舞台は1841年のアメリカ。自由黒人としての権利を認められ、家族と幸せに暮らしていた男が、ある朝突然、財産も名前も奪われ、奴隷として売られていく…。
『SHAME -シェイム-』でセックス依存症の男の孤独と葛藤を赤裸々に描き、“恐れ知らずの映画作家”と称されたイギリス出身のスティーヴ・マックィーン監督が次に選んだ題材は“奴隷”。
『それでも夜は明ける』は、主人公ソロモン・ノーサップが12年間の奴隷生活を綴った回想録を原作にした驚愕の実話です。
先日行われた試写会トークイベントに登壇した映画評論家の町山智浩さんいわく、100年間続くハリウッド映画史において、アメリカが忘れたい歴史=奴隷制について描いた映画は『マンディンゴ』(1975)と『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)、そして今作しかないのだとか。
「それだけアメリカが作りたくなかった闇の歴史の部分を描いたこの作品は貴重なんですね。あと、南北戦争が終わって奴隷解放から来年で150年目ということもあります」と町山さん。
また、「この映画は最初、大手の制作会社が制作を断ったので、ブラット・ピットが自らプロデューサーとして動いたんです」と明かし、「実際にアメリカ人俳優でこの映画を作っていたら、役者陣はもっと辛かったと思います。監督も役者もイギリス人が多いから、うまく描けたというのもあるかもしれません」と分析していました。
3月2日(アメリカ時間)に開催された第86回アカデミー賞では、作品賞を受賞した今作。受賞スピーチでマックィーン監督は、「全ての人には“生き残る”だけではなく、“生きる”権利があります。これこそが、ソロモン・ノーサップが残した最も大切なレガシーです」と語っていました。
奴隷のパッツィー役を力強く演じ、助演女優賞に輝いたケニア人女優のルピタ・ニョンゴは、今作をきっかけに大きな注目を集めています。「このトロフィーを見る度に、私や全ての小さな子どもたちが、出身地は関係なく夢はかなうんだと思い出すよう願っています」と語っていたのが印象的でした。
歴史の過ちにのみ込まれながら、絶望の闇の中でも希望を捨てず、決して生きることを諦めなかったソロモンが、私たちに残した衝撃のストーリー。目を覆いたくなるようなシーンも多く、何度も押しつぶされそうになるけれど、必ず観ておきたい1本です。
『それでも夜は明ける』
監督:スティーヴ・マックィーン
出演:キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ルピタ・ニョンゴ、ブラッド・ピット、ほか
3月7日(金)TOHOシネマズ みゆき座他 全国順次公開
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『それでも夜は明ける』[GAGA]