ひとり暮らしから、ふたり暮らしへ。ふたり暮らしから夫婦へ。夫婦から家族へ。人数の変化はもちろんのこと、住む人々の関係性によっても暮らし方は変化し、それと同時に、家に求められる機能や役割も変わる。
ただ、家はそう簡単には変われない。賃貸であればライフステージの変化に合わせ、住み替える選択ができるが、持ち家はそうはいかない。将来の変化を見越して部屋数に余裕がある家を選ぶなど、多少先を見越した選択をするほかない。しかし、将来に備えた家は“いま”住みやすく、将来は本当に予定通りにいくかと問われれば、どちらも首を縦に振れないだろう。
この課題を解決するには、家が変わらなければいけない。だが、恐らくこの課題に「最適解」は現状存在しない。ただ、「最適解」は存在しなくても「個別最適」は存在する。山﨑健太郎デザインワークショップによる「未完の住まい」はそのひとつだ。
「未完の住まい」には、ご主人が仕事の関係で保有する膨大な量の洋服と、奥さんが趣味で保有するキッチン雑貨やパン作りの道具、ミシンといった、施主にとって大事なものを収める必要があった。そしてこれらのものは、今後も増え続けることが予想され、設計段階ではその増加を考慮することが必要になってくる。
それと同時に、設計期間中に施主夫婦の間に子どもが生まれ、新たなライフステージに合った家、そしてこれからのライフステージの変化に対応することも必要となる。
こういった変化への対応として、山崎健太郎デザインワークショップが出した答えが、完成させない、変化を許容する余白をもつ「未完の住まい」だった。
未完の住まいは2階建ての4つの箱と、それらの箱をつなぎ中心となる、吹き抜けの広場から構成される。1階には、どのような場合でも必要な水周りや最低限の機能をそれぞれの箱に設置。2階は一切手を加えていない余白スペースとした。
主な生活は1階と広場で満足されるようになっており、2階はいってしまえば余剰空間だ。ただ、ドアや収納など部屋として規定する要素を持たないスペースのため、ライフステージに合わせて今後の使い方を自由に考えることができる。
そこには、増えたものを収納するかもしれないし、趣味の部屋にするかもしれない。子どもが増えれば彼/彼女の遊び場にもなるだろう。
部屋の形や設計によって部屋の用途を規定することなく、ライフステージで必要になった要素を住まい手自らが加えていく。家と住まい手の変化の対する、ひとつの答えではないだろうか。
未完の住まい[homify]