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  • 岡田斗司夫プレミアムブロマガ「明治時代に大流行したデタラメ小説のすごい世界」

    2019-12-21 07:00  
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    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/12/21
     今日は、2019/12/01配信の岡田斗司夫ゼミ「明治娯楽物語」から無料記事全文をお届けします。
     岡田斗司夫ゼミ・プレミアムでは、毎週火曜は夜7時から「アニメ・マンガ夜話」生放送+講義動画を配信します。毎週日曜は夜7時から「岡田斗司夫ゼミ」を生放送。ゼミ後の放課後雑談は「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」のみの配信になります。またプレミアム会員は、限定放送を含むニコ生ゼミの動画およびテキスト、Webコラムやインタビュー記事、過去のイベント動画などのコンテンツをアーカイブサイトで自由にご覧いただけます。  サイトにアクセスするためのパスワードは、メール末尾に記載しています。(※ご注意:アーカイブサイトにアクセスするためには、この「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」、「岡田斗司夫の個人教授」、DMMオンラインサロン「岡田斗司夫ゼミ室」のいずれかの会員である必要があります。チャンネルに入会せずに過去のメルマガを単品購入されてもアーカイブサイトはご利用いただけませんのでご注意ください)
    クリスマスツリーのオーナメントについて
    【画像】スタジオから こんばんは、岡田斗司夫ゼミです。  今日は12月1日。ついに12月ですね。メチャクチャ寒くなって、このスタジオも1時間以上前からエアコンを入れてるんだけど、寒くて寒くてしょうがないですね。  ということで、クリスマス。 (クリスマスツリーを指して)
    【画像】クリスマスツリー そうなんですよね。一応、クリスマスツリーを用意して『チキチキマシン猛レース』とか、アメリカのAmazonで売ってたいろんなクリスマスオーナメントを飾ってみました。  バットサイクルとか、そういう飾りが吊り下がっていて。ちょっと皆さんの影では見えにくいところにはテッドとか『スター・トレック』のエンタープライズ号とか、いろんなものが吊ってあるんですけど。
    【画像】透明飛行機 一番上の飛行機みたいなものは、テレビ版『ワンダー・ウーマン』に昔、出てきた透明飛行機という、ちょっとマニアックなものですね。何回か前に「アメリカのAmazonで買い物するのはいいよ」という話の中で紹介したものを、いろいろ飾ってみました。  こんな感じで、今年はクリスマス期間はツリーをここに飾っておこうと思います。もちろん、これはスタジオに飾る用であって、自宅の方にはクリスマスツリーなんて1本もありませんよ(笑)。  そんな余裕はないというか、今はもう、本当に、本でグチャグチャになっているんですけど。そんな感じであります。  じゃあ、早速いきましょうか。
    「バンカラ」と「ハイカラ」の関係
    【画像】スタジオから 今日は、ここに出しているんですけど。 (パネルを見せる)
    【画像】『僕!!男塾』表紙 ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社 『僕!!男塾』(やつがれおとこじゅく)というマンガがあって、これ、最近の僕のお気に入りなんですよね。  「僕」って漢字1文字で「やつがれ」と読むんですけどね。「魁」で「さきがけ」と読むのと同じで、漢字1文字をどう読むかというやつなんですけど。  一番最初の『魁!!男塾』というマンガは、ご存知の方もいると思うんですけど、今やすでに『男塾』というのは、マンガの1ジャンルになっちゃってるんですね。  例えば、塾長の江田島平八を主人公にしたマンガとか、あとは伊達臣人が主人公……伊達臣人というところが渋いですよね。他にも、明石剛次が主人公のスピンオフもありますし、大豪院邪鬼が主役というのも、この間、出ました。  あとは『紅!!女塾』という、「ウィルスか何かの作用で、人類の男が全員、軟弱になったので、男塾の伝統を受け継ぐのは女しかいない!」というのもあるそうです。なんかね、この『女塾』はやたらと巻数を伸ばしているんですよ。別にあんまり面白いと思わないんですけど。まあ、そういう女子校モノもあります。  ただ、この『僕!!男塾』というのは、そういう男塾ジャンルのマンガとは違うんですね。
     まず、主人公として、売れないマンガ家の宮川というのがいるんですけど。その宮川の部屋に、いきなりドカーンと壁を破って男塾のヤツらが入ってくるわけですね。 (パネルを見せる)
    【画像】壁を破る ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社 いわゆる男塾名物の「直進行軍」でガーンと入って来て、壁に穴が開いてしまった。  で、その穴の中にげんこつという愛犬が入ってしまう。すると、この犬が壁を超えた瞬間に、リアルな劇画タッチになってしまうんですね。 (パネルを見せる)
    【画像】劇画になるげんこつ ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社 「こうなったらもうヤケクソだ!」と言って、主人公の宮川も、犬を助けるために、この壁の穴を抜けるんですけど、その瞬間に、やっぱりリアルな絵になってしまうんですね。 (パネルを見せる)
    【画像】追いかける宮川 ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社 これでわかった通り、「ここは!?」ということで穴を抜けたら、もちろん、そこは男塾なわけですよ。  「まさか、あの壁の穴で男塾と繋がってしまったのか!?」ということで、普通のヘロヘロの絵のマンガ家が男塾に行ってしまうという話です。  これがどんな話なのかと言うと。これが典型的な1話ですね。 (パネルを見せる)
    【画像】落ちる田沢と松尾 ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社 まず、「うわーっ」と言って2人が崖から落ちてしまいます。宮川は「田沢君とその友達ー!」と叫ぶんですけど、もう彼は松尾の名前を覚えてないわけですね(笑)。  他の男塾塾生のみんなは「な、なぜこんなことに……!?」って言うんですけど。そこで宮川は1人「いや、こんなことしてるからでしょ」って思ってるわけですよね。 (パネルを見せる)
    【画像】歌うみんな ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社 すると、見守っていた塾生達が歌い出します。「日本男児の生き様は 色無し恋無し情け有り 男の道をひたすらに 歩みて明日を魁る」と。まあ、有名な男塾の塾歌なんですけども、それをいきなり歌い始めるわけですよ。  でも、新入りの主人公はこの歌が歌えないわけですね。「嗚呼男塾 男意気 己の道を魁よ」とみんなが歌っている時に「うわっ! みんな歌い始めた! 俺も歌いたいけど、歌詞がわからねえんだよな」と。  そうしていると、「あれ? 変だな。さっきから背中に視線を感じるぞ」と宮川は思います。  振り返ると、空中に例の田沢と松尾の顔が浮かんでいるんですよ。男塾ではよくあるパターン。青空に死んだ2人の顔が浮かんでるわけですね(笑)。  で、この顔が、ずーっと見えているんですよ。「わりと長い間見えるんだな、幻影って…」というふうなことで、これが長いこと見えている。  その後、宮川は寮に帰って、「ああ、変なところだった」と部屋で寝転んでいます。夜中、外へ出て、ふと気配を感じたので空を見ると、夜空にまだ浮かんでいるわけ、この幻影が。  「うわあ、もう10時間以上も経ってるよ! 流石に怖いな。家に帰って嫁に見せよう」ということで、スマホで写真を撮ります。  すると、スマホには映ってないんですよ。「写真には映らないんだ!?」と。  こういう外し方が、男塾マンガとしてはすごく新しいなと思うんですけど。
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     なぜ、僕が今日、これを見せたのかと言うと。  こういうキャラをバンカラと呼ぶのはご存知でしょうか?  もうね、知ってる人も段々少なくなって来て。まあまあ、50代くらいの人はわかるだろうけど、もう40代の人はそろそろわからないかもしれない。こういうキャラのことを「バンカラ」と言うんです。  バンカラというのはどういうものかと言うと。 (パネルを見せる)
    【画像】『昭和バンカラ派』 これは司敬の『昭和バンカラ派』という、昭和時代のマンガなんですね。この主人公みたいなのがバンカラなんですよ。  帽子がボロボロ、服もボロボロで、ズボンがハイウエストのところでベルトで止めていて、足はなぜか下駄を履いている。  これ、実は全てルールとして決まっていて、ある種の様式なんですね。破れた帽子のことを「破帽」と呼びます。このボロボロの服のことは「弊衣」と言います。で、「高下駄」「ハイウエスト」なんですけど。  このバンカラをテーマにしたのが今日のテキストです。  長いタイトルですね。山下泰平『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』(柏書房、2019年)。これが今日のテキストです。 (本を見せる)
    【画像】『舞ボコ』表紙『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』
     このバンカラというのは何か? これは服のことだけではないんですよ。  バンカラというのは、ウィキペディアの定義によるとこのようになっています。

    バンカラ(蛮殻、蛮カラ)とは、ハイカラ(西洋風の身なりや生活様式)をもじった語である。 明治期に、粗野や野蛮をハイカラに対するアンチテーゼとして創出されたもの。

     つまり、バンカラの前には「ハイカラ」という言葉があって、その後に「ハイカラなのは、けしからん!」ということで出てきたのがバンカラという用語なんですよ。  では、ハイカラとはそもそも何か? 『はいからさんが通る』とかで聞いたことがあるかもわからないんですけど。  ハイカラとは何かというと、明治30年代くらいから流行った言葉で、元は「ハイカラー」、つまり、シャツの襟が高いことなんですよ。  和服の襟ってペタンと寝てるじゃないですか。それに対して、当時の洋服の襟、男性のシャツというのは、今のシャツのように折った襟ではなく、すごい立てた襟だったんですね。  そのもっと前の『ベルサイユのばら』とかの時代には、男性がブラウスを着ていたんですけど。僕らが着ているシャツの袖カラーというのは、そのベルサイユ時代のドレスが様式化され簡略化したものなんですね。  昔は袖も襟もレースでワサワサになってたんですよ。でも、全てのブラウスにそんな物がついていたら洗濯が大変なので、襟と袖の部分だけを取り外せるようになっていったんですね。ワサワサの部分だけを取り替えて、アイロンを掛けたりして、昔は白くてピカピカのシャツを着てたわけです。  日本に洋服が入って来た頃は、このブラウスみたいな「服とカラーが別になっている時代」から、徐々に「シャツに直接、襟とか袖が付いている時代」になってきていて、この襟を上にピンと上げて、顎の辺まで立てたようなな、高いカラー、ハイカラーの服になっていたんですね。  なので、そういう服を着て西洋風を気取っている人のことを「ハイカラ」と言ったわけです。  まあ、当時、そんな最新流行のハイカラーなんかを着る人は……だって、明治時代ですよ? 明治時代って、まだみんな和服を着ているわけですよ? そんな時代に洋服を着るような人は、間違いなく西洋かぶれなわけです。  だから、昭和から平成までは「ハイカラ」と言うと「オシャレな人」的な意味合いで使われることが多かったんですけど、明治時代の当時は「嫌なヤツ」とか「イヤミな人」というような意味もあったそうです。これについては、もっと後で解説します。  そんな「ちょっと嫌なヤツ」であるハイカラの逆が、バンカラなんですよ。  野蛮の「バン」に「カラ」は、もうすでに意味がないんですよ。なぜ「カラ」なのかって、カラには意味がないんです。  フジテレビのアナウンサーに、昔、千野さんという人がいて「チノパン」と呼ばれて人気でしたけど。その後に出てきた女子アナも、みんな「ますパン」とか「あやパン」とか、全部にパンがついてましたよね? そうなってくると、「パン」には何の意味もないですよね?  それと同じで、なんとなくついているのが「カラ」です。
    戦前から戦後、現代へのバンカラの歴史
    【画像】スタジオから 『バンカラの時代』という本があって。これ、日本画の話なんですけども。 (本を見せる 佐藤志乃『バンカラの時代ー大観、未醒らと日本画成立の背景』人文書院、2018年)
    【画像】『バンカラの時代』表紙 「ハイカラ(高襟)VSバンカラ(蛮襟)仁義なき戦い!」と本の帯に書いてあります。  日本画の世界には、岡倉天心の言葉として「芸術は気魄の発露である」というのがあるんですよね。実は、明治時代の画家というのは、思想家でなければならなかったし、あとは国士、国を憂えて絵を描くのが仕事だったんですよ。その上、徒労を組んで、かなり無茶な旅とかをしてたんです。  この本は「明治という時代は、西洋文化に心酔するハイカラと、自らのナショナリティを重視するバンカラの軋轢であった!」として、そんな時代を紹介した本なんですけど。  では、具体的にどんな内容かと言うと。Amazonのカスタマーレビューに、簡単にまとめられていたので、読んでみます。

    アジア諸国は次々と西洋に侵略され植民地となり、独立を保持する為には日本は西洋に対して戦いを挑まなければならなかった。 その戦いは、単に物質文明の領域に於ける戦いだけではなく、文化、芸術、伝統等、精神文明の領域に於ても、西洋に対し日本文明の独自性対等性を示す必要があった。 よってこの時代の画家たちの、覚悟や気概は破格で、以後の個人趣味的な絵の時代の画家とは全く違っていて、ほぼ烈士、国士の様を呈している。

