年末は大忙しでも年が明けてしまえば、ゆったり過ごせるお正月となるわけですが、正月気分でおとそにおせちに…というのも元日だけで、松の内どころか、三が日のうちに通常モードなんて方も多いのではないでしょうか。ショッピングモールや家電店など元日から営業しているところも多いのですが、やはりそうしたところには人が集まるもの。人混みは初詣だけで十分という方は、結局、うちに帰って寝正月となってしまうのでは?
そんなとき、穴場なのが美術館・博物館です。ミュージアムが正月早々やっているわけないじゃない、とお思いかもしれませんが、意外や意外、1月4日から開館は当たり前。それどころか三が日も1月2日から開いているところも多く、年末年始休まず元日に開館しているところもあります。今年は、初詣のついでに”美術館・博物館にも初詣”というのはいかがでしょう?
お正月気分でいっぱいの上野へ!(東京国立博物館/国立西洋美術館)
2107年の新春も博物館・美術館へ。写真はトーハクの「博物館に初もうで」でのいけばな
美術館・博物館の三が日開館の先駆けとなったのがトーハクこと「東京国立博物館」です。2017年も「博物館に初もうで」として、1月2日(月・休)より開館します。正門や本館玄関前、エントランスでは池坊・蔵重伸氏によるいけばなが出迎え、本館前のユリノキを囲むように、和太鼓や獅子舞、太神楽などが実演され、お正月ならではの雰囲気でいっぱいになります。
恒例となったトーハクの「博物館に初もうで」は1月2日から。写真は2014年の獅子舞の様子
本館では新春特別公開として、いまやこれを見なければ新年を迎えた気がしないという熱心な美術ファンまでいる、長谷川等伯による「国宝 松林図屏風」をはじめ、金銀を用いた豪華な佇まいの本阿弥光悦作「国宝 舟橋蒔絵硯箱」や扇面に描かれたやまと絵が美しい「国宝 扇面法華経冊子」といった新春らしい名品が公開されます。
毎年注目される干支にちなんだ展示となる「博物館に初もうで 新年を寿ぐ鳥たち」では、2017年の干支である酉にちなみ、海北友雪による花鳥画の大作「花鳥図屛風」をはじめとして、「暁の鳥」と「祝の鳥」の2つのテーマで、さまざまな鳥を描いた作品を展示します。また、吉祥(吉兆)をモチーフとした、「名所江戸百景・日本橋雪晴」(歌川広重)や「小袖紅綸子地竹梅鴬文字模様」といったさまざまな作品も館内各所に展示されます。
「国宝 松林図屏風」(左隻)長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀
2017年1月2日(月・休)~1月15日(日) 本館2室(国宝室)にて展示
「花鳥図屛風」海北友雪筆 江戸時代・17世紀
2017年1月2日(月・休)~1月29日(日) 本館特別1室・特別2室にて展示
黒田記念館の展示風景。写真は黒田清輝「重要文化財 湖畔」(モデル:藁科早紀)
1月2日、1月3日の2日間に2017年カレンダーがついた特集「博物館に初もうで 新年を寿ぐ鳥たち」を楽しむためのワークシートを先着3000名(なくなり次第終了)に本館1室前で配布します。人気のトーハクですので、2日は開館前から列ができるほどです。混雑を避けるなら、1月3日の午後以降が狙い目かもしれません。
美術館・博物館が多くある上野だけあって、トーハクのほかにもいくつかの美術館が三が日から開館しています。世界文化遺産に登録されたことで、いっそう人気の美術館となった「国立西洋美術館」は、ル・コルビュジエや世界遺産に関連した展示を行っています。
また、企画展は、独特のエロティシズムを湛えた魅惑的な女性像の表現で世界的に知られた、ドイツ・ルネサンスを代表する画家、ルーカス・クラーナハ(父)の日本における初の本格的な展覧会「クラーナハ展-500年後の誘惑」を1月15日まで開催中です。キービジュアルにもなっている「ホロフェルネスの首を持つユディト」の妖しくも美しいユディトの姿に釘付けになります。また、”ユディト”を再現した現代美術家の森村泰昌の作品も必見です。
