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<菊地成孔の絶対に間違えないソウル 第一回>
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<菊地成孔の絶対に間違えないソウル 第一回>

2014-06-07 10:00



       
    はじめに 



     ソウル市とパリ市の地図を等寸で緯経度を揃え、ぴったりレイヤーした地図を作製する。というのは、現在のテクノロジーであれば、気の利いた中学生でも30分あれば出来るでしょう。すぐに解る事はセーヌ川と漢江の、アナロジカルとも言うべき相似性です(但し、セーヌ川が「ヘの字口」であるのに対し、漢江は「ニンマリした口」ですが)。

     


     そして、何と(如何にパリ市が小さく、名所旧跡を巡るのにメトロもタクシーも要らないとはいえ)総面積はソウルが約6倍の大きさなのです。

     


     ですから、川幅の差もとてつもないです。セーヌ川というのは、遠投が得意なら向こう岸に石を投げつけられるでしょう。そもそも、街の狭さ、川幅の狭さ、道路の狭さ、といった、あらゆる「狭さ」が、パリに於ける市街ゲリラ戦の戦法――火炎瓶を投げるとか、教室に立て篭るとか――を形成したのです。それに比べると漢江は雄大で、まるでメコンかアマゾンの、、、、というより、「川幅を4~5倍にしたセーヌのようだ」とするのがより正しいでしょう。アジア先進都市の中で、パリから文化的に最も遠いソウルが抱える、このアンビバレンスは、モダンソウルのカルチャーを考える上で、ひょっとしたら最も大事な事なのかもしれません。

     


     一方人口は若干パリのが多く、即ち、パリの方が人口密度がかなり高い訳です(観光客数も、まだまだパリの方が多いですからね)。

     


     とはいえまあ、街の真ん中に川が流れていて街をまっぷたつに分断している等といった話しは、集合無意識的とも言えるほどで、御存知の通り、我が東京も、こんなに広がってしまう前は荒川や江戸川によって分断されていました。


     そして、総ての都市がそうであるように、川を挟んだ両岸はあらゆるシンメトリーを形成します。リヴ・ゴーシュとリヴ・ドゥロワ言うまでもなく、山の手、下町、川向こう言うまでもなく、ソウルでは、あの愛すべき巨大な一発屋くんPSYが(昨年までは、PSYの似顔絵がプリントされた全顔保湿パックがミョンドンで飛ぶ様に売れていたのです。今年はもう、薬局のカウンターの隅の方で、PSYが満面の笑みで広告に登場している強精剤のポスターが埃をかぶったりしており、まあ予想はしていたとはいえ、ここまで激烈にもののあはれを誘うか。という、ソウルのパワフルさを感じずにはいられません)、「カンナム」つまり漢江の南側(漢南)がお洒落な振興都市つまりリヴ・ゴーシュである事を、世界中に知らしめました(勿論、対岸が漢北で、いわゆる山の手です。朝鮮の歴史には我が国の様な士農工商といった階級の細やかさが無く、ヤンバンという貴族階級とそれ以外。というザックリした区分なのです。漢北は宮廷やヤンバンの居住地区として発達して来ました)。

     


     前段に書いた通り、都市を川が分断すると、両岸が金持ちと貧乏人、スノッブとクールといった、階級的/文化的なシンメトリーを生む事は、集合無意識的なほどですらありますから、「兄ちゃんカンナム風(オッパー、カンナム・スタイル)」というブレイクの一言の訴求力は強く、一発屋だけに、正に一発でその意味と来歴を、世界中の、ソウル市の地理など知らぬ人々にさえ知らしめたのかも知れません。

     


     とはいえワタシは、最初にソウルに行った時に、ミョンドン、ホンデ、アックジョン、シンサドン、チョンダンドン、カロスキルと、南北を縦横に遊んでしまい、ナビを大久保で知り合った在日韓国人の友人に総て預け切ってしまったので(まだ全然、韓国語は一文字も喋れませんでしたし)、PSYのあの楽曲がみるみるうちに世界中に広まって行く最中も、何がカンナムなのか解らないままでした。

     


     因に、最も日本のテレビ番組に写る地区はミョンドンで、東京の大久保/新大久保というのはリトルコリアというより、遥かにリトルミョンドンです。ワタシは漠然と「ソウル=大久保/新大久保」と思っていたので、ロッテホテルにチェックインしてからロッテペッカジョン(百貨店)を過ぎて、所謂ミョンドンのファッション&コスメ街に脚を踏み入れた瞬間の「うおーソウルに来た」感は凄まじく、ここがソウルのユースカルチャーの中心地だと何の疑問も無く思い込んだので、コンフリクトを起こしたのでした。直訳するならば大久保/新大久保であり、翻訳するならば渋谷の道玄坂周辺であるミョンドンは漢北です。ちょっとした混乱の楽しさここにあり。という所でしょう。

     


     この連載は、ちょうど10年前の2004年、東京最大のリトルコリアに(そこがそもそもリトルコリアであって、後に、常軌を逸するほどの「韓流ブーム」が来るなんて、予想だにしないまま)住み始め、2010年に初めてソウルに旅行に行き、震災前後を挟んで20回ほど通った者が、2014年以降に、初めてソウルに遊びに行く人々の為に書かれる物です。そういう人々は、これからどんどん減って行くのではないか?パリのガイドの方が、情報価値が高かったかもね。ギリギリで。等と思いながら。

     


     (つづく)


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