則をしてしまうと、反則負けを取られるという。

    山路:この世界での戦争っていうのは、公正戦だけではないわけなんですよね。

    藤井:そうですね。

    山路:これって、公正戦と、普通の、まあ言ってみたら従来型の戦争? なんていうか、ルールなしでやる戦争と、公正戦、その戦争の当事者がどっちを選ぶっていうのはどうやって決めるんですか?

    藤井:それは攻める側が基本的に選ぶ形になっています。前提としては。もともと公正戦というのは、両方の申し合いによって成立するケース、今、『マン・カインド』の時代、2045年には両方の申し合いで成立しているんですけど、成立する段階においては、基本的には攻めていく側、つまり抵抗する側だったりとか、独立を宣言する側だったりする人たちに対して攻めていく側が「いや、私たちは公正にやるからね」みたいな。「ちゃんと勝利条件を提示するよ。今から送る一部隊を潰したら、君たちの勝ちでいいからね」っていうふうに勝手に提示するわけです。そういう形での、かなり歪んだあれです。

    小飼:やくざの地上げだ(笑)、

    藤井:正面から潰していけば、勝敗は完全に決まっちゃうんですよ。なんですけど、それは持てる国も、非対称戦争の時代ですからね。なんですけど、そこに「いや、私たちは正しくやるからね」っていう言い訳をつけるために、少数の部隊で「はい、これ倒せば勝ちです。やってみてください。どうぞ」みたいな、そういう勝利条件に引きずり込んでいくためですね。

    山路:これは結局、持てる国が世界からの批判を避けるための建前ということでもあるわけなんですよね。

    藤井:ただ、そこで相手がもしも(ルールを)破ったら、容赦のない物量戦争で引き潰しますよ、みたいな、そういうことですね。それを武力と経済力を背景にした、瞬間的な正しさの演出みたいな感じ、ではあります。

    小飼:それで一つ思い出したのが、ナチスが占領しているところの、東欧のどこか、ウクライナだったっけな。サッカーやって、それでナチス側のチームを打ち負かしちゃうんだけど、全員射殺されちゃうわけです(笑)。

    山路:笑い事じゃないな。

    小飼:でも、度を超えた悲劇というのは、喜劇と区別がつかないという。

    山路:しかし、それを言うんだったら、ジャンケンで決めてもいいんじゃないか、みたいな気はしてくるところなんですけどね。

    藤井:実際、オバマ大統領がやっていたドローンによる要人暗殺なんかも、引き金を人間の手に置くという原則を基本的には守っていたわけなんですね。それでアメリカ人のオペレーターが、けっこうPTSDになったりとかしてたんですけど。それでも、ここに責任がありますよ、私たちは責任を取るつもりですよ、というそういう。

    小飼:そうか。そこもヒントだったんですね。

    藤井:そう。そういう、自分たちに責任がありますっていう、アカウンタビリティがありますよっていう、そこを、演出ですね、演出というよりも、宣言ですね。そういうところから生まれている概念。そういうところからヒントを得て作った概念ですね。

    小飼:ヒントといえば、ついさっき入ったニュースでノーベル物理学賞、ヒントンの先生が受賞した。

    山路:そこからくるの(笑)、

    藤井:あれが物理学賞なんだって。

    小飼:でしょ? でしょ?

    藤井:でも、そうだねって感じですよね。

    小飼:ちなみにもう一人は、ホップフィールドとの共同受賞です。でも、本当にワントピックで、まるっと受賞なので。しかも、ニューラルネットなんですか? っていう。

    山路:20世紀にすでに出てきたニューラルネットワークの原理っていうことに関して賞が与えられたっていうことなんですね。

    小飼:だから、今もうそれ、もう満開だもんね。咲きまくってるもんね。

    山路:これは弾さん的には、あるいは藤井先生的には、このノーベル賞の受賞っていうのは意外でした? お二人から見て。

    藤井:私は物理学賞で取るとは思ってなかったです。

    山路:フィールズ賞みたいなもんだったりとか?

    藤井:いや、数学系とか。ノーベル賞の中でコンピューター科学に適した賞っていうのは特にないんです、部門はないんですけど、それでも、数学かな? 数学じゃないや、何が適してるのかなっていうと、確かに他にないんじゃないんだけど。

    小飼:強いて言うと、むしろphysiology、生理学賞?

    藤井:そうですね。生理学賞ですね。

    山路:言ってみたら、人間の知性みたいなものを工学的に再現したみたいな文脈で。

    小飼:そうそうそう。だから、まさに神経がヒントだったわけじゃないですか。いや、でもノーベル賞に値する業績だっていうのは間違いないところで、じゃあどのノーベル賞? っていう時に。数学があれば、これが一番楽だと思うんですけれども(笑)。でもけっこう、物理学の人も評価してるので、結果としてこれはこれでアリなんじゃないかと。こう言っちゃなんだけれども、オバマも平和賞取ったのだし。ひでえ言い方(笑)。

    山路:暗殺とかもしてる(笑)、

    藤井:だいぶ程度が違うと思いますけど(笑)。でも実際、物理学でエントロピーを扱う、実際エントロピーの話だと考えるとすごいことですからね。

    小飼:エントロピーっていうのはもう情報にも熱力学にも出てくる概念で、しかもブラックホールを通して繋がってるっていうことがわかったというね。そういうのを考えると物理に、いつ物理になるか。

    山路:情報を扱う分野はとりあえず物理学賞に放り込んでおけば、まあなんとかなるやっていうことが、前例ができた。

    小飼:前例ができた。前例ができた。いや、だから、すごい、なんてタイムリーなんだというね。なんてタイムリーなんだという。

    山路:じゃあちょっとAIの話で続けるんだと、『マン・カインド』のほうって、AIは今みたいな形でのLLMが大活躍みたいな感じではないですよね。ジャービスみたいな名前をつけて、Hey、Siriみたいな感じで使って。まあユーザーインターフェースとしてAIはちょっと登場しますけれども。

