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今年の最強戦視聴について
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麻雀最強戦2016 全日本プロ代表決定戦 レポート
15年目に訪れた最大のチャンスさる9月11日。前日から全国200名弱の麻雀プロが集まり、全日本プロ代表決定戦が行われた。その決勝まで勝ち上がったのは、吾妻さおり・東谷達矢・中村庸人・近藤千雄の4名。
南4局2本場を迎え、優勝争いは東谷・近藤の2名に絞られた。両者の点差は僅か700点。先にテンパイを入れたのは近藤である。
これに対し、トップ目・東谷の手牌はイーシャンテン。
789の三色かを目指す形だが、だと余り牌がとなり近藤に捕まってしまう。ところが、この時点でが山に残っていなかった。つまりテンパイしても放銃か、良くて空テン。将棋でいう「詰めろ」の状態だ。直後、チーでバックのテンパイに取った東谷がを捨て、近藤が全日本プロの頂点に立ったのである。近藤「全日本プロ予選には毎年参加していて、五度目くらいだと思う。それ以前はアマチュアの方にまじって店舗予選などにも参加していました。最強位は本当に取りたいタイトルなので、まずはファイナルに進めて本当に嬉しい」
近藤はプロ歴15年の37歳。日本プロ麻雀協会のB2リーグに所属している。苦節10年というが、麻雀プロ・近藤の歴史はまさにその言葉通りだ。近藤はプロ入り9年目までCリーグをうろうろしている打ち手だった。ところが10年目に入って3期連続昇級を果たし、それ以降B1への昇級を目指している。ただ、その間にもビッグチャンスも二度あった。2012年度の第11回日本オープン。一次予選から出場した近藤は、一次予選・二次予選・本戦・ベスト48・準決勝と勝ち上がっての決勝進出。半荘5回の決勝戦でも3戦目まで2位と50p離してトップに立っていた。が、ここで手に恵まれず痛恨の2ラス。RMUの北島路久プロに優勝をさらわれてしまう。
近藤「翌年はこの時の決勝シードがあって上から出られたのですが、即敗退。ですからもう日本オープンを取るチャンスはないと思っていました」
だが、さらに翌年、再び一次予選から挑んだ近藤は決勝まで勝ち進んだ。ここでも初戦トップを決めたものの、そこから後退。二度目のビッグチャンスも物にすることはできなかった。だが、その近藤に三度目がやってきた。今回の全日本プロ代表決定戦も過去2回の日本オープン同様、数多くの参加者の中からの勝ち上がりである。近藤「自分にとっては今回が最初で最後のチャンスかもしれないので、今回こそ絶対に優勝したいと思っています。そのために万全の準備をして臨みます」鬼打ちで身につけた技術名古屋生まれ、男3人兄弟の末っ子として育った近藤。兄2人とは少し年が離れており、小学生の頃から家族麻雀をしていたという。慶応大学に入学した近藤はテニスサークルに所属。サークル内でのセット麻雀に誘われ、本格的に打つようになる。テニスと麻雀に没頭する学生生活を送っていたがだったが、麻雀熱の加速は止まらず、ついにはプロテスト受験を決意した。近藤「テニスはこれからどんなに頑張ってもプロになれないけど、麻雀ならプロになれるんじゃないか。そう思って、当時仲間内で強かった自分と友人一人でプロテストを受験。が、残念ながら友人は落ちました」
その後、フリー雀荘で腕を磨く日々が続く。月に東風戦800ゲーム打つ時期もあったという。だが、先述したようにリーグ戦ではなかなか上に上がれない。プロとして実績もなく、周囲の評価も低い。そんな現状を打破するために近藤が選んだのが天鳳だった。後に天鳳十段まで登りつめるID「どんよく」の誕生である。
近藤「フリー・協会ルール育ちの攻撃型として貪欲にアガリを目指す姿勢がどこまで天鳳で通用するのか試したかった。その打ち方をアピールする名前にしようと思った」
以降、鬼打ちの場をフリー雀荘から天鳳に移し、多いときで月間1500G打った近藤は天鳳十段まで登りつめる。もちろんただ打つだけではなく、成績向上への努力にも余念がない。
近藤「天鳳では成績が完全に記録されますし、牌譜もすぐ見ることができるので、打った後すぐ検討できるのが大きなメリットでした。また、ツイッターのコミュニティで何切るなどの活発な議論がされているので、とても参考になりました」