     要するに「みんな『竜馬がゆく』の坂本龍馬みたいな気持ちで絵を描いてた」というんですね。  絵を描く目的は「国家のため」という、ものすごい時代なので、今の常識では判断できないんですよ。  この本によりますと、ハイカラとバンカラの対立というのも、さっき僕が言った「ハイカラのオシャレなヤツが気に食わない! だから、バンカラだ!」というのは、まあ後になって出てきた定義で、最初の頃は「日本を開国する時の岩倉具視と西郷隆盛の対立から始まる」と書いてあるんですよ。  開国論者で「西洋に早く追いつこう!」と言う岩倉具視派がハイカラ派で、西郷隆盛がバンカラ派だ、と。言われてみれば、確かにそうなんですよ。  これが尾を引いて、後に鹿鳴館事件が起こります。  鹿鳴館というのは、まあ、中学の歴史で習う通り、明治時代に、西洋のモノマネ丸出しの、宮殿みたいな、お城みたいなダンスホールを作って、そこに毎晩毎晩、男も女も似合わないドレス姿で現れては、必死にダンスを踊った。  これに対して悪口を言っているのは何も現代の僕らだけじゃなく、明治時代の頃から、新聞から講談師までがみんな悪口を言ってたんですよ。「何だよ、あんなみっともない、全然似合わない服を着やがって!」って。これがハイカラをバカにする元にもなったんですけど。  しかし、これは実は、不平等条約改正のためであったんですね。  明治政府から不平等条約の改正を求められたイギリスの代表は「いや、不平等と言っても、そもそもあなた達の国は野蛮であって、文明国でないでしょ?」と切り返したんですね。  「なぜかと言うと、我々文明国は、大臣とか偉い人の奥さんやお嬢さんが、ちゃんと公式の場に出て来ます。それは、我が国が安全だからです。でも、あなた達の国の奥様やお嬢様は、全く公式の場に出てこないじゃないですか。つまり、これは安全でないということです。我が国の国民が、そんなあなたの国に往来した時に、あなたの国の警察や司法、裁判所に任せられるはずがない。だって、危ないでしょう?」というふうに言われたわけですね。  なので、「日本は危なくありません。我が国の奥様やお嬢様達もちゃんとこういう所に来て踊っております」というのを見せないと、イギリスが不平等条約を改正してくれなかったという理由があったんです。「イギリスが一番頑なで苦しかった」と、後に当時の外務省の人が語っているんですけど、こういう状況だったんですね。  しかし、そんな事情は、戦後の教育でわかってきたのであって、戦前の日本人、国民は、全くそんな都合を知らずに、一斉に「鹿鳴館はけしからん! ハイカラはけしからん! 西洋かぶれはけしからん!」ということで、みんな本当にプンスカ怒ってたわけですね。  これが、アンチハイカラブームであり、そんなバンカラブームが、明治の中頃、だいたい明治の30年代くらいから起こりました。
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     戦前のバンカラってね、資料があんまり残ってないんですよね。バンカラの人達は写真とかを撮られるの嫌いだったのかもわからないんですけど。  そんな数少ない戦前のバンカラの写真というのが、この辺の写真なんですけど。 (パネルを見せる)
    【画像】戦前のバンカラ 服がボロボロなのはなぜかと言うと、生地や仕立てが安いので、とにかくすぐに服がボロボロになったんですよ。「しかし、それでも構わない」と。「思想を貫くためには、見た目は気にしないのだ!」というのが戦前のバンカラです。  一方、僕らがよく見るバンカラが、これ。 (パネルを見せる)
    【画像】戦後のバンカラ これは、戦後の拓殖大学のバンカラの皆さんなんですけど。これが、僕らがよく知っているバンカラというやつですね。これが戦後のバンカラなんですよ。  戦前のバンカラと戦後のバンカラというのは何が違うのかと言うと、さっきも言ったように、戦前のバンカラは「本当に布が安っぽくてすぐにボロボロになった」んですけど、戦後のバンカラというのは、服の仕立てがいいんですよ。なので「みんな帽子や服を自分で破って、靴の方が安いのに、わざわざ高い下駄を履いて、バンカラを気取っている」わけですね。  つまり、戦後のバンカラっていうのは、すでにファッションの再生産になってたんですね。  それが、昭和40年代になると、『男一匹ガキ大将』とか『昭和バンカラ派』というマンガになってくる。  と言っても、まだこの時代は大真面目で、このボロボロの服というのを本気で「カッコいい」と思って描いているんです。  マンガの中でバンカラたちは「あんた、古臭いわね」と言われるんですけど。この「古臭いわね」というのは「拓殖大学のバンカラの写真のような、戦後すぐの時代というのを思い出させる古臭いものだ」とやっているわけです。  しかし、それがこの『男塾』になってくると、もうすでに笑われる対象になってくるわけですね。「時代錯誤だ」「変だ」ということで、笑われるようになってくるんです。  そして、現代では、そろそろ『男塾』すらも通用しなくなって来て、バンカラという概念は消えて行ってしまっている。バンカラという言葉自体が通用しなくなっているわけです。  おかげで「バンカラみたいなものを、バンカラと知らずに笑う」ということは出来るんですけど、「バンカラなヤツをカッコいい存在として出す」というのは、もう無理になってきちゃってるんですよね。  バンカラを主人公にしたアニメとかマンガは、パロディしか話題にならない、と。  それと同じく、おそらく、50年後か100年後くらいになってくると、こういう事態になっていると思いますよ。  今から50年後か100年後になってくると、例えば「ゲームばっかりやっている平凡な中学生とか高校生が、いきなり事故で死んだと思ったら、異世界に転生してて、そこには美少女の魔法戦士が~」みたいなアニメってあるじゃないですか。  ところが、これって「バンカラ VS ハイカラの対立で、あの服が生まれた」というのと同じように、いまの僕らの身近にあるラノベとかマンガとか、いろんな状況のお約束の上に成立しているんですね。  50年後の人たちが、そういうお約束を知らずに、いきなり異世界転生モノを読んだら、「これは、何かの宗教的な儀式を表しているのではないか?」とか「当時の日本人は、来世では中世ヨーロッパに生まれ変わり幸せになれるという宗教が流行ってたんだな」というような想像しか、おそらく出来ないと思うんですよね。  もっと時代が下った千年後くらいの人類とか、あとは人類の遺跡を研究している宇宙人から見たら、僕らの今のラノベ的な世界というのは、完全に狂ってるわけですよね。なので「宗教的な目的で作られた物語」としか解釈されないんですよ。  例えば「亡き父が作ったロボット」というモチーフが、遺跡のあちこちから見つかるわけですね。これもお父さんが作ったロボット。あれもお父さんが作ったロボット。これはおじいちゃんが作ったロボットって。  「なんか、20世紀の後半から21世紀の頭くらいに、やたらとお父さんやおじいちゃんがロボットを作るという物語が流行っているんだけど。たぶん、この国に平和をもたらそうとして、鎌倉時代に大仏を作ったように、昭和・平成・令和と呼ばれる時代には、巨大ロボットを作ることが国家安定のためだったんだな」という解釈がされるはずです。  あとは、少女マンガでよくある……今の少女マンガにあるかどうかは知らないんですけど。「遅刻、遅刻」と言ってパンをくわえて走ってたら、曲がり角でドンと男とぶつかって、「何よ!」って言いながら学校にいったら、その男が転校生として現れて「あっ、嫌なヤツ!」というやつ。  あれも、おそらく「これは稲作豊作を願うための儀式みたいなものに違いない」と(笑)。  だって、わからないですもん。僕らは膨大なお約束の果てにそれを受けとっているので、お約束を知らない未来人や宇宙人には、そんなことがわかるはずない。「どうなってるんだ?」となるんだと思います。  まとめますと、バンカラというのは、もともと明治30年くらいの言葉で、その時代には、こういう服を着ていたんですけど。まあ、この服も「戦前」と言っても昭和になってからなんですけどね。  その後、戦後の拓殖大のこの服を見たらわかる通り、ファッション化しているわけですよ。  さらには、それがパロディになって『男塾』の世界になって、現在は消滅して行っている。  おそらく、未来は宗教として解釈されるだろう。  そんなものが、バンカラなわけです。
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     さて、バンカラがわかったところで『「舞姫」の主人公が~』の話にやっと戻るんですけども。  いやいや、バンカラを説明するのに15分くらい掛かってるんですよ。  皆さんの中には「そんなこと言われなくてもわかってる」と思う人もいるかもわからないんですけど。  このところ、YouTubeのデータを見ていくと、20代の人が僕の動画をやたらと見ているんですよね。  「なんで俺の番組なんかを、20代の人が見てるんだ?」と思ったら、この間、ヒントをもらって。どうも『名探偵コナン』が原因らしいんですよ。  『名探偵コナン』で、作者の青山さんが、もうやることがなくて飽きてしまって、「もう『ガンダム』をやろう」と『コナン』の中で『ガンダム』をやろうとしてるそうなんですね。  最初は赤井というキャラを出して、その次には安室っていうキャラを出して。段々、部下とか妹の名前とかが変になって来て、『ガンダム』をやってると。  で、『コナン』好きの女性の方々が「『ガンダム』を見なければいけない!」と。これを彼女たちは「『ガンダム』を履修する」と言うらしいんですけど。  「『ガンダム』を履修するために何を見ればいいのか?」ということで、なぜか僕のガンダム講座を見ているそうで。  それで、こないだから、20代30代女性の比率がドッと増えたんです。男女比で、女の人の割合がいきなり10%も上がったのはなぜかと思ってたんですけど。「そうか。『ガンダム』の履修目的で見ているんだ」と。  なので、一応、そういう人らにもわかるようにバンカラを説明するには、このレベルからまず話し始めなればいけないんですよ。
    「弥次喜多」というデタラメ小説のフォーマット
    【画像】スタジオから ここから、ようやっと本題です。  明治の娯楽物語ということで、この本の中に出て来る世界を紹介するんですけども。  「明治娯楽物語」というふうに言いました。あのね、小説というのがまだ存在しない時代なんですよ。  小説というのは何かと言うと、まず、政治家とか思想家がぶち上げるものを「大説」と言ったんです。つまり、世の中には大説と小説。大きい説と小さい説があるんですよ。大説というのは、政治家とかその関係者が言うようなもののこと。それに対して個人が「こう思います」と言うのが小説だった。そんな時代なんですね。  だから、フィクション、お話とかストーリーを考えたものを指して「小説」とは言わなかったんです。それはもう「物語」と言ってたんですね。  そんな明治時代の文学といえば、もちろん、夏目漱石や森鴎外なんですけど。  しかし、実際に鴎外や漱石よりも何十倍も売れたのは、今話した明治娯楽物語という、ちょっと不思議なジャンルの小説群だったんです。  今やほとんど残ってない……というか、国会図書館には残っているんですよ。国会図書館のデジタルアーカイブに行ったら、スキャンされている画像が残っているから、ナンボでも見れるんですけど。しかし、それを読んでいる人はほとんどいないし、僕らの文化の中で、それの位置づけしている人もほとんどいない。  それを唯一しているのが、この山下泰平さんの書いた『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』という本なんです。なので、今日はそれを推してるわけなんですけれども。  明治という時代は、ものすごい勢いで文明開化が進んだ時代。  とにかく、西洋文化を、1分1秒でも早く取り入れないと生き残れない。生きていけない。日本という国が植民地化されて滅びてしまうという、大変切迫した時代でした。  昨日まで読んでいた、江戸時代の貸本なんて、もう、読んでられないわけですね。だからといって、欧米の文学を読むには敷居が高い。よくわからない。「欧米の知識が必要だから、そういうものを読まなきゃいけないんだけれど、出来れば読み慣れた講談とか、江戸時代の文体で読みたい」と。これが、今や忘れられた明治娯楽物語というジャンルの読み物なんです。  講談というのは、かつて起きた事件とか事実、あとはわかりにくい問題を、講談師が「パンパン! さて、そこで~」というふうな話芸でもって説明するもののことなんですけど。日本というのは、この講談の文化が江戸時代からやたら進んでいたので、「とにかくわかりやすく教えてくれるもの」として親しまれていたんですよ。  しかし、西洋から入ってくる小説とか論文というのは、その体になってないので、「誰かこれをわかりやすく講談調にしてくれ!」というニーズがあった。それに答えたのが、明治娯楽物語ですね。
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     これは、大衆小説とはちょっと違うんですよ。あくまでも「西洋知識を手軽に取り入れるための手段」であって、「べンとかメリーとかですねそんな変な名前が出てくるような気難しい話は真っ平だ!」と思っている人が読んでいたもの。  そこで大ヒットしたのが「弥次喜多」というフォーマットなんです。まあ、「明治になって、まだ弥次喜多なのか」とも思うんですけど。  この本の中に、僕がちょっと気に入ってるフレーズが出てきて。この付箋を貼っているところ(15ページ)なんですけども、「弥次喜多とヴェルヌの悪魔合体」というふうに書いてあります。  本当に、そんな時代の徒花みたいな物語を紹介します。  通称:弥次喜多として知られる『東海道中膝栗毛』というのは、1802年に十返舎一九が書いた滑稽本です。  「栗毛」というのは「栗毛の馬」のことなんですね。本来、馬に乗って楽ちんに旅するところを、自分の膝を使って、つまり歩いて旅をする。それを「膝栗毛」という言い方をしてるんですね。まあ、そんな江戸流のオシャレな表現です。「歩いて旅をする」と書くんじゃなくて、「俺の栗毛は自分の膝だぜ」ということで「膝栗毛」と言っているんです。もう、オシャレなんですよ。  これに登場するのが、主人公の弥次郎兵衛と喜多八です。略して弥次喜多コンビです。  今日は本当に日本史ですよね。この間までヨーロッパ史やアメリカ史をやってたのに(笑)。  弥次郎兵衛というのはどんなヤツかというと、50歳手前のデブの教養人。まあ、俺みたいなヤツを想像してください。  駿河の国で商売してたんですけど、遊びで借金が多くて江戸に夜逃げ。……ここも、なんとなく自分に似てて親近感が湧くんですけど(笑)。  この夜逃げする時に、わざわざ一句読んでいるんですね。「借金は富士の山ほどある故に、そこで夜逃げを駿河者かな」と。なかなかオシャレでカッコいいんですけど。全編、こういうダジャレしか載ってないんですよ。『東海道中膝栗毛』って、なかなか現代語訳がないんですけど、それは当たり前で、こういう下らないことしか書いてないからなんですよね。  そんな弥次郎兵衛に対して、喜多八というのは弥次郎兵衛の陰間でした。江戸時代に、ホモの売春をやっている人のことを「陰間」と言ってたんですけど、喜多八はですねそれだったんですね。  しかし、陰間というのは、普通、13歳から20歳くらいまでが盛りで、20歳を超えると、もうそんな陰間には用はなくなるんですね。なので、喜多八も引退して、ある商店で奉公してたんですけど、そんな中で同僚の女中を妊娠させてしまって、まあ、なんとかそれと結婚した。  結婚した祝言の夜に、江戸に逃げてきた弥次郎兵衛と久しぶりに会ったんですけども。しかし、再会した弥次喜多コンビが、妊娠した新妻の前で大喧嘩をするんですね。そのショックで、嫁さんは、その場で死んでしまう。  その嫁さんの葬式をしていたら、喜多八の商店での使い込みや、女将さんに言い寄っていたのがバレて、商店の主人も死んでしまって、「エラいことになった!」ということで、「このまま江戸にはいられない!」と言って、死んでしまった嫁さんを放ったらかして2人で逃げて旅をするというのが『東海道中膝栗毛』の冒頭の数十ページなんです。  もう本当にね、人間のクズしか出てこないんですよ。デタラメな話。これを江戸の庶民はゲラゲラ笑って読むわけですね。  旅行して、2人がやることと言ったら何かと言うと、だいたいは、その土地の名物とかを見たり食べたりしながら、時々、弥次郎兵衛というヤツが、ちょっと教養があるから「いや、これは〇〇だ」とか言って、喧嘩になったヤツに知識でマウントしたりとか、そういう話だったんですよ。  まあ、江戸時代の『ポプテピピック』とか『パタリロ』みたいな話だと思ってくれれば、間違いないと思います。  江戸時代は、旅行も自由に出来ないので、これがガイド本としても大ヒットした、と。  まあ、十返舎一九というのは絵も描けたので、ちょっといい絵も描いてたんですよ。だから、インスタグラムのインフルエンサーみたいなノリで、この弥次喜多の話というのは大流行したんだと、僕は考えています。  作者の十返舎一九は『東海道中膝栗毛』が大流行したもんだから、続編も書いたんですけど。一九以外の作者も、いっぱい続編を書いたんですね。  もう、2次創作のやりあいみたいになっていて、誰が原作かわからないくらいになってた。それが、明治に入る頃までずーっと続いていたんですよ。  その結果、明治になってから入ってきた、イギリスとかアメリカとかドイツとかフランスとか、いろんな国の情報を元に、世界中を旅する弥次喜多の話が、明治時代になってもまだ出版されることになったわけですね。
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     明治14年、ジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』……SFの古典ですね。これが東京で出版されたんですけど。その3年後の明治17年に「弥次喜多に宇宙旅行をさせる」という、『宗教世界膝栗毛』というのが発売されました。 (パネルを見せる)
    【画像】『宗教世界膝栗毛』表紙 あの「宗教世界」って言うんですけど、当時は「惑星」とか「星」という言葉に馴染みがなかったので、もう「世界」と言ってるんですね。この「世界」というのは「星」のことです。  弥次喜多は、月へ行く途中で、その隣にある無闇矢鱈世界というところに行って、その後、宗教世界という星に次々に行くんです。  宇宙旅行の方法は、ジュール・ヴェルヌの原作通り、「超大型の大砲がアメリカで完成した」というもの。  弥次喜多が「じゃあ行ってくるか」ということでアメリカに行くと、アメリカ人が困っている。「どうしたんでえ?」と言うと、「いやいや、月世界に行く船は出来た。しかし、みんな怖くて乗れない」と言う。  すると、弥次喜多が「アメリカ人といっても度胸がねえな! じゃあ、日本から来た俺っちが乗ってやろうか!」と言って乗るんですけど。  その乗り方が……これ、国会のデジタルアーカイブから持ってきたページなんですけど、超わかりにくいんですよね。 (パネルを見せる)
    【画像】大砲にしがみついて飛ぶ 「大砲の弾にしがみついて飛ぶ」という方法なんですね。乱暴な方法なんですよ。  元ネタになってるジュール・ヴェルヌの小説では、ちゃんと大砲の作り方とか、発射時の衝撃の吸収方法とか、無重力の描写が、19世紀に書かれた小説にも関わらず、ちゃんとあるんですよ。  だけど、この『宗教世界膝栗毛』では、作者に科学知識がゼロなんですね。なので、「ヴェルヌが書いていることがよくわからない。でも、読者はそういう最新の科学知識を求めている」ということで……もう、序文には偉そうに書いていあるんですよ。「西洋ではこういうのが当たり前だ!」とか「みんな宇宙とか他の世界のことを知らなければいけない!」とか書いているんですけど。作者がそのことを全くわかってないんです。  例えば「宇宙に空気がない」ということはわかっているんですけど、空気がなかったらどうなるのかというと「声が聞こえにくい」とか、あと「息をする時にすぐ喉が詰まる」という描写が延々とあるんです。  この『宗教世界膝栗毛』は、大ヒットはしなかったんですけど。「最近の科学知識を弥次喜多のフォーマットで紹介する」という形式は当たったらしく、その2年後の明治19年には『人体道中膝栗毛』というのが、別の作者によって出版されます。  『人体道中膝栗毛』もね、もうデタラメなんですよ、本当に。これも「解剖学や生物学の勉強になる!」という触れ込みだったんですけど、旅に出るお金のない弥次喜多が「仕方がない」というだけの理由でミクロ化して、人間の体の中を旅するという道中モノなんですけど。 (パネルを見せる)
    【画像】口車 これは「口車」という場面です。大きな川に水車が掛かっている。よく見ると、この水車は唇で出来ている。「あれこそが口車だ」と言うんですけども。  「そもそも、この川は嘘八百里の長流にて、二枚舌の立板に口車がかかっている」という、またダジャレなんですよね。もう、全く解剖学の勉強にならずに「ほら見ろや、あれが口車だ。信用ならねえぞ」なんて言ったりするんですけども。  その後、弥次喜多はいろんなところに行くんですけど。例えば「乳山」。「胸まで旅行したら、デカいおっぱいに登山」という、もう中学生の妄想みたいなものを本にして、またこれも、そこそこヒットしちゃったんですよね。
    【画像】乳山 要するに、弥次喜多というのは西洋文明を取り入れるためのフォーマットで、今で言う異世界モノなんです。  さっき話した「異世界に転生した」みたいなラノベでも、読んでる内に「中世ヨーロッパの知識が手に入るじゃん」とか「当時の王様とか政治経済の話を勉強出来るじゃん」と。案外、僕らも、ああいうラノベっぽいやつとかマンガとかを読んで勉強してますよね? あれと全く同じだったんですね。  僕らの世界で「とりあえず異世界に転生させたら、あとは好きなことをやっていい」みたいに異世界モノが作られてるのと同じように「とりあえず弥次喜多にどこか行かせて好きなことをやらせる」というのがヒットした、と。  こんなデタラメな小説が、もう夏目漱石や森鴎外の名作よりも大ヒットしてたんですよね。  なぜかと言うと、それは明治という時代に秘密があったから。ということで、もうちょっと無料放送が続きます。
    西洋から入ってきた「リアリズム」の流行で起きたこと
    【画像】スタジオから 明治という時代はどういう時代だったのかと言うと、この本の作者の山下さんは「全てがですね5倍のスピードで動く世界だ」と言っています。  山下さんは、それを海水浴の歴史で説明しているんですけど。  かつて、西洋において「海は邪悪な存在だ」と思われていたんです。  そうなんですよ。日本ではどうかわかりませんけど、ヨーロッパ世界では、海というのは邪悪な場所だったんですね。「陸上というのは、教会を中心に神様の領域があって安全で、森の中に入ると段々と危険な場所になる。でも、海に行くと、クラーケンがいたり変な生物がいて、いきなり神の領域ではなくなってしまう。そんな呪われた邪悪な場所だ」というのが、まあヨーロッパの考え方だったんですよ。  この「海は邪悪」という強固な感覚を打ち消すために、様々なことが起きているんです。  最初に海水浴は、医療行為として受け入れられた。より強い肉体への憧れ、ヒステリーを始めとする精神的な病気を直したいというニーズ。  そうなんですよね。中世の終わり頃から近世にかけて女性のヒステリーというのが大問題になっていて、「海水浴はそれに効く」と言い出した人がいたんです。  その結果、18世紀のイギリスで海水浴マシンと呼ばれる車輪の大きな馬車が作られました。裕福な人たちは、外から見られないように、海水浴マシンで海に乗り入れ、健康のために海水浴を楽しんだ、と。 (パネルを見せる [図1]25ページより、[図2]27ページより引用)
    【画像】海水浴マシン これが海水浴マシンですね。当時としてはこれが最新の医療器具だったそうです。まあ、大きい車輪の大きい馬車で、水際ギリギリまで乗り入れて、お付きの人たちに助けられながら水浴びをする、と。  こんなふうに「海の水を浴びることは身体にいいんだ!」と言ってたわけです。  西洋の人が、このような海水浴を受け入れるまで、何年くらいかかったか?  リチャード・ラッセルという医者が、1750年に、イギリスのブライトン地方で医療としての海水浴を実践し始めたそうです。その100年後の1850年に、ブライトンへの鉄道がついに敷かれ、有名な保養地へと成長した、と。この間が、およそ100年。つまり、西洋はおよそ100年かけて「医療としての海水浴」から「娯楽としての保養地」というふうに、ゆっくり進化していったんですね。  しかし、この100年間の進歩を、明治の人はたった20年間で済ませてしまうんです。  明治19年に出版された『海水浴法概説』というのでは「海水ニ浴セント欲スル者ハ、病ノ有無ヲ論セズ」というふうなことで、「海水浴で治療出来る病気」とか「波が高い時は気をつけろ」とか、そういうことを書いた本が出版されたんです。  これ、その後の明治13年には、ですね兵庫県の明石海岸で脚気(かっけ)になった兵隊の治療のために海水浴が実施されるようにもなったそうです。明治になって、かなり早いところで、海水浴というのはどんどん普及していったんですね。
    【画像】海水浴 神奈川県の大磯は、おそらく、日本最初の病気療養のためではない娯楽のための海水海岸で、明治23年には日本中の学校で水泳がいわゆる必須の科目として入って行ったわけですね。  このブームに乗って、明治30年頃になると「海水浴小説」というジャンルの小説が生まれます。  当時、最新流行の海水浴場で、お話の中身は江戸時代から変わらない「お百度参りしてたら仇に会った」みたいな話を「敵討ちを海水浴場で行った」というだけの、舞台を海水浴場に変えただけのラノベっぽい話だったそうなんですけど。  まあ、明治に初めに「治療目的の海水浴場」が出来てから、この娯楽のための海水浴場や、海水浴小説が書かれるまでが、だいたい20年。なので、「西洋が100年かけて行った道を日本は20年かけて追いついている」と。  明治というのは万事がそういうふうな時代だったそうです。
    ・・・
     しかし、こういう西洋化も、海水浴とか、その技術みたいな具体的なところでは、すごい進展があったんですけど、失敗もかなりありました。  西洋化の失敗の典型例が絵画なんですね。  というのも、明治の時代の人たちというのは、西洋の科学や文明のことを「リアルである」と定義しちゃったんですね。  それなぜかと言うと製図ってあるじゃないですか。設計図とかを引く製図。やっぱり、これが日本にはなかったので、建築の図面とかが西洋から入って来た時に、みんなびっくりしたわけですね。  その結果、「最新の絵というのはこういうものだ」と思っちゃった。つまり、「真横や真上から正確な形を引く」ということと、絵画とが、同じ文脈で入って来ちゃったんですね。  西洋にも抽象画というのがあるとは思いもせずに、江戸時代の日本人は「絵画っていうのは全てリアルなものでなければならない。本当にあるものを、まるで写真のように綺麗に写すことが絵画であって、それ以外の絵というのは、遅れた日本的なものであり、全く意味がない」と思っちゃったんですね。  江戸時代から明治にかけて日本の浮世絵とかが大量に海外に行った理由の一つは……もちろん「それは買い付ける人がいっぱいいたから」というのもあるんですけど。何よりも、日本人が「自分達のそれまでの絵がリアルでない」ということを恥ずかしがって「こんなものいいや!」と売ってしまったからでもあるんですね。  なんとかして西洋風の絵画、ちゃんとパースが取れてて、陰影があるリアルな絵として取り入れようとしたということになります。  この流れは、実は絵画だけでなかったんですよ。  というのも、当時、江戸時代の文人、いわゆる文化的な人というのは、絵も描けば、文章も書けば、俳句も読めばという人だったじゃないですか。明治になっても、それのまま行っちゃったんですよ。  西洋に絵描きという専門職があるだなんて欠片も想像せずに「絵描きは全員、文章が書ける! 文章が書ける人間は皆絵も描ける!」と思い込んでいたんですね。  当時、小説家になりたい人が「先生、小説家になりたいんです」って言ったら、「小説も絵も似たようなもんだ。小説の学校はないが、絵は東京芸大が今度出来るそうだ。君、絵の学校に行きなさい」と言われて、みんな絵の学校に行ってデッサンとかをしながら、「いつになったら小説が書けるのかな?」という。  こんなバカみたいな時代が、結構、長かったそうなんですね。  こんなふうに「絵も小説も同じものである」と思っている人が多かったおかげで、日本の小説も全てリアルになってしまったんです。  つまり、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』みたいなものは「面白いんだけど、下らないもの」。  じゃあ、本当の文学というのはどういうものかと言うと、「製図のように、全てのパースがきちんと取られた写真のような西洋絵画」と同じように「実際にあったことを、文章の力で最大限リアルに書く」ということだけが、価値のある文学だと思われた。  なので、江戸時代の人の書いたフィクションというのを徹底的に馬鹿にして、創作というのを馬鹿にして、そうじゃなくて、本当にあったことを上にする。最初に話した大説と小説の関係性というのは、これによって出来てたわけですね。  「本当のことは偉くて、嘘のことや架空のことはダメだ!」というような文脈が明治のわりと早い時代に、芸術全般に生まれてしまった。  まあまあ、これが自然主義文学とか、そういうことに繋がるのかもわかりませんけど。僕は、まあ、面白いからこういう話をしているだけであって、専門家としての知識があって言ってるのではないので、そこら辺は皆さんがもっと勉強してください。  これ、俺が昔、聞いた話なんですけど、「福沢諭吉が弟子に怒った」という話があって。  福沢諭吉の家に住み込んでいる弟子、いわゆる書生ですね。そいつらが、福沢先生にすごい怒られたそうです。  「君たちは何を下らないものを読んでいるんだ!」と。弟子が読んでたのが小説だったんですよ。つまり、嘘の話を読んでたんですね。  「君たちは国家の明日を考えなければいけないのに、なぜそんな下らないものを読んでるんだ!」と怒って、弟子たちはみんな「すみません」って言ったんですけど。  その弟子が読んでたのは、フランス語の原書なんですよ。当時、日本に文芸小説なんてないから、みんなフランス語とかイタリア語の原書を、辞書を引きながら読んでたんですよ。  それくらい頭が良いんだけど、それでもダメなんですよ。それでもダメなくらい、フィクションというのはダメだったんですよね。それくらい、フィクションの地位は低かったんです。  明治の人というのは、日本人が今使う意味での小説というものを「嘘だ」ということで馬鹿にしてた。「それよりは、実際にあったこと、リアルなことのみが価値がある」と考えてた。だから「空想や創作というのは下らない」と。  なので、当時の舞台演劇でも、夜のシーンになると、舞台も客席も真っ暗になったんですって。真っ暗になって、本当に前も見えないところで、役者が暗記しているセリフを言うだけ。  夜というのは暗いんだから、リアリズムに照らし合わせたら、そうしなければいけない。だから、「照明を全部落として、真っ暗の中でセリフを言う」というのが当たり前だった、と。  そんな、笑い話みたいなことが本当にあったそうです。  そこから、日本独特の傾向として「文学というのは純文学、つまり、私小説のことである。自分が体験したことを書くものである」という伝統が生まれました。  もし創作を書くのなら、極限までリアルに書かなければ、シリアスに書かなければ、まともな扱いをされない。  今もまだ、日本に残っている「純文学こそ文学の中心であり王道である」という考え方は、まず、この明治時代の絵画のリアリズムから始まった流れの上に乗っかっているんですね。  いまだに日本に純文学という言葉が存在し、私小説というジャンルが存在するのは、このためです。  で、もうずーっと後になって、明治をずっと過ぎた頃になって、ようやっと小説がフィクションの世界に戻って来たんですけど。  まあ、この当時の文学の偉さというのは、上から順位を付けるとすると、一番上に「政治演説」みたいなものがあって、その下に「事実を元にした講談」がある。  講談というのが、わりと上だったんですよ。講談には話芸というのがあって、この芸というのはみんな認めてたから、「話芸のある講談は上だ」と。文芸という言葉がまだなかったんですね。文章の上手さという考え方がまだまだなかったので、話芸の方が上だったんですよ。  その下が純文学の私小説になって、さらに下に落語とか浪曲があって、一番下は弥次喜多になるという。まあ、こういう順位だったんですけど。  ところが、売上で言うと、これが完全に逆転してたんですよ。弥次喜多みたいなものが一番上。  弥次喜多の宇宙旅行というのは、いわゆる明治時代のラノベなんですけど、誰でも読めて面白くて、最新の流行とか知識が詰まった、もう夢の小説だったわけですね。だから、バンバン売れるんですよ。
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    2019/12/01 #310 「明治娯楽物語」
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    ジブリ特集
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    岡田斗司夫ゼミ#310:明治娯楽物語
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  • 岡田斗司夫プレミアムブロマガ「全てが5倍のスピードで動いていた、明治という時代」

