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むしマガ Vol.379号 2017/3/31【「クマムシ固有タンパク質が乾燥耐性を向上させる」という論文(その2)】
2017-03-31 22:14220ptこんばんは。もうすぐお花見の季節ですね。3月最後のむしマガをお送りします。 先週は、鶴岡の慶應大学先端生命研究所でアストロバイオロジー合宿に講師として参加してきました。講師陣が講義をした後、高校生から大学院生までの参加者がグループに分かれ、新しいアストロバイオロジーの研究テーマを作り出すワークショップがあり、合宿の最終日に各グループがプレゼンを行います。 どのグループのアイディアもレベルが高かったのですが、とりわけ面白かったのが、複数の惑星探査を同時に行うことを提案したあるグループ。プレゼンで小惑星探査機「はやぶさ」ミッションについて、「ただの石ころを百数十億円もかけて探査している」とこき下ろしていました。 これだけでもなかなか威勢がよいのですが、このときの講師席の最前列に座っていたのは、「はやぶさ」ミッションの主要メンバーの一人であるJAXAの矢野創さんでした。はやぶさへのメッセージ:矢野創 矢野さんがいることを知った上での、このプレゼン。矢野さんも他の講師もみな苦笑していましたが、発表内容はきわめて優秀だったので、このグループが最優秀賞を獲得。なかなかほっこりとした会になりました。 科学研究政策については全体的に暗いニュースが多いですが、今回の合宿に集まった若者たちを見ていると、なかなか素敵な未来になるのではないかと、期待させてくれました。・クラウドファンディングのリターンにクマムシ飼育観察キット おかげさまで盛況のクマムシ研究クラウドファンディングですが、ついに2名限定30万円のお食事参加権を購入した方が現れました。これで、高井研氏の召喚も実現されることになります。このお食事会には他にも2人のスペシャルゲスト(クマムシ系と骨系)が新たに参加予定。 残る枠はあとひとつなので、もしも我こそはという奇特な方がいらっしゃいましたら、早めの購入をおすすめします。 そして第二目標に向けて、新規のリターンプログラムを追加することにしました。このリターンはずばり『リアルクマムシ飼育観察キット』。 僕が育てているヨコヅナクマムシを乾眠状態でご自宅にお届けしちゃいます。クマムシのごはんの生クロレラも、6か月間にわたり毎月郵送。しかも、実体顕微鏡つき。 乾眠クマムシを含む飼育キットは世界的に見ても、なかなか活気的な試みです。本リターンは5名限定で購入できます。こちらは4月1日の夕方からacademistのサイトにて購入可能になりますので、よろしくお願いします。 それでは前号での予告通り、今号はクマムシ固有タンパク質論文についての続編をお送りします。★むしコラム「「クマムシ固有タンパク質が乾燥耐性を向上させる」という論文について(その2)」 ドゥジャルダンヤマクマムシがもつクマムシ固有タンパク質、CAHSタンパク質とSAHSタンパク質。これらのタンパク質合成をコードする遺伝子のうちいくつかは、ドゥジャルダンヤマクマムシの乾燥耐性に関わっていることが、アメリカ・ノースカロライナ大学の研究グループによる研究結果から示唆された。これが、前号で書いた内容である。・CAHSタンパク質遺伝子が他生物の乾燥耐性を向上させた 彼らの研究論文には、さらに驚く結果が示されていた。ドゥジャルダンヤマクマムシのCAHSタンパク質遺伝子のうちのいくつかは、大腸菌や酵母に入れてやると、乾燥耐性が格段に向上したというのである。 大腸菌は原核生物で、酵母は真核生物。どちらも単細胞生物だが、動物であるクマムシに固有の遺伝子を入れることで、系統が離れた他の生物の乾燥耐性を高めているわけだ。クマムシの遺伝子が他の生物の乾燥耐性能力を強化した報告はこの研究が初めてであり、画期的な発見といえる。 これだけではない。研究グループは遺伝子工学技術により、大腸菌にCAHSタンパク質を作らせて精製した。乾燥すると失活してしまう乳酸脱水素酵素(LDH)とCAHSタンパク質を混ぜてから乾燥させると、失活を防ぐことも分かった。CAHSタンパク質が酵素の乾燥保存剤として働いた、というわけだ。CAHSタンパク質の保護効果は、保護剤として知られるトレハロースよりも高いことも示された。・CAHSタンパク質とガラス状態 さて、なぜクマムシやその他の乾眠生物は、乾燥しても細胞が守られるのだろうか。現在、これを説明する最も有力な仮説は、乾眠している生物は「ガラス状態」にあるから、というものである。 ガラス状態とは、水飴が冷えたときに固まった、あのような状態だ。ある種の物質は、低温や乾燥でこのガラス状態になる。ある物体がガラス状態になることを「ガラス化」という。 厳密には、ガラス状態は固体ではない。ガラス状態の定義の説明はここでは省くので、気になる方は参考資料をチェックいただきたい。乾眠している生物の細胞や生体物質の構造は、このガラス状態によってうまく保存されていると考えられている。 