新宿から西武鉄道で30分ほど東村山駅。周辺はスタジオジブリ作品『となりのトトロ』に登場する七国山のモデルになった八国山や、新東京百景に選ばれ、菖蒲まつりでも有名な北山公園などがあり、自然に恵まれた環境です。
その東村山駅から徒歩15分強の場所に、山設計工房で働きながら、個人活動「むら家」を展開する一級建築士の飯塚啓吾さんファミリーが暮らす家があります。啓吾さん自身が設計した2階建て+ロフトの一軒家は、間仕切りがなく、家族の距離の近さがポイント。にぎやかさと開放感に溢れる家でした。
名前:飯塚啓吾さん、亜衣さん、お子さんふたり職業:山設計工房 一級建築士(啓吾さん)、コーダ洋服工房での服のお直し(さん)
場所:東京都東村山市
建物面積:62㎡(ロフトを入れた実面積75㎡) 間取り:1K+ロフト(2階建)
建設費:建設費約1,300万円、土地代約1,300万円
築年数:築6ヶ月(新築)
お気に入りの場所
ハンモックのある土間
近所のお友だちもお気に入りの場所
啓吾さんとお子さんのお気に入りの場所は、ガラス張りの玄関を入ってすぐ、IDÉE(イデー)で購入したハンモックを置いた土間。耐荷重量100kgのハンモックなので、お子さんたちの遊び場にもなっています。
「休日は、ハンモックで寝ながら本を読んだり、ぼーっとして過ごすのが至福です。サッカーやスポーツの試合をプロジェクターで壁に映して、息子と一緒に観ることも多いですね」(啓吾さん)
家族が集まるキッチンダイニング家族4人で食事をしたり、お茶を飲んだりするのが、1階のキッチンダイニング。晴れた日には、ガラス張りの玄関から日の光が差し込んで気持ちよさそうです。
料理をしながらお子さんの様子が見えるキッチンカウンターは、亜衣さんの強いこだわりで生まれた場所。
「別の場所にいながらも、なんとなく家族が繋がっていられるように、仕切りのない家にしたかったんです。
スペースが限られているので、ダイニングテーブルとキッチンの作業台を兼ねました。なので、一般的なダイニングテーブルより少しだけ高くしてあります。カウンターの下は食器や調理器具の収納スペースにして、なるべく家具を置かなくていいようにしてもらいました」(亜衣さん)
遊び場兼収納スペースであるロフト2階の部屋からハシゴを昇ると、6畳ほどのロフトがあります。ここはお子さんたちのお気に入りの場所。
「5月に使う兜やテレビ、掃除機など、普段使わないものをロフトに収納していますね。隠れ家みたいだから、子どもたちはここで工作やブロックをして遊ぶのが大好きですよ」(啓吾さん)
この家を建てた理由
間取り図(クリックで拡大)
結婚して8年目を迎える飯塚さんご夫妻は、なんと小学校・中学校の同級生。おふたりとも東村山市から離れたことがなく、駅で再会を果たしたのがお付き合いのきっかけだったそう。
結婚してからも市内の団地で暮らしていたそうですが、住まいを変えたきっかけを聞いてみました。
「以前住んでいた団地は築40年で、味わいがあって気に入っていたんですけど、僕たちふたりとも昔から家を建てたいと思っていて。最初は中古物件を買ってリノベーションしようと物件を見ていたんですけど、ある土地で試しに予算組をしてみたら『知恵を使って費用を抑えれば、一軒家が建てられるかもしれない!』と思いはじめて……。そこから物件探しではなく、土地探しをはじめたんです」(啓吾さん)
住みたい土地の条件は東村山市内・実家から近い・子育てに環境がいいこと。
「ふたりともこだわりが強いので、なかなか気に入るところがなくて。この家にたどり着くまで結構時間がかかりました。土地選びは主に私が担当して、その土地ならどういう家になるか図面を夫が描いて……というのを何度も繰り返しました」(亜衣さん)
「このあたりは、東村山市内でも特に自然が多くて、綺麗なところだなとすごく気に入りました。人口密度も他の市より少なくてのどかです。自転車で20〜30分のところに実家があるし、子どもたちにとってもいい環境で、条件にピッタリでした」(亜衣さん)
「実際に図面を描いて、ここなら家族の距離が近い家ができるなと思ったんです。最終的に土地と建物で2,600万円くらい。自分で設計しているので設計料は入っていませんが、坪単価60万円を切っているので、コスト的にも非常にいいところが見つかったと思ってます。
この家が完成したのが2017年6月で、長男の小学校の1学期が終わるタイミングで引っ越しました」(啓吾さん)
「設計事務所勤務の人間は、お金に余裕はありません(笑)。なので、とにかく無駄なものは作らずに、ローコストに抑えることを考えて形にしました。それでたどり着いたのが、狭い土地を有効活用できる、平面方向には仕切らないワンルームをベースとした空間です。
いろいろな場所を、いろいろな役割で使えるように意識しました。明確な玄関ではなく街に開かれた土間にしたり、2階にいても家族の顔が見えるように小窓を作ったり。今となっては隠すところがないので、家族の距離はゼロです(笑)」(啓吾さん)
残念なところ
玄関の電気スイッチの位置玄関の使い方を設計時とは少し変えたため、電気スイッチの位置が気になるそう。夜、真っ暗な家に帰ってくるときには、ちょっと不便なのだとか。
リビングの柱は、なくてもよかった「構造体のコストを考えて柱を入れたのですが、なくすこともできたのでなくせばよかったなと、住みはじめて思いました……」(啓吾さん)
お気に入りのアイテム
玄関のロールスクリーン