だが「放銃率が低い人ほど強い」という価値観に占められている天鳳界において、放銃率14%の近藤の評価は上がらなかった。十段到達までの過程をブログに記しても、単なる自慢話と叩かれ落ち込むこともあった。
だが、ひたすら打ち続けたことで近藤の雀力は着実にアップしていく。超攻撃型の雀風を維持しつつ、手牌をスリムに構えたり順位戦でのゲーム回しなどの技術を身につけた。
そういえば今回の対局でもこんなシーンがあった。準決勝B卓(近藤・本田大将・中村・新谷翔平)の南3局。トップ目で西家の近藤の手は役牌でドラのがトイツの形だ。
7巡目、親の中村からが放たれる。多くの人がポンしそうだが、近藤はこれを見送った。
近藤「ポンして圧力をかける手もあるが、手牌がぶくぶくになるのと、親のドラ切りなのでドラポンでも止まらない可能性があったのでスルーしました」
その後、親リーチを受けるも、近藤は現物のを回り、アガり切って親落としに成功。元々、超攻撃型の近藤にとって、この打ち方は天鳳で身につけたものといえるだろう。
とはいえ、場に7枚切れている待ちでリーチをかけたり(準決勝東1局1本場)、2軒リーチに無筋を2枚押してアガりきる(決勝南2局1本場)など、随所に攻め屋の片鱗は見せていた近藤。おそらくファイナルでも台風の目になる存在となるのは間違いない。すげえ一打2着まで決勝に進める準決勝オーラス。トップ目の近藤はここで何を切ったか?中村への放銃を狙った切り近藤の手もイーシャンテンだが親がすでに2フーロ。次局に進めば、万が一の予選落ちもありうる。ここは、自力決着より2着勝ち残りを目指す中村にアガってもらうほうが手っ取り早く確実だ。では、何を捨てれば良いか? 親に通る牌で中村に当たりそうな牌を選ぶのが基本だが、近藤の手にその牌がない。親の仕掛けが純チャン・三色・一通など様々な可能性が考えられるからだ。ここで近藤は打を選択。これが見事中村のロン牌となり一発でケリをつけたのである(親の待ちは一通のカン)。は親にも無筋だが、親満など致命傷になる可能性は極めて低い。中途半端に打ち渋らなかった近藤の決断力が光る一打であった。 -
麻雀最強戦2016 サイバーエージェントカップ レポート
次世代のスターになるのは誰だ「スター誕生」この近代麻雀が創刊された頃、このタイトルのアイドルオーディションがあった。今回のサイバーエージェントカップのテーマがまさにこれである。格好良くて麻雀も強い。そんな若手プロに足りないのが「大舞台での経験」だ。経験を積ませて、新たなスターとなるきっかけとしてほしい。2015最強位でサイバーエージェント社長・藤田晋が送りだしたのが、石井一馬・内川幸太郎・坂井秀隆・白鳥翔・日向藍子・古橋崇志・水口美香・矢島亨の8名であった。
この中から決勝卓に進んだのは、A卓から白鳥と古橋である。
だが、その勝ち上がりは対照的だった。南2局まで誰も3万点を超えず、かつ2万点も割らず(古橋が一瞬18200になったが)という超僅差の展開だった。ただ、常にトップ目で余裕を持ちながらゲームを進めたのが白鳥で、逆に序盤からずっとラス目でオーラスの一局で2着に滑り込んだ古橋。言葉は悪いが「エリートと雑草」、そのぐらいの違いを感じた。
余談だが、この2人は控室でこんなやりとりをしていた。白鳥「門前派を公言する人で勝ってる人見たことないよ」古橋「…」
古橋は無言で笑うだけ。白鳥の軽口をサラっと流す。これだけだが、私にとっては面白い応酬だった。古橋は門前タイプだということ、砕けた口調でもお互いの麻雀に対する自負は強いのだ、ということが分かったからだ。実際古橋はこの対局でも全く仕掛けを入れなかった。
古橋「高校生の時にモンドを見ていて、好きだったのが森山茂和プロ。また、プロとして麻雀を教わったのが望月聖継プロだったので、自然と門前手役派になったのかなと思います」
古橋にとって、白鳥は倒したいライバルの筆頭だ。年は2つ下だが、プロ連盟の同世代で実力も実績も一番。まさにエリートだ。しかも雀風は自分と全く異なるタイプ。その白鳥と一緒に勝ち上がったことで、古橋の気持ちは一層高ぶっただろう。
一方、B卓から勝ち上がったのが石井と水口である。
