先日亡くなった史上最もタフなヒール・プロレスラー、そして映画『ゼイリブ』の主人公ナダなどを演じた俳優としても有名な「狂乱のスコッチ」、"ラウディ"ロディ・パイパー。
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今回はトロント国際映画祭で公開された、彼の遺作となるクトゥルフ・ショートフィルム『Portal To Hell!!!』の製作者たちにインタビューして参りました。
本作のSFXを担当した、バカでカルトな低予算特撮チーム「アストロン6」のスティーヴン・コスタンスキ氏にも話を伺っています。
ロディ・パイパー演じるジャックとクトゥルフの対決の行方は?
――本作でのロディ・パイパーとの仕事の中で、一番印象的だった出来事はなんでしょうか?
ヴィヴィエーノ・カルディネッリ監督(以下、カルディネッリ):撮影前日の夜は絶対に忘れられません。ロディの乗った飛行機が遅延していて、夜も深くなっていたのですが、次の日の撮影が朝早いにもかかわらず、私たちは彼を待っていたんです。
ロディ・パイパーが到着して部屋へ入ってきた時は、本当に衝撃が走りました。これは本当のことなんだ、ロディ・パイパー本人が自分の作品に出演するために来てくれたんだと。夢が叶った瞬間でした。
これ以上ないくらいの幸福を感じたのですが、さらに素敵なことが起きました。ロディがWWE殿堂の指輪をはめていることに気づいたので、それを彼に伝えたら、指輪をはずして「はめてみるかい?」と言ってくれたんです。
お言葉に甘えて指輪をはめさせてもらった時は、世界中で自分が一番ラッキーな人間だと思いました。子供の頃に戻ったかのような気分で、本当に嬉しかったです。
マット・ワッツ(以下、ワッツ):撮影初日にロディがトロントに到着した時、私が運転してホテルまで送りました。道中、彼の泊まるホテルの場所がわからなくて(自分が住んでいる町のホテルの場所なんてわからないですよ......)、迷子になってしまったんです。
何度も何度も彼に謝罪しながら、一時間くらい話をしたんですが、ロディは一度も文句を言わず、本当に優しい人で、ドライブ中の静かな時間を楽しんでいるようでした。
彼はこの上なく「本物」のナイスガイで、一対一で話す時間が持てたのは本当にラッキーだったと思います。
スティーヴン・コスタンスキ(以下、コスタンスキ):あるテイクで、ロディの首にまとわりつく触手を私が操作している時、彼が何も言わずに触手と闘い始めたんです。
ロディは私を地面から持ち上げることに成功し、振り回し始めたので、私はフレームの中に入らないように彼の背中に必死にしがみつきました。あまりにも勢いよく振り回すので、最終的にロディもバランスを崩して、私の上に落ちたんです。
自分はロディ・パイパーとちょっとしたレスリングをしたんじゃないかな? と思いました(笑)。
――ロディ・パイパーの演技、人間的魅力のどういった点が特別でしょうか?
カルディネッリ:ロディには素晴らしいカリスマとウィットがあります。彼のペルソナはとにかく個性的で、人生よりも大きいものです。
ロディは純粋なエンターテイナーなので、WWEから映画への転向もシームレスだったと感じます。でも、今回の作品ではロディには「パイパー」とは反対のペルソナとして、「ジャック」を演じてほしいと思いました。
ジャックは心の折れた、こき使われることに疲れた、ひとときの平和を求めている男ですが、撮影が始まってすぐに、ジャックと1人の人間としてのロディに共通点があると感じました。正直なところを言うと、本作でロディは実際の彼自身を見せているだけです。実人生でのロディは平和を望んでいました。
彼はあまりにも長い時間を旅と観客を楽しませることに使っていたので、自分自身に時間を使ったことがほとんどないんだと思います。ロディはファンのために疲れることを忘れ、彼らを楽しませることだけに身を捧げてきました。尽きることのないファンへの愛情が、彼を動かしていたんだと思います。
私たちはそういった印象を持っていて、ジャックはロディのように疲れた男です。
ワッツ:ロディの荒々しい外見の下には、本物の親切さと優しさがありました。あまり人に見せることはなかったと思いますが、それは本当に温かったです。
彼はしっかりと仕事をこなしますが、それは難しいことではなかったと思います。なぜなら、彼は生まれながらの役者だからです。
コスタンスキ:ロディは控えめで、話しやすい人ですが、カメラの前に立つとゾーンに入って、キャラクターに入り込みます。一緒にいてすごく楽しい人でしたし、スライムまみれの触手をまとわりつかせても文句1つ言いませんでした。
――元々プロレスファンなのでしょうか? そしてプロレスラーとしてのロディ・パイパーはお好きだったのでしょうか?
