グリーン好きの人なら「当たり前だ」と笑ったあとに、目をランランと輝かせて、その魅力を語り出すかもしれません。
そう、実は今、インテリアグリーン界には空前の塊根植物ブームが到来中!
塊根植物とは多肉植物の一種です。マダガスカルや南アフリカなどの乾燥地帯で育つように進化した植物で、根や幹が貯水タンクの役割を果たすよう肥大して木質化しているのが特徴。
個体の希少性も特色の一つで、例えばこの「オペルクリカリア・パキプス」と呼ばれる塊根植物は、なんと42万円相当!(鉢植え込み)
しかしながら、そのなんとも言えないユニークでまあるいフォルムの愛らしさに、心を打ち抜かれて塊根フリークになる人があとを絶たないのだとか。
立役者といえば、この人
そんな塊根ブームを日本に巻き起こしたのが、今回お話を伺った愛称aneakenさんこと、横町健さん。
自身が代表をつとめる株式会社anea design(アネアデザイン)で、エキゾチックプランツショップ「BOTANIZE(ボタナイズ)」の経営はもちろん、カフェの運営や、アパレル企画の作成・販売もされています。
Instagramでは自身の手がける様々な企画やライフスタイルを発信し、2019年10月現在で2万人のフォロワーに支持されているインフルエンサーでもあります。
BOTANAIZEの屋上温室
VANSやUNITED ARROWSなどの著名ブランドやセレクトショップとコラボをするなど、他の植物店ではみない活動も精力的に行っているBOTANIZE。
今回、ブランドに「現代への向き合い方」を伺っていく本特集「ブランドとフィロソフィー」で横町さんに話を伺っていく中で見えてきたのは、「流されることの大切さ」でした。
好きなことの追求は、自分だけの人生の贅沢
「BOTANIZE」ではアパレルとコラボしたアイテム制作やイベント企画をされてますよね? 植物店としては珍しい活動だと思うのですが、何か狙いがあるのでしょうか。
「この塊根植物というヘンテコな存在をもっと多くの人に知ってもらいたいからです。元々それが狙いでBOTANIZEを設立したので。
植物屋さんとしての展開のみだと、植物好きしか来てくれませんよね。でも、アパレルブランドやアーティストとコラボすれば、もともと塊根植物に興味がなかった人も触れてもらえる機会が生まれます」
「たとえば、UNITED ARROWSさんとのコラボイベントである『UNITED ARROWS EXOTIC PLANTS LOVERS EXHIBITION BY BOTANIZE』でも、実際に洋服を見に来たアローズのファンが、なにこの植物? 面白いからひとつ買って行ってみようみたいな流れが起きていて。
そんなふうに塊根植物に触れるきっかけをどんどん作って行ければいいなと考えています」
なぜ「BOTANIZE」は、植物の中でも塊根植物に特化されたのでしょうか。何かビジネス上の戦略が?
「BOTANIZE」 x 〈Vans(ヴァンズ)〉 別注スニーカー
「いいえ。単に、何より僕が塊根植物を大好きだからです(笑)。僕の根底にある仕事に対する想いって、自分自身が楽しんでいたり愛していたりするものをお客さんにすすめたいということ。
だって心から好きなものじゃないと、本気でお客さんにおすすめできないじゃないですか。なのでコラボしているブランドやアーティストさんも、BOTANIZEとしてというよりも僕が個人的に大好きなブランドや人。全く知らないところや人とコラボすることはまずないですね」
「やっぱり、好きだからこそ気づけるニーズってあるので。たとえば、あんまり丸くなくて枝ぶりが悪い塊根植物を安く売ったところで、ウチに来てくれるようなお客さんは長く愛せないと思うんです」
横町さんが手に持つパキポディウム・グラキリスは鉢と合わせて、なんと約44万円相当!
「だったら値段が高くても、厳選された良い個体だけをセレクトして提案させてもらったほうがお客様も失敗したってことにならないんじゃないかなと。それは、僕自身がそうなので」
「なにより、僕のサービスを通して、みなさんに自分が好きなものをひとつでも多くみつけてほしいんです。
誰でも自分が本当に好きなものを見つけたら、そのために一所懸命になれるじゃないですか。僕自身が塊根植物を好きになって、それで起業までして、知り合った友だちも多くいる。
植物に限らず、僕の場合はカフェの経営でも、車でも、大好きになったから得られた機会や出会いが多くあるワケです」
自身が塊根フリークである横町さんが植物をセレクトする目は厳しい
「だからこそ、人それぞれ、自分の好きなことを一生懸命に追求していくことこそが、その人だけの人生の贅沢を生むのかもしれないって、個人的には思ってるんですよね」
流されていい。ぶつかったものにそのつど向き合えばいい
好きなものが増えれば増えるだけ人生は豊かになる、ってことでしょうか?
「僕はそう思います。たとえば植物は仕事に連れていけないので、朝晩の家にいるときや休日に全力で愛でる。昼は一時間ブラジリアン柔術のクラスがあるので、その時はそこで全力を尽くす。
そのあと事務所に戻ってきたら、また切り替えて仕事に全力で取り組む。そんな毎日の積み重ねで、僕は人生が豊かになっていると感じますから」
そうなのですね。ただ、現代って自分の“好き”に自信を持つことって難しいような気もするんです。
たとえば、やっと“好き”を見つけても、そのフォロワーが300人だったりすると、「私のセンス、他人から見たらおかしくないかな……?」と、自分の好きに自信が持てず、多数の好きに流されてしまったり……。
どうしたら、自分の“好き”に自信を持って、まっすぐ追求できるんでしょうか?
