そんな身近な存在の台湾ですが、何度も訪れているという人でも「現地の生活」については知らないことも多いのでは? 月に1〜2回は台湾を訪れるという、ROOMIE ADVISERの田中佑典さんが見た、台湾の「暮らしぶり」について聞いてみました。
田中佑典
1986年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。日本と台湾をつなぐカルチャーマガジン『LIP』を刊行。日台間での企画やプロデュース、執筆、クリエイティブサポートを行う。語学教室「カルチャーゴガク」主宰。著書に『LIP的台湾案内』(リトルモア)。http://lipbox.p2.weblife.me/。
台湾人は一人暮らしをしない
就職や大学進学をきっかけに上京、といった流れが日本での一人暮らしを始める流れとして一般的ですが、台湾ではそもそも「一人暮らし」は少ないのだそう。
台湾はそこまで広い土地ではないので、実家から通う人が多いですね。大学の宿舎も多いため、シェアハウスや寮生活をして暮らす人も多数。それとは別に、「家賃」の問題もあります。
例えば、サラリーマンのベッドタウンとしても知られる、台北市の周りを囲む新北市は台湾の中でも一番人口が多いのですが、他の街との家賃の違いが著しく一人暮らしをするには金銭的な問題が立ちはだかります。
台北だと1Rで6~7万円程度、遠く離れた台南市や高雄市まで出ると3万円程度まで下がりますからね。
家賃の問題、これは日本の都市部と地方の差とも似ています。都内の大学へ実家から2時間近くかけて通っていた、という人もいるのではないでしょうか。
あと、台湾の中心部では「持ち家」の人はほとんど見ないですね。台湾含めて中華思想では、「衣食住行」を基礎としています。「行」とはつまり、常に動いていること。
会社や住む場所について一定の場所にとどまらない、という考え方が根付いています。家を購入するのは、富裕層ぐらいではないでしょうか。
インテリアをあまり気にしない
ROOMIE読者はもちろん、日本では住まいを自分らしくアレンジするということがごく普通に行われています。部屋を彩るアイテムとして、台湾の雑貨も人気。しかし台湾では、部屋にこだわるという人は珍しいのだとか。
実は台湾の人は、ファッションやインテリア、レイアウトなどはあまり気にしません。気にしないというか、こだわる人はものすごく高いレベルで実現する、こだわらない人は全く気にしていないといった感じで両極端なんですよね。
家の中にも家具は少なく、基本的にはイケアとニトリが中心。そもそも、台湾の賃貸は家具などが備えられていることが多く、テレビやベッド、机などがあらかじめ用意してあります。そういった意味ではすぐに生活を始められるなど、様々な利点もありますが。
「内」と「外」の認識が、日本人とは異なる
日本と台湾で内と外の領域、線引きが違うのかもしれません。日本では内と外の境界線がしっかり引かれていて、『ここは公の場所、ここからはプライベートの空間』という感覚がありますよね。
だから部屋を自分だけの世界、自分の城にしたい人が多いのではないでしょうか。そこだけは唯一、プライベートの領域を守りたい……といった風に。
だけど台湾では公と私の境界線が緩く、外でも自分の空間や領域を作るのが上手なんです。道端で麻雀をやったりしていて、それこそ夜市などの露店文化もそこから派生したものでしょう。
仲間や友人との距離感も近いんですよ。日本人と比べて、プライベートなことを割とたくさん隠さずに話してますからね。
そのため日本人のように、自分の部屋に対して「そこが唯一の自分のプライベート空間」という思いは少ないのかもしれないです。最低限、机の上だけ自分の好きなものに囲まれていればそれでいい。
部屋ではなく、机周りにこだわる人は多い
先ほども言った通り、台湾の物件は家具付きが多く「改めて自分で家具を購入しておしゃれをする」といったことをそもそもしないんですよ。
大家さんも、契約の時に「家具はいらない」と言われたら困りますからね……。
なので、台湾人は部屋全体というよりは「自分の机周りにこだわる」人が多いんです。マスキングテープで好きなDMやポスターを貼ったり、文房具や雑貨など小さなアイテムを揃えて、自分らしい机にする人がたくさんいます。
先ほどの「衣食住行」の話と重なりますが、“定住する”ということがあまりなくて。
日本人の定型挨拶としての「お変わりなくお過ごしでしょうか」は、台湾人にとってはむしろ恥ずかしいこと。生活の状況が変わっていることが求められるのです。
一方で、“丁寧な暮らし”への憧れ意識が高く、ハンドメイドや手仕事系のものは多い。松浦弥太郎さんなどは、とても人気がありますね。
「丁寧な暮らしへの憧れ」という流れから、今後台湾でもインテリアにこだわる人が増えていくかもしれないですね。
キッチンがない
書店に並ぶたくさんの料理本がそれを物語るように、「料理好き」が多い日本。広くて使いやすいキッチンは、憧れでもあります。1回の旅行で網羅しきれないほど美味しいものが多い台湾のキッチン事情は、それとはだいぶ異なる様子……。
僕がこれまで見てきた中では……という話ですが、台湾は外食文化なので部屋にキッチンはありません。家で料理を作らないのが基本です。
日本では家庭での料理は当たり前ですよね。料理って身近なもので、気軽に作る。だけど、台湾はその認識すら異なるんです。そのくせ台湾の人は屋台や店舗で食べるというよりも、テイクアウトをすることが多い。なので、水道と電子レンジくらいは揃っている部屋も割とあります。
一方で、“体験のひとつとして”料理をしたい、という人もいます。最近は料理教室もできてますが、技術を磨くというよりもエンターテインメントとして体験するという認識ですね。
確かに安くて美味しい屋台があんなに揃っていれば、家で料理をしなくなるかも。
ちなみに浴槽もないんです。便器とシャワーがくっついていて、便器の床にバシャバシャとシャワーの水が降り注ぎます……。
ゴミの分別が厳しい
マンションの下や地区の集積所へ決められた日時までに出すのが、日本の一般的なゴミ出しのシステム。分別に関しては、地域によってマチマチといったところでしょうか。
台湾の人々はエコに対しての意識が高く、ゴミの収集場所がありません。
じゃあどのようにしてゴミを出しているのかと言うと……毎日夕方になると『エリーゼのために』が流れ始めて、収集車がやってきます。それが聞こえたら家の外にゴミを持って行く、そういうシステムです。
フローリングが少ない
昔の日本の家は畳がほとんどでしたが、最近の定番はフローリング。台湾の家の場合は?
コンクリートとまではいきませんが、石造りの家が多くあります。ドアを開けても玄関的なものはなく、靴は脱いでスリッパで生活しているそうです。
ペットを飼っている人が多い
犬や猫、その他にも様々なペットと暮らしている人は日本でも多いですよね。しかし賃貸物件ではペット可のところが少なく、動物好きは部屋探しに苦労することも。
台湾ではペットNGな物件はほとんどなく、動物に対する愛情が強いそうです。部屋でペットを飼っている人もとても多いですよ。公園に行くと犬を散歩している人にたくさん出会います。
旅行に行くだけでは見えてこない台湾の人たちの暮らしぶり。街中にはおしゃれなカフェなども多いため、インテリアにはあまりこだわらない、というのは少し意外でもあります。いつか台湾版「みんなの部屋」も見てみたいですね。
写真提供:田中佑典