    藤井:でも主人公の迫田が、記事を書くのにはAIをバリバリ使ってますから。もう彼は書かない記者なので。

    山路:映像を全部流し込んで、それを起こさせるみたいな。

    小飼:だからそこはよく当てましたよねっていう。LLMみたいな力技だったらっていう予測までしてらっしゃったとかどうかはわからないけれども。いや、でも本当にLLMって力技だもん。とにかくニューロンいっぱい用意して、それでぶっ叩く技なので。

    山路:相変わらずAIが熱くなっているというか。最近だと孫さんが発表、特別講演でもう10年以内には超知性が来るぞみたいなことをぶち上げてたりしますけれど(笑)。その文脈でいうと、藤井先生としてのタイムスパンというか、どんな感じで見てます? 今のAIの進歩のロードマップ。

    藤井:AIって言われているインアウト、I/Oの中で何が行われているかは正直わからないんですけど、あれにどんな肉体をくっつけてあげると超知性と私たちは感じるのかなみたいな。そこには興味がありますね。本当はワンラインの、テキストチャットのワンライナーだとあれ以上のことはできないわけですね。それにたとえば電力制御とかのI/Oとかを繋いでしまうと、電力制御はなんだか知らないけどやってしまうものになるわけですよ。なのでどういう肉体をあれに与えてあげるかっていうのがすごく、どういう手を上げるか。だからAGIに私たちは何を期待するんでしょう、ということですね。

    小飼:あと、そもそも我々以外に、違った、地球外知性体っているのかっていう質問をまだ生きている時のホーキング博士に言ったら、知性体どこにいるんですかみたいな答えが帰ってきたことがあったけど(笑)、それはとにかくとして、仮にそういった超知性ができたとして、我々にそれが認識できるのかという。『はたらく細胞』というマンガがありますけれども、あれ僕、じつは苦手で。なんで苦手かっていうと、擬人化されているから。人の理屈が働かないんですよね。個々の人には人権があるわけじゃないですか。少なくとも文明人の社会ではそういうことになっていますよね。ないんですよ。細胞というのはいくらでも使い捨てにできるわけですよね。

    山路:そういう立場に我々も知らない間になっている可能性もあるという、超知性ができたときは。

    小飼:そうそうそう。だから超知性の細胞なのかも。

    山路:もしかしたら変な感じの事故死が最近増えたなとか、そういうことで初めて認識するとか、そういうことになるのかもしれない。

    小飼:そうそう、なんかプリウスミサイルが減っているぞとか。

    AIが書いた長編小説のレビューはだれがやる?

    「AIの創作物が人間の創作物を超えるのはいつになると思いますか?」(質問)

    藤井:超える、少なくともスピードだけでいうともう超えてますよね。速さだけでいうとね。間違いなく(笑)。

    山路:超えるとはそもそも何ぞや、という。

    藤井:そうそう。で、売れるかどうかでいうと、売る人がいればその時にAIの創作物のほうが売れちゃうんじゃないでしょうかね、と思います。

    山路:面白い小説というのは書けると思いますか? LLMの延長上に。

    藤井:書けるとは思います。ただ小説って特に長編小説なんですけど、文章の量としてはけっこう不自然に長いんですよね。LLMとかで破綻なく出せる文章の長さってそんなに長くないじゃないですか。それってインプットしているテキストの長さ、4500文字から1万文字、日本語で言うと、ぐらいのテキストを大量に読んでいるから、それぐらいでまとまって出てくるんですけど。でも人間に、普通の人に何かまとまった文章を書かせてもそれ以上の長さのものってなかなか出てこないんですよ。長編小説ってこの(『マン・カインド』の単行本を見せる)厚みを作るために、3000円とか2000円とかで売るためにこの厚みを作るわけですね。すごい工夫するんですよ。キャラクターを増やしたりとか、裏切りを作って物語をフリップさせたりとか、あと伏線を置いておいて回収するとかみたいな。けっこう工夫してページを増やす。

    山路:そんなこと言っちゃっていいですか(笑)?

    藤井:増やしてるわけじゃないんですけど、この長さのボリュームのテキストを楽しむっていう、このエンターテイメントの。要は建物を大きくする、ジェットコースターをでかくする。あるいは、

    山路:読者の時間を拘束して、入り込ませる、体験をさせるっていうことですね。

    藤井:そう。でも思いっきり楽しんで1週間なり2週間なり、今、速い人も2、3時間以上は絶対かかるので、そういう楽しみを得る。

    小飼:長いのがトレンドですね。今、特に。

    藤井:今、もっと長いですもんね。私の日本の小説なんてこんなもんですけど、アメリカの小説とかだいたいこんな厚みになってきてますから。

    小飼:いや、ほんとに。900ページくらいがデフォルトですかね。

    藤井:増えてます。増えてます。あれってやっぱりその長さにするためのテクニックがすごいいるんですよ。やっぱり。あれは明らかに人間の自然な思考から出てこないので、一発では。何回も繰り返して作るとか、設計を考える、キャラクターの造形を考えるとか、そういうことを積み重ねていかなきゃいけないんですよね。AIも当然できるんでしょうけど。

    山路:最近だとOpenAIから「o1」が出てきたじゃないですか。そこのところで推論とかができるようになったみたいなことは言われてるんですけど。

    小飼:いや、できてるように見えないなー。

    山路:小説とかのテクニックみたいなものっていうのを抽出して、そういうものを学ばせることが可能なのか、

    藤井:でも、LLMってそういうふうにものを書いてないですからね。基本的は確率でしょう

    山路:だから、それがLLMの延長なのか、あるいは別の仕組みが必要なのかわからないですけど、そういうふうな小説家のテクニックみたいなものまで明文化じゃないけども、学習することが、