「他人の目が気になるうちは、まだ本気で好きじゃないのかもしれませんね。
恋愛と同じだと思うんです。本気で好きなら、他人とか関係ないじゃないですか。その好きを発信することが怖いなら、まだそれは本当の好きじゃないのかも。
それに、もし好きなものがわからなくて流されてしまうって思っているとしても、流されたら流されたでいいじゃないですか。
流されるうちに、あの人のアレいいなって思うものにぶつかって、そのうちそこにどっぷりハマって、そこから自分なりのスタイルができあがっていくことだってあるんじゃないですか」
「誰かの真似でもいいんです。まずは触れることが大事。たとえば、僕は良くも悪くもスマホ中毒で、もっと楽しいことはないか? もっと自分がハマれることはないか?って放浪しまくってるんですよ(笑)
夜中の3時に、イイネされたアカウントのアーティストを見て、気になったらとりあえず一枚そのアーティストの絵を買ってみる、なんてこともあるくらい」
「そもそも塊根植物にハマったのも、たまたま知り合いのアパレル事務所に行ったときにパキポディウムと呼ばれる塊根植物の一種があって。
もともと僕は小さいころ、父の影響でサボテン大好き少年だったので、懐かしいな~と思ってひとつ譲ってもらったんですね。それで育て始めてみたら、昔の植物へのトキメキが溢れ返してきて!」
「それから一気に集め出してみたら、塊根植物って、おんなじ種類でおんなじ品種で、おんなじ属であっても、枝の本数も違うし、葉っぱの特徴や株の丸みも一つひとつ全然違う唯一無二のものばかりなんですよ。
『うわっ……この個体丸くて、枝が短い……もっと丸いのないのか?』なんてことを繰り返し、気付けば今です(笑)」
「そんな感じで僕には常にそのときどきの好きなものがあって、それらのおかげで楽しく生きてこれた。だから、僕にとっての幸せのカタチは、いわば究極の公私混同なんですよね」
植物に小学校時代にハマり、一度離れて再度ハマるまで30年くらいの隔絶があった横町さん。もしかしたら、私たちにも昔好きだったなあと終わらせているものや、流されていく中で、今から熱中できるものがあるのかもしれません。
植物には育てる楽しみがある
では、好きになるのはなんでもいいということですが、その中でも特に、横町さんが塊根植物にハマった魅力って何なんでしょう。
「塊根植物には、その造形を見て楽しむアートとしての面と、毎日育てるという生き物としての面の両方があるんですよ。
もちろん見てるだけでも楽しいんですが、育てるってすごい気持ちが入るじゃないですか。
実際、朝起きて見て元気がなかったり万が一枯れたりなんてしていたら、めちゃくちゃ悲しいんですよ」
この投稿をInstagramで見る◽︎ date ——————– ・ ・ ・ やっと1日取れた休み ひとり娘、花とデート 今日は良く遊んだ めちゃめちゃ楽しかった @billsjapan
KEN YOKOMACHIさん(@aneaken)がシェアした投稿 – 2019年 8月月7日午前1時45分PDT
「僕には娘がいるんですが、子どもが出来て人生観変わったなって感じます。
人って子どもでもペットでも、自分以外に大事なものができると『どうしたら喜ぶかな?』とかっていう、今までの自分の軸にない考えや行動が生まれるんですね。
塊根植物は持つっていうよりも飼うとか育てるっていう感覚なんで、そこがとことんハマってしまう理由なのかも」
実際に塊根植物好き同士だと、自分の鉢を「この子」と言って可愛がる人も多いのだとか。ある意味子どものような感覚で愛でている人たちが少なくないのかもしれません。
ちなみに、高価な塊根植物ばかりではなく、なかには3000円から、なんてものも。ペットはなかなか飼えない環境や状況でも、塊根植物をひとつ取り入れることは比較的簡単なのも魅力なのでしょう。
全力で放浪すれば、繋がるものがあるかもしれない
では最後に、自分の“好き”とかやりたいことに自信をもてない方に何かアドバイスをいただけますでしょうか?
「まずは目の前の仕事を全力で楽しもう、でしょうか。これは僕が普段から社員に言っている言葉です。一度全力でやってみた結果、楽しくなかったらやめればいい。
ただそのつど、目の前のやるべきことに全力で向かうことで開ける縁や、見つかる“好き”が、きっとあると思うんです」
「たとえば、僕自身は学生時代の居酒屋バイトが楽しくて、そこでお客さんの名前やファーストドリンクを全て暗記していたら、学生ながら副店長を任されるようになって。
それで飲食店の経営に興味が出て、実際に店の売り上げを倍にできたことで、自分の作った店を持ちたいなんて夢ができたり……。
それから10年、国内でカフェをひらくために必要な修行をする中で、店舗の設計や内装施工の勉強もはじめたら、そういうデザイン自体も好きになって……」
「そんなふうに僕自身、そのときそのとき流れ着いた場所で、やるべきことを全力で楽しんだことが全て繋がったからこそ今があります。
だから好きなものに出会うべく、ふらふらと放浪しながらも、縁があって目の前に来た仕事ややるべきことには一度全力で向き合ってみてはいかがでしょうか。そこに好きのヒントがあるかもしれません」
塊根植物にはひとつとして同じ個体がないように、わたしたちのあり方の選択にも正解なんてないように思います。好きだからこそ仕事にしないのも、好きだからこそ仕事にするのも、きっとそれぞれにとって健やかな“スタイル”。
ただどんな選択をするにしても、まずは自分の“好き”に出会えるチャンスを探してみること、そのために、とにかくたくさん流されること、そして何より流された先で、そのつど全力で向き合うこと。
BOTANIZEのあり方、そして横町さんのあり方が教えてくれたことは、激流のような現代を生きる一つのヒントになるのかもしれません。
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Text by Yowami Asada
Photographed by Kaoru Mochida
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