カルディネッリ:十代の後半に見なくなってしまいましたが、それまでは大のプロレスファンでした。そして、"ラウディ"ロディ・パイパーのことが大好きでした。彼はショービジネス史上最高の悪役でしょう。誰もが、彼を憎むことが好きなんです。
ワッツ:80年代のWWE(当時はWWF)を見て育って、中でもロディ・パイパーのことが一番好きでした。私が初めて観たジョン・カーペンター監督の映画は『ゼイリブ』ですが、それもロディ・パイパーが出演していたからという理由だけで劇場へ行ったんです。
I'm devastated by the passing of my friend Roddy Piper. Great wrestler, underrated actor, dear friend. Rest in peace, Rod.
— John Carpenter (@TheHorrorMaster) 2015, 7月 31
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ジョン・カーペンター監督の追悼ツイート"友人ロディの他界に途方に暮れている。
偉大なレスラー、過小評価された俳優、親愛なる友。ロッド、安らかに眠れ"
――1980年代のジャンル映画、そしてクトゥルフのどういったところがお好きなのでしょうか?
カルディネッリ:80年代のジャンル映画は、特にホラーとコメディの混ざった作品の持つ、ご機嫌なアナーキーさが好きですね。完璧な組み合わせだと思います。
ワッツ:80年代の映画は楽しかったですよね。『グーニーズ』や『グレムリン』といった作品は観客を怖がらせる、そして笑わせることに集中した、シンプルで小さな物語でした。純粋かつ単純だったんです。
クトゥルフは、圧倒的な謎を象徴する素晴らしい怪物です。ラヴクラフトのコズミック・ホラーの要素、クトゥルフなものを見るだけで人はおかしくなってしまうというアイデア......最高としか言いようがないでしょう?
――クトゥルフの影響が強い映画の中で一番好きなものはなんでしょうか?
カルディネッリ:1本に絞るのであれば、フィルムメイキングが見事かつラヴクラフトの物語に忠実な『The Call of Cthulhu』(2005年・日本未公開)です。『クトゥルフの呼び声』を伝えるには、完璧な時期に製作された作品だと思います。
そして、イメージとモノクロの映像がとにかく素晴らしいです。ラヴクラフトのファンは絶対に見た方がいいと思います。
ワッツ:ジョン・カーペンター監督は、ラヴクラフトへの愛を多くの作品に込めています。『遊星からの物体X』、『パラダイム』、『マウス・オブ・マッドネス』などがそうですが、どの映画も最高です。
コスタンスキ:『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』が原作となっている、ダン・オバノンの『ヘルハザード 禁断の黙示録』ですかね。映画化されているラヴクラフトの作品ではベストだと思います。
今見ると少し古くは感じますが、クレイジーなクリーチャーが多数登場しますし、ラヴクラフト作品の終末論的なトーンを見事にとらえている映画です。
クトゥルフを呼ぶ男たち(2人ともマントの下はブリーフ)
――『Portal to Hell!!!』からは、なるべくCGを使わずに特殊撮影で作ろうといった意識が感じられますが、クリーチャーやゴア描写は可能な限り特殊撮影で作ったほうが良いとお考えでしょうか?