    小飼:いや、そもそもテクニックというものが幻想だったという。

    藤井:うん、だと思いますよ。私は、たとえば小説書くときにプロットを描いたりとか、絵を描いたりとか、こうしてキャラクターを作るとか原則をけっこうこういうふうにして作るんだって言ってますけど、おそらくそういうふうに作ってないですし、頭の中では。これをプログラムで書けって言われると、絶対に穴がボロボロあるわけですよね。AIを使うと、Pythonとかで書くと間違いなく穴だらけになるんですけど、今のo1-previewとかにやらせると、それっぽい形のことはたぶんできると思うんですよね。なんですけど、なんだかんだ言って、小説ってレビューするのはむちゃくちゃ大変で、たとえばo1に30万文字の小説を書かせるようなプロセスは作れると思うんですけど、誰がレビューするんですか? それみたいな。

    山路:矛盾ないストーリーになっているか、いちおう、整合性は確認させることはできるかもしれないけど。

    藤井:手で書いた小説って、書いてる人は少なくとも面白いと思って全部のパートを書いてるんですよ。なんですけど、o1が出してきた30万文字のテキストの全パートがちゃんと読めるくらい面白いかっていうのをレビューする人は誰なんだ? みたいな。

    山路:新人賞の第1次選考どころじゃないっていう(笑)。

    藤井:どころじゃないね。新人賞の応募だったら、ダメなものは「ごめんなさい」って言って横に避けとけばいいんですけど。

    小飼:あと、どれが売れるかっていうのは、これが工業製品だと、いい悪いっていうのはビシッと決められるわけです。性能というのは、押し量ることもできるわけです。おかげで、たとえば、ベンチマークの時にチートコードを中に入れるとかっていうのも出てくるわけですけども、文芸作品の面白いっていうのは、これまた別で、読者も千差万別なようでいて、よく売れる、よく読まれるっていうのも、これまた変わってくるわけですよね。なろう系がこれだけ出てきたっていうのも、チープに仕入れられるっていうのも大きいんですけれども、読むのも楽、あんまり脳が疲れないっていうのもかなり大きいと思いますよ(笑)。

    藤井:でも、あれだけのテキストのボリュームのテキストを読んで楽しむっていう体験は間違いなくエンターテイメントで。仮にですよ、『転スラ』クラスのボリューム27巻とかやつをo1-previewとかにやらせたとして、本当誰がレビューするんだろうなって。大変だと思いますよね、こればかりは。生成AIで絵を作った時っていうのは、レビューはかなり短い時間で、小説に比べるとね、けっこう短く済むんですよ。もちろん絵を描く人にとってしてみると、ここのタッチがちょっと油絵から出力したはずなのに、ここに絵の具が透明にかかっちゃってるよ、おかしいじゃんみたいなのとかわかりますし。

    小飼:あと指が6本ある。

    藤井:それはすぐにわかるから(笑)。

    小飼:だいぶ減ってきてる。

    藤井:だいぶその辺は減ってきてる。音楽作るやつとかも、ゲームミュージックとか最近AIで作ってるケースあるじゃないですか。でも聞いてると、おかしいところがけっこうあったりするんです。たとえば、ドラムセットが曲が始まった時と終わる時で変わってるんですよ。4タムのドラムだったはずなのに、なんかタムが6つに増えてるぞとか、さっきまでは、このブレークに使ってるタムなかったろうとか、チューニング変わってるじゃん、バスドラム4つとか5つとか持ってるのとか。変わるんですよ。それはドラマーの人にとっては我慢のならない違いなんですよね。ドラマー10人とかやってきて録音するのか、それ。っていうか、俺に叩かせろみたいな。だけど、それをゲームに使う人にとってみると、けっこうどうでもいい差だったりとかするわけですよね(笑)。

    山路:99パーセントのやつを求めようとすると大変だけど、80点くらいなら、いっぱい作れるみたいな感じの。

    藤井:いや、それがね。だから我慢できる出力の形態とできない形態があって。作家側、作ってる側からすると我慢できないものがかなり増えるんですね。当事者だったら。小説ってけっこう、我慢できないレベルが、かなり我慢ができないと思うんですよ。

    山路:確かに、1文字間違ってても、イラスト1ピクセル絵で間違ってても誰も気にしないとは思うけど、

    小飼:あっとね、オブジェクション(異議)言わないと。

    山路:えっ? 今のどこにオブジェクション?

    小飼:あのさ、なろう系とかはさ、本当に誤字、脱字だらけですよ。

    山路:あ、そっか、そっか(笑)。

    小飼:で、誤変換、過変換だらけだけれども、読まれるわけじゃん。で、いちおうこれが売れるのであれば、商品化される時に、そういうところっていうのはある程度直されるじゃん。アニメ化された場合とかっていうのは、さらにプロットとかっていうのもおかしいところっていうのが直されたりするわけじゃん。だから、じつはけっこうドラフト段階、あれこれおかしいぞっていうのがいっぱい混じってる段階で、だから演奏ミスがいっぱいある段階でも、意外と人って聞いてくれるんじゃないかという。

    藤井:それありますよね。

    山路:なるほど。商業出版の編集者がいろいろ書き直し、いろいろやりとりしてるような段階が、もうウェブ投稿の。

    小飼:だから僕みたいなうるさい奴のことというのは、聞いちゃダメなんだよね。本当思う、だからなんでここは等幅フォントじゃないんだとかね(※編注:『マン・カインド』の本文中、コマンドの記述については等幅フォントにすべきと主張している)。

