バックパックのロールスロイスと呼ばれ、高品質で高機能、圧倒的なフィット感は、創業以来、今でも変わっていません。日本ではファッションアイテムの一つとしても人気を集めていますが、芯にあるのは“最高品質のバックパックを作りたい”という職人魂。
グレゴリーの日本マーケットを10年以上見続けているサムソナイト・ジャパンの中島健次郎さんに、グレゴリーのブランドとフィロソフィーについて聞いてきました。
バックパックは背負うのではなく、着るものだ
──そもそも、中島さんが「グレゴリー」を知ったのはいつ頃ですか?
1990年、高校生の時に通学用にデイパックというモデルを買ったのが出会いです。ファッション的にかっこいいじゃん! みたいな感じで。
当時はアウトドアをやっていませんでしたが、高品質で丈夫に作ってあって、良い素材を使っていて機能的、というのはすぐに感じましたね。グレゴリーを持っているだけでステータス性がある、とにかくイケてる存在でした。
──世代が一緒なのでわかります(笑)。おしゃれな同級生たちは通学カバンが「グレゴリー」でした。その後、仕事として携わることになったきっかけは?
以前働いていたアウトドア用品店の元上司が、グレゴリーアジア・パシフィックっていう、グレゴリーUS本社の駐在員事務所を立ち上げようと誘ってくれたんです。2009年のことなので、今年で13年目になります。
──ここ数十年でグレゴリーのラインナップは多くなりましたし、認知も拡がったと思います。あらためてグレゴリーのブランドコンセプトから教えてもらえますか。
言語化された言葉があるわけじゃないのですが、要約すると“最高品質のバックパックで最高のアウトドア体験を提供する”というのがコンセプトになります。40年以上前に創業者のウェイン・グレゴリーが作ったときから変わっていません。
彼はバックパックにはじめてサイズフィッティングという機能を取り入れた第一任者で、しっかりと設計されたバックパックは背負うものではなくて着るものだ(don’t carry it ,wear it)という哲学があります。この考えが今でも根付いています」
──洋服でサイズがあるのは当たり前ですが、バックパックにもサイズという概念を取り入れたんですね。
サイズフィッティングって、現在の登山用バックパックでは当たり前のことになっていますが、当時はグレゴリーしかやってない、グレゴリーが持ち込んだ、みたいな感じで優位性を持っていました。
でも、そこに甘んじることなく、さらに上の快適性とかフィッティングを追い求めて、今でも“バックパックは着るものだ”という考えのもと、ひたすら開発しています。
──さらなる着心地ならぬ、さらなる背負い心地を追求しているんですね。
プレミアムフィットというモデルでは、ショルダーハーネスとウエストベルトが交換式なので、背中のサイズを選んだら、今度はショルダーとウエストを別のパーツで、自分に合うようにカスタマイズしてフィットできるというのもあります。
また、今年からアメリカで大柄な人のためのプラスサイズというのもはじまりました。どんな体型の人でも快適に背負えて、最高のアウトドア体験をしてもらいたいという思いは創業以来変わっていません。
アメリカ本国には、「おしゃれグレゴリー」がない!?
──日本だとファッションシーンでもブランド認知が拡がっていますが、海外ではどうなんでしょうか?
アメリカ本国では、日本やアジアで展開している「ライフスタイル」カテゴリー(いわゆるファッション系アイテム)はほとんど存在しません。登山向けの「テクニカル」カテゴリーが中心なんです。
僕が高校生の時に日本で大ブームになったデイパックというモデルも、もともとデイハイキング用やワンデーアクティビティ用に作られたテクニカルパック。それが日本ではマスターピースとしてずっと売れ続けていることに、当初、本国はすごく戸惑いがあったみたいなんです。
でも、それって物が本当に良かったからアウトドアをやってない人たちからも認めてもらえたということだと思うんです。日本で買ったグレゴリーをアメリカで背負っていると『そのクールなバッグ、どこで買ったんだ?』って聞かれるんですよ。『アメリカのブランドだよ』って答えるとビックリされますね(笑)。
──意外でした。お膝元には「おしゃれグレゴリー」が流通してないんですね。
アメリカはテクニカルにフォーカスして、進化させてどんどん良い物作っていく。日本はライフスタイル製品が支持されて、お客さんが喜んでくれるのでずっと作り続けてきたというのが経緯です。
それに伴ってファンが増えてブランドも成長してきました。デイパックとかウエストパックとか限られた商品だけじゃなくて、ショルダーバッグも欲しいといったニーズを汲み取りながら、どんどん品揃えを広げていきました。
──企画やデザインは日本で行っているんですか?