こちらもA卓同様、僅差のままゲームが進む。その中から南2局、石井が小三元・ドラ1の満貫をツモって当確ランプを点けた。オーラス、ラス目の内川が7巡目に逆転のメンホンリーチをかけるも流局。2着の水口がそのまま勝ち上がりを決めた。石井も白鳥と同じく若くしてタイトルを獲り、アラサー世代のトッププロに君臨している打ち手。所属団体こそ違う2人だが、どこか天才肌で雰囲気も似ている。そんな天才に古橋・水口が挑む。なかなか興味深い構図の決勝メンバーとなった。古橋、人生最大の大舞台に挑む石井・古橋・白鳥・水口の並びで始まった決勝戦。こちらも予選同様、僅差の展開となる。
トップ目の水口が3万点前後を維持し、その間誰も2万点を割らずに耐えている。守りの麻雀というよりは「見切りの麻雀」とでも言うべきか。序盤は大きく狙いつつ、相手の動向を探りながら手牌に溺れず適当なところで安手やテンパイで妥協する。だから決定打となるアガリも致命傷となる放銃も出なかった。
そんな均衡を破ったのが古橋だ。南2局の親で先手を取る。
ひとまずテンパイ。打での待ちは決して良い待ちとはいえないが、点数差が小さいだけに親リーチによる子の足止め効果は絶大だ。だが、古橋はその誘惑を振り払う。せっかくのチャンス手なのに、三色もイーペーコーも消え、かつ不安の残る待ちで形を決めたくなかったからだ。次巡ツモでとスライドさせ、さらにを引いてリーチ。高目567の三色の3メン待ちに変化。これぞ門前手役派の真骨頂ともいえるテンパイ形で古橋はリーチをかけた。4巡後、をツモって親満。これで他家との差を一気に広げたのである。
次局、古橋の親が落ち、優勝まで残り2局。白鳥と水口の親を蹴れば優勝となる古橋。だが、ここで親の白鳥が立ちはだかる。門前派の古橋が珍しく仕掛けるやいなや、すぐに白鳥も仕掛けで応戦し局を流させない。そして南3局1本場では古橋より先にテンパイを入れてリーチ。これに対し、古橋の手が完全に手詰まりになったのだ(すっげぇ一打参照)。
古橋「この局が一番苦しかったですね」
安全牌ゼロの状態だったが、古橋は焦らずじっくりと読みを入れて放銃を免れた。最大のピンチを凌いだ古橋に今度は逆に幸運が訪れたのだろうか。粘る白鳥の親を、オーラスの逆転に賭けた石井がアガって落としてくれた。古橋にとっては望外の進局である。
さらに、オーラス。ラス親・水口のリーチを受けながら、古橋もテンパイを入れるべく粘っていた。すると何と4枚目のを引き入れてテンパイ。
山にが残っていなかっただけに正に奇跡のテンパイである。これをアガって古橋がサイバーカップを制し、新たなスターになる権利を得た。プロ入り11年目にして初めて掴んだビッグチャンスだ。
いや、正確に言えば二度目か。実は古橋は以前にもチャンスを掴みかけていたのだ。それが第12回野口賞である。この舞台で古橋は決勝戦まで駒を進めていた。だが、決勝では井出康平プロの前に敗れてしまう。
古橋「井出さんは1つ年上ですがプロ連盟同期でプロテストの時からライバル視してました」
井出は野口賞受賞後、最強戦・モンド杯にも出場し、昨年はモンド杯優勝も果たしている。もしあのとき井出に勝っていれば…、古橋がそんな想像をしたのは一度や二度ではないはずだ。今度は古橋がライバルたちににそう思わせる番である。古橋は最強戦ファイナルにかける意気込みをこう語ってくれた。
古橋「人生最大の大舞台。リーグ戦もお休み(前期にA2昇級を果たし後期は対局なし)なのでファイナルだけに集中してトレーニングし、さらなる門前手役派麻雀で優勝目指します!」すげえ一打白鳥の親リーチに手詰まりになった古橋。ここで選んだ牌は何か? またその根拠は?待ちではない可能性大のドラ表示牌の切り古橋の手牌はもション牌で完全に手詰まり。50秒長考した古橋が選んだ牌はだった。
古橋「まずの後の切りリーチなので付近が何らかに関連していることが1つ。加えて、白鳥の捨て牌が、との後の字牌の手出しなのでがシャンポンやカンチャンで当たる可能性は低いからです」少し難しいが、と何かのシャンポンの可能性があること、あと(白鳥の2枚目のが手出しのため)万一のチートイツを考えれば安全牌はゼロ。だが、ドラ表示牌のは意外に安全だ。からを先切りしてシャンポンに受けたり、ドラでからドラ表示牌の受けを決め打ちするケースはまずない。ドラ表示牌だからこそ安全と読めるケースもあるのだ。
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