    藤井:ごめんなさい(笑)。

    小飼:そういうこと言うのは(笑)、

    山路:本当に読者の言うこと聞いちゃダメですよね。

    小飼:あんま聞いちゃダメなんですよ。

    藤井:気づいて直す、プログラムコードの中に「¥」が入ってるとかね、ここバックスラッシュだろっていう。

    小飼:その通りですね。

    山路:逆にいろいろ背景を想像させてしまいますよね。バックスラッシュでなくて「¥」が入ってるっていうのは(笑)。

    小飼:でも文芸作品の場合っていうのは、そういうのは必ずしも瑕疵ではないんですよね。だから本当にアバタもエクボというやつ。もうアバターもエクボというやつで(笑)。結局のところ、AIが明らかに人間よりも強いって言えるものというのは、強いルールを設定してあるんですよね。囲碁にしても将棋にしても。これがもっとお金が儲かる部分だとすると、だからプロテインフォールデイング、タンパク質の畳み込みとか、そういったところっていうのはもうガッチシ、どっちがいいのかっていうのが判定できるじゃないですか。

    山路:そうか。小説なんかって何が面白いのかっていう判定基準みたいな、そういうルールとかがまだ誰も知らないというか。

    藤井:あと、難しいのが小説だったり絵画だったりとか、このパブリッシュするものに関しては、誰か説明できないと、アカウンタビリティが必要なんですよね。出版した人は。説明できなきゃいけないんですよ。そういう意味では、説明できるんだったら全部AIで出したっていいんじゃないの? っていうふうに私なんかは思うんですけど。もちろん。

    小飼:これでいいのだ、ができれば。

    藤井:そのAIが適切に作られているという前提が必要ですけどね。とはいえ、

    山路:最近、OpenAIがo1を発表した時に言ったのが、途中のchain of thoughtsは明らかにしないですよって。とりあえずo1に関しては、もうそれでいきますよってことを宣言した。途中で不適切な考えがあったとしても、それを明文化すると問題になってみんな使えなくなるんだったら、頭の中で考えているようなものは非表示にすることによって、より高い推論とかを実現するようにしますよみたいなことをOpenAIは言っていたりするんですよね。それが今後どうなるかっていうのはわからないですけれども。

    藤井:でも、AIに関して言うと、透明性を求めているカリフォルニアだったりとかEUだったりとかの規制との当局とのやり取りの過程で、研究者たち、開発者たちも考えるところがたぶん増えてくると思いますね。

     
  • 小飼弾の論弾 #285 「数学や科学の問題も解ける「OpenAI o1」、世界を震撼させるレバノンの遠隔爆弾テロ、光で冷える半導体」

    2024-10-01 07:00
    550pt

     「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
     無料公開部分の生配信およびアーカイブ公開はニコ生・ニコ動のほか、YouTube Liveでも行っておりますので、よろしければこちらもぜひチャンネル登録をお願いいたします!

     今回は、2024年9月24日(火)配信のテキストをお届けします。

     次回は、2024年10月8日(火)20:00の配信です。

     お楽しみに!

    2024/09/24配信のハイライト

    • 立憲代表選とアメリカ大統領候補討論の「グダグダ」と「怖いところ」
    • キリル文字廃止とその影響
    • 「マスク対ブラジル」と「製造業は金貸し化する」
    • 視聴者質問「コンシューマーゲーム機の今後」
    • Vision Pro感想と「OpenAI o1と思考過程のコンプライアンス」
    • 「AIと原発」と「光って冷却」

    立憲代表選とアメリカ大統領候補討論の「グダグダ」と「怖いところ」

    山路:先週というか、9月21日の土曜日に、筑波のほうで『子供の科学完全読本』のイベントをさせていただきました。この番組の視聴者の方も何人か来ていただいて、本当にありがとうございました。

    小飼:ありがとうございました。

    山路:おかげさまで、イベントで本も売れたとのことで書店や出版社からいろいろいい報告をいただきましたので、ありがとうございます。あと大阪のジュンク堂の大阪本店で、総合の9位まで『子供の科学完全読本』が行ったということなので、大阪の人、どうもありがとうございます。これから弾さんも、しばらく大阪にはもう少しちょっと手心を加えた形でコメントをすることになるんじゃないかなと思うんですけど(笑)。Amazonでも1回、総合80位だったから90位くらいまで行ってましたよね。

    小飼:いや、こういう判型の大きな本っていうのは、それだけでちょっと売れにくくなるのかなっていうふうに、ぼやっと思ってたんですけど。いや、児童向けのジャンルの本っていうのは、あんまり判型関係ない。むしろある程度大きくないとダメだみたいなことを担当編集者の柳さんが言ってて。柳さんの勝利でしたね、そこは。確かにさらに上の順位には絵本がいて。確かに絵本というのはものすごいベストセリングのジャンルですし。だからもちろん判型も大きいし。そういう意味で見ればそうだなと。でも、どちらかというと、そうそう、原材料は子供向けの本ではあるけども、じゃあ全体的な内容が子供向けかというふうに見ると。

    「子供の科学とても面白かったです」(コメント)

    山路:どうもありがとうございます。本当に。こういうフィードバックって、読者の方が思う以上に著者に刺さるというか、嬉しいものなんですよね。いやいや、本当にそういうことを言っていただけると、作ってよかったと改めて思いましたね、どうもありがとうございました。