    2019-12-20 07:00  
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    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/12/20
     今日は、2019/12/01配信の岡田斗司夫ゼミ「明治娯楽物語」からハイライトをお届けします。
     岡田斗司夫ゼミ・プレミアムでは、毎週火曜は夜7時から「アニメ・マンガ夜話」生放送+講義動画を配信します。毎週日曜は夜7時から「岡田斗司夫ゼミ」を生放送。ゼミ後の放課後雑談は「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」のみの配信になります。またプレミアム会員は、限定放送を含むニコ生ゼミの動画およびテキスト、Webコラムやインタビュー記事、過去のイベント動画などのコンテンツをアーカイブサイトで自由にご覧いただけます。  サイトにアクセスするためのパスワードは、メール末尾に記載しています。(※ご注意:アーカイブサイトにアクセスするためには、この「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」、「岡田斗司夫の個人教授」、DMMオンラインサロン「岡田斗司夫ゼミ室」のいずれかの会員である必要があります。チャンネルに入会せずに過去のメルマガを単品購入されてもアーカイブサイトはご利用いただけませんのでご注意ください)
     明治という時代はどういう時代だったのかと言うと、この本の作者の山下さんは「全てがですね5倍のスピードで動く世界だ」と言っています。  山下さんは、それを海水浴の歴史で説明しているんですけど。  かつて、西洋において「海は邪悪な存在だ」と思われていたんです。  そうなんですよ。日本ではどうかわかりませんけど、ヨーロッパ世界では、海というのは邪悪な場所だったんですね。「陸上というのは、教会を中心に神様の領域があって安全で、森の中に入ると段々と危険な場所になる。でも、海に行くと、クラーケンがいたり変な生物がいて、いきなり神の領域ではなくなってしまう。そんな呪われた邪悪な場所だ」というのが、まあヨーロッパの考え方だったんですよ。  この「海は邪悪」という強固な感覚を打ち消すために、様々なことが起きているんです。  最初に海水浴は、医療行為として受け入れられた。より強い肉体への憧れ、ヒステリーを始めとする精神的な病気を直したいというニーズ。  そうなんですよね。中世の終わり頃から近世にかけて女性のヒステリーというのが大問題になっていて、「海水浴はそれに効く」と言い出した人がいたんです。  その結果、18世紀のイギリスで海水浴マシンと呼ばれる車輪の大きな馬車が作られました。裕福な人たちは、外から見られないように、海水浴マシンで海に乗り入れ、健康のために海水浴を楽しんだ、と。 (パネルを見せる [図1]25ページより、[図2]27ページより引用)
    【画像】海水浴マシン これが海水浴マシンですね。当時としてはこれが最新の医療器具だったそうです。まあ、大きい車輪の大きい馬車で、水際ギリギリまで乗り入れて、お付きの人たちに助けられながら水浴びをする、と。  こんなふうに「海の水を浴びることは身体にいいんだ!」と言ってたわけです。  西洋の人が、このような海水浴を受け入れるまで、何年くらいかかったか?  リチャード・ラッセルという医者が、1750年に、イギリスのブライトン地方で医療としての海水浴を実践し始めたそうです。その100年後の1850年に、ブライトンへの鉄道がついに敷かれ、有名な保養地へと成長した、と。この間が、およそ100年。つまり、西洋はおよそ100年かけて「医療としての海水浴」から「娯楽としての保養地」というふうに、ゆっくり進化していったんですね。  しかし、この100年間の進歩を、明治の人はたった20年間で済ませてしまうんです。  明治19年に出版された『海水浴法概説』というのでは「海水ニ浴セント欲スル者ハ、病ノ有無ヲ論セズ」というふうなことで、「海水浴で治療出来る病気」とか「波が高い時は気をつけろ」とか、そういうことを書いた本が出版されたんです。  これ、その後の明治13年には、ですね兵庫県の明石海岸で脚気(かっけ)になった兵隊の治療のために海水浴が実施されるようにもなったそうです。明治になって、かなり早いところで、海水浴というのはどんどん普及していったんですね。
    【画像】海水浴 神奈川県の大磯は、おそらく、日本最初の病気療養のためではない娯楽のための海水海岸で、明治23年には日本中の学校で水泳がいわゆる必須の科目として入って行ったわけですね。  このブームに乗って、明治30年頃になると「海水浴小説」というジャンルの小説が生まれます。  当時、最新流行の海水浴場で、お話の中身は江戸時代から変わらない「お百度参りしてたら仇に会った」みたいな話を「敵討ちを海水浴場で行った」というだけの、舞台を海水浴場に変えただけのラノベっぽい話だったそうなんですけど。  まあ、明治に初めに「治療目的の海水浴場」が出来てから、この娯楽のための海水浴場や、海水浴小説が書かれるまでが、だいたい20年。なので、「西洋が100年かけて行った道を日本は20年かけて追いついている」と。  明治というのは万事がそういうふうな時代だったそうです。
    ・・・
     しかし、こういう西洋化も、海水浴とか、その技術みたいな具体的なところでは、すごい進展があったんですけど、失敗もかなりありました。  西洋化の失敗の典型例が絵画なんですね。  というのも、明治の時代の人たちというのは、西洋の科学や文明のことを「リアルである」と定義しちゃったんですね。  それなぜかと言うと製図ってあるじゃないですか。設計図とかを引く製図。やっぱり、これが日本にはなかったので、建築の図面とかが西洋から入って来た時に、みんなびっくりしたわけですね。  その結果、「最新の絵というのはこういうものだ」と思っちゃった。つまり、「真横や真上から正確な形を引く」ということと、絵画とが、同じ文脈で入って来ちゃったんですね。  西洋にも抽象画というのがあるとは思いもせずに、江戸時代の日本人は「絵画っていうのは全てリアルなものでなければならない。本当にあるものを、まるで写真のように綺麗に写すことが絵画であって、それ以外の絵というのは、遅れた日本的なものであり、全く意味がない」と思っちゃったんですね。  江戸時代から明治にかけて日本の浮世絵とかが大量に海外に行った理由の一つは……もちろん「それは買い付ける人がいっぱいいたから」というのもあるんですけど。何よりも、日本人が「自分達のそれまでの絵がリアルでない」ということを恥ずかしがって「こんなものいいや!」と売ってしまったからでもあるんですね。  なんとかして西洋風の絵画、ちゃんとパースが取れてて、陰影があるリアルな絵として取り入れようとしたということになります。  この流れは、実は絵画だけでなかったんですよ。  というのも、当時、江戸時代の文人、いわゆる文化的な人というのは、絵も描けば、文章も書けば、俳句も読めばという人だったじゃないですか。明治になっても、それのまま行っちゃったんですよ。  西洋に絵描きという専門職があるだなんて欠片も想像せずに「絵描きは全員、文章が書ける! 文章が書ける人間は皆絵も描ける!」と思い込んでいたんですね。  当時、小説家になりたい人が「先生、小説家になりたいんです」って言ったら、「小説も絵も似たようなもんだ。小説の学校はないが、絵は東京芸大が今度出来るそうだ。君、絵の学校に行きなさい」と言われて、みんな絵の学校に行ってデッサンとかをしながら、「いつになったら小説が書けるのかな?」という。  こんなバカみたいな時代が、結構、長かったそうなんですね。  こんなふうに「絵も小説も同じものである」と思っている人が多かったおかげで、日本の小説も全てリアルになってしまったんです。  つまり、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』みたいなものは「面白いんだけど、下らないもの」。  じゃあ、本当の文学というのはどういうものかと言うと、「製図のように、全てのパースがきちんと取られた写真のような西洋絵画」と同じように「実際にあったことを、文章の力で最大限リアルに書く」ということだけが、価値のある文学だと思われた。  なので、江戸時代の人の書いたフィクションというのを徹底的に馬鹿にして、創作というのを馬鹿にして、そうじゃなくて、本当にあったことを上にする。最初に話した大説と小説の関係性というのは、これによって出来てたわけですね。  「本当のことは偉くて、嘘のことや架空のことはダメだ!」というような文脈が明治のわりと早い時代に、芸術全般に生まれてしまった。  まあまあ、これが自然主義文学とか、そういうことに繋がるのかもわかりませんけど。僕は、まあ、面白いからこういう話をしているだけであって、専門家としての知識があって言ってるのではないので、そこら辺は皆さんがもっと勉強してください。  これ、俺が昔、聞いた話なんですけど、「福沢諭吉が弟子に怒った」という話があって。  福沢諭吉の家に住み込んでいる弟子、いわゆる書生ですね。そいつらが、福沢先生にすごい怒られたそうです。  「君たちは何を下らないものを読んでいるんだ!」と。弟子が読んでたのが小説だったんですよ。つまり、嘘の話を読んでたんですね。  「君たちは国家の明日を考えなければいけないのに、なぜそんな下らないものを読んでるんだ!」と怒って、弟子たちはみんな「すみません」って言ったんですけど。  その弟子が読んでたのは、フランス語の原書なんですよ。当時、日本に文芸小説なんてないから、みんなフランス語とかイタリア語の原書を、辞書を引きながら読んでたんですよ。  それくらい頭が良いんだけど、それでもダメなんですよ。それでもダメなくらい、フィクションというのはダメだったんですよね。それくらい、フィクションの地位は低かったんです。  明治の人というのは、日本人が今使う意味での小説というものを「嘘だ」ということで馬鹿にしてた。「それよりは、実際にあったこと、リアルなことのみが価値がある」と考えてた。だから「空想や創作というのは下らない」と。  なので、当時の舞台演劇でも、夜のシーンになると、舞台も客席も真っ暗になったんですって。真っ暗になって、本当に前も見えないところで、役者が暗記しているセリフを言うだけ。  夜というのは暗いんだから、リアリズムに照らし合わせたら、そうしなければいけない。だから、「照明を全部落として、真っ暗の中でセリフを言う」というのが当たり前だった、と。  そんな、笑い話みたいなことが本当にあったそうです。  そこから、日本独特の傾向として「文学というのは純文学、つまり、私小説のことである。自分が体験したことを書くものである」という伝統が生まれました。  もし創作を書くのなら、極限までリアルに書かなければ、シリアスに書かなければ、まともな扱いをされない。  今もまだ、日本に残っている「純文学こそ文学の中心であり王道である」という考え方は、まず、この明治時代の絵画のリアリズムから始まった流れの上に乗っかっているんですね。  いまだに日本に純文学という言葉が存在し、私小説というジャンルが存在するのは、このためです。  で、もうずーっと後になって、明治をずっと過ぎた頃になって、ようやっと小説がフィクションの世界に戻って来たんですけど。  まあ、この当時の文学の偉さというのは、上から順位を付けるとすると、一番上に「政治演説」みたいなものがあって、その下に「事実を元にした講談」がある。  講談というのが、わりと上だったんですよ。講談には話芸というのがあって、この芸というのはみんな認めてたから、「話芸のある講談は上だ」と。文芸という言葉がまだなかったんですね。文章の上手さという考え方がまだまだなかったので、話芸の方が上だったんですよ。  その下が純文学の私小説になって、さらに下に落語とか浪曲があって、一番下は弥次喜多になるという。まあ、こういう順位だったんですけど。  ところが、売上で言うと、これが完全に逆転してたんですよ。弥次喜多みたいなものが一番上。  弥次喜多の宇宙旅行というのは、いわゆる明治時代のラノベなんですけど、誰でも読めて面白くて、最新の流行とか知識が詰まった、もう夢の小説だったわけですね。だから、バンバン売れるんですよ。
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    2019/12/01 #310 「明治娯楽物語」
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  • 岡田斗司夫プレミアムブロマガ「弥次喜多&ヴェルヌの悪魔合体〜明治のトンデモ娯楽物語」

    2019-12-19 07:00  
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    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/12/19
     今日は、2019/12/01配信の岡田斗司夫ゼミ「明治娯楽物語」からハイライトをお届けします。
     岡田斗司夫ゼミ・プレミアムでは、毎週火曜は夜7時から「アニメ・マンガ夜話」生放送+講義動画を配信します。毎週日曜は夜7時から「岡田斗司夫ゼミ」を生放送。ゼミ後の放課後雑談は「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」のみの配信になります。またプレミアム会員は、限定放送を含むニコ生ゼミの動画およびテキスト、Webコラムやインタビュー記事、過去のイベント動画などのコンテンツをアーカイブサイトで自由にご覧いただけます。  サイトにアクセスするためのパスワードは、メール末尾に記載しています。(※ご注意:アーカイブサイトにアクセスするためには、この「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」、「岡田斗司夫の個人教授」、DMMオンラインサロン「岡田斗司夫ゼミ室」のいずれかの会員である必要があります。チャンネルに入会せずに過去のメルマガを単品購入されてもアーカイブサイトはご利用いただけませんのでご注意ください)
     ここから、ようやっと本題です。  明治の娯楽物語ということで、この本の中に出て来る世界を紹介するんですけども。  「明治娯楽物語」というふうに言いました。あのね、小説というのがまだ存在しない時代なんですよ。  小説というのは何かと言うと、まず、政治家とか思想家がぶち上げるものを「大説」と言ったんです。つまり、世の中には大説と小説。大きい説と小さい説があるんですよ。大説というのは、政治家とかその関係者が言うようなもののこと。それに対して個人が「こう思います」と言うのが小説だった。そんな時代なんですね。  だから、フィクション、お話とかストーリーを考えたものを指して「小説」とは言わなかったんです。それはもう「物語」と言ってたんですね。  そんな明治時代の文学といえば、もちろん、夏目漱石や森鴎外なんですけど。  しかし、実際に鴎外や漱石よりも何十倍も売れたのは、今話した明治娯楽物語という、ちょっと不思議なジャンルの小説群だったんです。  今やほとんど残ってない……というか、国会図書館には残っているんですよ。国会図書館のデジタルアーカイブに行ったら、スキャンされている画像が残っているから、ナンボでも見れるんですけど。しかし、それを読んでいる人はほとんどいないし、僕らの文化の中で、それの位置づけしている人もほとんどいない。  それを唯一しているのが、この山下泰平さんの書いた『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』という本なんです。なので、今日はそれを推してるわけなんですけれども。  明治という時代は、ものすごい勢いで文明開化が進んだ時代。  とにかく、西洋文化を、1分1秒でも早く取り入れないと生き残れない。生きていけない。日本という国が植民地化されて滅びてしまうという、大変切迫した時代でした。  昨日まで読んでいた、江戸時代の貸本なんて、もう、読んでられないわけですね。だからといって、欧米の文学を読むには敷居が高い。よくわからない。「欧米の知識が必要だから、そういうものを読まなきゃいけないんだけれど、出来れば読み慣れた講談とか、江戸時代の文体で読みたい」と。これが、今や忘れられた明治娯楽物語というジャンルの読み物なんです。  講談というのは、かつて起きた事件とか事実、あとはわかりにくい問題を、講談師が「パンパン! さて、そこで~」というふうな話芸でもって説明するもののことなんですけど。日本というのは、この講談の文化が江戸時代からやたら進んでいたので、「とにかくわかりやすく教えてくれるもの」として親しまれていたんですよ。  しかし、西洋から入ってくる小説とか論文というのは、その体になってないので、「誰かこれをわかりやすく講談調にしてくれ!」というニーズがあった。それに答えたのが、明治娯楽物語ですね。
    ・・・
     これは、大衆小説とはちょっと違うんですよ。あくまでも「西洋知識を手軽に取り入れるための手段」であって、「べンとかメリーとかですねそんな変な名前が出てくるような気難しい話は真っ平だ!」と思っている人が読んでいたもの。  そこで大ヒットしたのが「弥次喜多」というフォーマットなんです。まあ、「明治になって、まだ弥次喜多なのか」とも思うんですけど。  この本の中に、僕がちょっと気に入ってるフレーズが出てきて。この付箋を貼っているところ(15ページ)なんですけども、「弥次喜多とヴェルヌの悪魔合体」というふうに書いてあります。  本当に、そんな時代の徒花みたいな物語を紹介します。  通称:弥次喜多として知られる『東海道中膝栗毛』というのは、1802年に十返舎一九が書いた滑稽本です。  「栗毛」というのは「栗毛の馬」のことなんですね。本来、馬に乗って楽ちんに旅するところを、自分の膝を使って、つまり歩いて旅をする。それを「膝栗毛」という言い方をしてるんですね。まあ、そんな江戸流のオシャレな表現です。「歩いて旅をする」と書くんじゃなくて、「俺の栗毛は自分の膝だぜ」ということで「膝栗毛」と言っているんです。もう、オシャレなんですよ。  これに登場するのが、主人公の弥次郎兵衛と喜多八です。略して弥次喜多コンビです。  今日は本当に日本史ですよね。この間までヨーロッパ史やアメリカ史をやってたのに(笑)。  弥次郎兵衛というのはどんなヤツかというと、50歳手前のデブの教養人。まあ、俺みたいなヤツを想像してください。  駿河の国で商売してたんですけど、遊びで借金が多くて江戸に夜逃げ。……ここも、なんとなく自分に似てて親近感が湧くんですけど(笑)。  この夜逃げする時に、わざわざ一句読んでいるんですね。「借金は富士の山ほどある故に、そこで夜逃げを駿河者かな」と。なかなかオシャレでカッコいいんですけど。全編、こういうダジャレしか載ってないんですよ。『東海道中膝栗毛』って、なかなか現代語訳がないんですけど、それは当たり前で、こういう下らないことしか書いてないからなんですよね。  そんな弥次郎兵衛に対して、喜多八というのは弥次郎兵衛の陰間でした。江戸時代に、ホモの売春をやっている人のことを「陰間」と言ってたんですけど、喜多八はですねそれだったんですね。  しかし、陰間というのは、普通、13歳から20歳くらいまでが盛りで、20歳を超えると、もうそんな陰間には用はなくなるんですね。なので、喜多八も引退して、ある商店で奉公してたんですけど、そんな中で同僚の女中を妊娠させてしまって、まあ、なんとかそれと結婚した。  結婚した祝言の夜に、江戸に逃げてきた弥次郎兵衛と久しぶりに会ったんですけども。しかし、再会した弥次喜多コンビが、妊娠した新妻の前で大喧嘩をするんですね。そのショックで、嫁さんは、その場で死んでしまう。  その嫁さんの葬式をしていたら、喜多八の商店での使い込みや、女将さんに言い寄っていたのがバレて、商店の主人も死んでしまって、「エラいことになった!」ということで、「このまま江戸にはいられない!」と言って、死んでしまった嫁さんを放ったらかして2人で逃げて旅をするというのが『東海道中膝栗毛』の冒頭の数十ページなんです。  もう本当にね、人間のクズしか出てこないんですよ。デタラメな話。これを江戸の庶民はゲラゲラ笑って読むわけですね。  旅行して、2人がやることと言ったら何かと言うと、だいたいは、その土地の名物とかを見たり食べたりしながら、時々、弥次郎兵衛というヤツが、ちょっと教養があるから「いや、これは〇〇だ」とか言って、喧嘩になったヤツに知識でマウントしたりとか、そういう話だったんですよ。  まあ、江戸時代の『ポプテピピック』とか『パタリロ』みたいな話だと思ってくれれば、間違いないと思います。  江戸時代は、旅行も自由に出来ないので、これがガイド本としても大ヒットした、と。  まあ、十返舎一九というのは絵も描けたので、ちょっといい絵も描いてたんですよ。だから、インスタグラムのインフルエンサーみたいなノリで、この弥次喜多の話というのは大流行したんだと、僕は考えています。  作者の十返舎一九は『東海道中膝栗毛』が大流行したもんだから、続編も書いたんですけど。一九以外の作者も、いっぱい続編を書いたんですね。  もう、2次創作のやりあいみたいになっていて、誰が原作かわからないくらいになってた。それが、明治に入る頃までずーっと続いていたんですよ。  その結果、明治になってから入ってきた、イギリスとかアメリカとかドイツとかフランスとか、いろんな国の情報を元に、世界中を旅する弥次喜多の話が、明治時代になってもまだ出版されることになったわけですね。
    ・・・
     明治14年、ジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』……SFの古典ですね。これが東京で出版されたんですけど。その3年後の明治17年に「弥次喜多に宇宙旅行をさせる」という、『宗教世界膝栗毛』というのが発売されました。 (パネルを見せる)
    【画像】『宗教世界膝栗毛』表紙 あの「宗教世界」って言うんですけど、当時は「惑星」とか「星」という言葉に馴染みがなかったので、もう「世界」と言ってるんですね。この「世界」というのは「星」のことです。  弥次喜多は、月へ行く途中で、その隣にある無闇矢鱈世界というところに行って、その後、宗教世界という星に次々に行くんです。  宇宙旅行の方法は、ジュール・ヴェルヌの原作通り、「超大型の大砲がアメリカで完成した」というもの。  弥次喜多が「じゃあ行ってくるか」ということでアメリカに行くと、アメリカ人が困っている。「どうしたんでえ?」と言うと、「いやいや、月世界に行く船は出来た。しかし、みんな怖くて乗れない」と言う。  すると、弥次喜多が「アメリカ人といっても度胸がねえな! じゃあ、日本から来た俺っちが乗ってやろうか!」と言って乗るんですけど。  その乗り方が……これ、国会のデジタルアーカイブから持ってきたページなんですけど、超わかりにくいんですよね。 (パネルを見せる)
    【画像】大砲にしがみついて飛ぶ 「大砲の弾にしがみついて飛ぶ」という方法なんですね。乱暴な方法なんですよ。  元ネタになってるジュール・ヴェルヌの小説では、ちゃんと大砲の作り方とか、発射時の衝撃の吸収方法とか、無重力の描写が、19世紀に書かれた小説にも関わらず、ちゃんとあるんですよ。  だけど、この『宗教世界膝栗毛』では、作者に科学知識がゼロなんですね。なので、「ヴェルヌが書いていることがよくわからない。でも、読者はそういう最新の科学知識を求めている」ということで……もう、序文には偉そうに書いていあるんですよ。「西洋ではこういうのが当たり前だ!」とか「みんな宇宙とか他の世界のことを知らなければいけない!」とか書いているんですけど。作者がそのことを全くわかってないんです。  例えば「宇宙に空気がない」ということはわかっているんですけど、空気がなかったらどうなるのかというと「声が聞こえにくい」とか、あと「息をする時にすぐ喉が詰まる」という描写が延々とあるんです。  この『宗教世界膝栗毛』は、大ヒットはしなかったんですけど。「最近の科学知識を弥次喜多のフォーマットで紹介する」という形式は当たったらしく、その2年後の明治19年には『人体道中膝栗毛』というのが、別の作者によって出版されます。  『人体道中膝栗毛』もね、もうデタラメなんですよ、本当に。これも「解剖学や生物学の勉強になる!」という触れ込みだったんですけど、旅に出るお金のない弥次喜多が「仕方がない」というだけの理由でミクロ化して、人間の体の中を旅するという道中モノなんですけど。 (パネルを見せる)
    【画像】口車 これは「口車」という場面です。大きな川に水車が掛かっている。よく見ると、この水車は唇で出来ている。「あれこそが口車だ」と言うんですけども。  「そもそも、この川は嘘八百里の長流にて、二枚舌の立板に口車がかかっている」という、またダジャレなんですよね。もう、全く解剖学の勉強にならずに「ほら見ろや、あれが口車だ。信用ならねえぞ」なんて言ったりするんですけども。  その後、弥次喜多はいろんなところに行くんですけど。例えば「乳山」。「胸まで旅行したら、デカいおっぱいに登山」という、もう中学生の妄想みたいなものを本にして、またこれも、そこそこヒットしちゃったんですよね。
    【画像】乳山 要するに、弥次喜多というのは西洋文明を取り入れるためのフォーマットで、今で言う異世界モノなんです。  さっき話した「異世界に転生した」みたいなラノベでも、読んでる内に「中世ヨーロッパの知識が手に入るじゃん」とか「当時の王様とか政治経済の話を勉強出来るじゃん」と。案外、僕らも、ああいうラノベっぽいやつとかマンガとかを読んで勉強してますよね? あれと全く同じだったんですね。  僕らの世界で「とりあえず異世界に転生させたら、あとは好きなことをやっていい」みたいに異世界モノが作られてるのと同じように「とりあえず弥次喜多にどこか行かせて好きなことをやらせる」というのがヒットした、と。  こんなデタラメな小説が、もう夏目漱石や森鴎外の名作よりも大ヒットしてたんですよね。  なぜかと言うと、それは明治という時代に秘密があったから。ということで、もうちょっと無料放送が続きます。
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    ガンダム完全講義10:第4話「ルナツー脱出作戦」解説
    ガンダム完全講義11:第5話「大気圏突入」解説
    ガンダム完全講義12:第6話「ガルマ出撃す」解説Part1
    ガンダム完全講義13:第6話「ガルマ出撃す」解説Part2
    ガンダム完全講義14:第7話「コアファイター脱出せよ」解説Part1
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    ガンダム完全講義16:第8話「戦場は荒野」解説Part1
    ガンダム完全講義17:第8話「戦場は荒野」解説Part2
    ガンダム完全講義18:第9話「翔べ!ガンダム」解説Part1
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  • 岡田斗司夫プレミアムブロマガ「明治の二大価値観〜バンカラVSハイカラ」

    2019-12-18 07:00  
    9999999pt
    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/12/18
     今日は、2019/12/01配信の岡田斗司夫ゼミ「明治娯楽物語」からハイライトをお届けします。
     岡田斗司夫ゼミ・プレミアムでは、毎週火曜は夜7時から「アニメ・マンガ夜話」生放送+講義動画を配信します。毎週日曜は夜7時から「岡田斗司夫ゼミ」を生放送。ゼミ後の放課後雑談は「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」のみの配信になります。またプレミアム会員は、限定放送を含むニコ生ゼミの動画およびテキスト、Webコラムやインタビュー記事、過去のイベント動画などのコンテンツをアーカイブサイトで自由にご覧いただけます。  サイトにアクセスするためのパスワードは、メール末尾に記載しています。(※ご注意:アーカイブサイトにアクセスするためには、この「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」、「岡田斗司夫の個人教授」、DMMオンラインサロン「岡田斗司夫ゼミ室」のいずれかの会員である必要があります。チャンネルに入会せずに過去のメルマガを単品購入されてもアーカイブサイトはご利用いただけませんのでご注意ください)
     『バンカラの時代』という本があって。これ、日本画の話なんですけども。 (本を見せる 佐藤志乃『バンカラの時代ー大観、未醒らと日本画成立の背景』人文書院、2018年)
    【画像】『バンカラの時代』表紙 「ハイカラ(高襟)VSバンカラ(蛮襟)仁義なき戦い!」と本の帯に書いてあります。  日本画の世界には、岡倉天心の言葉として「芸術は気魄の発露である」というのがあるんですよね。実は、明治時代の画家というのは、思想家でなければならなかったし、あとは国士、国を憂えて絵を描くのが仕事だったんですよ。その上、徒労を組んで、かなり無茶な旅とかをしてたんです。  この本は「明治という時代は、西洋文化に心酔するハイカラと、自らのナショナリティを重視するバンカラの軋轢であった!」として、そんな時代を紹介した本なんですけど。  では、具体的にどんな内容かと言うと。Amazonのカスタマーレビューに、簡単にまとめられていたので、読んでみます。

