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第202号 2016.11.22発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが見舞われたヘンテコな経験を疑似体験!?小説「わたくしの人たち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…昨日(11月21日)トランプは公約通り就任初日にTPP(環太平洋連携協定)を離脱すると明言した。TPPは米国が批准しなければ絶対に発効しないので、これでTPPもご破算である。すっかり恥さらしな結果となったのは安倍晋三首相であるが、もしTPPが発効していたらどういうことになっていたのか、検証しておくことは今後のためにも重要である。日本の政治家や官僚が、どこまで国を売ろうとするのか、こいつらがいかに警戒しなければならない人間であるかは、知っておかなければならない!
※小説「わたくしの人たち」…自称“美魔女”の西川麻央に誘われ“凄い友達”が集う食事会に参加することに。そこは、互いが互いに持ち上げ合い、自己顕示欲と承認願望と損得勘定に満ちた禍々しい空間だった…!そこで見た、女の狡猾なポジショニングと、計算し尽くされたセルフプロデュースとは!?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!運動不足解消に社交ダンスはどう?ゴーマニズム宣言は公平中立?正直、最近の「笑ってはいけない」はマンネリでは?脚本・宮藤官九郎で「オリンピック」を描くという2019年の大河ドラマ、期待できる?妹ばかり「可愛い」というお父さんを怒って!先生にとって思い出の泣ける漫画は?「ドラえもん」の主人公は誰?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第199回「危うかったTPP協定の正体」
2. しゃべらせてクリ!・第160回「天高くツノ伸びる秋ぶぁ~い!の巻〈後編〉」
3. 泉美木蘭の小説「わたくしの人たち」・第7話「女のポジショニングとセルフプロデュース」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 読者から寄せられた感想・ご要望など
7. 編集後記




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第199回「危うかったTPP協定の正体」

 先週号では、来年発足するトランプ米政権がTPPを完全に葬り去ることができるか、それとも「言うだけ番長」に終わるかという疑問を呈したが、答えはたちまち出た。
 昨日(11月21日)トランプは動画メッセージを発表、公約通り就任初日にTPP(環太平洋連携協定)を離脱すると明言した。
 TPPは署名12か国の合計GDPの85%以上となる、6か国以上が批准しなければ発効しない。署名国GDPの60%を占める米国が批准しなければ絶対に発効しないので、これでTPPもご破算である。

 すっかり恥さらしな結果となったのは安倍晋三首相である。
 そもそもまだ就任もしていない次期大統領に会いに行くこと自体が異例で、それも当選からわずか1週間後という超スピードですっ飛んで行ったのは、異常と言ってもいいほどだ。
 安倍は会見で「トランプ次期大統領」ではなく「トランプ大統領」と連呼している。現大統領のオバマにも失礼だし、外交上も相当非常識なのだが、そんなことにも気づかないほど舞い上がっていたのだ。
 非公式会談だったためその内容は明らかにされていないが、安倍は「自由貿易の重要さ」を説き、TPPを離脱しないよう説得したらしい。
 そして笑顔で握手を交わしておべっかを使いまくり、「トランプ氏は信頼できるリーダーだ」とまで言ったのだが、その「信頼」はたった3日で裏切られたわけだ。
 結局、安倍は自己宣伝の上手いトランプに利用されただけだった。トランプに対してまだ先進国のリーダー達が、やや距離を置いて様子見をしている中で、日本の首相がわざわざやってきて「トランプ氏は信頼できるリーダーだ」と発言したのは、かなりの効果があっただろう。
 その一方で、今回安倍がトランプから引き出したものは何ひとつなかったのだ。安倍とトランプでは、ほとんど子供と大人ほどの違いに見える。

 安倍はトランプとの会談後、ペルーのリマで開幕したAPEC(アジア太平洋経済協力会議)でも「自由貿易の重要性」を熱弁しまくった。
 その努力もひとまず水泡に帰することとなったのだが、もしTPPが発効していたらどういうことになっていたのか、検証しておくことは今後のためにも重要である。
 日本の政治家や官僚が、どこまで国を売ろうとするのか、こいつらがいかに警戒しなければならない人間であるかは、知っておかなければならない。

 TPPに先行するケースとして参考になるのは、米国、カナダ、メキシコの3カ国間で1994年に発効したNAFTA(北米自由貿易協定)だ。
 メキシコの主食はトウモロコシ粉のパン・トルティーヤで、メキシコのトウモロコシは日本のコメのようなものである。
 メキシコ国内では「NAFTAに参加すればトルティーヤが安くなる」と宣伝され、当初、国民の多くはこれに賛成していた。
 NAFTAの発効により、アメリカからの輸入トウモロコシが激増、さらにトルティーヤを加工・販売するアメリカ資本の食品企業が入ってきて、確かに一時的にトルティーヤは安くなった。
 だが、地域に密着していた従来の中小のトルティーヤの店はことごとく潰れ、メキシコのトウモロコシ農家は壊滅した。
 そうなるとトルティーヤの値段は釣り上げられ、ついにはNAFTA発効前の8倍にまでなったという。
 米国は食糧を「武器」とみなしており、国内の農業に補助金をつけて大増産させ、安価で大量輸出して相手国の農業を壊滅させ、生殺与奪の権を奪うという戦略を繰り広げているのだ。