    小飼:ありがとうございます。

    山路:では、そういう気持ちのいい話をしたところで、さっそくあんまり気持ちの良くない話からいっときましょうか。

    小飼:そういう苦い話題から逃げないように(笑)、当番組の。

    山路:立憲民主党の代表選が行われて、野田元首相が代表に選ばれたという。

    小飼:いやもう本当に、もうバッカじゃねえのというのか。僕ぐらいのおっさんには、かつての社会党、現社民党の凋落具合というのを彷彿とさせるというのか。

    山路:歴史は繰り返すというか、歴史というか、同じメンツが同じことを繰り返しているという感じがしますよね。

    小飼:いや、でも、ここまでもろ同じメンツだとは思わなかったよね。だから、よりによって、民主党を下野させた主犯じゃん。

    山路:野田元首相。

    小飼:立憲民主党を作る時というのか、民主党が二つに割れた時に、立憲民主党のほうを作った時というのは、野田を入れるかどうかというので揉めたじゃないですか。

    山路:ああ、なんかありましたね。

    小飼:だから結局重鎮だからというので、入れたところがもう間違い。だからこれはもう社会党が社民党になったのと同じような零落の仕方をする。だから、さらにばらけた上で、さらに粉々になる運命しか見えないよね。

    山路:野田さんて、野田、公人だから野田と言うべきか、

    小飼:別に「さん」つけてもいいんだけども。

    山路:野田元首相って消費税を5パーセントから10パーセントに上げた、

    小飼:そうです。張本人の一人と言うべきではありますよね。だから、まさにそれで民主党に引導を与えたわけですね。

    山路:いやあ、本当に立憲民主党は選挙で勝つつもりがあるのだろうかと心配になるところではありますけれども。

    小飼:だから今のところはオウンゴールしかないよね。積極的に立憲民主党を支持している人というのは、積極的に自民党どころか、維新を支持している人よりも少ないだろうね。維新があんなにグダグダになっているので、こう言っちゃなんだけど、ちゃんと千載一遇のチャンスというのをここでつんのめっているんだから、笑いが止まらないよね。だから、自民党から刺客が出ているとか、わからないけど。

    山路:野田元首相が代表に選ばれて、自民党議員はガッツポーズをしたという噂も聞きましたけれど(笑)。

    小飼:そうだろうね。

    山路:一方、自民党のほうも、

    小飼:いや、なんだけど、その前にやっていた泉だっけ?

    山路:そうですね。泉代表。

    小飼:も維新と組むとか、その時点でお前ら滅びていいよ。

    山路:本当に与党になれれば何でもいいのかって、

    小飼:だから、この様子だと、本当にそこまで俺に共産党に一票を入れさせたいのかという感じだよね。

    山路:入れるところのないときの共産党ってやつですよね。

    小飼:その通りです。

    山路:一方、自民党のほうの総裁選、いろいろ。メディアは小泉氏が議員支持で先行みたいな記事が出てたりしますけれども。今週ですよね、たしか自民党の総裁選。

    小飼:そうなの?

    山路:だったと思いましたけれども。いやー、なんかね、あんまり希望の持てる感じになるような気は、どうなんだろう、そんなに期待感は私の中では高まってないですけど、弾さんいかがでしょうかと。

    小飼:いかがでしょうか。そういえば、公明党も代表代わったよ。

    山路:それがなんだと(笑)、

    小飼:だからなんだと。

    山路:あれほど波風の立たない代表交代はないですよね。

    小飼:いや、なんだけども、そもそも連立与党の一角を成してるっていうのが、そうよ、カルトよ。だから、自民党は統一教会で、公明党は創価学会が要はバックなわけやん、票田なわけやん。

    山路:宗教団体、本当にどの国でも強いっすねっていう、改めて。

    小飼:やっぱり狂信者強いんだよね。

    山路:ヒヤヒヤしながら聞いてますけれども(笑)。国際的な文脈のところで、今一番でかい話題になっている話というのに先、行っておきましょうかね。びっくりしたのが、レバノンの遠隔爆弾テロがあったんですけれども、これ驚きませんでしたか?

    小飼:まさか、よりはやはり。

    山路:やはり?

    小飼:ではあるね。まあ率直に言って無差別テロなんですけども。そこの部分というのがやはり、まあこう言っちゃなんだけども、もはやイスラエルがテロリスト国家であるというのは、イスラエル自身ですら否定してないですよね。だからそこは驚かないんだけれども、驚いたというのは、こういった電子的なハイテクな無差別テロというのを、ここでやるかと。

    山路:そのタイミングが、ということ?

    小飼:タイミングがというのか、そういう能力をじつは持ってますというのと、それをこの場で使うというのと、それほどのターゲットだったのかという。

    山路:ヒズボラが?

    小飼:いや、でもそもそもレバノンとは戦争してないわけですよね、今は。

    山路:国同士の話ではないですよね。

    小飼:というのか、もういつもやりたい放題してますけども、イスラエルはレバノンでは。実際そういう能力を持ってるっていうのと、それを実際に使ってしまうというのは別で、そういった意味では今のネタニヤフ政権というのは、出し惜しみしてないという言い方はできますよね。

    山路:戦力の逐次投入の真逆をいってる。そういう意味では思い切りがいいやり方なんかもしれないですけども。それにしても、遠隔爆弾の手法について言うと、すごいくないですか。ハンガリーにトンネル会社みたいなのを作って、そこでポケベルに爆弾を仕込んで、あるいは日本製のトランシーバーなんかに関しても、コピー品なのかどうかちょっとよくわからないんですけれども、そういうのをどこかルートの途中で。

    小飼:要は毒を仕込んでいたわけですよね。

    山路:数千台単位じゃないですか、どれも。

    小飼:数千台単位です。

    山路:こんなことを、しかもイスラエルがやったろって非難されて、別にそれに関して公式に否定もしてないわけじゃないですか。

    小飼:否定もしてない。

    山路:っていうことは、普通はやったと思われてもしょうがないですよね、国としてやったと。そういうふうになった時に、イスラエルの企業が関わるようなサプライチェーンとかって、ものすごく疑われることになりませんか。

    小飼:もちろん、それは。

    山路:それって彼らは覚悟の上なんでしょうか、ちゃんと。

    小飼:ね。

    山路:先進国の中での商取引とか、モノを売るとか、経済活動の中でハブられるっていうリスクを全く考えてないのかなっていうところ、それもびっくりなんですけど。

    小飼:なんでそこに踏み切れてるかって言ったら、

    山路:アメリカ?