    アジア諸国は次々と西洋に侵略され植民地となり、独立を保持する為には日本は西洋に対して戦いを挑まなければならなかった。 その戦いは、単に物質文明の領域に於ける戦いだけではなく、文化、芸術、伝統等、精神文明の領域に於ても、西洋に対し日本文明の独自性対等性を示す必要があった。 よってこの時代の画家たちの、覚悟や気概は破格で、以後の個人趣味的な絵の時代の画家とは全く違っていて、ほぼ烈士、国士の様を呈している。

     要するに「みんな『竜馬がゆく』の坂本龍馬みたいな気持ちで絵を描いてた」というんですね。  絵を描く目的は「国家のため」という、ものすごい時代なので、今の常識では判断できないんですよ。  この本によりますと、ハイカラとバンカラの対立というのも、さっき僕が言った「ハイカラのオシャレなヤツが気に食わない! だから、バンカラだ!」というのは、まあ後になって出てきた定義で、最初の頃は「日本を開国する時の岩倉具視と西郷隆盛の対立から始まる」と書いてあるんですよ。  開国論者で「西洋に早く追いつこう!」と言う岩倉具視派がハイカラ派で、西郷隆盛がバンカラ派だ、と。言われてみれば、確かにそうなんですよ。  これが尾を引いて、後に鹿鳴館事件が起こります。  鹿鳴館というのは、まあ、中学の歴史で習う通り、明治時代に、西洋のモノマネ丸出しの、宮殿みたいな、お城みたいなダンスホールを作って、そこに毎晩毎晩、男も女も似合わないドレス姿で現れては、必死にダンスを踊った。  これに対して悪口を言っているのは何も現代の僕らだけじゃなく、明治時代の頃から、新聞から講談師までがみんな悪口を言ってたんですよ。「何だよ、あんなみっともない、全然似合わない服を着やがって!」って。これがハイカラをバカにする元にもなったんですけど。  しかし、これは実は、不平等条約改正のためであったんですね。  明治政府から不平等条約の改正を求められたイギリスの代表は「いや、不平等と言っても、そもそもあなた達の国は野蛮であって、文明国でないでしょ?」と切り返したんですね。  「なぜかと言うと、我々文明国は、大臣とか偉い人の奥さんやお嬢さんが、ちゃんと公式の場に出て来ます。それは、我が国が安全だからです。でも、あなた達の国の奥様やお嬢様は、全く公式の場に出てこないじゃないですか。つまり、これは安全でないということです。我が国の国民が、そんなあなたの国に往来した時に、あなたの国の警察や司法、裁判所に任せられるはずがない。だって、危ないでしょう?」というふうに言われたわけですね。  なので、「日本は危なくありません。我が国の奥様やお嬢様達もちゃんとこういう所に来て踊っております」というのを見せないと、イギリスが不平等条約を改正してくれなかったという理由があったんです。「イギリスが一番頑なで苦しかった」と、後に当時の外務省の人が語っているんですけど、こういう状況だったんですね。  しかし、そんな事情は、戦後の教育でわかってきたのであって、戦前の日本人、国民は、全くそんな都合を知らずに、一斉に「鹿鳴館はけしからん! ハイカラはけしからん! 西洋かぶれはけしからん!」ということで、みんな本当にプンスカ怒ってたわけですね。  これが、アンチハイカラブームであり、そんなバンカラブームが、明治の中頃、だいたい明治の30年代くらいから起こりました。
    ・・・
     戦前のバンカラってね、資料があんまり残ってないんですよね。バンカラの人達は写真とかを撮られるの嫌いだったのかもわからないんですけど。  そんな数少ない戦前のバンカラの写真というのが、この辺の写真なんですけど。 (パネルを見せる)
    【画像】戦前のバンカラ 服がボロボロなのはなぜかと言うと、生地や仕立てが安いので、とにかくすぐに服がボロボロになったんですよ。「しかし、それでも構わない」と。「思想を貫くためには、見た目は気にしないのだ!」というのが戦前のバンカラです。  一方、僕らがよく見るバンカラが、これ。 (パネルを見せる)
    【画像】戦後のバンカラ これは、戦後の拓殖大学のバンカラの皆さんなんですけど。これが、僕らがよく知っているバンカラというやつですね。これが戦後のバンカラなんですよ。  戦前のバンカラと戦後のバンカラというのは何が違うのかと言うと、さっきも言ったように、戦前のバンカラは「本当に布が安っぽくてすぐにボロボロになった」んですけど、戦後のバンカラというのは、服の仕立てがいいんですよ。なので「みんな帽子や服を自分で破って、靴の方が安いのに、わざわざ高い下駄を履いて、バンカラを気取っている」わけですね。  つまり、戦後のバンカラっていうのは、すでにファッションの再生産になってたんですね。  それが、昭和40年代になると、『男一匹ガキ大将』とか『昭和バンカラ派』というマンガになってくる。  と言っても、まだこの時代は大真面目で、このボロボロの服というのを本気で「カッコいい」と思って描いているんです。  マンガの中でバンカラたちは「あんた、古臭いわね」と言われるんですけど。この「古臭いわね」というのは「拓殖大学のバンカラの写真のような、戦後すぐの時代というのを思い出させる古臭いものだ」とやっているわけです。  しかし、それがこの『男塾』になってくると、もうすでに笑われる対象になってくるわけですね。「時代錯誤だ」「変だ」ということで、笑われるようになってくるんです。  そして、現代では、そろそろ『男塾』すらも通用しなくなって来て、バンカラという概念は消えて行ってしまっている。バンカラという言葉自体が通用しなくなっているわけです。  おかげで「バンカラみたいなものを、バンカラと知らずに笑う」ということは出来るんですけど、「バンカラなヤツをカッコいい存在として出す」というのは、もう無理になってきちゃってるんですよね。  バンカラを主人公にしたアニメとかマンガは、パロディしか話題にならない、と。  それと同じく、おそらく、50年後か100年後くらいになってくると、こういう事態になっていると思いますよ。  今から50年後か100年後になってくると、例えば「ゲームばっかりやっている平凡な中学生とか高校生が、いきなり事故で死んだと思ったら、異世界に転生してて、そこには美少女の魔法戦士が~」みたいなアニメってあるじゃないですか。  ところが、これって「バンカラ VS ハイカラの対立で、あの服が生まれた」というのと同じように、いまの僕らの身近にあるラノベとかマンガとか、いろんな状況のお約束の上に成立しているんですね。  50年後の人たちが、そういうお約束を知らずに、いきなり異世界転生モノを読んだら、「これは、何かの宗教的な儀式を表しているのではないか?」とか「当時の日本人は、来世では中世ヨーロッパに生まれ変わり幸せになれるという宗教が流行ってたんだな」というような想像しか、おそらく出来ないと思うんですよね。  もっと時代が下った千年後くらいの人類とか、あとは人類の遺跡を研究している宇宙人から見たら、僕らの今のラノベ的な世界というのは、完全に狂ってるわけですよね。なので「宗教的な目的で作られた物語」としか解釈されないんですよ。  例えば「亡き父が作ったロボット」というモチーフが、遺跡のあちこちから見つかるわけですね。これもお父さんが作ったロボット。あれもお父さんが作ったロボット。これはおじいちゃんが作ったロボットって。  「なんか、20世紀の後半から21世紀の頭くらいに、やたらとお父さんやおじいちゃんがロボットを作るという物語が流行っているんだけど。たぶん、この国に平和をもたらそうとして、鎌倉時代に大仏を作ったように、昭和・平成・令和と呼ばれる時代には、巨大ロボットを作ることが国家安定のためだったんだな」という解釈がされるはずです。  あとは、少女マンガでよくある……今の少女マンガにあるかどうかは知らないんですけど。「遅刻、遅刻」と言ってパンをくわえて走ってたら、曲がり角でドンと男とぶつかって、「何よ!」って言いながら学校にいったら、その男が転校生として現れて「あっ、嫌なヤツ!」というやつ。  あれも、おそらく「これは稲作豊作を願うための儀式みたいなものに違いない」と(笑)。  だって、わからないですもん。僕らは膨大なお約束の果てにそれを受けとっているので、お約束を知らない未来人や宇宙人には、そんなことがわかるはずない。「どうなってるんだ?」となるんだと思います。  まとめますと、バンカラというのは、もともと明治30年くらいの言葉で、その時代には、こういう服を着ていたんですけど。まあ、この服も「戦前」と言っても昭和になってからなんですけどね。  その後、戦後の拓殖大のこの服を見たらわかる通り、ファッション化しているわけですよ。  さらには、それがパロディになって『男塾』の世界になって、現在は消滅して行っている。  おそらく、未来は宗教として解釈されるだろう。  そんなものが、バンカラなわけです。
    ・・・
     さて、バンカラがわかったところで『「舞姫」の主人公が~』の話にやっと戻るんですけども。  いやいや、バンカラを説明するのに15分くらい掛かってるんですよ。  皆さんの中には「そんなこと言われなくてもわかってる」と思う人もいるかもわからないんですけど。  このところ、YouTubeのデータを見ていくと、20代の人が僕の動画をやたらと見ているんですよね。  「なんで俺の番組なんかを、20代の人が見てるんだ?」と思ったら、この間、ヒントをもらって。どうも『名探偵コナン』が原因らしいんですよ。  『名探偵コナン』で、作者の青山さんが、もうやることがなくて飽きてしまって、「もう『ガンダム』をやろう」と『コナン』の中で『ガンダム』をやろうとしてるそうなんですね。  最初は赤井というキャラを出して、その次には安室っていうキャラを出して。段々、部下とか妹の名前とかが変になって来て、『ガンダム』をやってると。  で、『コナン』好きの女性の方々が「『ガンダム』を見なければいけない!」と。これを彼女たちは「『ガンダム』を履修する」と言うらしいんですけど。  「『ガンダム』を履修するために何を見ればいいのか?」ということで、なぜか僕のガンダム講座を見ているそうで。  それで、こないだから、20代30代女性の比率がドッと増えたんです。男女比で、女の人の割合がいきなり10%も上がったのはなぜかと思ってたんですけど。「そうか。『ガンダム』の履修目的で見ているんだ」と。  なので、一応、そういう人らにもわかるようにバンカラを説明するには、このレベルからまず話し始めなればいけないんですよ。
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    2019/12/01 #310 「明治娯楽物語」
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    ジブリ特集
    岡田斗司夫ゼミ#212:『天空の城ラピュタ』完全解説① 〜超科学とエロス
    岡田斗司夫ゼミ#213:『天空の城ラピュタ』完全解説② 〜幻の産業革命が起こった世界
    岡田斗司夫ゼミ#297:『天空の城ラピュタ』完全解説③ 〜スラッグ渓谷とポムじいの秘密
    岡田斗司夫ゼミ#296:『崖の上のポニョ』を精神分析する〜宮崎駿という病
    岡田斗司夫ゼミ#298:『崖の上のポニョ』はどうやって生まれたか 〜空想で現実を書き換える
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    岡田斗司夫ゼミ#302:味を超越した“文化としてのハンバーガー論”
    岡田斗司夫ゼミ#303:映画『ジョーカー』特集&試験に出るバットマンの歴史
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    岡田斗司夫ゼミ#308:ジブリ都市伝説の謎を解け!&大好評サイコパス人生相談
    岡田斗司夫ゼミ#309:富野由悠季を語る 〜2010年11月講演感想戦
    岡田斗司夫ゼミ#310:明治娯楽物語
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    ガンダム完全講義4:第1話「ガンダム大地に立つ!!」解説
    ガンダム完全講義5:第2話「ガンダム破壊命令」解説Part1
    ガンダム完全講義6:第2話「ガンダム破壊命令」解説Part2
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  • 岡田斗司夫プレミアムブロマガ「今日のニコ生は、岡田斗司夫マンガ・アニメ夜話「ガンダム完全講義〜第36回」です!」

    2019-12-17 07:00  
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    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/12/17
     今日は、岡田斗司夫のコンテンツ情報をお届けします。
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     本日の岡田斗司夫マンガ・アニメ夜話は、 12月17日(火) 19:00~ 「機動戦士ガンダム完全講義〜第36回」
    『岡田斗司夫ゼミ (無印)』会員
    『岡田斗司夫ゼミ・プレミアム』会員
    ニコ生テキスト全文公開
     2019/12/03配信の岡田斗司夫マンガ・アニメ夜話テキスト全文をアーカイブサイトで公開中!

    2019/12/03 マンガ・アニメ夜話 #35 「ガンダム完全講義35:第13話「再会、母よ…」解説Part2」

    ガンダムマンチョコ開封と本日の内容
    地図で見るガンダムの世界
    アムロにとっての母親と家、人形の意味とは
    オデッサとスレッガー・ロウについて補足
    アムロの「日常演技」のすごさと「緩衝地帯」という背景
    ルッグンについての補足と次回告知
    ガンダムマンチョコ開封と本日の内容
     こんばんは、岡田斗司夫です。  今日は『機動戦士ガンダム』完全講座の第35回、第13話「再会、母よ…」の全6回のうちの2回目になります。  12月3日ということで、ようやっと「12月に入った」という実感があるんですけども。
     それでは、今日もこのガンダムマンチョコを開封してみましょう。毎週のお約束ですね。先週はハヤト・コバヤシがダブったから、もう超ドキドキなんですけど。「まさか今日もダブらねえだろうな?」と思うんだけども。
    【画像】ガンダムマンチョコ ©創通・サンライズ ©LOTTE/ビックリマンプロジェクト(袋を開ける)
    【画像】スレッガー・ロウシール ©創通・サンライズ ©LOTTE/ビックリマンプロジェクト あっ! アハハ、すごい。渋い。スレッガー・ロウ中尉ですね。

    【スレッガー・ロウ中尉】 ホワイトベースに中途配属された古兵(つわもの)感漂う陽気で軟派なGファイター操縦士!無敵の巨大MA(モビルアーマー)ビグ・ザムに決死特攻!? 【地球連邦軍のウワサ】 超難敵(ビグ・ザム)攻略すべく特攻決意し形見の指輪を預けたミライと口吻(キス)交わし別れたとか?!

     この紹介文、もう、短い文字数で、あまりにも情報をギチギチに入れようとしているので、読みにくくて読みにくくてしょうがないな。  今週はスレッガー・ロウさんでした。いやいや、ありがたいですね。
     今日はね、長いんですよ、実は。無料の部分が。「再会、母よ…」の2回目なんですけど。  今回の無料放送では、前回も告知したように、地球に降り立ったホワイトベースの進路について、実際の世界地図を使って構造的にわかるように説明してみます。  無料放送はだいぶ長めで、23分以上になってしまいました。  アムロの人形について語ってるんですよ。僕はこの人形を「再会、母よ…」の隠れた重要ポイントだと思ってるんですけど、アムロの人形ってわかりますか? 思い出せますか? かなりのファンの人でないと、ちょっと思い出せないと思うんですけど。  ここで出てくるアムロが持っているピノキオみたいな木の人形というのは、数年ぶりに自分の家に帰って来たアムロの心情を読み取るための、ちょうど子供から青年に上がる時の気持ちみたいなものを表現するための、すごい鍵になっているんです。  まあ、この辺についても詳しく語ったりしてたから、まあ、前半の無料部分が長くなっちゃったんですね。もちろん、後半の限定放送でもちゃんと語っているので安心してください。  いつもの通り、無料の終わりでちょっと追加の解説をします。  それでは、ガンダム講座、もう、チャキチャキ行きましょう。「再会、母よ…」の第2回目の講座、スタートです。どうぞ!
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    岡田斗司夫ゼミ#304:朝日新聞「悩みのるつぼ」卒業記念講演
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    マンガ・アニメ夜話
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    ガンダム完全講義6:第2話「ガンダム破壊命令」解説Part2
    ガンダム完全講義7:第3話「敵の補給艦を叩け!」解説Part1
    ガンダム完全講義8:第3話「敵の補給艦を叩け!」解説Part2
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    ガンダム完全講義10:第4話「ルナツー脱出作戦」解説
    ガンダム完全講義11:第5話「大気圏突入」解説
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  • 岡田斗司夫プレミアムブロマガ「ギャグマンガ『僕!!男塾』から、バンカラの世界へ」

    2019-12-16 07:00  
    9999999pt
    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/12/16
     今日は、2019/12/01配信の岡田斗司夫ゼミ「明治娯楽物語」からハイライトをお届けします。
     岡田斗司夫ゼミ・プレミアムでは、毎週火曜は夜7時から「アニメ・マンガ夜話」生放送+講義動画を配信します。毎週日曜は夜7時から「岡田斗司夫ゼミ」を生放送。ゼミ後の放課後雑談は「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」のみの配信になります。またプレミアム会員は、限定放送を含むニコ生ゼミの動画およびテキスト、Webコラムやインタビュー記事、過去のイベント動画などのコンテンツをアーカイブサイトで自由にご覧いただけます。  サイトにアクセスするためのパスワードは、メール末尾に記載しています。(※ご注意:アーカイブサイトにアクセスするためには、この「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」、「岡田斗司夫の個人教授」、DMMオンラインサロン「岡田斗司夫ゼミ室」のいずれかの会員である必要があります。チャンネルに入会せずに過去のメルマガを単品購入されてもアーカイブサイトはご利用いただけませんのでご注意ください)
     今日は、ここに出しているんですけど。 (パネルを見せる)
    【画像】『僕!!男塾』表紙 ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社 『僕!!男塾』(やつがれおとこじゅく)というマンガがあって、これ、最近の僕のお気に入りなんですよね。  「僕」って漢字1文字で「やつがれ」と読むんですけどね。「魁」で「さきがけ」と読むのと同じで、漢字1文字をどう読むかというやつなんですけど。  一番最初の『魁!!男塾』というマンガは、ご存知の方もいると思うんですけど、今やすでに『男塾』というのは、マンガの1ジャンルになっちゃってるんですね。  例えば、塾長の江田島平八を主人公にしたマンガとか、あとは伊達臣人が主人公……伊達臣人というところが渋いですよね。他にも、明石剛次が主人公のスピンオフもありますし、大豪院邪鬼が主役というのも、この間、出ました。  あとは『紅!!女塾』という、「ウィルスか何かの作用で、人類の男が全員、軟弱になったので、男塾の伝統を受け継ぐのは女しかいない!」というのもあるそうです。なんかね、この『女塾』はやたらと巻数を伸ばしているんですよ。別にあんまり面白いと思わないんですけど。まあ、そういう女子校モノもあります。  ただ、この『僕!!男塾』というのは、そういう男塾ジャンルのマンガとは違うんですね。
     まず、主人公として、売れないマンガ家の宮川というのがいるんですけど。その宮川の部屋に、いきなりドカーンと壁を破って男塾のヤツらが入ってくるわけですね。 (パネルを見せる)
    【画像】壁を破る ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社 いわゆる男塾名物の「直進行軍」でガーンと入って来て、壁に穴が開いてしまった。  で、その穴の中にげんこつという愛犬が入ってしまう。すると、この犬が壁を超えた瞬間に、リアルな劇画タッチになってしまうんですね。 (パネルを見せる)
    【画像】劇画になるげんこつ ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社 「こうなったらもうヤケクソだ!」と言って、主人公の宮川も、犬を助けるために、この壁の穴を抜けるんですけど、その瞬間に、やっぱりリアルな絵になってしまうんですね。 (パネルを見せる)
    【画像】追いかける宮川 ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社 これでわかった通り、「ここは!?」ということで穴を抜けたら、もちろん、そこは男塾なわけですよ。  「まさか、あの壁の穴で男塾と繋がってしまったのか!?」ということで、普通のヘロヘロの絵のマンガ家が男塾に行ってしまうという話です。  これがどんな話なのかと言うと。これが典型的な1話ですね。 (パネルを見せる)
    【画像】落ちる田沢と松尾 ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社 まず、「うわーっ」と言って2人が崖から落ちてしまいます。宮川は「田沢君とその友達ー!」と叫ぶんですけど、もう彼は松尾の名前を覚えてないわけですね(笑)。  他の男塾塾生のみんなは「な、なぜこんなことに……!?」って言うんですけど。そこで宮川は1人「いや、こんなことしてるからでしょ」って思ってるわけですよね。 (パネルを見せる)
    【画像】歌うみんな ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社 すると、見守っていた塾生達が歌い出します。「日本男児の生き様は 色無し恋無し情け有り 男の道をひたすらに 歩みて明日を魁る」と。まあ、有名な男塾の塾歌なんですけども、それをいきなり歌い始めるわけですよ。  でも、新入りの主人公はこの歌が歌えないわけですね。「嗚呼男塾 男意気 己の道を魁よ」とみんなが歌っている時に「うわっ! みんな歌い始めた! 俺も歌いたいけど、歌詞がわからねえんだよな」と。  そうしていると、「あれ? 変だな。さっきから背中に視線を感じるぞ」と宮川は思います。  振り返ると、空中に例の田沢と松尾の顔が浮かんでいるんですよ。男塾ではよくあるパターン。青空に死んだ2人の顔が浮かんでるわけですね(笑)。  で、この顔が、ずーっと見えているんですよ。「わりと長い間見えるんだな、幻影って…」というふうなことで、これが長いこと見えている。  その後、宮川は寮に帰って、「ああ、変なところだった」と部屋で寝転んでいます。夜中、外へ出て、ふと気配を感じたので空を見ると、夜空にまだ浮かんでいるわけ、この幻影が。  「うわあ、もう10時間以上も経ってるよ! 流石に怖いな。家に帰って嫁に見せよう」ということで、スマホで写真を撮ります。  すると、スマホには映ってないんですよ。「写真には映らないんだ!?」と。  こういう外し方が、男塾マンガとしてはすごく新しいなと思うんですけど。
    ・・・
     なぜ、僕が今日、これを見せたのかと言うと。  こういうキャラをバンカラと呼ぶのはご存知でしょうか?  もうね、知ってる人も段々少なくなって来て。まあまあ、50代くらいの人はわかるだろうけど、もう40代の人はそろそろわからないかもしれない。こういうキャラのことを「バンカラ」と言うんです。  バンカラというのはどういうものかと言うと。 (パネルを見せる)
    【画像】『昭和バンカラ派』 これは司敬の『昭和バンカラ派』という、昭和時代のマンガなんですね。この主人公みたいなのがバンカラなんですよ。  帽子がボロボロ、服もボロボロで、ズボンがハイウエストのところでベルトで止めていて、足はなぜか下駄を履いている。  これ、実は全てルールとして決まっていて、ある種の様式なんですね。破れた帽子のことを「破帽」と呼びます。このボロボロの服のことは「弊衣」と言います。で、「高下駄」「ハイウエスト」なんですけど。  このバンカラをテーマにしたのが今日のテキストです。  長いタイトルですね。山下泰平『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』(柏書房、2019年)。これが今日のテキストです。 (本を見せる)
    【画像】『舞ボコ』表紙『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』
     このバンカラというのは何か? これは服のことだけではないんですよ。  バンカラというのは、ウィキペディアの定義によるとこのようになっています。