いえ、日本のマーケットからの要望を本国に伝えて、ブランド的にOKなものをアメリカで開発して日本に投入していくという流れです。しっかりブランドのフィルターが入っています。
日本はファッションとアウトドアがどちらも成熟し、かつクロスオーバーしていますが、アメリカやヨーロッパにはまだ隔たりがあると感じています。そういった理由から、アメリカやヨーロッパはテクニカルが中心のビジネスで、日本やアジアはライフスタイルとテクニカルの二軸で展開しています。
──アーティストとのコラボも好評のようですね。
おかげさまで、グレゴリーを知らなかった人にもブランドを知ってもらって、それをきっかけにアウトドアにも興味を持ってもらえればと思います。
ライフスタイル製品のビジネスをやっていることは、グレゴリーの強み。非アウトドアな人たちにアプローチができますし、その先にあるテクニカル製品を手にとってもらえるようにブランディングしていきたいですね。
街と山をつなぐ、第三のカテゴリー
──進化を続けるテクニカルのなかで、最近の目玉があれば教えてもらえますか?
「ポリジン」という、バクテリアの繁殖を抑えて臭いにくくする加工があるんですが、これをバックパッキング、ハイキングパックカテゴリーでいち早く採用しました。
今シーズンから『カトマイ』というモデルに導入しているんですが、背中や肩、腰など体に触れるメッシュの部分にすべて加工が施されているので、清潔に保つことができます。
たまたまコロナ禍というのもあるのですが、お客さんからの反応がすごくよくて、他の製品にも導入して欲しいという声は多いですね。
バッグパッキング、ハイキングバッグカテゴリーとしては初の搭載となる「ポリジン加工」。これによって、パクテリアの繁殖を抑え、汗などの臭いを抑えることに成功した
──衛生面が気になる現代にフィットした機能ですね。
背負い心地もどんどん進化していて、いまは背面パネル一体式が主流。背中からウエストまでがシームレスに繋がっているので、一度背負うとほかのバックパックだと不快になるほどです。あとは細かいサイズ調整は背面パネルの位置を微調整すれば大丈夫です。
昔はいろんなモデルを試してみて自分に合うサイズはどっちかみたいなのを1時間以上悩むお客さんも多かったのですが、最近はオンラインストアで気軽に買う方も増えてきました。フィットテクノロジーが進化したおかげです。
──テクニカルで得た技術や機能は、ライフスタイル製品にも落とし込まれてくるのでしょうか?
それぞれの機能や素材が融合した商品の開発を進めています。いまはライフスタイルとテクニカルの間を埋めるような商品が少ないので、そこを増やしていく予定です。
登山でグレゴリーを愛用されている方には熱狂的なファンの方も多いのですが、普段使いでもグレゴリーという声が根強いんです。でも、ライフスタイル製品だと、ちょっと毛色が違ってしまう。
ライフスタイルとテクニカルの間を埋める役割として、こちらのようなバッグが今後のGREGORYの鍵を握るとも言える
──なるほど、デイパックの素材をテクニカルで使ってるものに変えたりするのですね。
そうです。テクニカルを愛用している方に馴染みのある見た目になるんです。一方で、ファッションからグレゴリーに入った人がアウトドアを始めようと思ったときに、テクニカルの本格的なバックパックだと高機能すぎてしまいます。
山と街、両方のユーザーがステップアップしていけるような商品を揃えて、グレゴリーを正しい形で成長させていきたいですね。
本国のスタッフたちは商売人というよりは職人気質。自分たち自身が欲しいもの、一番だと思うものを作っている心底バックパックのメーカーなんです」
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