とはいえ、そのときのトレンドや自分の気分次第で求めるデザインは変わってくるし、住む場所や目的が変われば必要な装備だって変化するもの。
だからこそカスタマイズを知れば自転車と長く付き合っていけると話すのが、元自転車デザイナーでもある名越敬真さん。名越さんの話を聞けば、愛着を持てる自分の自転車が欲しくなると同時に、今持っている自転車を見つめ直すきっかけにもなるかも。
名前(職業):名越 敬真(デザインオフィス グッドマンデイズ代表)年齢:36歳
自転車歴:約14年
4台の愛車、“愛着ポイント”は?
パーツの保管やカスタム、メンテナンスを行うのは、土間を改造した作業場。愛用している4台の自転車のうち、3台はこの作業場に保管し、残りの1台は屋根のある屋外に保管。
14年前から少しずつ集め、大切に育ててきた自転車たちは、それぞれどんなところに“愛着ポイント”があるのでしょうか?
①とにかく軽くて丈夫! がっつり走りたいときのロードバイク価格:220,000円(税抜)
愛用歴:約3年
主な用途:トレーニングや150kmほどの長距離ライド用 ・フレームの素材選びや加工方法にこだわってつくられているので、アルミバイクの中でもとにかく軽い
・金属でできているため、カーボンバイクなどよりも丈夫で扱いやすい
・1日乗っても疲れない長距離向きの自転車
・アルミでできていて錆びにくく、メンテナンスもしやすい
デザイナーとして入社した自転車の会社で、3年間かけて開発したロードバイクです。設計や素材選びからつくったので、思い入れがありますね。
現在はパーツからほぼ変えてしまったので、オリジナルの部品はフレームくらいしか残っていないそう
ファーナの特徴は、見た目に反した驚きの軽さ。実際に手に持ってみると笑ってしまうほど軽く、片手でヒョイっと持ち上げられます。
金属の自転車が好きで。以前はカーボンの自転車も持っていたんですけど、カーボンってレーシング用途なら軽くて剛性が高くていい一方、例えば輪行して持って行くときなんかに傷つきやすいんですよね。
一方の金属は丈夫で扱いやすい素材なので、軽量なアルミにはすごく可能性があるんです。これはレーシングモデルばりに軽くて、パワーもしっかり伝わる。しかも、輪行して持って行きやすい。軽量アルミバイクはメリットがたくさんあるし、僕の使用目的にもすごく合っていたので、自分でも購入して乗っています。
②20年前の自転車を街乗り用にカスタマイズ 愛車②:Panasonicのシングルギアの自転車(オーダーメイド)購入価格:人から譲り受けたもののため0円
愛用歴:4ヶ月
主な用途:2kmくらいの街乗り用 ・ドロップハンドル/シングルギアの自転車を街乗り用にカスタム(現在カスタム中)
・クロモリ素材の自転車は使えば使うほど乗り心地がよくなると言われている
・鉄(クロモリ)なので気をつけないと錆びやすい
・クロモリバイクはカーボンやアルミ製の自転車に比べてマイルドな乗り心地だが、漕いだ分しっかり進み、重さを感じさせない(ただし価格帯にもよる)
カスタム前の写真(写真提供:名越さん)
もとはロードバイクだったというこちら。最初のオーナーさんがオーダーでつくった自転車を譲ってもらい、現在カスタマイズしている最中なんだとか。
街中での乗りやすさや見た目を考えて、フレームを塗装し、ドロップハンドルからマウンテンバイク用の幅広ハンドルにカスタム。合わせてハンドル周りのパーツも付け替えたそう。
幅広のハンドルは、サンフランシスコからストリート自転車カルチャーを発信しているグループ「MASH」のバイクを真似てみたそう。
本家のハンドルはこれでもまだ足りないほどの長さがあるそうですが、日本の狭い道では何かと不便なため、現在の長さに。
③ポール・スミスも目をつけたバイオメガ価格:人から譲り受けたもののため0円(輸入経費込みの想定価格は約30万円)
愛用歴:5年半
主な用途:500mくらいの街乗り用 ・タイヤが小さくて小回りが効くので、街乗りに最適
・重くどっしりしているため長距離の走行には不向き
・ワイヤーになっている前三角の部分を鍵の代わりに使える
・タイヤが太いため、街中でのパンクの心配がなく乗り心地がいい
「人から譲ってもらったもので、かなり珍しい自転車らしいんですよ。たぶん、日本にそんなないんじゃないかな」
そういって名越さんが見せてくれたのは、ミニベロにも少し似た、珍しいフォルムの自転車。北欧はデンマークの工業デザイナーJens Martin Skibstedが発足したバイクブランド「バイオメガ」の一台です。
なんといっても特徴的なのが、フレームの「前三角」と呼ばれる部分。下辺がワイヤーになっています。
このワイヤーが鍵として使えるようになっているんですが、ここを切ってしまうと自転車として機能しなくなるので切れない。盗難防止にもなるし、機能としても役立つっていう、プロダクトとしては画期的なものなんですよ。
ただ、そのワイヤーを構造体として生かすために全体のつくりをがっちりさせないといけなくなった結果、重くなるっていう。コンセプトとしてはいいんだけど、少し使い勝手は悪い自転車ですね(笑)。