カルディネッリ:個人的にはそう思っています。セット上で実体のあるモンスターに対してリアクションをとること、そして実体のあるモンスターが動くということが重要だと感じているからです。
莫大な予算のかかったCGでないと実現が難しい、本物っぽさや命が特殊撮影では表現できます。後、出来の悪い特殊効果よりも、出来の悪いCGのエフェクトのほうが目立つとも思います。
ワッツ:可能な限り特殊撮影で作り、デジタルで効果を増大させるのがベストだと思います。
コスタンスキ:どういう効果を得ようとしているか? に尽きます。CGIと特殊撮影を結合が、最も色んなケースに対応できるんじゃないですかね。
――80~90年代のCGIのほうが現代のものよりも感情移入ができたという意見があり、論争にもなりましたが、お三方はどのようにお考えでしょうか?
カルディネッリ:特殊撮影とCGIの上手い折衷案があると思います。今回の『Portal to Hell!!!』でもクトゥルフは特殊撮影ですが、瞬きする目の部分はCGです。CGに頼りすぎないことが鍵なのではないでしょうか。
コスタンスキ:80~90年代のCGIのほうが現代のCGIよりもリアルということはないと思います。『スター・ファイター』や『ロボコップ2』などを思い返すと、CGIに説得力があったとは言いがたいです。
ただ、現代の映画はCGIに頼りすぎているために全体のクオリティーが下がるという状況に度々陥っているように感じます。CGIはきちんと扱えば、何よりも素晴らしいツールです。
例えば、デビッド・フィンチャー監督の映画は大量のCGIが使われていますが、観客のほとんどはそのことに気づきません。
現代において、CGIで作品がダメになっていると言われる場合、それはCGIのせいではなく、怠惰なフィルムメーカーたちがCGIの使い方をわかっていないだけだと思います。
――『Portal to Hell!!!』のようなテイストの映画をもっと観たいという現代の観客は多いように感じます。個人的にはロディ・パイパーから公式にニックネームの使用許可をもらった、"ラウディ"ロンダ・ラウジー主演で『ゼイリブ』のリメイクを作ってほしいと思っているのですが、いかがでしょうか?
カルディネッリ:最高のアイデアです! もしかしたら実現するかもしれないですよ? そして、私たちが作ることになるかもしれません(笑)。
ワッツ:ロンダ・ラウジーは素晴らしいですよね。彼女とは是非仕事がしてみたいので、もし彼女がこれを読んでいたら、話をしましょう(笑)。
コスタンスキ:個人的には懐古的な、いかれたジャンル映画に少し飽きました。特定の年代の映画から影響を受けるのは悪くないことですが、安っぽい映画を作る言い訳にするのは良くありません。
フィルムメーカーは、ただ良い映画を作ればいいんです。80年代のカルト映画を思い起こさせるには、脚本やキャラクターなどの基礎が二流じゃなければいけないにしても、です。
とはいえ、あなたが今話を聞いているのは『マンボーグ』や『バイオ・コップ』を作った人間なので、わかるわけがないでしょう?(笑)
rondarouseyさん(@rondarousey)が投稿した写真 - 2015 7月 31 6:07午後 PDT
---------------------------------------"ラウディ"ロンダ・ラウジーの追悼コメント
"名前をありがとう。他にもたくさんのことをありがとう。
明日は全力で、あなたが誇れる闘いをする。この試合はあなた、ロディに捧げるものよ。"
(試合は34秒でKO勝ち)
『Portal To Hell!!!』は現在のところトロント国際映画祭で公開されたのみで、日本での公開予定などはありませんが、何らかの形で世界中のファンが観られるようになることを祈りましょう。
『Portal To Hell!!!』ティーザー
WWE制作のロディ・パイパー追悼映像
RIP "Rowdy" Roddy Piper.
Portal to Hell!!![TIFF.net]
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Portal To Hell!!! - Official Trailer - Rowdy Roddy Piper Vs. Cthulhu (2015) HD[YouTube](スタナー松井)
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