    小飼:その通りです。だからもうはっきり言ってしまうと、アメリカにとってのイスラエルというのは、日本にとっての統一教会みたいなもんです。

    山路:(笑)怖い。

    小飼:はい。統一教会よりもさらにガッチリ食い込んでるわけですよね。

    山路:それこそ一国の軍事だったりとか、諜報戦を動かしてるわけですからね。

    小飼:そういうことです。

    山路:いやー、なんていうのか、それは安保理でもう何にも進まなくなるわっていう感じが。

    小飼:だから安保理が機能しない、明らかな理由の一つというのか、そもそも安保理の仕組み自体がもうなんて言えばいいのかな、機能しない組織の代表例みたいなもので。

    山路:まあ、当面のところ落ち着く様子が見えないですけれどもね。ちょっとレバノの話が出て、アメリカの話が出たついでに、アメリカ大統領選のことも触れときましょうか。前回『論弾』をやった同じ日に、確か討論会があったんですよね。そこでいろいろトランプが、わりと出来がひどかったという。

    小飼:だから、ハリスが勝ったというよりも、トランプが自滅したというより、自滅するように持ってきましたね。

    山路:移民がペットの犬猫をさらって食ってるっていう話はおかしかったですよね(笑)。

    小飼:Save the dogs, save the catsってやつね。

    山路:マジかっていう、ハリスの顔もなかなか「何言ってんだ、この人は」みたいな顔が、なかなか役者やなと思いましたけれども。これっていうのが単純にSNSで笑いになっているだけじゃなくて、外交的にもネタの対象になっているという。ドイツの外務省が、トランプのそういう討論会での発言に関して、いろいろ間違ったところがあるぞと、ドイツは再生可能エネルギーちゃんとやってうまくいってぞということで反論したんですけど、その手紙の追伸のところに、我々も犬や猫は食べませんというのを、そんな別につける必要もないのに、とりあえずPSでついているという(笑)、公式文書ですからね。すごい世界ですよね。

    小飼:いや、でもさ、普通あそこまでグダグダだと、もうそこで勝負あったとなるんだけど、そうでもないというところが。

    山路:怖いですよ。それが一番怖い。

    小飼:そこが一番怖いところです。

    山路:頭のおかしい候補者って、言っちゃあなんですけど、いくらでもいるじゃないですか。

    小飼:アタオカは、民主制というのはそういう、アタオカ候補者を防ぎようがないんですよ。

    山路:候補に名乗り出ること自体は、もうはっきり言って自由にすべきというのがある意味民主制ではありますもんね。それにしても、アタオカをフィルタリングする機能がアメリカは弱くなっていませんか?

    小飼:いや、だからもともとフィルターしてたかどうか。で、じつはアタオカの定義というのも、時代とともに変わってくるわけですよね。だから奴隷制というのも、別にアタオカではなかった時代というのはあったわけですよね。だけども、少なくとも科学的な話題というのは、わりとアタオカかどうかというのが、はっきりわかるところですよね。だから、そもそもポストトゥルースという言葉が出た時点で、もうこれは真っ黒なわけです。100パーセント黒いわけですよ、アタオカ指標としてはね。

    山路:ポストトゥルースね。

    小飼:ポストトゥルースというのは、はい。

    山路:いやー。で、その大統領選に関してローマ教皇がコメントしてるという。これ、けっこう面白いコメントでしたよね。どっちも悪い奴らなんだけども、よりlesser evilのほうを選びましょうやと。「棄権はしないようにね、アメリカ国民」みたいなことを言って。

    小飼:それはなぜ、なぜそれがギリギリの線かというふうに言ったら、やはり妊娠中絶というのは肯定はできんわけですよね。

    山路:カソリックですもんね。

    小飼:そうです。でもそれ以外のものというのは、やっぱりアタオカなわけですよね。

    山路:いやー、良心があるものなら誰もがこれについて考えるべしみたいな、lesser evilを選びましょうというのは、なかなか踏み込んだ発言ではありません、つまり、自分自身は投票権もないわけじゃないですか、アメリカ人ではなくて。それでアメリカ人に対して、投票に関して多少なりともそういうことを言うというのは、なかなか最近のローマ教皇は政治的な発言をするなと思いましたけども。

    小飼:というのか、実のところかなり政治的な団体ではある。

    山路:あー、バチカンというのがそもそもっていうことね。昔から確かに、何が遺憾であるとか、そういうみたいなことで圧力をかけていたりはしてましたしね。

    小飼:昔から。僕にとっては統一教会も、正統教会、英語で言うとCatholicも、どちらもカルトなんですけどね。

    山路:(笑)弾さんにとってカルトの定義とは? 科学的合理性に基づいてないみたいな感じ?