世界文化遺産の国立西洋美術館も2日から開館
お江戸の正月を両国で(すみだ北斎美術館/江戸東京博物館)
よりお正月らしくお江戸の気分を味わいたいなら、ぜひ両国へ。両国と言えば、両国国技館と「江戸東京博物館』がよく知られており、まさに江戸文化を伝えるエリアとして国内外から多くの観光客が足を運ぶ場所ですが、これに2016年11月、新たな施設として『すみだ北斎美術館』が加わりました。
「すみだ北斎美術館」はその名の通り、世界に知られ、印象派に多大な影響を与えるなど、ヨーロッパを中心に世界の芸術家に影響を与えた、絵師・葛飾北斎の専門美術館です。「富嶽三十六景」や「北斎漫画」をはじめとした作品を所蔵する同館のコレクションは、世界的な北斎作品収集家の故ピーター・モース氏の総数600点におよぶ所蔵作品を基盤としており、これらのコレクションから企画展を展開しています。100年余、行方がわからなかった幻の絵巻「隅田川両岸景色図巻」を展示する開館記念展「北斎の帰還ー幻の絵巻と名品コレクション」を15日まで開催中です。
初めての新年を迎える同館では、1月2日、1月3日には新春イベント「祝!北斎元年 初春再廻隅田賑(まためぐるすみだのにぎわい)」と題し、隅田囃子(箕輪家流隅田囃子保存会)や壽獅子舞(桃川流社中)をはじめ、漫才や書など、初春らしいイベントが行われます。
常設展示室には北斎さんと娘のお栄さんが
建築家・妹島和世氏設計によるすみだ北斎美術館
両国に来て忘れてはいけないのは「えどはく」の愛称で親しまれている「江戸東京博物館」。江戸のお正月を体感するなら、ここは外せません。常設展示室というにはあまりに広大な空間には、日本橋や芝居小屋の中村座、江戸庶民の暮らしを再現した「棟割長屋」などが出現し、まさに江戸にタイムスリップできます。
1月2日、1月3日はこの常設展示室で新春の催し物「えどはくでお正月!」が繰り広げられます。江戸の街並みさながらの空間で、江戸時代の伝統技術・からくり人形の「夢からくり」や獅子舞、琴の演奏が披露されます。この常設展示が2日、3日は無料になるのは春から縁起がいいというものです。また、1月7日(土)~9日(月・祝)に常設展示室の中村座前で披露される「正月寄席」も、江戸っ子気分が味わえます。なお、特別展示室では歴史ファンに垂涎の展覧会、特別展「戦国時代展 -A Century of Dreams-」が1月29日(日)まで開催中です。
日本橋を渡れば、もう江戸の町
新春の京都に詣でるなら?(京都国立博物館)
お正月もたくさんの観光客できっとにぎわっている京都で早くから開館するのが、2017年に開館120周年を迎える「京都国立博物館」。トーハク同様に「京博でお正月」として、お正月ならではのイベントが1月2日、1月3日に行われます。
1月2日は120周年を記念して、現代美術の画家で幅広い層にファンを持つ山口晃氏と、同館の佐々木丞平館長との対談「新春・京博こと始め2017」から幕があきます。続いて格調高くクラシック音楽を堪能するコンサート「ヒジヤミュージッククラブ 新春コンサート2017」が開催、1月3日には庭園で恒例の「親子で餅つき大会」が行われます。8日(日)には京都ならではのイベント「芸舞妓 春の舞 ー京の優雅な舞を博物館で」が開かれます。また、京博の人気者、同館公式キャラクターの「トラりん」が2日、3日、6日~8日に館内各所に登場します。
京博の公式キャラクターの「トラりん(本名:虎形琳之丞)」と京都市のキャラクターの「まゆまろ」
