8月20,21日に,ジュニアドクター育成塾事業「科学イノベーション挑戦講座」第2テーマ「食品の安全を守る科学技術」を実施しました。今回の講師は,愛媛大学教育学部理科教育講座の大橋淳史准教授が実施しています。
1 はじめに
前回は目的を達成するための具体的な方法「(4)What」を決定しました。
イースト菌のアルコール発酵で,食品添加物が,微生物の活動をどのように変えるのかをしらべる。
これをしらべるためには,まずアルコール発酵がどんな発酵なのかをしらべなければなりません。そして,基準(ものさしや温度計の0にあたる)となる対照(たいしょう)実験について検討することが決まりました。この場合の対照実験は,ふつうにアルコール発酵したらどうなるかということです。
イースト菌のアルコール発酵の条件を決めましょう。
温度 40℃
食品(ブドウ糖) 10 g(10%濃度)
イースト菌の濃度 3 g(1パック)
これを基準(ゼロ点)にして,くらべていきましょう。
図1 アルコール発酵の準備
2 「見えないゴリラ」,「ただしい」値
得られた結果を全部まとめてグラフにしたものが図2です。
図2 アルコール発酵における二酸化炭素発生量(mL)
いまは点だけしか描いてありません。では,この点をどうやって結んだら良いでしょうか?
え? 折れ線ですか? ではやってみましょう。
図3 折れ線グラフにすると……
どうでしょうか。見やすいグラフと言えるでしょうか。この描き方にはふたつの問題があります。
(1) おなじ実験条件を重ねて書くと見えづらい
(2) 点と点を結んではいけない
(1) 図3のグラフは,まったくおなじ実験をそれぞれ描いているので見えづらいですね。線と線が重なって,どんなへんかになってるのかサッパリです。
(2) グラフで線を引くときに注意しなければならないのは,
点と点を結んで良いときと
点と点を結んではいけないときが
あることです。
点と点を結んで良いときは,その値がひとつに決定できるときです。たとえば,あなたが8月の1ヶ月間,毎朝アサガオの花が何個さいているのかをしらべたとしましょう。アサガオの花の数をキチンと数えているなら,この値はひとつに決定できます。ですから,8月1日から8月31日までの朝7時におけるアサガオの花の数は点と点を結んだ折れ線グラフで描きます。
では,図3は,どうでしょうか。まったくおなじ条件で実験していますから,値をひとつに決定できるとすれば,まったくおなじ値を示すはずです。しかし,10回の実験のデータはそれぞれ少しずつちがっています。アルコール発酵では目に見えないたくさんのイースト菌の活動を,目に見える二酸化炭素の発生量でかんがえていますが,ちょっとしたちがいで結果が少しずつちがっているのです。この場合は,値はひとつではありませんから,点と点を結んではいけないのです。
では,どうやってグラフを描けば良いでしょうか。図2を見てください。おなじ時間の二酸化炭素の発生量は少しずつちがいます。この一番上の値と一番下の値の間のどこかが「ただしい」アルコール発酵があると仮定してみましょう。どうすれば,それがわかるでしょうか。そう。
これが平均値を計算する理由です。
複数回実験をしなければならない理由は,私たちは「ただしい」値を知らないからです。そして,実験もしくは観察の回数がふえればふえるほど,私たちは「見えないゴリラ」を見つけることができるようになります。では,10回の実験の平均値を取ってみましょう。
図4 アルコール発酵の二酸化炭素の発生量の平均値
ほぼ直線にならんでいますね。このようにたくさんのデータからかんがえることで,私たちは「見えないゴリラ」を見つけ,「ただしい」値にちかづいていくのです。
3 食品添加物の効果
今回の実験は食品添加物の効果を安全な実験で確認することが目的です。食品の品質を守る食品添加物,日もち向上剤と食品保存料の効果をしらべましょう。
ふたつの食品添加物のちがいは以下のとおりです。
日もち向上剤(グリシン,アジャスター2)
食品の安全を短期間守ることができる。保存料不使用としてつかうことができる。
保存料(デヒドロ酢酸Na,ソルビン酸K)
食品の安全を長期間守ることができる。保存料として明記してつかう。安全を守る力,つかいかた,安全性については,きびしい試験をクリアしている。
実験をとおしてたしかめましょう。
図5 実験をとおして効果を確認しよう
結果をまとめてグラフに描きましょう。
図6 食品添加物の効果
なにも入れないときとくらべると,微生物の活動をおさえる効果のちがいがとてもわかりやすいですね。
4 なにがわかる?