仕事でポール・スミスさんにお会いしたときにいただいたというサイン。これ、よく見るやつだ…
自転車好きとしても有名なデザイナー、ポール・スミスが所有している自転車として、『Cyclepedia: A Tour of Iconic Bicycle Designs』にも掲載されているバイオメガ。それだけ貴重な一台だということが窺えます。
④14年以上現役で活躍しているタフな一台価格:約11万円(ヤフオクで購入)
愛用歴:14年
主な用途:20kmくらいの街乗り用 ・はじめてのロードバイクとして手が届きやすい金額
・フレームがアルミ、後ろのシートステイだけがカーボンでできており、乗り心地と耐久性を両立(カーボンバック仕様)
・変速トラブルレスなシングルギアにカスタム(その代わりチェーンが落ちやすくもなるので注意)
Bianchiのシンボルでもあるチェレステカラーの自転車は、名越さんがはじめて買った一台で、14年もの間連れ沿っている相棒。
この自転車を買った当時、名越さんは大学の試験勉強中。ピストバイクのブームも重なり、自転車に興味を持ちはじめたんだとか。
2007年の春に大学に落ちた時に、頭を使うことと体を使うことのバランスがすごく大事だなって気づいて、体のケアのためにロードバイクを買おうと思ったんです。それで、比較的安価で手に入ったBianchiの自転車をヤフオクで買いました。
もとはロードバイクだった一台ですが、最終的に街乗りもしやすく、かつ遠くまで行くこともできるようなパーツ選びになったとのこと。
目的によって自転車はどう選べばいい?
近場は500mから長距離は150kmまで、さまざまな自転車を目的に応じて使い分けている名越さん。
自転車ビギナーに向けて、街乗り用と長距離用それぞれの、自転車の選び方を教えてもらいました!
街乗りにおすすめの自転車は?街乗りがメインの自転車を選ぶときにおすすめなのは、少し太いタイヤのものを選ぶことと、信号などで止まりやすく漕ぎ出しやすいクロスバイクを選ぶこと。
クロスバイクだと、700cっていう大きさのタイヤになります。その中でも28cという太さよりも太いタイヤだとパンクしにくい。太いタイヤを履ける自転車を選ぶことも大事かなと思います。乗り心地に関しても、ある程度タイヤが太い方がいいんですよ。(極端に太くなると重量も重くなってしまうので注意)
“信号で止まってまた走って”っていう動作が多い街中では、前傾姿勢になるよりも体が立ち位置の方が向いてるんです。街乗りがメインの場合は、ストップアンドゴーがしやすいフラットバーのクロスバイクを選ぶのが一番だと思います。
逆にパーツが高価なロードバイクなどを街乗り用に使うと、盗難の被害に合いやすいケースも……。
ロードバイクは、長距離を乗るために高価なパーツに交換したりするんですよね。街中に駐めておくと、鍵をしててもホイールだけ持って行かれちゃったりして、安心して駐めて置けない部分はあるかもしれません。
長時間乗れる自転車の特徴は?スポーツとして自転車に乗りたい場合や、小旅行がてら遠方まで乗っていきたい場合などは、ドロップハンドルのロードバイクやギアが複数あるものを選ぶがおすすめ。
ドロップハンドルは手をつけるポジションがたくさんあるから体の姿勢を変えられて、荷重がかかる位置をお尻とか腕とかに分散することができるので疲れにくいんです。
一方、フラットバーだと上向きに上半身が立つので、腰にかかる負担が大きいんですよ。そうすると長時間乗るのがしんどくなりやすいんですよね。
あとは、変速機のギアの段数も重要です。シーンによってギアの段数の組み合わせを変えることによって、足の疲れを軽減することができるんです。
自転車を長持ちさせるには?
ラブリコにホームセンターで買ってきたパーツを組み合わせて自転車を収納
14年前の自転車も現役で使っているほど、物持ちがいい名越さん。特に金属の自転車は丈夫とのことでしたが、自転車を長持ちさせるためにどんなことを実践しているのでしょうか?
雨ざらしにしているとどんどんダメになっちゃうので、やっぱり自転車を買ったら室内で保管する、もしくは、カバーをかけて雨が当たらないようにするのは絶対かなと思います。
フレームがアルミだとしても、パーツの中には鉄が使われている部分があったりして、そういうところからサビてきてしまうんですよね。
あとはオイルがなくなると金属も摩耗するし音鳴りの原因にもなっちゃうので、定期的にオイルをさしてメンテナンスする。合わせてワイヤーとか消耗品の交換もしてあげれば、長く安心して乗っていけると思いますね。
そしてもうひとつ、「話を聞いてもらいやすいお店を見つける」ことも、自転車生活を長く続ける秘訣なんだとか。
話を聞いてもらえる家の近くの自転車屋さんを見つけることがすごく大事だと思います。すごくいいお店を見つけるとめちゃめちゃ親身にパーツ選びやメンテナンスについて教えてくれるので。自転車屋さんって自転車を売るだけじゃなくて、自転車を買った後のケアもしてくれる場所なんですよ。
古くなった自転車、捨てるのはちょっと待った!