平成知新館では特集陳列「生誕300年 伊藤若冲」と題し、さまざまな花鳥画をはじめ、青物問屋に生まれ育った若冲ならではの、大根を釈迦に見立てた「果蔬涅槃図」などが展示されています。また新春特別陳列「とりづくしー干支を愛でるー」として、雪舟筆による「重要文化財 四季花鳥図屏風」や狩野永良筆の「白梅群鶏図」をはじめ、干支である酉年にちなんだ作品が展示されます。いずれも1月15日まで開催中です。
新春のイベントではありませんが、国立博物館としてはめずらしいイベントとして、2016年12月31日(土)21時より、同館の野外特設会場において「Daiwa Sakura Aid presents 京都博物館 COUNTDOWN 2016→2017」(コンサート参加無料)が開催されます。出演はジュスカ・グランペール、白井貴子、矢井田瞳の3組。新年をミュージアムで迎えるなんて、素敵ではありませんか。
京博の新しい顔として2014年9月にオープンした平成知新館。建設の際、この敷地より豊臣秀吉が建立した方広寺の遺構が見つかった。さすが京都というべきか
京博の明治の顔、明治古都館。耐震工事がはじまるため、当面は休館になっているのが残念。手前は正真正銘のロダン「考える人」。世界に21体しかない。

お正月らしく日本画を堪能(山種美術館/足立美術館)
日本の美しさに触れるなら、日本画に力を入れた美術館を訪れるのも、お正月らしくていいかも知れません。
東京・広尾にある日本画専門美術館の「山種美術館」は1月3日より開館します。普段から「きもの割引」(団体割引料金適用)を行っている同館だけに、お正月がこれほど似合う美術館もないと思います。1月3日には先着100名にプチギフトをプレゼント、館内のカフェ「Cafe椿」では甘酒を振舞います。また、1月3日より発売する新春福袋(限定50個/2000円税込)には速水御舟、小林古径、上村松園、川合玉堂といった山種コレクションの名品を収めた2017年カレンダーや同館オリジナルの日本画グッズが6000円相当が入っています。これは日本画好きには見逃せません。
同館では、開館50年を迎えた昨年から引き続き開催されている開館50周年記念特別展として「山種コレクション名品選III 日本画の教科書 京都編─栖鳳、松園から竹喬、平八郎へ─」を2月5日(日)まで開催中です。同展は山種美術館の顔ともいえる竹内栖鳳「班猫」や村上華岳「裸婦図」の2点の重要文化財をはじめ、上村松園、小野竹喬といった明治から現代にいたるまで京都画壇で活躍した画家の数々の名品を展示します。伝統を規範としつつも、旧来の枠組みを超えて、日本画に新局面をもたらした京都画壇の魅力を堪能できます。
竹内栖鳳「班猫」【重要文化財】
上村松園「牡丹雪」

広尾の閑静な住宅街にある山種美術館のエントランス
もう1つ、ぜひおすすめしたいのが、島根県にある「足立美術館」。年末年始は休まず元日からの開館です。大観美術館と称されるほど日本画の大家である横山大観の作品を数多く所蔵しており、竹内栖鳳、川合玉堂、菱田春草といった名だたる近代日本画家の作品が堪能できます。現在は冬季特別展「教えて巨匠! 日本画ってなあに?」を2月28日まで開催中です。堅苦しい、古くさいと思われがちな「日本画」ですが、実は明治以降、西洋画に対して日本で広まった新しい言葉であり、ジャンルと言えます。日本画の基本的な知識を取得するには絶好の機会となる展覧会です。
同館で必見なのが、5万坪にもおよぶ広大な庭園。枯山水庭をはじめ、四季折々の表情を見せる庭園は、まるで一幅の絵画のようで、借景となっている自然の山々との調和は日本画そのままです。同じ島根にある出雲大社とあわせて訪れて、年のはじめに日本の美しさ、日本の心に触れることができそうです。
雪化粧をまとった足立美術館の庭園
top:幻の絵巻「隅田川両岸景色図巻」はすみだ北斎美術館・開館記念展「北斎の帰還」で展示中(モデル:茂木ミユキ)text by チバヒデトシ