    バンカラ(蛮殻、蛮カラ)とは、ハイカラ(西洋風の身なりや生活様式)をもじった語である。 明治期に、粗野や野蛮をハイカラに対するアンチテーゼとして創出されたもの。

     つまり、バンカラの前には「ハイカラ」という言葉があって、その後に「ハイカラなのは、けしからん!」ということで出てきたのがバンカラという用語なんですよ。  では、ハイカラとはそもそも何か? 『はいからさんが通る』とかで聞いたことがあるかもわからないんですけど。  ハイカラとは何かというと、明治30年代くらいから流行った言葉で、元は「ハイカラー」、つまり、シャツの襟が高いことなんですよ。  和服の襟ってペタンと寝てるじゃないですか。それに対して、当時の洋服の襟、男性のシャツというのは、今のシャツのように折った襟ではなく、すごい立てた襟だったんですね。  そのもっと前の『ベルサイユのばら』とかの時代には、男性がブラウスを着ていたんですけど。僕らが着ているシャツの袖カラーというのは、そのベルサイユ時代のドレスが様式化され簡略化したものなんですね。  昔は袖も襟もレースでワサワサになってたんですよ。でも、全てのブラウスにそんな物がついていたら洗濯が大変なので、襟と袖の部分だけを取り外せるようになっていったんですね。ワサワサの部分だけを取り替えて、アイロンを掛けたりして、昔は白くてピカピカのシャツを着てたわけです。  日本に洋服が入って来た頃は、このブラウスみたいな「服とカラーが別になっている時代」から、徐々に「シャツに直接、襟とか袖が付いている時代」になってきていて、この襟を上にピンと上げて、顎の辺まで立てたようなな、高いカラー、ハイカラーの服になっていたんですね。  なので、そういう服を着て西洋風を気取っている人のことを「ハイカラ」と言ったわけです。  まあ、当時、そんな最新流行のハイカラーなんかを着る人は……だって、明治時代ですよ? 明治時代って、まだみんな和服を着ているわけですよ? そんな時代に洋服を着るような人は、間違いなく西洋かぶれなわけです。  だから、昭和から平成までは「ハイカラ」と言うと「オシャレな人」的な意味合いで使われることが多かったんですけど、明治時代の当時は「嫌なヤツ」とか「イヤミな人」というような意味もあったそうです。これについては、もっと後で解説します。  そんな「ちょっと嫌なヤツ」であるハイカラの逆が、バンカラなんですよ。  野蛮の「バン」に「カラ」は、もうすでに意味がないんですよ。なぜ「カラ」なのかって、カラには意味がないんです。  フジテレビのアナウンサーに、昔、千野さんという人がいて「チノパン」と呼ばれて人気でしたけど。その後に出てきた女子アナも、みんな「ますパン」とか「あやパン」とか、全部にパンがついてましたよね? そうなってくると、「パン」には何の意味もないですよね?  それと同じで、なんとなくついているのが「カラ」です。
    記事全文は、アーカイブサイトでお読みいただけます。
    2019/12/01 #310 「明治娯楽物語」
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    ジブリ特集
    岡田斗司夫ゼミ#212:『天空の城ラピュタ』完全解説① 〜超科学とエロス
    岡田斗司夫ゼミ#213:『天空の城ラピュタ』完全解説② 〜幻の産業革命が起こった世界
    岡田斗司夫ゼミ#297:『天空の城ラピュタ』完全解説③ 〜スラッグ渓谷とポムじいの秘密
    岡田斗司夫ゼミ#296:『崖の上のポニョ』を精神分析する〜宮崎駿という病
    岡田斗司夫ゼミ#298:『崖の上のポニョ』はどうやって生まれたか 〜空想で現実を書き換える
    岡田斗司夫ゼミ#306:『千と千尋の神隠し』を読み解く13の謎[前編]
    岡田斗司夫ゼミ#307:『千と千尋の神隠し』を読み解く13の謎[後編]
    月着陸50周年特集
    岡田斗司夫ゼミ#269:恐怖と贖罪のホラー映画『ファースト・マン』完全解説
    岡田斗司夫ゼミ#258:アポロ計画と4人の大統領
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    岡田斗司夫ゼミ
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  • 岡田斗司夫プレミアムブロマガ「【岡田斗司夫 最新情報】2019年12月15日号」

    2019-12-15 07:00  
    9999999pt
    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/12/15
     今日は、岡田斗司夫のコンテンツ情報をお届けします。
     岡田斗司夫ゼミ・プレミアムでは、毎週火曜は夜7時から「アニメ・マンガ夜話」生放送+講義動画を配信します。毎週日曜は夜7時から「岡田斗司夫ゼミ」を生放送。ゼミ後の放課後雑談は「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」のみの配信になります。またプレミアム会員は、限定放送を含むニコ生ゼミの動画およびテキスト、Webコラムやインタビュー記事、過去のイベント動画などのコンテンツをアーカイブサイトで自由にご覧いただけます。  サイトにアクセスするためのパスワードは、メール末尾に記載しています。(※ご注意:アーカイブサイトにアクセスするためには、この「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」、「岡田斗司夫の個人教授」、DMMオンラインサロン「岡田斗司夫ゼミ室」のいずれかの会員である必要があります。チャンネルに入会せずに過去のメルマガを単品購入されてもアーカイブサイトはご利用いただけませんのでご注意ください)
    【ニコ生】
    『岡田斗司夫ゼミ (無印)』
    『岡田斗司夫ゼミ・プレミアム』
     今夜19時~のニコ生ゼミは、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』の特集です。  『スター・ウォーズ』を見たことのない人も楽しんで見られるよう語っていく予定です。  最新作の『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の予測や、その後の「2022年から始まる新シリーズ」に関しても、たぶんこの辺になるんだろう」という見当もだいたいついてきました。  なぜそう予測できるのかを、ルーカスフィルムとディズニーの人事的な問題を考察しながら話してみようと思います。
    お楽しみに!
     また、前回のニコ生岡田斗司夫ゼミ#311『On Your Mark』解説』は
    無料放送+有料放送
    無料放送+有料放送+プレミアム放送
    無料放送 00:00 ガイナックス事件 17:40 『On Your Mark』解説 25:00 レベル1 破壊から始まる 35:40 翼をもつ女の子 45:08 女の子救出作戦 01:04:32 少女覚醒 01:09:59 レベル2 3つの悪意 1残酷描写 01:20:22 悪意2 原子力 01:41:32 悪意3 翼の少女 有料放送 01:50:20 休憩 01:58:10 レベル3 宮崎駿の大修整 02:12:40 胡蝶の夢 02:32:08 なぜ夢を見たのか プレミアム放送 02:39:23 『On Your Mark』は資料が少ない 02:49:45 仕事場移しました ナウシカ歌舞伎
     今週の岡田斗司夫マンガ・アニメ夜話は、 12月17日(火) 19:00~ 「機動戦士ガンダム完全講義〜第36回」
    『岡田斗司夫ゼミ (無印)』会員
    『岡田斗司夫ゼミ・プレミアム』会員
    ニコ生テキスト全文公開
     2019/12/01配信の岡田斗司夫ゼミテキスト全文をアーカイブサイトで公開中!

    2019/12/01 #310 「明治娯楽物語」

    クリスマスツリーのオーナメントについて
    「バンカラ」と「ハイカラ」の関係
    戦前から戦後、現代へのバンカラの歴史
    「弥次喜多」というデタラメ小説のフォーマット
    西洋から入ってきた「リアリズム」の流行で起きたこと
    後半の内容と次回告知
    娯楽物語の「3つのジャンル」と文芸の「2つの流れ」
    おでん屋の払いを拒否した力持ちの馬鹿がロシアと戦う『露西亜がこわいか』
    『坊っちゃん』が作った娯楽小説の転機
    バンカラマンのハイカラ討伐と『舞姫』の関係(+美少女戦士)
    ゼミ、マンガ・アニメ夜話 電子書籍販売中!
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    ジブリ特集
    岡田斗司夫ゼミ#212:『天空の城ラピュタ』完全解説① 〜超科学とエロス
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    岡田斗司夫ゼミ#297:『天空の城ラピュタ』完全解説③ 〜スラッグ渓谷とポムじいの秘密
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    岡田斗司夫ゼミ#307:『千と千尋の神隠し』を読み解く13の謎[後編]
    月着陸50周年特集
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    ガンダム完全講義11:第5話「大気圏突入」解説
    ガンダム完全講義12:第6話「ガルマ出撃す」解説Part1
    ガンダム完全講義13:第6話「ガルマ出撃す」解説Part2
    ガンダム完全講義14:第7話「コアファイター脱出せよ」解説Part1
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    ガンダム完全講義16:第8話「戦場は荒野」解説Part1
    ガンダム完全講義17:第8話「戦場は荒野」解説Part2
    ガンダム完全講義18:第9話「翔べ!ガンダム」解説Part1
    ガンダム完全講義19:第9話「翔べ!ガンダム」解説Part2
    ガンダム完全講義20:第10話「ガルマ散る」解説Part1
    ガンダム完全講義21:第10話「ガルマ散る」解説Part2
    ガンダム完全講義22:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part1
    ガンダム完全講義23:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part2
    ガンダム完全講義24:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part3
    ガンダム完全講義25:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part4
    ガンダム完全講義26:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part5
    ガンダム完全講義27:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part6
    ガンダム完全講義28:第12話「ジオンの脅威」解説Part1
    ガンダム完全講義29:第12話「ジオンの脅威」解説Part2
    ガンダム完全講義30:第12話「ジオンの脅威」解説Part3
    ガンダム完全講義31:第12話「ジオンの脅威」解説Part4
    ガンダム完全講義32:第12話「ジオンの脅威」解説Part5
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  • 岡田斗司夫プレミアムブロマガ「予期されていた日本アニメの未来~2010年の富野由悠季講演『這い上がるために』を語るよ!」