ガラス張りの玄関は開放感があり、取材中も地域の人とのコミュニケーションが生まれているのがよくわかる場所でした。ただ、夜には外から丸見えになってしまうので、TOSOのロールスクリーンを設置。
「窓と扉を兼用にしたくて、玄関はガラスにしました。外から見えないようにカーテンをつけようと思ったのですが、なんか違うねという話になって。このロールスクリーンは、外から内部が見えないようにもできますし、光を透過することもできます。全部開けると明るく、外も見えるので、開放的な感じで気に入ってますね」(啓吾さん)
リサイクルショップで買ったシューズボックス玄関のシューズボックスは、亜衣さんが小平市運営のリサイクルショップで2,000円ほどで買ったもの。リサイクルショップを上手に利用する暮らし方は、参考になりそうです。
「以前の家に住んでいた時からこれがあったので、靴の収納は作り付けなくていいかなって(笑)。シルバー人材のリサイクルショップは穴場で、自転車やゆりかごも売ってるんですよ」(啓吾さん)
「千歳烏山にあるリサイクルショップ『NEWS』は、IDÉEなどのブランド家具が安く買えるのでよく利用しています。ロフトに置いてあるIDÉEの机も、そこで3万円くらいで買いました」(亜衣さん)
キッチンダイニングに置いてある、子ども用の椅子と本棚「椅子や本棚は、妻が昔から持っていたり、作ったりしたものを今でも使っています」(啓吾さん)
リプロダクトのスタンダートチェアフランスの建築家、デザイナーであるジャン・プルーヴェの代表作「スタンダートチェア」のリプロダクトは、啓吾さんが前の家から使い続けているお気に入り。
カバーをかけてアレンジしたビーズソファキッチンダイニングに置いてあるビーズソファは、のんびりくつろぐときによさそうです。
「最初は、中身もカバーも無印良品のものを使っていたんですけど、IDÉEのカバーがかわいかったので変えてみました。それだけでインテリアの雰囲気が変わりますよね」(亜衣さん)
テレビがわりに使う、SONYのプロジェクター「うちにはテレビがなくて、朝のニュースなどもプロジェクターを壁に投影して見ています。テレビのようにハッキリと映らないのでテレビ好きな人には物足りないかもしれませんが……。
主人と子どもたちは、大きい画面でスポーツ観戦していますよ」(亜衣さん)
亜衣さんが仕事をするミシン
自宅のカーテンなどの布関係は、すべて亜衣さんが作ったもの
洋服のお直しの仕事をしている亜衣さんは、自宅でもミシンを使ってカーテンなどをDIYしているそう。
「ミシンを置いている机は無印良品、もふもふしたカバーはインターネットで買いました。ネットショッピングでは、楽天やオルネ ド フォイユを利用することが多いですね」(亜衣さん)
無印良品の脚付きマットレス2階の部屋は収納スペースであり、寝室であり、お子さんの遊び場でもあります。家族4人で寝ているのが、無印良品の脚付きマットレス。
「夜はベッドとして、昼間はソファのように座って使えるので便利ですよ。布団を端っこに片付けて、この上で子どもが遊んだりもします」(亜衣さん)
暮らしのアイデア
本当に必要なものだけを厳選して置く。でも楽しさは忘れない「子どものおもちゃはどうしても数が増えてしまいますが、できるだけ数を増やさないように、定期的に収納を見直しています。
収納面でも、使っていないおもちゃはロフトに収納して、1階に置くおもちゃはそのときお気に入りのものか、デザイン性が高いものに。煩雑になりやすいので本当に必要なものだけを置いていますね」(亜衣さん)
プロレスや三輪車などダイナミックに遊ぶ用の2階の部屋には、お子さんの落下防止の柵が。黒板仕様にすることで遊び心を忘れないのがいいですね。
強すぎる色合いのものを置かない「家が狭いので、インテリアの色は白、黒、素材は木を使って、スッキリ統一感があるように工夫しています。子どものものは色がカラフルなので、その他のものはなるべく色を抑えたくて……」(亜衣さん)
これからの暮らし
啓吾さんが設計した、一生暮らす住まい。これからふたりのお子さんたちが成長したら、間仕切りのない部屋はどうするのだろうか?
「子どもの成長に合わせて、部屋を分けられるように設計してあります。それに部屋のレイアウトを変えられるよう、基本的には家具を作り付けていません。
2階のベッドがある部屋と収納部屋のレイアウトを変えれば、子ども部屋に。まだ明確には決めていなくて、そこは夫婦の寝室にしてもいいし、場合によってはロフトを夫婦の寝室にするかもしれません。
僕は兄とずっと同じ部屋で育って、同性の兄弟だし不自由がなかったので、明確に子ども部屋を作らなくてもいいかなとも思ってますね」(啓吾さん)
亜衣さんにも将来の夢があるそう。
「いつか家で仕事ができたらいいなと思っています。子どもが大きくなったら、玄関土間の一角でミシン仕事ができるようにしたり、ガレージセールもできたら嬉しいですね」(亜衣さん)
「毎年、近くで開催される北山公園菖蒲まつりの時期には、このあたりに住んでいる人は駐車場を500円で貸し出したり、フリマをしたり。陶芸教室やカフェをやっている人もいます。僕たちも住むだけではなく、家をいろいろな使い方ができたらと思っています。それと、春になったら前庭に家庭菜園を作る予定です」(啓吾さん)
完成して約半年の飯塚さんの住まいは、お子さんたちの成長に合わせてこれから形を変えていきそうです。家族の距離だけでなく、ご近所さんとの距離もグッと近い、“人が集まる家”でした。
Photographed by Norihito Yamauchi