グラフから,日もち向上剤は,アルコール発酵ではあまり微生物の活動をおさえていないようです。グリシンではなにも入れないときよりも二酸化炭素がたくさん発生しました。と言うことは,グリシンはイースト菌の活動を活発にする効果があるのかもしれません。
※注意※
これは,あくまでも「イースト菌でのアルコール発酵」の場合の話で,日もち向上剤が微生物の活動をおさえる力が常に低いことをあらわしているわけではないことに注意してください。
一方で,保存料はどちらも良くイースト菌の活動をおさえていることがわかります。グラフの傾きから,大体4倍の効果のちがいがあるようです。
モデル微生物として,安全,かんたんに用いることのできるイースト菌を用いたときは,日もち向上剤とくらべて,保存料はイースト菌の活動を4倍大きくおさえるという考察ができそうです。では,条件を変えると,イースト菌の活動は,どうなるでしょうか。
5 温度を変えるとイースト菌の活動はどうなる?
条件を変えるとイースト菌の活動は,どのように変わるでしょうか。イースト菌が温度によって,どのように活動を変えるのかを実験でたしかめましょう。これは課題でもかんがえましたね。
図7 イースト菌の活動の温度変化
対照実験は,黒線で示した実験です。これを基準にして,温度が低いときと高いときをしらべた結果は図7になりました。なんと,
温度が高くても低くても,イースト菌の活動はおさえられてしまいました!
どうでしょうか。あなたが課題でかんがえた予想を元にかんがえてみることが大事です。温度が低いときに活動がおさえられるのは,冷蔵庫が食品の安全を守ることから予想できるそうです。一方で,温度が高いときはどうでしょうか。ここで気になるのは,グラフの傾きです。オレンジ色の60℃はとちゅうから気体が発生しなくなり,一定の値を示しています。
どうして気体が発生しなくなったのでしょうか?
それは考察の課題になります。では,保存料を入れると,どうなるでしょう。ここではソルビン酸Kを入れたときの結果を見てみましょう。
図8 ソルビン酸Kを入れたときのアルコール発酵の温度変化
図7と図8は,よく似たグラフになっていますね。こちらでも60℃になると,とちゅうで気体の発生が止まっています。条件のちがう,ふたつの実験でおなじ結果が得られたことから,イースト菌の活動は60℃で何らかの問題が発生すると予想できます。温度を変えた実験チームは「イースト菌が死滅した」と考察しているようです。しかし,それは「ただしい」のでしょうか。そう。新しいナゾが見つかりましたね。そのナゾはどうすれば解明できるでしょうか。
図9 みんなでかんがえよう!
6 食べ物の量を変えるとイースト菌の活動はどうなる?