今回、研究グループは、CAHSタンパク質がクマムシや酵母や大腸菌をガラス状態にすることで、乾燥耐性を付与していると考えた。そこで、示差走査熱量測定法(DSC法)により、乾燥したCAHSタンパク質そのものがガラス状態を作っているかを測定したところ、やはりガラス状態になっていたと結論づけた。 さらに、ゆっくりと乾燥させることでCAHSタンパク質遺伝子がじゅうぶんに発現したドゥジャルダンヤマクマムシも、ガラス状態になっていたことを示している。これとは逆に、CAHSタンパク質遺伝子があまり発現していないドゥジャルダンヤマクマムシは、乾燥してもガラス状態にはなっていなかった。 CAHSタンパク質遺伝子を導入した酵母と大腸菌も、やはり乾燥するとガラス状態になっていた。これにより、CAHSタンパク質は乾燥した細胞をガラス状態に保つことによって構造を維持し、生命の存続を可能にしていることが強く示されたのである。・「データの妥当性」と「文章の誠実さ」に問題 今回の研究結果は、クマムシ学においても乾燥生物学においても、エポックメイキングなブレイクスルーともいえるセクシーなものだ。だがしかし、注意深く論文を読んでみると、おかしなところがけっこうある。大きく、「データの妥当性」と「文章の誠実さ」に問題が見られるのだ。 -
むしマガ Vol.378号 2017/3/26【「クマムシ固有タンパク質が乾燥耐性を向上させる」という論文について(その1)】
2017-03-26 11:51220ptこんばんは。本日から、山形鶴岡の慶應大先端生命研究所で学生向けのアストロバイオロジー合宿の講師として参加しています。昨年に引き続き2回目。全国の高校生から大学院生までの学生が70人近くも集まりました。
クマムシを知っているか質問したところ、聴衆の学生さんのほとんどが知っていました。さらに、嬉しいことに、クマムシ博士も大部分の学生さんが知っていた。アストロバイオロジーとクマムシは、日本では相性がよいらしい。
僕が大学院生の頃、「アストロバイオロジーをやりたい」と言うと、周囲の研究者からトンデモ扱いされることがほとんどでした。ここ10年で、本当に日本も変わったものです。講師陣も豪華。
慶應アストロバイオロジーキャンプ2017
それにしても、キーノートレクチャーの高井氏の「ワシのすべてをオマエに教えてやる。ジョー!」というタイトル、元ネタがわかる10代や20代は皆無でしょうね・・・。
・世界でクマムシ
ここ最近、またクマムシが世界を賑わせています。Twitterで「Tardigrades(クマムシ)」と検索すると、ものすごい数の人々がクマムシのことをつぶやいている。
Twitterで「Tardigrades」を検索
そのきっかけは、アメリカ・ノースカロライナ大学の研究グループから出た1本の研究論文。むしマガでは、今号と次号にわたり、いろんな意味で重要なこの論文についての解説をしていきます。
言い訳になってしまいますが、ちょっとメルマガ発行が遅れていたのも、この論文とその周辺情報を調査・整理していたためでした。あと、最後には大事なお知らせもあります。ということで、以下にお送りします。
★むしコラム「「クマムシ固有タンパク質が乾燥耐性を向上させる」という論文について(その1)」
超低温、超真空、超高圧。これらのエクストリームな環境に耐える、地上最強生物生物、クマムシ。クマムシは、乾燥した仮死状態で、これらの極限環境に耐えられる。
この乾燥した仮死状態は、乾眠とよばれる。クマムシは他の生物と同様に、体に水分がなければ、活動することはできない。
だが、ひとつ、クマムシが他の大多数の生物と異なるところがある。
我々のような生きものは、体内の水分を一定量以上失うと、死んでしまう。ミイラのようにカラカラになってしまえば、細胞は壊れ、もう一度水をかけたところで、生き返ることはない。
だが、クマムシは違う。陸上に生息するクマムシは、体内の水分を極限まで失っても、細胞が壊れることはない。カラカラに干からびた乾眠状態のクマムシの中で、細胞の構造はしっかりと守られている。
乾眠状態では、クマムシの体内に水がないため、いっさいの生命活動はみられない。だが、乾眠クマムシにひとたび水をかければ、驚くことに10分ほど復活する。クマムシは動物なので、神経も筋肉もある。これらの組織が乾燥しても、機能を失うことなく復活するわけである。生命の消失と再生。クマムシという生きものが見せる、もっとも魅力的な現象だ。
・クマムシ固有のタンパク質
クマムシには、乾燥しても細胞が壊れることなく守られる秘密があるはず。もしかすると、クマムシには特殊な物質をもっており、これが細胞を乾燥ストレスから保護しているのではないかと考えられた。
そして2012年、東大・國枝さんの研究グループが中心となり、ヨコヅナクマムシからクマムシ固有のタンパク質を発見した。それが、
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