クロスバイクってだいたい5万円前後だと思うんですけど、それって決して安くはない金額だと思っていて。何年かで乗らなくなっちゃうともったいないし、買ってから愛着が湧くように乗っていくことも大事だなと思うんです。
バッグのデザイナーだった経験を生かして、Tシャツやカバン、キャップのロゴにも
そう話す名越さんが最近はじめたのが、古くなった自転車に新たな価値を生み出す「DUNCHBIKE」プロジェクト。
おんなじ建物に人が住み続けて、そこにストーリーが生まれる『団地』のコミュニティにすごく魅力を感じていて。自転車も同じように、ちゃんと使い続けていればすごく長く乗れるものなんですよね。
そんなところから、自転車からストーリーが生まれる『DUNCH BIKE』という取り組みをはじめました。
すごく古い自転車であれば逆にオシャレに見えることもあると思うんですけど、20年ぐらい前の自転車って、グラフィックが当時の流行りを拾ってるので、今乗るにしてはちょっと派手な場合もあるんですよね。
それでもう乗れないって捨てられたり、使われなくなってたりすることが多くて。でも自転車としてちゃんと機能するものまで使われなくなるのはすごくもったいないし、エコではないなって思うんです。
カスタム前のbefore(写真左)/after(右)(写真提供:名越さん)
僕が持ってるPanasonicの自転車みたいに、パーツとかフレームの外観を変えれば、何十年も昔の自転車でも古さを感じさせないようにできるし、今でも目的に応じて長く乗り続けることもできる。
そうやって、新しい自転車を買わなくても、今ある自転車を自分でカスタマイズして乗れるようにしてみるのもありじゃない?って提案ができればと思って、この『DUNCH BIKE』をやってみようと思ったんです。
実は名越さん、「みんなの部屋」の出演者である平井さんの友人で、好美さんが使っている自転車もこの「DUNCHBIKE」のもの。
真っ赤なロードバイクをターコイズブルーに塗り替え、パーツをカスタムして見違える姿に。元の自転車はメルカリなどのネット販売を利用し、パーツなどの諸経費を含めてもわずか2万円ほどしかかからなかったそうです。
カスタマイズ時におすすめのアイテム
「自転車はバイクや車と違ってカスタムしやすいことが利点」と話す名越さんに、実際に使っているカスタム道具を少しだけ紹介してもらいました!
六角レンチとケーブルカッターは“いいもの”を選ぶべき!名越さんが使っているのは「HOZAN」の六角レンチと「SHIMANO」のワイヤーカッター
カスタム道具の中でも第一にお金をかけるべきだと言っていたのが、「六角レンチ」と「ワイヤーカッター」。
大事なのは、いい六角レンチを使うこと。安い100均のものとかで済ませてしまうとネジ山が舐めてしまう可能性があるので、いい六角レンチを使った方がパーツもダメにならないです。
あと、もしワイヤーを変えるのであれば、ワイヤーカッターもいいものを買った方がいいと思います。やっぱり切り口も全然違いますし、ちゃんとワイヤーがほつれずに切れるので。
手軽にキレイな塗装が叶う「スプレーバイク」そのほか名越さんが太鼓判を押すカスタム道具が、自転車の塗料「スプレーバイク」。こちらは実際に「DUNCHBIKE」の自転車を塗装するときにも使っているとのこと。
これが、超便利で。自転車用のスプレーで、普通の塗装用スプレーよりもフレームへの密着力がすごく高く下処理が楽チンなんです。
塗装がはじめての人でもムラにもなりにくくて、液ダレも少ないのでおすすめです。匂いもそんなに強くないし乾燥時間も早いので、使いやすいスプレーですね。
スプレー塗装なら手軽に、かつ自転車の雰囲気をガラッと変えられるので楽しそう! ただし塗装を行える場所を確保できるかどうかは、なかなか難しいポイントです……。
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メンテナンス時の必需品は?自転車の汚れを落とし、キレイにするメンテナンスにおすすめだというのが、KUREの「パーツクリーナー」とScottの「SHOP TOWELS」。
こちらはホームセンターなどでも手頃な価格で手に入るアイテムで、自転車だけでなくさまざまな金属パーツの油汚れ掃除にも役立つ万能アイテム。
使い方次第で幅広い応用ができそうです。(※火気厳禁。塗装面に使用するとダメージを与える恐れがあるので注意)
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新しく購入するだけじゃない可能性
長く乗っていけるようになることはもちろん、「買ったときよりも大事にしたくなるのがカスタムの魅力」だと名越さん。
自転車がこんなにも有機的で、人の思いや歴史を重ねていくことができる乗り物だったとは。
まるで自転車と対話するように大切に乗り継いでいる名越さんを見て、私も自分の自転車をピカピカに磨いてあげたくなりました。
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