    2019-12-14 07:00  
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    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/12/14
     今日は、2019/11/24配信の岡田斗司夫ゼミ「富野由悠季を語る 〜2010年11月講演感想戦」から無料記事全文をお届けします。
     岡田斗司夫ゼミ・プレミアムでは、毎週火曜は夜7時から「アニメ・マンガ夜話」生放送+講義動画を配信します。毎週日曜は夜7時から「岡田斗司夫ゼミ」を生放送。ゼミ後の放課後雑談は「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」のみの配信になります。またプレミアム会員は、限定放送を含むニコ生ゼミの動画およびテキスト、Webコラムやインタビュー記事、過去のイベント動画などのコンテンツをアーカイブサイトで自由にご覧いただけます。  サイトにアクセスするためのパスワードは、メール末尾に記載しています。(※ご注意:アーカイブサイトにアクセスするためには、この「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」、「岡田斗司夫の個人教授」、DMMオンラインサロン「岡田斗司夫ゼミ室」のいずれかの会員である必要があります。チャンネルに入会せずに過去のメルマガを単品購入されてもアーカイブサイトはご利用いただけませんのでご注意ください)
    本日の内容
    【画像】スタジオから こんばんは、岡田斗司夫ゼミです。  今日は11月24日なんですけども、毎月最後の日曜は再放送ということで、今、実はこの映像も録画なんですね。実は今、11月19日の火曜日なんですけれども。  ということで今日は録画でお届けします。今日の再放送は、再放送と言っても、みなさん見たことがない映像なんですね。2010年に大阪で行われた富野由悠季講演を語る、という動画です。  プレミアの方以外はほんとに見たことがないであろう、本当に貴重な映像なんですけども、一番痩せてた時代の僕が登場するので、どうぞ皆さんショックを受けないようにお願いします(笑)  『ガンダム』の監督の富野由悠季さんが2010年に大阪で講演してきたんですけれど、その講演っていうのが定員がたった80人だったんですね。80人だったので、もう倍率、20倍ぐらいの講演会だったんです。で、たまたま僕、そこに応募したら、超狭き門だったんですけど、偶然当たって、それで行ってきたんですよ。  たぶん聞きたくても聞けなかった人がすごく多かったんで、これは面白いなと思って、その富野さんの講演の直後に、富野さんがいったいなにを話したのかっていうのを僕が、岡田斗司夫が説明するっていう、イタコが降りてきたみたいなもんですね(笑)、っていうのを、僕のほうは定員200人で募集したんですよね。定員200人で募集したら、それでもわんさと人が集まって、定員80人の講演で富野由悠季がなにを語ったのかというのを、定員200人の会場で僕が語ったという、そういう動画なんですけれど。  観客の大部分は抽選に落ちた人なんですよ。なので、2時間あった富野さんの講演をできるだけテンポよくまとめたものが、前半です。  古い機材なんですよね、僕の講演の記録っていうのは。今のようにちゃんとしたピンマイクっていうのをつけてないので、音源もちょっと聞き苦しい部分もあります。これはもうほんとにごめんなさい。  これから無料部分で流すのは60分あります。長いです。  富野さんの講演内容を、無料部分は岡田斗司夫の解説を交えながら、富野さんの講演をできるだけ再現してるっていう部分です。  まず冒頭10分、えんえん富野由悠季が愚痴ってるところから始まるので、ほんとにね、冒頭10分、講演で富野由悠季が愚痴ってるだけだったんですね。  続いて、今中国では『ガンダム』がどうなってるのか、中国の若者にどのように受け入れられてるのか、これがけっこう富野さん長く喋ったので、ここらへんをちゃんと説明してみました。  無料だけでさっき言ったように60分あるので、長いです。  後半の質疑応答は有料の、限定動画になりますので、興味ある方は今のうちにドワンゴの岡田斗司夫チャンネル、月額500円の限定ゼミのほうに参加してください。  今日の有料放送の最後に、今これ動画なんですけど、有料放送の最後に生出演しますので、皆さんには夜の9時ぐらい、すでに限定に入ってる方、プレミアムに入ってる方には夜の9時くらいに生放送でお会いすることになると思います。  それでは富野由悠季の講演を解説する岡田斗司夫の過去動画がはじまります。  それではスタート!
    富野由悠季講演会で語られた「このままではエラいことに!」
    【画像】ゼミ会場から(動画再生開始)  こんばんは岡田斗司夫です。  今日は、つい先ほどまでありました富野由悠季さんの『NHKカルチャースクール』の講演会を反芻し、それを元に勉強するという会ですね。  今日の会の前半は富野由悠季を語るっていうことなんですけれども。先ほど挙手をしていただいたところ、先ほどの富野さんの講演を聞かれた方が、会場の中には4分の1いらっしゃるぐらいだったので、まず「富野さん自身の講演を振り返って復習する」ということから始めたいなと思います。  では着席させていただきます。
    ・・・
     富野さんの講演を初めて聞いた方もいらっしゃると思うんですけども、あの、すごく笑顔がカワイかったんですよね。  富野さんがあんなに笑う人だとか笑顔がかわいい人だっていうのは、僕も付き合い長いんですけども、最近になって発見して。「なんか最近、笑顔いいなあ」と思ったんですけど。  あれは単にアニメ作る現場から長いこと離れたせいで、富野さんが丸くなったんですよね。昔はニコニコ笑ってたと思ったら次の瞬間には鬼のような表情でキレて怒鳴る怖いおじさんだったんですけど(笑)。  最近は怒鳴らなくなって、いい人になって「普通に丸くなっちゃったのかな?」とも思ってたんですけども。  しかし、講演がいざ始まるとですね、政治を語り、人類を語り、歴史を語るという、熱くなるおじさんでした。  では、その富野さん自身の講演、『這い上がるために』っていうタイトルだったんですけど。そのダイジェストを今からちょっと話します。
    ・・・
     一番最初の富野さんの挨拶が……まあ、観客席を見て、すごいびっくりしてたんですね。で、客層っていうのは、まあ、だいたい今日の皆さんの感じです。  なんか、富野さんにとってみればいつものお客さんだったんですね。言い方は悪いですけれども。  で、富野さんはそれにですね、入って来るなりすごい衝撃を受けてて。「えぇっ!?」ていう顔をしばらく本当にしてて。で、おでこがもう真っ赤になっててですね。一番最初、冒頭の5分ぐらいがこの愚痴でした。  「思ってた客と違う!」という。まるであの『M-1グランプリ』のダメだった時の笑い飯が「思ってたのと違う!」ってコメントをしたことがあったんですけど、あんな感じですね(笑)。  今日、80人以上のカルチャースクールが満員だったんですけど。  富野さん、なんかどうも「NHKの大阪カルチャーセンターだから、今日は主婦がいっぱい来るに違いない!」と思ってたみたいなんですよね。  自分のアニメなんか見たこともない、主婦とかオバサマ、女の人が山ほど来て。なんか、そうは言わなかったんですけど、もうちょっと「ワーワー! キャーキャー!」みたいな感じをですね、予想してたらしいんですけども。  もうね、俺、本当にね、喉まで出かかった言葉っていうのが「いい加減にしろ、富野由悠季! お前が大阪で講演したからといって、主婦が80人も来るわけねえだろっ!」と。  そう思っていたら、講演が終わった後で会場から出てくる人のほとんどが、みんなエレベーター付近で同じようなこと話してたんですよ。「ああ、みんなあそこで引っ掛かったんだな」と思いました(笑)。
    ・・・
     富野さんは、とりあえずその主婦向け、アニメを見ない人向け、サラリーマン向けに作ってきたレジュメを、まあ、1回諦めて。  そこからリカバーするために、北京大学で……つい昨日まで中国にいらっしゃったんですね。で、その時の話から始められて。それが40分ぐらい続きました。  この話は面白かったです。  あのね、北京大学での富野由悠季の講演会、というか公開講義みたいな形だったそうなんですけど。それは明治大学との共通の講座で『先端アニメ交流会』というような名前で「中国と日本、お互いが持っているアニメーションとかコンテンツビジネスに関しての先端的な講義というのを、それぞれ交換しよう」という話で。  その交流会に日本からは富野さんが行ったんですね。日本から行ったのは富野さんと、あと付き添いで富野さんの奥様もいらして。さらにそのその付き添いで 明治大学側として明治大学の教授の藤本ゆかりさんというマンガ評論をやってるマンガの研究家の方もいらっしゃいました。  この人は奇しくも、皆さんも今手元に持っているだろう、ちくま書房の『遺言』という本の編集者でもあるんですね。だから、北京大学でいったいどんなことがあったのか、また今度、藤本さんからも話を聞けると思うんですけども。
    ・・・
     富野さんは自分の中国での特別講義にすごいショックを受けてらっしゃいました。  なんでかというとですね、600人くらいの教室が一杯になったそうなんですね。5年くらい前に人民大学という、それも中国でわりとトップレベルの大学なんですけど、そこで授業した時にはまだ400人行くか行かないかぐらいだったんですね。それが、600人の会場がほぼ満員になって。で、それも、ものすごい熱心なアニメファンばっかりだった。  北京大学自体が学生数が4万人なんですね。ほんとに巨大な大学なんです。それも「マンモス大学だから偏差値もそれなりなんだろう」というと、そうじゃなくて。いわゆる中国の東大、ハーバードです。まあ人口が多いから。トップ中のトップ、とりあえず経済的にもトップだし、成績とかもトップの人間でないと北京大学なんて入れないわけですね。  その北京大学にアニメ研というのがあってですね、そのアニメ研の人数だけで600人いるそうなんですね。俺ら、そんなの聞いたことないですよね?(笑)  600人って言ったら、第6回か7回の『日本SF大会』の人数と同じです。たぶん昭和40年代、日本中のアニメファンを全て集めても、それくらいしかいなかったんですよ。  北京大学という中国最大のインテリ層で、おまけに北京大学にいくような人たちですから、勉強できるだけでなくてエリート候補なわけですね。産業界とかビジネス界全体のエリート層として期待されて。中国じゅうの田舎とか都会からガーッと北京に集まってくるわけですね。  それが、家の誇りとか名誉とか、一族とか地元の期待というのを背負って北京に来て、北京大学に行ったら、何を間違えたかアニメにはまってしまってですね(笑)。  今や、ビデオ流出事件(注:尖閣諸島付近で起きた中国船籍との悶着を記録した映像が海上保安官によってYouTubeに流出されたという事件。2010年11月)とかで日中関係があやしくなっているところなのに、日本人の講演を聞きに来ている。  これ、あとで富野さんに聞いたんですけれども。  「あの尖閣諸島の事件が起こって、中国と日本とのありとあらゆる文化交流が全面的にほぼストップしてしまった」と。コンサートとかもぜんぶ中止になりましたよね?  で、富野さんの講演会は、それ以降、初めて行われた日本人との文化交流なんだそうです。それぐらい北京大学はこの先端アニメ交流会をやりたがっている。  なぜかと言うと、北京大学というところ自体が……エリートばっかり集まってるから「体制バンザイ! 中国共産党バンザイ!」の組織かというと、そうではなくて。中国の中でもかなり過激な学生運動の拠点でもあるそうなんです。  政府としても「『ガンダム』の富野由悠季を見たいという学生の声を抑えてしまっては、また暴動になる!」という。おそらく、ほんとにそう考えたんですよ。  で、そのおかげで、富野さんが講演する時には、どこか挙動不審な、なにかを隠し持っているかのごとく背広の懐部分が妙に盛り上がった人が、SPみたいに付き添っていたそうなんですね。なかなか面白いなと思いました。  ……いや、これは楽屋話だった。やっぱり今のは忘れてください。僕の妄想です。はい(笑)。
    ・・・
     他の大学でもアニメ研というと、だいたい数百人規模だそうです。つまり、中国では、今、エリート層が行く大学の学生数が数万人規模になってきていて。その中でアニメ研というのが数百人。  北京大学4万人のうち600人ってすごいですよね。北京大学の人口の1.5%がアニメ研に入っているということなんですね。  そんなの聞いたことがないですよね。日本でも一番アニメやマンガが盛んだった1980年後半から90年代に入りかけの時でも、「大学生の1%が漫研、アニメ研に入る」なんて話、僕は聞いたことないんですけれども。  だって、漫研、アニメ研に入るってことは、イコール「僕たちは日本の文化が好きです!」と宣言してるようなものだから。ある種、それを北京で宣言するのは危ないことだと僕は思うんですけれども、そういう危険を冒してまで入ってくるし、熱心に富野さんの講演を聞きに来る学生がそんなにいる。アニメ研がそんなに存在してるって、僕、びっくりしました。  これ、中国じゅうの大学が、まあそういう感じなんだそうです。今、漫研、アニメ研に人がわんさか入っている状態で、それを見て富野さんは「なにかが変わりつつある」というふうに考えたそうです。  まず一つ言えるのは、中国では富野由悠季の『機動戦士ガンダム』にしろ『海のトリトン』にしろ『ザンボット3』にしろ『伝説巨神イデオン』にしろ、どの作品も一度もオンエアされたことがないんですね。どの作品もDVDもビデオも売られたことがないはずなんです。  ところが、北京大学の講演会に来ている600人の……一般公開の講座だから大学外の人も来てるんですけども。その人達は全員ガンダムを知ってるし、ガンダムを見てるし、富野由悠季という人を目当てに来てるんですね。  変な話なんです。もし、中国が本当に世間やマスコミで言われてたりするように言論統制がとれていたり、中国共産党によって情報統制がされているとしたら、富野由悠季の名前を知ってるわけがないし、もし名前を知っていたとしてもそれを映像で見ているはずがないんですね。  だけど、来てるやつのほとんどは富野由悠季のガンダムを通しで見たやつばっかりなんですね。  富野さんはそれを見て、「中国における言論統制というのは、実はもうほとんど成立してないんだな」って考えたそうです。  僕らはまだ「中国がネットに関しては抑圧してる」と考えがちですが。そりゃ、抑圧はあるでしょうし国家の制限はあるのでしょうけれども、完全な抑圧なんてできるものではないっていうのがこの一例でわかります。  おそらく、世界で一番厳しい監視下……北朝鮮とかもっと厳しいでしょうけど、北朝鮮はそれ以前にパソコンとかそういうものの絶対数が少ないですから。そういうものが、ある程度は豊富にある国で。国民に対して中国共産党はかなり制限してるはずなのに、もう隠せなくなってる。抑えられなくなっている。  諸外国に対して「中国共産党が情報統制をやっているんだぞ!」という、ジェスチャーとまでは言わないですけれども、そういう虚勢を張ってるだけの状態にジワジワとなりつつあるんだなあ、と。  そういうことを、僕は富野さんの講演を聞いて感じました。
    ・・・
     もう1つ、富野さんが感じられたのは熱意のすごさですね。  で、この熱意のすごさというものについて、富野さんは必ずしもポジティブな意味だけでは使っていませんでした。  「この熱意のすごさ、層の厚さというのを感じると、僕は何とも言えなくなる」って言ってたんですね。  どんなことかというと、彼らの同人誌を見たそうなんです。  同人誌は、今はDTPとかが使えますから、すごくキレイな出来なんですけども。  それを見てわかるのは「彼らがアニメがどれくらい好きか?」「日本のアニメをどれくらい知っているか?」ということ。  それは『ガンダム』かも『エヴァンゲリオン』かもわからないし、そのほかのいろんな日本のアニメの作品も載ってたそうなんですけども。「どんなに好きか?」、そして「何かをやろうとしている」のが伝わってきたと。  つまり、「単に好きで同人誌作ってるんです」というのではないんです。  今の日本のアニメファンとかマンガ研究会とかを見たら……僕は自分自身が大阪芸術大学で教授やってるから分かるんですけども。マンガを好きとかアニメを好きだとかいっていても、最近の日本の学生の人っていうのは同人誌活動をあまりやらないんですね。  それは「ブログがあるから」「ネットがあるから」とよく言われるけど、それだけではないです。何かを表現しようとしたら絶対に形に残したくなるんですね。  だから、同人誌とか、もしくはブログにしても「どんどんデータを増やしていって~」ってやりたくなるはずなんですけども。そんなブログを作っている人がほとんどいないし、同人誌活動もアニメファンの数が増えているわりには盛んになっていない。  つまり富野さんから見たら「日本のアニメファンは熱的に徐々に下がってきている」と。  「ファンがヌルくなってる」という言い方よくするんですけれど、そう言うよりも、本当に「熱意全体が持ちにくくなっている」。  たぶん、日本のファンだけ見てたら、それはよくわからないんです。  中国に行って、北京大学の学生を見た時に、あまりに膨大な熱量をバッと浴びて「ああこれだ!」と富野さんは思ったそうです。「二十年くらい前に俺がガンダムやってた時と同じだ!」と。  『伝説巨神イデオン』が終わった時に「アニメの受け手送り手接触キャンペーン」っていうのをやったんですね。富野さん自身も参加した。受け手送り手って何かというと、「アニメを見る側と作る側が対等な立場になって出会おうよ!」という当時のアニメ界ではかなり革新的なキャンペーンをやったんですよ。  当時のアニメ界っていうのは、アニメを作る人とアニメを見る人の間にすごい距離があって。で、アニメのファンの人が業界に入るようなことはほとんど考えられない状態だったんです。  その時代からアニメを作ってこられた富野さんが今、北京に行って「20年ぐらい前のあの当時の熱いアニメファンと同じようなやつらがいる! でも違う! 何が違うのかというと、こいつらは最精鋭のエリートで、おまけにこの大学だけで600人いて、そしておそらくこの国には何10万人といるんだ!」ということに衝撃を受けたそうです。
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     富野さんは「これはどうなるんだろう?」と話をしてました。はっきり言って「5年から10年後、日本のアニメ産業は負けるな」というふうに感じたんだと思います。  富野さんも流石にそこでは言葉を選んで、「アニメ産業が負ける」っていう言い方はしていません。「このままではエラいことになる! このまま日本はずっとアニメの先進国で、彼らが作るアニメはチャチで、そして彼らは著作権とかを気にしないでパクリばっかりやっている、そういうふうに笑っていられる事態ではない!」という、すごく回りくどい言い方をされていました。  一方で、講演の他の場所では「そのチャチに見えるアニメーションというのを、テレビでオンエアするためには、どれだけの手間が掛かるのかを僕は知っている。俺が昔作った『鉄腕アトム』を見てみろ! あれはテレビアニメじゃない。テレビマンガだ!」っておっしゃっていた。  テレビマンガっていうのは何かっていうと。アニメは動くんだけど、マンガは止まった絵なんです。つまり、テレビでマンガを見せているだけ。「これが動いていないということは、作っていた当時から自分たちでもわかっていたから、テレビマンガという表現を使っている」って話をされていたんだけども。  「その当時、東映動画の宮崎駿さんや高畑勲さんたちが『鉄腕アトム』をどれだけバカにしてたか」というのが、手塚治虫の伝記小説にはいっぱい書かれているんですよね。  「動いてない!」「アニメじゃない!」「やっぱりマンガ家にアニメは作れっこないんだ!」「毎週一本テレビでアニメなんか作るのは不可能だ!」「あれはアニメじゃない!」「チャチだ!」っていうふうに笑ったって書いてあるんですね。  で、今の中国国内で流れているものというのは、北京大学の大学生すらも「チャチだ!」って笑うようなものなんですけども。富野さんにしてみれば、それを毎週オン・エアーできる状態というのが、そろそろ、どういうことになるのかがわかるんです。  今、中国では、平日、土日以外のウィークデイは夜も朝もアニメやってるそうです。これをもう何年も続けているそうです。この基礎力がずっと続いているっていうことは、日本のテレビ業界でいうと60年代末ぐらいの状態に徐々に徐々に近づいていく。「もうすぐブレイク・スルーが起こるであろう」っていうことは富野さんは自分自身の経験ではっきりわかっている。  なので、ここから5年後、10年後、日本のアニメ界がおそらく負けるであろうということが、富野さんにはだんだん見えてきているんですね。
    ・・・
     もちろん、お話作りとか、内容とかキャラクターのセンスに関しては、日本にまだ分があるかもしれない、日本は勝っているかもしれない。しかし、それはどういう勝ち方か?  僕、自分自身が思いついた例があったので、楽屋で富野さんにぶつけてみました。  1960年代ぐらいにソニーが小型のラジオを作ってアメリカに輸出したんですね。  その時、アメリカ人は感心しながら笑いました。「ああ、日本人は国土が小さいし国民も背が低くてちっちゃいから、ちっちゃい物を作るのが上手いよね。俺たち、こんなちっちゃい物は作れないよ」って。  その当時のアメリカは大型のテレビ、大型のステレオ、大型の冷蔵庫と、ひたすら大きい物を作り、車もひたすら大きく作っていた。なので、日本から輸出されるコンパクトカーとか、もしくは小さいテレビとか小さいラジオを見て、ずっとアメリカ人は笑っていたんですね。  でも、そんな小さい物を作る技術というのは、彼らにはなかったんです。「そんなものは別に必要ないよ。俺たちだっていざとなれば作れるだろ? そんなものは日本に任せちゃえばいいんだよ」と言いながら、徐々に徐々にアメリカの没落が始まりました。  アメリカの家電製品の没落というのは、1970年代から80年代ぐらいにかけて、ついにアメリカの国内でテレビを作れなくなったという事件が起きたんです。  もちろん、作れるんですけども、アメリカで作ったらとんでもなく高くついちゃうし、ブラウン管式のテレビを作る技術者がアメリカにはもういなくなってしまった。  だからもう「テレビみたいなものは日本人に任せればいいんだ!」「アメリカは最先端のパソコンとか科学の先端やればいいんだ!」って。アメリカ人にしてみれば負け惜しみかもわかんない……まあ、今見りゃ負け惜しみなんですけど。その当時は「いや、住み分けだよ」みたいなこと言って。徐々に徐々に撤退していったんですね。  その結果、アメリカの家電業界は1980年後半ぐらいから完全に日本に乗っ取られたような形になりました。現在ではそれがまた逆転してですね、日本が韓国や中国に乗っ取られたような状態になっているんですけども。  おそらく、今、これと同じような状況が中国と日本のアニメ界で起こりつつあるんです。  僕らからしてみれば中国のマンガやアニメというのはもちろん……1960年代当時のアメリカの家電業界の人からみたら、日本製品なんてロクなもんじゃないですよ。壊れやすいし安っぽいし音も割れるかもしれない。安いだけが取り柄で一杯作っている、てなもんですね。  でも、そこからずーっと作り続けて、ずっと研究していったら、10年から15年くらいでアメリカ製品を全部ひっくり返すぐらいの力を持っていた。  そして「この、日本が家電製品でやったようなことを、中国はコンテンツ・ビジネスでやろうとしているのではないか?」っていうのが、富野さんの読みです。  だからこそ、北京大学の、最高学府の学生達が数百人アニメ研に入るような事態になっている。  そして、彼らが5年後10年後……なんせ中国の東京大学、中国のハーバードですから、現場に入るんじゃないんです。彼らはプロデューサーになり、映画会社の重役になり、そして、それらを輸出するようなビジネスマンになって、中国のコンテンツ産業に参加してくるわけですね。  で、「ははあ、なるほど! こういうふうに考えればいいんですか?」と富野さんに聞いたら、「そうです」って富野さんはおっしゃいました。
    ・・・
     今の中国のアニメっていうのは、たぶん、中国の宇宙開発と同じようなもんなんですね。  国策として、一気に先進国に追いついて追い越そうと考えている。だから、「世界最速のコンピューターを中国が作る!」「世界最高の宇宙開発も中国がする!」と。そして、「そのうちコンテンツ・ビジネス、マンガやアニメでも世界最高のものを中国がやる!」というような意志がある。  これは逆説的に聞こえるかもわからないですけど。主語として「中国が」って言ったんですけども、そうでないほうが恐ろしいと思うんです。「彼ら国民一人一人がやりたくてやっている」というのが、この恐ろしいところなんですね。  つまり、さっき言ったように北京大学のような場所自体が、全共闘時代の東京大学みたいなもんですから、学生運動の本場でもあるんですね。反体制で頭のいいやつが集まるところでもあるんです。だからこそYouTubeとか見まくって『ガンダム』を知ってるやつばっかりが集まるわけですね。  そんな状況の中で富野さんは講演されてきた。  これが「国策としてアニメを作ろうとするだけ」ならそんなに恐ろしくないんですよ。「国家をあげてアニメを作ろう!」なんて言われたら「そんなもんができるかよ!」って思うぐらいの反骨心は富野さんもまだお持ちなんですけど。  そうでなくて、「ああ、こいつら一人一人が本当にアニメが好きなんだ。おそらく宇宙ビジネスも好きだろうし、おそらく世界最速のコンピューターも好きなやつらなんだ。そして、そういうやつが何100万人、何1000万人といて、その母集団の中で最優秀のやつらを集めてるのと同じ事なんだ」って。  そういう意味で「自分たちが作っているアニメビジネス自体の足下が本当にグラッとするのを感じた」っておっしゃってました。  日本という国が第二次大戦後、急激に工業化しましたよね。それまで農業やってたり、もしくは家内制手工業とか、あとは小さい町工場にエンジンが1台か2台あってそこで動力を回してたところから、日本中に一斉に小さい工場がいっぱいできて、戦後の日本の工業化、復興というのがあったんですけども。  かつての日本が工業化したのと同じように、中国はものすごい勢いでコンテンツ化しようとしているというふうに、僕には見えました。
    なぜ日本のアニメーションがどんどんダメになったか
    【画像】ゼミ会場から あと、面白かったのが「サブカルチャーのバブル」という言葉を富野さんが使ったんです。これも面白かった。  そんなふうにおっしゃっていないんですけど、たぶん、これが富野さんのオタクの定義なんです。  オタクというのは何かって言うと。「日本にはバブルが2つあった」と。1980代と90年代ですね。  1つ目は「経済のバブル」。それは僕たちの社会にいまだに尾を引いて被害を起こしている。まあ、被害と言ったら悪いことだけに聞こえるかもわかんないけど。  僕たちは豊かさを経験することによって色んなものが見えるようになったんだけど、やっぱりそこで「儲けなければいけないような気がする」とか「お金がなければ幸せになれない気がする」とか、あとは農業から急激に人が引いてるとか、色んな被害を受けたはず。それがバブル経済の被害です。  同じように「「サブ・カルチャーのバブル」もあったのではないか? それがオタクなのではないのか?」ていうふうに、おそらく富野さんは考えています。
    ・・・
     でも、それについて僕は、楽屋では聞けなかったんですね。  聞けないのには理由があって。あの、富野さんの講演を聞きたかったのは純粋に「聞きたかった」だけであって、終わった後で楽屋に入れたのはほんとに偶然だったんですね。  富野さんの知り合いにたまたま会って、で「中に入りますか?」って言われて、ご挨拶して、ってことだったので。  僕はあんまりそこで答え合わせをしたくなかったんですね。  っていうのも、昔、僕が富野由悠季さんに初めて会った時に「僕、ガンダムが大好きです!」って言ったら、富野さんは間髪入れず「あなたはガンダムなんかが大好きなの? 僕はガンダムなんか大キライ!」ていうふうに……まあ、あの、今も時々出てくるオネエ喋りです(笑) 。それでビシっと返されて。  で、その時に「この人なんなんだろう?」って思った疑問がいまだに僕の中でずっと続いている。これが「富野由悠季をわかりたい」っていう原動力なんです。  その時から僕は勝手に「俺は富野由悠季の弟子だ!」っていうふうに自分自身に言ってるんですけど。今日も、まあ、本人の前で「いや僕はあなたの弟子ですから!」って言ってきたんですけど。  僕は昔、富野さんにそういうふうに言われて「この人なんでこんなこと言うんだろう?」って。「もし強がっているんだとしたら、なんで僕みたいな若造の前で強がらなきゃいけないんだろう? なんでこの人はこんなにねじれちゃってるんだろう?」っていうのが謎で。  その謎っていうのを解き明かすではなく、本人から教えてもらうのではなく、僕は勝手に解釈して。「あ、富野さんてこういう人なんだ!」イコール「人間てこうなんだ!」イコール「ガンダムってこうやって作られているんだ!」イコール「人間にとって物語とは何なんだ!」……っていうふうに、富野さんを起点に色んなものが解きほぐれていく。  これが、師匠と弟子の関係だと思ってるんですね。
    ・・・
     なので、あんまり答え合わせみたいなことはしたくなかったんですけども。  富野さんが一生懸命話してた「中国が今すごいんだ! そして、そのすごいっていうのは何かとんでもないことで、僕たちにとっては怖いことなんだ!」っていうのを聞いて「富野さん、それはかつての日本のトリニトロンテレビがアメリカに与えた衝撃みたいな話ですか?」て言ったら、「そう! それそれ!」って楽屋で言われたんですよね。  だから、「俺は答え合わせができたし、富野さんは今後、講演する時にこの言葉を使ったらラクになるだろうなあ」っていう。お互いにいい取引だったんですけど(笑)。  そういうことがあるんで、あんまり答え合わせしたくないんです。話はズレますけど。  だから、講演とかで、よく質疑応答をするんですけど……後で質疑応答大会やるから、こんな話をしたらやりにくくなるかもわかんないんですけども。質問っていうのは「自分に対する質問だ」と思った方がいいですね。  「これを聞きたいんですけど」と聞く時は「前に立っている人が答えてくれる」のではなくて。「前に立っている人がヒントみたいなものをくれるから、それを元にして、5年がかりか10年がかりで自分で答えを見つければいい」っていうぐらいの考え方が一番楽しいと思います。  ごんめんなさい、ちょっと話が横に流れました。
    【画像】ゼミ会場から で、なんかね、「ちょっと怖いなあ」と思った話。 (ホワイトボードに図説しながら)  かつての米国と日本の関係を考えると、アメリカは先端技術で家電製品を作ったわけです。ゼネラル・エレクトロニックの冷蔵庫とか、そういうのは日本人の憧れだったわけですね。  それを日本人が作るようになった。そしたらアメリカ人は、もう生産する手段を失ってしまった。で、どうなったかっていうと、「じゃあ、企業の買収だけしてればいいや!」ってことでここでマネーゲームに行った。  じゃあ、「日本が生産を独占していて、アメリカは金融経済だけ発達していたのか?」っていうと、そういうわけでもなくて。徐々に徐々に形が変わり続けていく。やっぱり、マネーゲームだけでは国というのが成立しないので、こっからアメリカは徐々にIT化の方に動きました。  で、日本も同じくIT化のほうに動いたはずだったんですね。まあ、日本の場合はマルチメディア化っていうのが80年代ぐらいに言われていました。  では、このマルチメディア化をやった結果、今、どうなっているのかと言うと。  日本ではソニーなり富士通なりが、パソコン作ったり、スパコン作ったり、あとゲーム機作ったり、携帯電話を作ってたはずなのが、これがいつの間にかガラパゴス化っていうふうになってきた。ガラパゴス……カッコイイですね。宇宙怪獣ガラパゴスみたいで(笑)。  で、その間、アメリカがどうなったのかと言うと、プラットホーム化するようになってきた。プラットホームっていうのは何かっていうと、ネットとかのインフラを作る、もしくはそのインフラの中の仕掛けそのものを考えることですね。  だから、今、アメリカは、この「マネーゲーム → IT産業 → プラットホーム化」という形で産業形態を変えている。ネット上の仕掛けや仕組みというもの、もしくは、そこで行われる「どのようにして情報を交換するのか」っていう情報交換のルールを決めることによって、ネット上における事実上の法体系を決めてしまったわけです。  これは、ネットがアメリカ人の大好きな法社会になったということです。  ところが日本はその中でガラパゴス化しちゃったから、こっからもう一回、産業界のネットワークに入ろうとしたら、どうしてもアメリカのプラットホームに乗らざるを得ない。  なので、日本のコンテンツ産業は作っても作っても作っても作っても、アメリカのプラットホームにお金を与えるだけになってしまった。  では、家電はどうなったのかっていうと、今や中国や韓国が作るようになってしまった。かつてのアメリカを日本が追い落とした時とまた同じ構図ですよね。  そうなると、日本というのは、真ん中で抜かれちゃっている状態なんですね。かつてお金を稼いでくれた家電は中国や韓国のほうに奪われて、そしてマルチメディアとかで情報立国になるはずだったのが、それはプラットホームという形でアメリカに抜かれて、真ん中で何もない状態になっている。  「でも、その中でもまだコンテンツビジネスだけはあるよ!」って。つまり、「ソフトだけはあるよ!」「マンガとアニメはあるよ!」って言ってるんですけど。  だけど、ピクサーぐらいの規模でアニメ作品を作られたら、CGアニメのほうはアメリカに抜かれるし。そうじゃないような、日本人がやっている手作業のアニメっていうのでも、中国が本格的にやりだしたら、北京大学のアニメーション好きの学生が研究とかやり出したら、「これ、10年先はどうなるかわかんないぞ」っていう話なんですね。  「本当に僕らは何にも無くなっちゃうんじゃないのかな……?」っていうのが、おそらく富野さんが感じていた恐怖だと思います。
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     で、まあ、ここらへんでですね富野さんの、ちょっと良い発言が出てきて。  「アニメーションっていうのはね、色んなものを持ち込まなきゃダメなんだ!」と。で、なんで日本のアニメーションがどんどんダメになったかっていうと「アニメを見ているようなやつがアニメ界に入ってきたからだっ!!」っていう、富野さんが昔から言っている、僕や庵野君に対する悪口がまた始まるわけですよ(笑)。  「お前らみたいにアニメだとか特撮とかを見て、それをもう一回アニメ界でやりたいとか言うやつらが入ってくるからダメになるんだっ!!」っていう。まあ、おっしゃる通りなんですけど。  別にアニメに限らず、あらゆるメディアとかエンターテイメントというのは総合的な芸術であるから。他の色んなもののファンが集まって……プロレスファンから、釣りファンから、F1レースのファンから、スポーツファンから、山登りが好きなやつから、色んなヤツが集まって、自分が知っている面白いことっていうのをちょっとずつ乗っけて総合的に作らないと、みんながビックリして感動するようなものが作れるはずがない。  「なのに、アニメーションを見て、好きで、それをアニメでやりたいっていう縮小再生産では、成立するはずがない!」と。そういうふうに富野さんは考えてたんですよ。  そこで富野さんが言っていたのは「だから! 色んな人材が入らなければダメなんですよ! 例えば自衛隊の人が入ってきたり……自衛隊って言ったら危険かな? じゃあ、例えばゲイバーの人が入ってきたり~」って(笑)。  そういう時の例えとして、急に自衛隊とゲイバーを出したりするから、俺みたいな人間にツッコまれるわけですよ。  富野さんにとって「多様な人間が必要だ!」ってなると、いきなり自衛隊とゲイバーなんですよね。つまり、富野さんの中では色んな人間、今のアニメ界にいない必要な人材というのは、マッチョかオカマかのどっちかなんですよ(笑)。  「面白れえなあ、このおじさん」って。本人も流石に「自衛隊とゲイバー」って言いだした辺りで、慌てて色んなことを言い出したけど。「例えば主婦とか!」って、なんか言い訳みたいに言うとこもかわいかったです。
    ロリアニメは女の子の「恋愛不全」の原因?
    【画像】ゼミ会場から そういう話の辺りで、ちょっと気になったフレーズが出てきました。  富野さんがその時に話してたのが、最近の女の子が見ているアニメ。あの『プリキュア』みたいなやつです。「そういうふうなものが、はたして子供が見るに適しているのかどうか?」と。  「6歳とか8歳の女の子が、ああいうスピード感のあるものを見て、本当に楽しいと思うのかな?」、もしくは「6歳8歳の子供にあんなスピード感のものを見せて、他に見せるものとのバランスとかを考えているのか?」って話をしてたんですね。  まあ、富野さんのこの話は、最近のアニメに対する批判なんですけども。僕には、それを聞いて「あっ!」って、頭の中にひっかかったことがあったので、楽屋に行った時に富野さんに話したんです。  大阪芸大だけではないと思うんですけど、最近、学生、特に女の子の学生からの相談で「私はバイです!」とか、もしくは「私は同性愛かもわからない」っていうカミングアウトがすごく多いんですね。  これがね、この5、6年間ぐらいで、本当にどんどん激増してきてるんですよ。5、6年前まではまだ、彼女たちもそれで悩んでたりしてたんですが、最近は「だから彼女を作りました!」とか「彼氏はいらない。彼女がいれば」みたいな話があったり、あと「○○は俺の嫁!」っていうのが、もう、最近は女の子同士で言うようになっている。  これは、ひょっとしたら当たり前かもしれないんですよ。昔から、センスが先端的なところに、同性愛の人とか、もしくはヘテロだけでない人が集まるのは当たり前のことで。僕もそう思って解釈してたんですけども。  「あれ?」って思ったんですね。というのも、女の子が女の子を好きになるという場合、彼女たちから同時に出てくる話っていうのをまとめると、どうも「恋愛不全」っていう現象が起こっているような気がしたんですよ。  僕たち男はですね、ついつい男性の恋愛不全現象ばっかり考えてしまうんだけども、実は今の20歳ぐらいの女の子を中心とした恋愛不全現象ってかなり深刻じゃないかな、って考えました。  で、その原因の一つが、いわゆる『プリキュア』などのロリアニメではないのか?  これ今日、僕が富野さんの講演を聞いてる最中に「あっ!」と思いついた仮説です。こう考えるとかなり色んな事が説明つきます。
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     ロリアニメっていう言い方をしたものがつまり何かっていうと、「女の子はかわいい!」「女の子は素晴らしい!」「少女らしくあることは良い事だ!」、そして「女の子というのを愛でたい!」というアニメのことですね。  日曜の朝とかにやってる……まあ、日曜の朝じゃなくてもいいんですが。そういう女の子向けのアニメというのは二重構造になっています。  一重構造は「小さなお友達向け」ですね。つまり女の子がみて「かわいい!」とか言って、憧れたりするようなお話になっています。  しかし、二重構造目としては「大きなお友達向け」になっている。大きなお友達ってのはなにかっていうと、まあ、オタクなお兄さんであるとか、お姉さんであるとか。もしくは、娘と一緒に平和な顔してアニメを見ているパパが、実はヨコシマな心で見ている。そういう二重構造ですね。  で、そういうアニメを作る人間も売る人間もこの二重構造のことをよくわかっているんです。そして、「この二重構造は子供にはバレない」と思っているんです。  でも、富野さんがその後、講演のクライマックスの『海のトリトン』の話の中で「本気で作ったものは必ず子供に伝わる!」っていう話をされていたんですね。  それと合わせて考えると、このロリアニメが持っている二重構造も、本来、子供には隠しているはずの「女の子っていうのはかわいいんだ! そして、愛でるのがいいんだ!」っていう部分が、子供に伝わらないはずがないんです。  なぜかと言うと、その二重構造の二重目の部分にこそ、物を作る人間なりアニメーターなりシナリオライターの本気度が強く掛かっているからですね。  つまり、子供向けの部分はいわゆる外側のガワ構造であって。まあ、ちゃんとは作ってるんですけども。より熱量が高い、本気度が高いものっていうのは、そのロリアニメのロリの部分なんですよ。  結果、それを大量に見た女の子たちが十数年後、今、20歳になって恋愛不全現象を起こしている。  僕がショックだったのは、これまで「ロリアニメみたいなものがはたして社会に対して害毒かどうか?」っていう表現の自由とかそういうのを考える時に、青少年の性犯罪っていうことを中心に考えてたんですね。  つまり、「ロリアニメによって男の子の心は破壊されて、幼女に対する性的衝動を覚えるかどうか? それで犯罪を起こすのかどうか?」っていう部分ばっかり語られているんだけども。  ひょっとしたら、それよりも遙かに大きくて、そして、今まで僕たちに見えないところで進行してきた事態というのが、今の女の子の恋愛不全という現象ではないのかな、と。  こういうふうに考えると、今、僕が大学でみんなからレポートをもらいながら「あ、こんな現象が起きてるんだ」って思うことにピッタリあてはまるんですね。
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     それを思い切って楽屋で富野さんにぶつけると、富野さんは絶句して「それしかあり得ないよぉ!」って、メチャクチャショックを受けてました。  たしかに、富野さんのような作っている人からしたら「自分たちが本気で作っているもののメッセージは子供達に伝わっちゃっている」ってのが理解できるんですね。  で、それを20年ぐらい前から、作る側は「どうせ子供にはバレない」と思って、それを無自覚にやっていて。それが男の子に対する被害だったら自分たちもあらかじめ計算してたし、そういう事件も何度も起こってるからわかってる、許容範囲のつもりだった。  ところが、女の子に対して自分達は何かとんでもなく酷いことをしてたんだ……いや、酷いかどうかわかんないですけども、その人が幸せだったら構わないと思うんですけど。  でも、現実に恋愛不全という現象を引き起こしてまで、ああいうアニメを作り続ける意味や価値が道義的に正しいのかどうか? それに関して、僕たちは何も考えなかったっていうことなんです。  そんなことを考えて、ちょっと「おおっ!」と思って。  富野さんに楽屋で話したら、富野さんも「おおっ!」ってなって。  で、富野さんの奥さんも「おおっ!」ってなった、と(笑)。
    天才と「雇う側が本当に欲しい人材」の関係
    【画像】ゼミ会場から そこから、富野さんの昔話に入って。  日大芸術学部を卒業して就職先がないので虫プロのアニメの演出になったっていう話ですね。  「仕上げのお姉さんたちに直に頭下げないと仕上げをやってもらえないんだよっ!」っていう。まあ、わりと昔話でした。  まあ、昔話でありながらも、富野さんがすごく伝えようとしてたのが、リアルな人間関係ってやつですね。  虫プロでは、同じフロアに全スタッフがいるんです。そこで、アニメ原稿の仕上げをするお姉さんたちに富野由悠季という人は嫌われていたそうですね。  嫌われるとどういうことが起きるのかというと、本当に『鉄腕アトム』の富野さんの担当する話の色を塗ってくれなくなるんですね。目に見えない形のいじめみたいなもんではなくて、富野さんの担当カットのカット袋が積み上がって減らないわけです。  で、富野さんはその自分を嫌っているとわかっている20人ぐらいのグループのお姉さん一人ひとりに会って。本当に具体的に頭を下げて「やってください!」とか言ったら、ものすごい文句言われたり、「何でこんな事を~!」とか「 だいたいアンタは~!」みたいな、言ってもしょうがないことを言われて。それでも、頭を下げてでも、無理言ってでも仕事してもらう、と。  こういう誰かに仕事を頼むっていう時、その人が怒ってたり機嫌がよかったりするのは、必ずしも合理的な理由なだけでなく理不尽なこともあって。  そういう場合でも何が何でも頭を下げてまでやってもらわなければいけない立場っていうのが、演出とか制作進行の立場で「こういうふうなことを君たちはわかってるのかっ!?」みたいなことも言うんですけども。  富野さんの言うことは、別に『海のトリトン』の時代だけでなくて、僕がアニメを作ってた時代もそうなんですけど。  富野さんの危惧は、それが東南アジアの下請け会社にネット経由で仕事を流して行って、断られた。断られたら「でも、もっと安い値段で受けてくれるところがこの国ではある」っていうふうに他所に頼む。そうやって、分散すれば分散していくほど、他人に頭をさげてやってもらうということがなくなってしまう、と。  つまり、仕事っていうのは、値段とか条件とかでやってもらえたりするんだけども、「そういう、やってもらえないという理不尽な状況を前にして、具体的に目の前の人に頭を下げるという行為なしに、人は大人になれるのかっ!?」みたいな、問いかけをするんですね。  富野さんの話ってね、自分のアニメの面白い経験談と、そういう説教が合体してるから、聞いてる僕も、もう、面白がっていいのやら、申し訳なく聞いていいのやら、わかんないですけども(笑)。
    ・・・
     あと面白かったのは、富野さんが言ってた「アニメは映画であるということを早い段階から発見した」って話。  アニメは映画であるというのは何かっていうと、例えば『鉄腕アトム』のように、止まっている絵を見せるしかないような作品であっても、そのコマを、止まっている絵を何秒も何秒も見せる、つまり、「見る側に時間を強要している限り、それは映画である」ていう話をしていました。  そして、もう一つの特性は「ストーリーがないとアニメ作品というのは成立しない。映画というのは成立しない」と。  絵に関しては、実はどうにでもなる。絵に関しては上手いやつっていうのはいるし、上手くないやつが集まっても何とか作品っていうのはできるんだろうけども。  ただ、物語をつくる、お話をつくる、ストーリーを語るっていう才能は希有であって、いまだに富野さんは「やっぱ教えられない」って言ってます。  北京大学で講演をする時も「そこの部分を教えてくれ!」と言われて、誠意を持って考えたんだけども、やっぱり教えられない。「希有な才能である」と。  その才能は「何かを語りたい!」という意志や、語るべきことが自分の中にないとどうしても生まれてこない。その意味では、物語を語る才能、お話を作る才能っていうのは、すごく希有なもので。  それは、8歳から10歳ぐらいまでに、何か習った時に「なんでこうなの? もっとこうすればいいのに」とか「ああ、君たちみんなはこういうの好きなの。でも僕はこっちのが面白いと思うけど。とりあえずこの話聞いてくれない?」っていうような、自分の状況に対する疑問と、それに対する再提案みたいな習慣が、子どものうちに身についていないと無理だ、って言ってます。  で、そういう話を、会場中の、みんなオーバー30くらいの男達が聞いているわけですけど。「そんなこと今更言われても……」みたいな(笑)、 ちょっと面白かったです。
    ・・・
     じゃあ、アニメーションというのは、そういうすごい才能の人ばっかり集まってやるのかっていうと、決してそんなことはない。  「アニメーションていうのは、虫プロに自分が入れたことでわかる通り、中途半端な才能でも充分作れる」と。まあ、富野さんは卑下して言うんですけども。  そんな中で「まあ、宮崎駿とか大塚康生は、ちょっと、もう別格なんだよ」って話をしていて。  富野さん自身が、昔、宮崎さんや大塚さんの引いた鉛筆の線を見た話というのをしてました。あの話は良かったです。  僕も、上手いアニメーターの引いた線って見たことがあるんですけど。  上手いアニメーターが引いた線ってね、別格なんですよ。鉛筆で描かれたものなんですけど。普段、「鉛筆で描いてペンで清書しない」っていうのは欠点にしかならないんです。だけど、上手いやつが描いた鉛筆画っていうのは、色がついてたり仕上がったりしてるものよりも、見てる側の想像力を喚起する、すごい力を持ってるんですよね。  で、富野さんがそれに対して言ってたのが「上手いアニメーター、もう、宮崎、大塚レベルが描いた原画とか線は、消しゴムが掛けられない! こんなものにどうやって消しゴムを掛けたらいいかわからないから、もうそのままいただくしかない!」って話をしてたんです。  これね、すごくわかるんです。  で、「そんなスタッフがアニメ界に存在することが良いことかと言うと、必ずしも良いことばかりではない」っていうお話をしてました。  なぜか? アニメというのは数十人の共同作業で作るんですね。数十人の共同作業で作る時には、全員のレベルが均一に高いというのはすごく良いことなんです。あるいは、全員のレベルがある程度バラバラというのも良いんです。上手いやつが下手なやつを教えられるから。  でも、その中にものすごく上手いやつが一人いたら? それを見た全員が萎縮しちゃうんです。  宮崎さんとか大塚さんがいた当時のアニメ界ではそういうことがよくあったそうです。彼らの絵を見たら、それは原画かもしくはレイアウトですから、アニメーターがその上に線を乗っけて動画に落としていかなければいけないんだけど。誰も怖がって出来ないんですよ。  大塚さんの絵に自分の絵を乗っけて、間を作画で割っていく……割るっていうのは、間の動きを補完することですね。手を振るシーンだったら、原画家の大塚さんは振り始めと終わりの絵だけを描くんです。その途中の何枚かの絵を割っていかなきゃいけないんですけども、これがもう割れない。  「大塚さんの絵を殺しちゃうから私はできません!」って言って、結局、スケジュールが遅れることになっちゃう。  天才とか才能のものすごくある人っていうのがアニメーションのレベルを上げるのかっていうと必ずしもそうではないんですね。  アニメというのは、ダメなスタッフがいたらレベルが落ちるんだけど、すご過ぎるスタッフがいたらスケジュールが遅れるんですよ。  面白いですよ。確かにその通りなんです。……ああ、経験ある経験ある(笑)。
    ・・・
     じゃあ、そんな中で富野由悠季という人間がどのようにして『鉄腕アトム』という作品を作って生き残ってきたか? 「それは富野由悠季という人間が一度たりとも締め切りを破ったことがないからだっ!」ってふうにおっしゃってました。  つまり、「実は一回もコンテとかで褒められたことがないんだけども、絶対に締め切りを破らずに納品していた」と。  当時のアニメ界では絵が上手いということは、今言ったように祝福だけでなく呪いでもあるわけですね。福音ではないんです。  絵が上手いやつが一人いると、それによってスケジュールがくるっちゃう。絵が下手なやつがいたら、クオリティが下がっちゃう。  じゃあ、どんな人間が当時のアニメ界で一番ありがたがられていたかっていうと、一番ありがたがられるのは、絵が上手いやつでもなければ、もちろん絵が下手なやつでもなくて、単に、スケジュールを守るやつが一番偉かったんですね。  ここから、富野さんは「今、みんな、なかなか就職とかが上手くいってない人が多いけども、何が一番大事かと言うと、おそらく人柄だろう」という話をはじめました。  どんな専門学校であろうと、どんな資格試験であろうと、会社という現場、仕事という現場でそんなのが通用するほど、試験というのは上手くできていない。  例えば、アニメの専門学校へ行って3年とか4年やったとしても、アニメーション作る現場に入って2ヶ月とか3ヶ月してから「あっ! やっと仕事がわかってきた!」ってなるわけですね。まあ、これは別に大学から企業入った人でもわかると思うんですけども。オン・ザ・ジョブ・トレーニングっていうか、企業で実際に働かないと、絶対に仕事ってわからないんですね。  だから、実は雇う側の人間が欲しいのは才能ではないんですよ。人材としてのスキルでもなければ能力でもなくて、人柄であると。人柄がよければ、そこでもうほとんどOKで。  あとは中学・高校レベルの理解力ですね。例えば、「スポーツで国体を目指す」ということがどういうことか知っている。国体を目指してサークル活動をやるっていうことは、国体に出た経験があるかないかじゃないんですよ。「国体を目指すんだったら、練習はこれくらいしなきゃいけないな。キャプテンはこれくらいのことしなきゃいけないな」っていうことがなんとなくわかっているというレベル。文化系のクラブで言えば、「県のコンテストを狙う」ですね。  そういうふうなことがわかっているくらいの理解力があれば、人柄プラス中高生程度の理解力があれば、それで充分働けるし、「それ以上の人材というのはもう望まれてないはずなんだけどな」っていう話をしてました。
    ・・・
     なんかね、この辺、面白かったんですよ。  というのも、僕たちはよりよい社会っていうのを作るのに、どうしてもシステムで考えちゃうんですよね。  僕は2ヶ月ぐらい前に、東京の六本木で『国民スナフキン化計画』って話をしたんです。  今の日本人がだいたい思っている「家を持たなきゃいけない!」とか「家族を持たなきゃいけない!」とか「結婚しなきゃいけない!」、もしくは、さっき話した恋愛不全にも出てきたんですけども「恋愛しなきゃいけない!」「誰かと友だちにならなきゃいけない」ということ。  この辺のプロテクトを外して人間関係、家族関係、あとは住む所っていうのをもっと拡張型にしていって。お互い縁もゆかりもない者同士がルームシェアするところから始まって、最終的にはネットカフェみたいなところで国民が暮らすような社会でも別に構わないんじゃないかなって話をしたんです。  その時に、同時に僕が、自分では強調したはずだと思ってたのが「それはおそらく人格者文明になるであろう」という話でした。  つまり、国民全員がスナフキンのように生きていくということは「ネットカフェをどういうふうに整備するのか?」「ベーシックインカムをどのように整備するのか?」っていうシステムの問題ではなくて。  そこで生きている人間、構成員一人ひとりが人格者であったり、もしくは、人柄的にいいやつでないと、そんな社会成立するはずがないんですね。  「どこへ行っても何をやってもそれなりに生きて行ける」ってことは「それだけ好かれる人だ」ってことなんです。  でも、それを講演で話したり、あと、ネットとかでそれの感想言ってる人を見たら、みんなやっぱりシステムのことを気にしちゃうんです。  「そのためには社会をどういうふうにすればいいのか?」、もしくは「その財源はどうするのか?」と、システムの方を気にしちゃって「それを構成する自分達自身がどういうふうに変わると、そっちに行くのか?」っていう話にはなかなかいかない。  なんか「富野さん人柄の話が、ここらへんで自分の考えてることにつながってきたなあ」と思いました。
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     で、ここら辺りから富野由悠季が熱を帯びてきて。  『海のトリトン』の頃の話で「子供達に向けてテレビでオンエアする作品として、本気で作った!」って仰ってましたね。  『青いトリトン』っていう手塚治虫の原作をアニメ化する時、富野さんは途中から呼ばれた監督だったんですね。  その時には、もう企画書は仕上がっていて、企画書を作ったのは、あの悪名高い……ってことはないですけど、こないだ死んじゃった西崎義展さん。あの人が、虫プロを倒産させた張本人と言われてるんですけども(笑)。  『トリトン』という作品をやることになった時に、一応、原作で決まってる設定と、そして人間関係がもう、西崎義展さんの描いた絵図で決まっていた。  どんなのかっていうと、「主人公は15歳の少年」で「真っ赤っかのマントを着ていて、なんかショートパンツみたいなのをはいてる」と。で、「なぜか白いイルカに乗ってる」と。「友だちとして3匹イルカがいて、おまけにガールフレンドが一人いて、そいつらと海をさまよっている話だ」っていうふうに言われて。  「こんな、どうにもならないような原作を与えられて、どうしようっていうの?」って。  だけど、その中で富野さんは、なんとかそれでも、子供達に「人生とは何か?」「俺が今生きている本気っていうのは何か?」っていうのを伝えようとしたんですね。
    ・・・
     で、その当時、ちょうど同時期に放送されていたテレビドラマが『木枯し紋次郎』って時代劇の作品でした。富野さんはこの話をしていません。僕は覚えてるんですけど。  それは何か、どんなものかっていうとアンチヒーローだったんですね。  それまでの時代劇のヒーローっていうのは「悪いヤツがいたら成敗する。困ってる人がいたら助ける」っていうものでした。でも、木枯し紋次郎っていうのは、口に楊枝をくわえて、困っている人がいて頼られても、「あっしには関わりのねえことです」とか「いや、僕には関係ないからやめてください」と言って逃げるようなヒーローだったんですね。そういうのが描かれていた。  つまり、その当時は日本という国が大きく舵をかえていた時代だったんですね。  1970年代半ばあたりのことです。宇宙戦艦ヤマトのちょっと前ぐらい。そこでは、大人が見るような番組でも、木枯し紋次郎のような「ヒーローでないヒーロー」を描くようになっていた。  じゃあ、子供が見るような番組では何を描くべきかと言うと、「なぜ、人は木枯し紋次郎になるのか?」「なぜ、人間はアンチヒーローになるのか?」「なぜ、私たちはヒーローでないのか?」っていうのを描くべきだと、おそらく、富野さんは考えた。  この辺は『海のトリトン ロマンアルバム』のインタビューで、昔、富野さんもちょっと答えてるんですね。  でも、その話はそれを読んだ当時の20歳ぐらいの僕には全くわからなくて。数年前、『BSアニメ夜話』でトリトンをまとめてとりあげる時にもう一回読んだ時、当時30歳くらいの富野さんの言葉を、50手前ぐらいの僕が見て「うわあっ!」と衝撃を受けたんですけど。  「トリトンで描きたかったのは青春の挫折だ!」って書いてあったんです。  「少年っていうのは、何か取り返しのつかないことをして、失うことによって青年になる。彼はポセイドン族を全滅させるという原罪を背負うことによって、ようやく青年になれた。青年になった彼がさまようところから、彼の人生は始まるんだけど、それは我々の描くべき物語ではない」と、そう言い切っているんです。  つまり、「子供に見せるものはなにか?」について「子供が青年になる話を見せよう!」というのが富野さんの考えだったんです。  青年とは何かと言うと、「取り返しのつかないことをして傷ついた状態」で、そして、その傷を癒やす方法は彼自身に任されている。そして、それは「でも、なんとかなるだろう」と無責任に観客が見られるようなものではない。  じゃあ、青年になった彼らはどうなるのかっていうと、おそらく、木枯し紋次郎のように「あっしには関わりねえことです」って言って、スネて生きていくしかない。そんな、アンチヒーローとして生きていくしかないような時代である、と。  これが富野さんが考えた、1970年代という時代のとらえ方と、その中でまじめに作られた子供向けアニメの全貌なんです。
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     で、こんなものを全部込めて作っちゃったから、『海のトリトン』はトラウマアニメとしてすごい有名なんですね。  というのも、面白いもんで。こんな理屈が子供に伝わるはずがないんです。  それはもう、富野さんも認めてます。大人がすごくまじめに説教しても、子供には「なぜか?」は伝わらないんですね。でも、「なぜか?」は伝わらないんですけど、「本気だ!」という部分だけは伝わるんです。  「それでいいんだ! 本気だっていう部分さえ伝われば、なぜかは子供が大人になった頃に考えるから、それでいいんだ! 大人の役割というのは、そんななぜの部分を、子供が理解しなくてもいいから、本気で伝えることだ!」って仰ってます。  で、これが、さっきの『プリキュア』の話に掛かってきちゃうんですけども。  『プリキュア』というのは、これを無意識にやっちゃったわけですね。子供にバレないだろうと思って、本気で「いやあ、ロリっていいよねっ!」ってやっちゃったわけですね(笑)。  で、それを、もう、まともに子供が受け取ってしまったっていう……。  だから、楽屋でも「富野さんの話を応用すると、ロリアニメの与えた影響っていうのはこういうことになりますよね?」って話したんですけど、富野さんは「もう言わないで! 言わないで!」ってなってました(笑)。
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     富野さんの講演会をザッとまとめるとそんな話でした。  その後は「地球がこれから戦争になるのかどうか?」みたいな質問が出たのに対して、面白い返し方をしてましたね。「もう今の地球上では、戦争ができるほどエネルギーが豊かではない」と。  私たちはすでに1944年の第二次大戦直前、世界中が産業革命を起こして、世界中に工場ができて石炭をモクモクモクモク炊いてた時代の8倍のエネルギーを、平和な状態で使用している。  1944年ていうのは戦争をガンガンやってた時代なんですよ。その時よりも、現代の戦争も何もやってない状態のほうが8倍も多くエネルギー使ってる、と。  だから、ここから先は、そんなエネルギーを無駄使いするような戦争なんか、出来るはずがない。具体的に言えば、どこかの国が戦争やろうとして、その為に戦車や船とか動かしたら、あっという間に石油原価が跳ね上がって、それぞれの国が戦争という経営ができなくなるに違いないと考えられます、と。  これは、確かにそうだと思います。
     で、ここから先、富野さんは「世界人口は6億ぐらいが適切だよね?」とか言い出して(笑)。  その真意を聞きに、後で僕は楽屋へ行ったわけでありまして。
     以上、第1部、富野由悠季講演会の解説でした。  この後は質疑応答。大質問大会ってことで、今回の富野さんの話でも構いませんし、なんでも構いません。今日のイベントの本番はここからです。  今の話を題材にして、富野さんを考えてもよし。ガンダムを考えるでもよし。日本と中国の文化を考えるでもよし。アニメの将来を考えるでもよし。ロリアニメを擁護するでもよし(笑)。何でも語っていきましょう。  それでは10分間の休憩です。お疲れ様でした。 (動画停止)
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    2019/11/24 #309 「富野由悠季を語る 〜2010年11月講演感想戦」
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  • 岡田斗司夫プレミアムブロマガ「若かりし頃の富野監督は、なぜトラウマアニメ『海のトリトン』を作ったのか」