    小飼:いや、だから物証を否定する皆さん。

    山路:エビデンスベースではないという。

    小飼:はい。

    山路:お気持ちで。

    小飼:エビデンスベースではないというよりも、要するに証拠を認めない連中。もっと具体例が欲しければ、ドーキンスの本を読んでください、『God Delusion』という本があるので。

    キリル文字廃止とその影響

    山路:じゃあ、ちょっと国際ニュースの文脈でこれも取り上げていこうかなと思ったのが、旧ソ連諸国でキリル文字の廃止の動きというニュース。ホンマかいなと思ったんですよ。これ、報道しているのが『モスクワタイムズ』という報道機関で、もともとはロシア在住のオランダ人の方が創刊した雑誌らしいんですけど。最近、ロシア政府に目をつけられて、危険な報道機関みたいなふうに、ちょっと冷や飯を食ってるみたいな立場にあるらしいんですけど。カザフスタンとかキルギスタンとか、そういうふうなところがどんどんキリル文字を廃止して、トルコで使われているアルファベット、

    小飼:トルコって文字を切り替えた先駆けですからね。もともとアラビア文字を使っていたのを近代化というよりも、アタチュルクの革命による一環としてラテン文字に切り替えたわけですね。でも、ラテン文字だけだと、発音の表現とかできなかったので、どういうふうにアクセントをつけるとかっていうのも一緒にやって、じつはそれがトゥルク系のトルコ語以外の、

    山路:共通文字みたいな。

    小飼:そうそう、言葉でも使われるようになって。なんですけど、その一方で旧ソ連の共和国、現在は独立国だったというところは、旧ソ連だっただけあって、キリル文字を使っていたわけですよね。だからその意味では一種の文化革命ですよね。

    山路:これが旧ソ連のほうがキリル文字を手放して、トルコのほうのアルファベットに切り替えようとしているというのは、やっぱりトルコの影響力が文化的にも強くなってきているということは、それが言える?

    小飼:だからそれはロシアの影響力が弱くなってきているというふうに言えるわけですよね。

    山路:なるほど。ロシアって自分たちが思っているよりも、はるかに旧ソ連の国から嫌われていませんか?

    小飼:それはそうよ。ウクライナとはもろ戦争をしていますけれども、戦争にはなっていなくても。でもやっぱりそれで決定的に大きくなったの、なんと言えばいいのかな、見放すきっかけになったというのはアゼルバイジャンとアルメニアの戦争でしょうね。これで、もうはっきり、ロシアはアルメニア側についていたわけですよね。なんですけど、もうほとんど手も足も出なかったという。

    山路:実力としてぜんぜんダメダメだったという。

    小飼:ぜんぜんダメダメだったと。ぜんぜんちゃんと助けてくれなかったと。

    山路:来年だったか、ロシア、軍事費もGDPの3分の1になるんじゃないかというふうなことまで言われていますよね。

    小飼:そこまで継ぎ込んでも、こう言うのもなんだけど、あの程度しか勝てないと。なんだけれども、それでもやめないというのは独裁政権のまさに弊害だよね。いや、旧ソ連というのも党独裁ではあったけども、個人独裁ではなかったわけですよ。

    山路:そうか、いちおう、なんか権力争いというブレーキが効いたところはあったんだけど。

    小飼:その通りです。だから、それで形だけの選挙はやってるけれども、独裁度というのは上がってるわけですよね。だから、もう被害額で見れば、明らかにアフガニスタン侵攻を上回ってるわけですよね。アフガニスタン侵攻の時には、ソ連軍の人的被害、戦死者というのは2万人程度だと言われています。

    山路:今回、60万人とかでした?

    小飼:60万人はさすがに行ってないけど、10万人超えるというのは確かでしょうね。戦傷者だと、それくらいいくかもしれないな。

    山路:いやあ、怖い話ですよね。

    小飼:文字を変えるというのは、他の国の歴史でも見られるところで、日本に近いところだと、

    山路:韓国?

    小飼:そうです。韓国、朝鮮とこの場合はあえて言いますけども、が、ハングルに切り替えて。

    山路:韓国ができる前ですもんね、ハングルが作られたの。

    小飼:その通りです。なんですけど、ハングルができた当初というのは、あくまでも正しい文字というのは漢字であって、二級市民だったんですよね、血筋は。

    山路:今はもう、公文書もハングルで。

    小飼:というのか、若い世代というのは、漢字がわからないんじゃないかな。

    「言語は変えないまま文字を変えると人間の思考に影響するんだろうか」(コメント)

    小飼:あり得るな、それは。どういうふうになるのかというほどの知見は持ってないんですけれども。

    山路:言語って音声と文字と両輪である意味、機能しているところがあるじゃないですか。

    小飼:あくまでも音声のほうが先というのか、主なんですけども、仮に音声がダメでも、生まれつきの聾唖者しかいないコミュニティでは手話が発明されるというのがわかってますからね。

    山路:あと、文字と音声ということでいうと、日本語ってめちゃめちゃ同音異義語が多いですけど、ある意味、文字で読んで知っている識字率の高さによって、それが補われているようなところもあるのかなとは思いますし。

    小飼:そうなんですよね。かな漢字混じりのおかげで、正気が保てているというところはすごいありますよね。

    山路:ただ、本当に言語って文字も音声も固定されているものじゃないから、たとえば、仮にキリル文字を使っていた旧ソ連諸国がトルコのアルファベットに変えたところで、最初のうちは不都合とか、それでうまく表現できないみたいなこととかもおそらく出てくると思うんだけど。それって世代を重ねれば、ある程度、修正されていくというか。だから、たぶんそれで不都合は、数十年単位で見たら、なくなっていくんじゃないかなと、個人的には思いますけれどもね。

    小飼:あと、もう一つあった。イスラエルがヘブライ文字を復活させています。ヘブライ語そのものも復活させています。

    山路:現代ヘブライ語。すごいですよね。読み方がわからない言語を、現代に蘇らせて、それをみんなで使うようにしようって。いきなりエスペラント語をみんなに覚えさせるみたいなノリじゃないですか、言ってしまえば。

    小飼:まだエスペラント語のほうというのは、スペイン語とかイタリア語とかポルトガル語とか、あの辺が原流として強いので。もし知っているとある程度、エスペラントでいいかなと。

    山路:大変だろうな。切り替えた当時のイスラエル人、大変だったろうなという気がしますけどね(笑)。

    「漢字なくなったら日本人の思考は変わるだろうな」(コメント)

    小飼:いやでも、戦後直後、そうなりかけたんだよね。

    山路:ローマ字運動みたいな。

    小飼:というのか、漢字廃止というのか。川端康成もそうしろとか言ってなかったっけ?