    2019-12-13 07:00  
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    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/12/13
     今日は、2019/11/24配信の岡田斗司夫ゼミ「富野由悠季を語る 〜2010年11月講演感想戦」からハイライトをお届けします。
     岡田斗司夫ゼミ・プレミアムでは、毎週火曜は夜7時から「アニメ・マンガ夜話」生放送+講義動画を配信します。毎週日曜は夜7時から「岡田斗司夫ゼミ」を生放送。ゼミ後の放課後雑談は「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」のみの配信になります。またプレミアム会員は、限定放送を含むニコ生ゼミの動画およびテキスト、Webコラムやインタビュー記事、過去のイベント動画などのコンテンツをアーカイブサイトで自由にご覧いただけます。  サイトにアクセスするためのパスワードは、メール末尾に記載しています。(※ご注意:アーカイブサイトにアクセスするためには、この「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」、「岡田斗司夫の個人教授」、DMMオンラインサロン「岡田斗司夫ゼミ室」のいずれかの会員である必要があります。チャンネルに入会せずに過去のメルマガを単品購入されてもアーカイブサイトはご利用いただけませんのでご注意ください)
     そこから、富野さんの昔話に入って。  日大芸術学部を卒業して就職先がないので虫プロのアニメの演出になったっていう話ですね。  「仕上げのお姉さんたちに直に頭下げないと仕上げをやってもらえないんだよっ!」っていう。まあ、わりと昔話でした。  まあ、昔話でありながらも、富野さんがすごく伝えようとしてたのが、リアルな人間関係ってやつですね。  虫プロでは、同じフロアに全スタッフがいるんです。そこで、アニメ原稿の仕上げをするお姉さんたちに富野由悠季という人は嫌われていたそうですね。  嫌われるとどういうことが起きるのかというと、本当に『鉄腕アトム』の富野さんの担当する話の色を塗ってくれなくなるんですね。目に見えない形のいじめみたいなもんではなくて、富野さんの担当カットのカット袋が積み上がって減らないわけです。  で、富野さんはその自分を嫌っているとわかっている20人ぐらいのグループのお姉さん一人ひとりに会って。本当に具体的に頭を下げて「やってください!」とか言ったら、ものすごい文句言われたり、「何でこんな事を~!」とか「 だいたいアンタは~!」みたいな、言ってもしょうがないことを言われて。それでも、頭を下げてでも、無理言ってでも仕事してもらう、と。  こういう誰かに仕事を頼むっていう時、その人が怒ってたり機嫌がよかったりするのは、必ずしも合理的な理由なだけでなく理不尽なこともあって。  そういう場合でも何が何でも頭を下げてまでやってもらわなければいけない立場っていうのが、演出とか制作進行の立場で「こういうふうなことを君たちはわかってるのかっ!?」みたいなことも言うんですけども。  富野さんの言うことは、別に『海のトリトン』の時代だけでなくて、僕がアニメを作ってた時代もそうなんですけど。  富野さんの危惧は、それが東南アジアの下請け会社にネット経由で仕事を流して行って、断られた。断られたら「でも、もっと安い値段で受けてくれるところがこの国ではある」っていうふうに他所に頼む。そうやって、分散すれば分散していくほど、他人に頭をさげてやってもらうということがなくなってしまう、と。  つまり、仕事っていうのは、値段とか条件とかでやってもらえたりするんだけども、「そういう、やってもらえないという理不尽な状況を前にして、具体的に目の前の人に頭を下げるという行為なしに、人は大人になれるのかっ!?」みたいな、問いかけをするんですね。  富野さんの話ってね、自分のアニメの面白い経験談と、そういう説教が合体してるから、聞いてる僕も、もう、面白がっていいのやら、申し訳なく聞いていいのやら、わかんないですけども(笑)。
    ・・・
     あと面白かったのは、富野さんが言ってた「アニメは映画であるということを早い段階から発見した」って話。  アニメは映画であるというのは何かっていうと、例えば『鉄腕アトム』のように、止まっている絵を見せるしかないような作品であっても、そのコマを、止まっている絵を何秒も何秒も見せる、つまり、「見る側に時間を強要している限り、それは映画である」ていう話をしていました。  そして、もう一つの特性は「ストーリーがないとアニメ作品というのは成立しない。映画というのは成立しない」と。  絵に関しては、実はどうにでもなる。絵に関しては上手いやつっていうのはいるし、上手くないやつが集まっても何とか作品っていうのはできるんだろうけども。  ただ、物語をつくる、お話をつくる、ストーリーを語るっていう才能は希有であって、いまだに富野さんは「やっぱ教えられない」って言ってます。  北京大学で講演をする時も「そこの部分を教えてくれ!」と言われて、誠意を持って考えたんだけども、やっぱり教えられない。「希有な才能である」と。  その才能は「何かを語りたい!」という意志や、語るべきことが自分の中にないとどうしても生まれてこない。その意味では、物語を語る才能、お話を作る才能っていうのは、すごく希有なもので。  それは、8歳から10歳ぐらいまでに、何か習った時に「なんでこうなの? もっとこうすればいいのに」とか「ああ、君たちみんなはこういうの好きなの。でも僕はこっちのが面白いと思うけど。とりあえずこの話聞いてくれない?」っていうような、自分の状況に対する疑問と、それに対する再提案みたいな習慣が、子どものうちに身についていないと無理だ、って言ってます。  で、そういう話を、会場中の、みんなオーバー30くらいの男達が聞いているわけですけど。「そんなこと今更言われても……」みたいな(笑)、 ちょっと面白かったです。
    ・・・
     じゃあ、アニメーションというのは、そういうすごい才能の人ばっかり集まってやるのかっていうと、決してそんなことはない。  「アニメーションていうのは、虫プロに自分が入れたことでわかる通り、中途半端な才能でも充分作れる」と。まあ、富野さんは卑下して言うんですけども。  そんな中で「まあ、宮崎駿とか大塚康生は、ちょっと、もう別格なんだよ」って話をしていて。  富野さん自身が、昔、宮崎さんや大塚さんの引いた鉛筆の線を見た話というのをしてました。あの話は良かったです。  僕も、上手いアニメーターの引いた線って見たことがあるんですけど。  上手いアニメーターが引いた線ってね、別格なんですよ。鉛筆で描かれたものなんですけど。普段、「鉛筆で描いてペンで清書しない」っていうのは欠点にしかならないんです。だけど、上手いやつが描いた鉛筆画っていうのは、色がついてたり仕上がったりしてるものよりも、見てる側の想像力を喚起する、すごい力を持ってるんですよね。  で、富野さんがそれに対して言ってたのが「上手いアニメーター、もう、宮崎、大塚レベルが描いた原画とか線は、消しゴムが掛けられない! こんなものにどうやって消しゴムを掛けたらいいかわからないから、もうそのままいただくしかない!」って話をしてたんです。  これね、すごくわかるんです。  で、「そんなスタッフがアニメ界に存在することが良いことかと言うと、必ずしも良いことばかりではない」っていうお話をしてました。  なぜか? アニメというのは数十人の共同作業で作るんですね。数十人の共同作業で作る時には、全員のレベルが均一に高いというのはすごく良いことなんです。あるいは、全員のレベルがある程度バラバラというのも良いんです。上手いやつが下手なやつを教えられるから。  でも、その中にものすごく上手いやつが一人いたら? それを見た全員が萎縮しちゃうんです。  宮崎さんとか大塚さんがいた当時のアニメ界ではそういうことがよくあったそうです。彼らの絵を見たら、それは原画かもしくはレイアウトですから、アニメーターがその上に線を乗っけて動画に落としていかなければいけないんだけど。誰も怖がって出来ないんですよ。  大塚さんの絵に自分の絵を乗っけて、間を作画で割っていく……割るっていうのは、間の動きを補完することですね。手を振るシーンだったら、原画家の大塚さんは振り始めと終わりの絵だけを描くんです。その途中の何枚かの絵を割っていかなきゃいけないんですけども、これがもう割れない。  「大塚さんの絵を殺しちゃうから私はできません!」って言って、結局、スケジュールが遅れることになっちゃう。  天才とか才能のものすごくある人っていうのがアニメーションのレベルを上げるのかっていうと必ずしもそうではないんですね。  アニメというのは、ダメなスタッフがいたらレベルが落ちるんだけど、すご過ぎるスタッフがいたらスケジュールが遅れるんですよ。  面白いですよ。確かにその通りなんです。……ああ、経験ある経験ある(笑)。
    ・・・
     じゃあ、そんな中で富野由悠季という人間がどのようにして『鉄腕アトム』という作品を作って生き残ってきたか? 「それは富野由悠季という人間が一度たりとも締め切りを破ったことがないからだっ!」ってふうにおっしゃってました。  つまり、「実は一回もコンテとかで褒められたことがないんだけども、絶対に締め切りを破らずに納品していた」と。  当時のアニメ界では絵が上手いということは、今言ったように祝福だけでなく呪いでもあるわけですね。福音ではないんです。  絵が上手いやつが一人いると、それによってスケジュールがくるっちゃう。絵が下手なやつがいたら、クオリティが下がっちゃう。  じゃあ、どんな人間が当時のアニメ界で一番ありがたがられていたかっていうと、一番ありがたがられるのは、絵が上手いやつでもなければ、もちろん絵が下手なやつでもなくて、単に、スケジュールを守るやつが一番偉かったんですね。  ここから、富野さんは「今、みんな、なかなか就職とかが上手くいってない人が多いけども、何が一番大事かと言うと、おそらく人柄だろう」という話をはじめました。  どんな専門学校であろうと、どんな資格試験であろうと、会社という現場、仕事という現場でそんなのが通用するほど、試験というのは上手くできていない。  例えば、アニメの専門学校へ行って3年とか4年やったとしても、アニメーション作る現場に入って2ヶ月とか3ヶ月してから「あっ! やっと仕事がわかってきた!」ってなるわけですね。まあ、これは別に大学から企業入った人でもわかると思うんですけども。オン・ザ・ジョブ・トレーニングっていうか、企業で実際に働かないと、絶対に仕事ってわからないんですね。  だから、実は雇う側の人間が欲しいのは才能ではないんですよ。人材としてのスキルでもなければ能力でもなくて、人柄であると。人柄がよければ、そこでもうほとんどOKで。  あとは中学・高校レベルの理解力ですね。例えば、「スポーツで国体を目指す」ということがどういうことか知っている。国体を目指してサークル活動をやるっていうことは、国体に出た経験があるかないかじゃないんですよ。「国体を目指すんだったら、練習はこれくらいしなきゃいけないな。キャプテンはこれくらいのことしなきゃいけないな」っていうことがなんとなくわかっているというレベル。文化系のクラブで言えば、「県のコンテストを狙う」ですね。  そういうふうなことがわかっているくらいの理解力があれば、人柄プラス中高生程度の理解力があれば、それで充分働けるし、「それ以上の人材というのはもう望まれてないはずなんだけどな」っていう話をしてました。
    ・・・
     なんかね、この辺、面白かったんですよ。  というのも、僕たちはよりよい社会っていうのを作るのに、どうしてもシステムで考えちゃうんですよね。  僕は2ヶ月ぐらい前に、東京の六本木で『国民スナフキン化計画』って話をしたんです。  今の日本人がだいたい思っている「家を持たなきゃいけない!」とか「家族を持たなきゃいけない!」とか「結婚しなきゃいけない!」、もしくは、さっき話した恋愛不全にも出てきたんですけども「恋愛しなきゃいけない!」「誰かと友だちにならなきゃいけない」ということ。  この辺のプロテクトを外して人間関係、家族関係、あとは住む所っていうのをもっと拡張型にしていって。お互い縁もゆかりもない者同士がルームシェアするところから始まって、最終的にはネットカフェみたいなところで国民が暮らすような社会でも別に構わないんじゃないかなって話をしたんです。  その時に、同時に僕が、自分では強調したはずだと思ってたのが「それはおそらく人格者文明になるであろう」という話でした。  つまり、国民全員がスナフキンのように生きていくということは「ネットカフェをどういうふうに整備するのか?」「ベーシックインカムをどのように整備するのか?」っていうシステムの問題ではなくて。  そこで生きている人間、構成員一人ひとりが人格者であったり、もしくは、人柄的にいいやつでないと、そんな社会成立するはずがないんですね。  「どこへ行っても何をやってもそれなりに生きて行ける」ってことは「それだけ好かれる人だ」ってことなんです。  でも、それを講演で話したり、あと、ネットとかでそれの感想言ってる人を見たら、みんなやっぱりシステムのことを気にしちゃうんです。  「そのためには社会をどういうふうにすればいいのか?」、もしくは「その財源はどうするのか?」と、システムの方を気にしちゃって「それを構成する自分達自身がどういうふうに変わると、そっちに行くのか?」っていう話にはなかなかいかない。  なんか「富野さん人柄の話が、ここらへんで自分の考えてることにつながってきたなあ」と思いました。
    ・・・
     で、ここら辺りから富野由悠季が熱を帯びてきて。  『海のトリトン』の頃の話で「子供達に向けてテレビでオンエアする作品として、本気で作った!」って仰ってましたね。  『青いトリトン』っていう手塚治虫の原作をアニメ化する時、富野さんは途中から呼ばれた監督だったんですね。  その時には、もう企画書は仕上がっていて、企画書を作ったのは、あの悪名高い……ってことはないですけど、こないだ死んじゃった西崎義展さん。あの人が、虫プロを倒産させた張本人と言われてるんですけども(笑)。  『トリトン』という作品をやることになった時に、一応、原作で決まってる設定と、そして人間関係がもう、西崎義展さんの描いた絵図で決まっていた。  どんなのかっていうと、「主人公は15歳の少年」で「真っ赤っかのマントを着ていて、なんかショートパンツみたいなのをはいてる」と。で、「なぜか白いイルカに乗ってる」と。「友だちとして3匹イルカがいて、おまけにガールフレンドが一人いて、そいつらと海をさまよっている話だ」っていうふうに言われて。  「こんな、どうにもならないような原作を与えられて、どうしようっていうの?」って。  だけど、その中で富野さんは、なんとかそれでも、子供達に「人生とは何か?」「俺が今生きている本気っていうのは何か?」っていうのを伝えようとしたんですね。
    ・・・
     で、その当時、ちょうど同時期に放送されていたテレビドラマが『木枯し紋次郎』って時代劇の作品でした。富野さんはこの話をしていません。僕は覚えてるんですけど。  それは何か、どんなものかっていうとアンチヒーローだったんですね。  それまでの時代劇のヒーローっていうのは「悪いヤツがいたら成敗する。困ってる人がいたら助ける」っていうものでした。でも、木枯し紋次郎っていうのは、口に楊枝をくわえて、困っている人がいて頼られても、「あっしには関わりのねえことです」とか「いや、僕には関係ないからやめてください」と言って逃げるようなヒーローだったんですね。そういうのが描かれていた。  つまり、その当時は日本という国が大きく舵をかえていた時代だったんですね。  1970年代半ばあたりのことです。宇宙戦艦ヤマトのちょっと前ぐらい。そこでは、大人が見るような番組でも、木枯し紋次郎のような「ヒーローでないヒーロー」を描くようになっていた。  じゃあ、子供が見るような番組では何を描くべきかと言うと、「なぜ、人は木枯し紋次郎になるのか?」「なぜ、人間はアンチヒーローになるのか?」「なぜ、私たちはヒーローでないのか?」っていうのを描くべきだと、おそらく、富野さんは考えた。  この辺は『海のトリトン ロマンアルバム』のインタビューで、昔、富野さんもちょっと答えてるんですね。  でも、その話はそれを読んだ当時の20歳ぐらいの僕には全くわからなくて。数年前、『BSアニメ夜話』でトリトンをまとめてとりあげる時にもう一回読んだ時、当時30歳くらいの富野さんの言葉を、50手前ぐらいの僕が見て「うわあっ!」と衝撃を受けたんですけど。  「トリトンで描きたかったのは青春の挫折だ!」って書いてあったんです。  「少年っていうのは、何か取り返しのつかないことをして、失うことによって青年になる。彼はポセイドン族を全滅させるという原罪を背負うことによって、ようやく青年になれた。青年になった彼がさまようところから、彼の人生は始まるんだけど、それは我々の描くべき物語ではない」と、そう言い切っているんです。  つまり、「子供に見せるものはなにか?」について「子供が青年になる話を見せよう!」というのが富野さんの考えだったんです。  青年とは何かと言うと、「取り返しのつかないことをして傷ついた状態」で、そして、その傷を癒やす方法は彼自身に任されている。そして、それは「でも、なんとかなるだろう」と無責任に観客が見られるようなものではない。  じゃあ、青年になった彼らはどうなるのかっていうと、おそらく、木枯し紋次郎のように「あっしには関わりねえことです」って言って、スネて生きていくしかない。そんな、アンチヒーローとして生きていくしかないような時代である、と。  これが富野さんが考えた、1970年代という時代のとらえ方と、その中でまじめに作られた子供向けアニメの全貌なんです。
    ・・・
     で、こんなものを全部込めて作っちゃったから、『海のトリトン』はトラウマアニメとしてすごい有名なんですね。  というのも、面白いもんで。こんな理屈が子供に伝わるはずがないんです。  それはもう、富野さんも認めてます。大人がすごくまじめに説教しても、子供には「なぜか?」は伝わらないんですね。でも、「なぜか?」は伝わらないんですけど、「本気だ!」という部分だけは伝わるんです。  「それでいいんだ! 本気だっていう部分さえ伝われば、なぜかは子供が大人になった頃に考えるから、それでいいんだ! 大人の役割というのは、そんななぜの部分を、子供が理解しなくてもいいから、本気で伝えることだ!」って仰ってます。  で、これが、さっきの『プリキュア』の話に掛かってきちゃうんですけども。  『プリキュア』というのは、これを無意識にやっちゃったわけですね。子供にバレないだろうと思って、本気で「いやあ、ロリっていいよねっ!」ってやっちゃったわけですね(笑)。  で、それを、もう、まともに子供が受け取ってしまったっていう……。  だから、楽屋でも「富野さんの話を応用すると、ロリアニメの与えた影響っていうのはこういうことになりますよね?」って話したんですけど、富野さんは「もう言わないで! 言わないで!」ってなってました(笑)。
    ・・・
     富野さんの講演会をザッとまとめるとそんな話でした。  その後は「地球がこれから戦争になるのかどうか?」みたいな質問が出たのに対して、面白い返し方をしてましたね。「もう今の地球上では、戦争ができるほどエネルギーが豊かではない」と。  私たちはすでに1944年の第二次大戦直前、世界中が産業革命を起こして、世界中に工場ができて石炭をモクモクモクモク炊いてた時代の8倍のエネルギーを、平和な状態で使用している。  1944年ていうのは戦争をガンガンやってた時代なんですよ。その時よりも、現代の戦争も何もやってない状態のほうが8倍も多くエネルギー使ってる、と。  だから、ここから先は、そんなエネルギーを無駄使いするような戦争なんか、出来るはずがない。具体的に言えば、どこかの国が戦争やろうとして、その為に戦車や船とか動かしたら、あっという間に石油原価が跳ね上がって、それぞれの国が戦争という経営ができなくなるに違いないと考えられます、と。  これは、確かにそうだと思います。
     で、ここから先、富野さんは「世界人口は6億ぐらいが適切だよね?」とか言い出して(笑)。  その真意を聞きに、後で僕は楽屋へ行ったわけでありまして。
     以上、第1部、富野由悠季講演会の解説でした。  この後は質疑応答。大質問大会ってことで、今回の富野さんの話でも構いませんし、なんでも構いません。今日のイベントの本番はここからです。  今の話を題材にして、富野さんを考えてもよし。ガンダムを考えるでもよし。日本と中国の文化を考えるでもよし。アニメの将来を考えるでもよし。ロリアニメを擁護するでもよし(笑)。何でも語っていきましょう。  それでは10分間の休憩です。お疲れ様でした。 (動画停止)
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    2019/11/24 #309 「富野由悠季を語る 〜2010年11月講演感想戦」
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  • 岡田斗司夫プレミアムブロマガ「ガンダム監督・富野が吠える〜ロリアニメの罪・天才の罪」

    2019-12-12 07:00  
    9999999pt
    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/12/12
     今日は、2019/11/24配信の岡田斗司夫ゼミ「富野由悠季を語る 〜2010年11月講演感想戦」からハイライトをお届けします。
     岡田斗司夫ゼミ・プレミアムでは、毎週火曜は夜7時から「アニメ・マンガ夜話」生放送+講義動画を配信します。毎週日曜は夜7時から「岡田斗司夫ゼミ」を生放送。ゼミ後の放課後雑談は「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」のみの配信になります。またプレミアム会員は、限定放送を含むニコ生ゼミの動画およびテキスト、Webコラムやインタビュー記事、過去のイベント動画などのコンテンツをアーカイブサイトで自由にご覧いただけます。  サイトにアクセスするためのパスワードは、メール末尾に記載しています。(※ご注意:アーカイブサイトにアクセスするためには、この「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」、「岡田斗司夫の個人教授」、DMMオンラインサロン「岡田斗司夫ゼミ室」のいずれかの会員である必要があります。チャンネルに入会せずに過去のメルマガを単品購入されてもアーカイブサイトはご利用いただけませんのでご注意ください)
     そういう話の辺りで、ちょっと気になったフレーズが出てきました。  富野さんがその時に話してたのが、最近の女の子が見ているアニメ。あの『プリキュア』みたいなやつです。「そういうふうなものが、はたして子供が見るに適しているのかどうか?」と。  「6歳とか8歳の女の子が、ああいうスピード感のあるものを見て、本当に楽しいと思うのかな?」、もしくは「6歳8歳の子供にあんなスピード感のものを見せて、他に見せるものとのバランスとかを考えているのか?」って話をしてたんですね。  まあ、富野さんのこの話は、最近のアニメに対する批判なんですけども。僕には、それを聞いて「あっ!」って、頭の中にひっかかったことがあったので、楽屋に行った時に富野さんに話したんです。  大阪芸大だけではないと思うんですけど、最近、学生、特に女の子の学生からの相談で「私はバイです!」とか、もしくは「私は同性愛かもわからない」っていうカミングアウトがすごく多いんですね。  これがね、この5、6年間ぐらいで、本当にどんどん激増してきてるんですよ。5、6年前まではまだ、彼女たちもそれで悩んでたりしてたんですが、最近は「だから彼女を作りました!」とか「彼氏はいらない。彼女がいれば」みたいな話があったり、あと「○○は俺の嫁!」っていうのが、もう、最近は女の子同士で言うようになっている。  これは、ひょっとしたら当たり前かもしれないんですよ。昔から、センスが先端的なところに、同性愛の人とか、もしくはヘテロだけでない人が集まるのは当たり前のことで。僕もそう思って解釈してたんですけども。  「あれ?」って思ったんですね。というのも、女の子が女の子を好きになるという場合、彼女たちから同時に出てくる話っていうのをまとめると、どうも「恋愛不全」っていう現象が起こっているような気がしたんですよ。  僕たち男はですね、ついつい男性の恋愛不全現象ばっかり考えてしまうんだけども、実は今の20歳ぐらいの女の子を中心とした恋愛不全現象ってかなり深刻じゃないかな、って考えました。  で、その原因の一つが、いわゆる『プリキュア』などのロリアニメではないのか?  これ今日、僕が富野さんの講演を聞いてる最中に「あっ!」と思いついた仮説です。こう考えるとかなり色んな事が説明つきます。
    ・・・
     ロリアニメっていう言い方をしたものがつまり何かっていうと、「女の子はかわいい!」「女の子は素晴らしい!」「少女らしくあることは良い事だ!」、そして「女の子というのを愛でたい!」というアニメのことですね。  日曜の朝とかにやってる……まあ、日曜の朝じゃなくてもいいんですが。そういう女の子向けのアニメというのは二重構造になっています。  一重構造は「小さなお友達向け」ですね。つまり女の子がみて「かわいい!」とか言って、憧れたりするようなお話になっています。  しかし、二重構造目としては「大きなお友達向け」になっている。大きなお友達ってのはなにかっていうと、まあ、オタクなお兄さんであるとか、お姉さんであるとか。もしくは、娘と一緒に平和な顔してアニメを見ているパパが、実はヨコシマな心で見ている。そういう二重構造ですね。  で、そういうアニメを作る人間も売る人間もこの二重構造のことをよくわかっているんです。そして、「この二重構造は子供にはバレない」と思っているんです。  でも、富野さんがその後、講演のクライマックスの『海のトリトン』の話の中で「本気で作ったものは必ず子供に伝わる!」っていう話をされていたんですね。  それと合わせて考えると、このロリアニメが持っている二重構造も、本来、子供には隠しているはずの「女の子っていうのはかわいいんだ! そして、愛でるのがいいんだ!」っていう部分が、子供に伝わらないはずがないんです。  なぜかと言うと、その二重構造の二重目の部分にこそ、物を作る人間なりアニメーターなりシナリオライターの本気度が強く掛かっているからですね。  つまり、子供向けの部分はいわゆる外側のガワ構造であって。まあ、ちゃんとは作ってるんですけども。より熱量が高い、本気度が高いものっていうのは、そのロリアニメのロリの部分なんですよ。  結果、それを大量に見た女の子たちが十数年後、今、20歳になって恋愛不全現象を起こしている。  僕がショックだったのは、これまで「ロリアニメみたいなものがはたして社会に対して害毒かどうか?」っていう表現の自由とかそういうのを考える時に、青少年の性犯罪っていうことを中心に考えてたんですね。  つまり、「ロリアニメによって男の子の心は破壊されて、幼女に対する性的衝動を覚えるかどうか? それで犯罪を起こすのかどうか?」っていう部分ばっかり語られているんだけども。  ひょっとしたら、それよりも遙かに大きくて、そして、今まで僕たちに見えないところで進行してきた事態というのが、今の女の子の恋愛不全という現象ではないのかな、と。  こういうふうに考えると、今、僕が大学でみんなからレポートをもらいながら「あ、こんな現象が起きてるんだ」って思うことにピッタリあてはまるんですね。
    ・・・
     それを思い切って楽屋で富野さんにぶつけると、富野さんは絶句して「それしかあり得ないよぉ!」って、メチャクチャショックを受けてました。  たしかに、富野さんのような作っている人からしたら「自分たちが本気で作っているもののメッセージは子供達に伝わっちゃっている」ってのが理解できるんですね。  で、それを20年ぐらい前から、作る側は「どうせ子供にはバレない」と思って、それを無自覚にやっていて。それが男の子に対する被害だったら自分たちもあらかじめ計算してたし、そういう事件も何度も起こってるからわかってる、許容範囲のつもりだった。  ところが、女の子に対して自分達は何かとんでもなく酷いことをしてたんだ……いや、酷いかどうかわかんないですけども、その人が幸せだったら構わないと思うんですけど。  でも、現実に恋愛不全という現象を引き起こしてまで、ああいうアニメを作り続ける意味や価値が道義的に正しいのかどうか? それに関して、僕たちは何も考えなかったっていうことなんです。  そんなことを考えて、ちょっと「おおっ!」と思って。  富野さんに楽屋で話したら、富野さんも「おおっ!」ってなって。  で、富野さんの奥さんも「おおっ!」ってなった、と(笑)。
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    2019/11/24 #309 「富野由悠季を語る 〜2010年11月講演感想戦」
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