    山路:でも、仮にそれをめちゃめちゃ強要されたとしたら、アルファベットだけになったとしたら、新しいアルファベットで同音異義語とか区別できるような仕組みというのがおそらく生み出されるとは思うんですよね。

    小飼:だからそれがトルコ語ではよく使われている、アクセント記号だとか、セディーユだったっけ? たとえば、Cの下にピリオドみたいなやつをつけるやつ。

    山路:しかも、今だったらスマホ時代なわけだから、絵文字とかが普通に補助的な記号として使われるようになるかもしれないですね(笑)。

    小飼:あれはなんと言えばいいのかな? 漢字2.0と言えば、そうだよね、表意文字というのもやはり再発明されてしまうんですよね。

    山路:ああ、確かにね。

    小飼:表音文字のほうが綴り方は覚えやすいんですけれども、でもたぶん人類がどっちを先に使い始めたかって言ったら、明らかに表意文字というのか、象形文字なので、ちゃんとアルファベットも象形文字が元になっているっていうのはちゃんとわかっているんですよね。ちゃんとフェニキアからこういうふうに変わっていっているという歴史はほぼ確定している。

    山路:Aが牛の頭とか、そういうのがありましたよね。言語、面白い話ではありますね。

    小飼:極めて政治的な話でもある。

    山路:確かに言語を変えることによって人の思考をある意味誘導するとか、そういうのはオーウェルの『1984』でも出てきた話ではありますけどね。あれは言葉でしたけど、文字じゃなくて。

    小飼:ニュースピークってやつね。

    スタッフ:すいません、宗教改革、革命どっちか忘れちゃったけど、あれもラテン語とか関係ありましたよね?

    山路:宗教改革のとき?

    スタッフ:ルターでしたっけ?

    小飼:いや、の時は文字は変えてないけれども、マスプロデュースできるようになったわけです。ルターの聖書っていうのは、刷られたんですよ、活字で、活版印刷で。

    山路:それまでは教会に行って言葉で聞くしかなかったのを、それをみんなが自分で聖書の内容を確かめられるようになった。

    小飼:もちろん修道院で写本はしてましたよ。でも要するに、読み書きというのが当時のヨーロッパではプロのお仕事だったんですよね。修道士たちという。だから一般の人にもアクセシブルになったという。あと宗教と言語というのではやっぱりイスラム教のやり方というのも、これも特筆すべきだと思いますよ。おそらくキリスト教の聖典、The Bibleというのは世界で一番多くの言葉に翻訳された書物だと思われるのですけれども、逆にクルアーンというのはアラビア語のみなんですよね。翻訳というのはあり得ないんですよね。翻訳というのは、強いて言えば単なる解説であって、だから言語を固定してしまったと。

    山路:しかしすごい勢いで広がったじゃないですか。

    小飼:そうなんですよね。

    山路:ただそれでアラビア語話者ってめっちゃ増えたかというと、そうでもないような。

    小飼:そうでもない。

    山路:だって使われている話者の数で言ったら、べつにアラビア語というか、上位ではないですよね、決して。

    小飼:まあ2億くらいだね。国連の公用語にはなりましたけれども。

    山路:これって結局ちゃんとクルアーンを読んでいる人はそんなに多くないということでもあるんでしょうかと(笑)。

    小飼:どうなんでしょうね、そこは。

    山路:みんな結局のところ、人づてで聞いているとか、翻訳したのを読んでいるというのは。

    小飼:いや、でもこの番組でも何度か言いましたけれども、イスラム教を知っているけれども、信仰はしていないという状態をイスラム教は許さないんです。だから入信していない人たちというのは、知らない人たちと断言していいんですよね。

    スタッフ:じゃあここまでの話を聞いている限り、こちらのニュースは後々の歴史に残るようなことになるという。

    山路:キリル文字の経過、

    小飼:キリル文字を廃止するという。

    山路:世代をまたがってそれが進んで、そういうふうに変わったということがあったら、たぶん言語史的にも、世界の歴史的にも、おそらく世界史の教科書には載ることになって、受験生が覚えることが一つ増えますなと(笑)。

    小飼:仮にロシアが再占領してキリル文字を復活させたら、それはそれでやっぱりニュースになる。

    山路:うんうん。

    小飼:でも、セルビア・クロアチア語みたいに両方の表記の形式がある言語というのもありますからね。クロアチア語といった場合にはラテン文字なんですよ。セルビア語といった場合にはキリル文字なんです。

    山路:へええ。

    小飼:でもどっちもほぼ同じ言語だと。

    山路:あの辺のスラブ系の言語、影響を受けてたりとかそういうこともあって、変えやすいというのはあるんでしょうけどもね。語彙は同じで、表記法とかもかなり近いものにしてあるというのはあるかもしれないですけど。

    小飼:いちおう、どちらもルーツはギリシャ文字なので。

    山路:じゃあもう一つ、ちょっと国際絡みで今度は、

    「仲悪いからです」(コメント)

    小飼:その通りです。だからちゃんと仲の悪さをスクリプトでも分けているというね、文字でも分けているというね。ブラジル対イーロン・マスク。はい。

    「マスク対ブラジル」と「製造業は金貸し化する」

    山路:いかがですか、これ。これっていうのは珍しくイーロン・マスクが折れた話。

    小飼:ヘタレ。

    山路:ヘタレって(笑)、

    小飼:いや、もうはっきり言ってヘタレだよ。