今度はイースト菌にとっても食べもの,ブドウ糖の量を変えてみましょう。食べものがたくさんあればあるほど,イースト菌は活発に活動するように思えますが,どうなるでしょうか。
図10 ブドウ糖の量を変えたときの二酸化炭素の発生量の変化
ブドウ糖を5gから20gまで5gずつ変えて反応を行いましたが,ほぼおなじ結果が得られてます。図2の結果からかんがえれば,これは「おなじ結果」としてもよさそうです。不思議ですね。
食べものが多い方が,菌にとっても良いはずなのに。
それは考察の課題になります。では,保存料を入れると,どうなるでしょう。ここではソルビン酸Kを入れたときの結果を見てみましょう。
図11 ソルビン酸Kを入れたときのアルコール発酵の食品の量による変化
図10よりは,それぞれの値は離れていますが,グラフの傾きはほとんどおなじですね。食べ物の量を変えた実験チームは「5gでもイースト菌が食べる量のげんかいよりも多かった。だから,それ以上ふえても気体の発生量は変化しなかった」と考察しているようです。しかし,それは「ただしい」のでしょうか。そう。新しいナゾが見つかりましたね。そのナゾはどうすれば解明できるでしょうか。
図12 みんなでかんがえよう!
7 まとめ
もう一度確認しましょう。
(1)なんのためにやるのか Why
保存料や日もち向上剤は,どのような効果をもっているのかを確かめたい
(2)どうやってやるのか How
紙の上で言われても実感できない!実験で確かめたい
(4)どのようにやるのか What
モデル微生物であるイースト菌のアルコール発酵で,食品添加物が,微生物の活動をどのように変えるのかをしらべる。
実験の目的である(1)Whyは達成されたかどうかをかんがえましょう。
- イースト菌3g,反応温度40℃,ブドウ糖10gの条件で,保存料はイースト菌の活動を日もち向上剤の約4倍おさえることが明らかになりました。
- イースト菌の活動は温度の影響を受けやすく,40℃がもっとも高く,22℃と60℃では低くなりました。また,60℃ではとちゅうで気体の発生が止まってしまうため,反応温度は40℃で良いことが明らかになりました。
- イースト菌の活動は食品の量にあまり関係なく,5g,10g,15g,20gの4つの条件で実験をしても,ほとんど変わりませんでした。そのため10gで,保存料と日もち向上剤をしらべた結果は,それぞれの微生物の活動をおさえる効果として考えることができることが明らかになりました。
以上の結果から,保存料と日もち向上剤の効果について以下のことが明らかになりました。
- 保存料はいずれもイースト菌の活動をおさえる高い効果をもっていて,日もち向上剤はいずれもイースト菌の活動に影響が少ないことが明らかになりました。
- 保存料でくらべると,デヒドロ酢酸ナトリウムとソルビン酸カリウムの効果はほとんどおなじです。
- 日もち向上剤でくらべると,グリシンはなにも入れないときよりも二酸化炭素の発生量がふえ,イースト菌の活動を活発にする効果があるかもしれないことが明らかになりました。
目的は達成されたと言ってもよさそうですね。
8 さいごに
実験をとおして,食品の安全を守る科学技術についてかんがえました。食品添加物は,食品の風味や食感をそこなわず,常温で食品の安全を守ってくれる科学技術です。そして,食品添加物は,つかう食品によって適したつかいかたがあります。今回の実験では,アジャスター2はあまり微生物の活動をおさえることができませんでしたが,適切に用いれば食品の安全を守ってくれます。
そして,微生物の活動を効果的におさえて,食品の安全を長く守ってくれるソルビン酸カリウムは世界でも毎年売り上げが伸びている保存料です。ちなみにソルビン酸は,熟していないナナカマドの実からとりだした化学物質ですから,「天然でない」ものではありません。
私たちが,いつでも好きなときに好きなものを食べたり,食事の栄養バランスをかんがえていろいろなものを食べられるのは,さまざまな食品の安全を守る科学技術があるからです。なかでも保存料は私たちにとって,もっとも危険な食中毒をふせいだり,食べものがくさってしまうのをふせいだりして,私たちの暮らしを善くしてくれているのです。
実験やデータをとおして,食品の安全を守る科学技術について,実感できたでしょうか?
これらの内容について,受講生がえひめこども科学新聞にまとめてくれますので,そちらでも確認してみましょう。
本講座で使用した食品添加物は,株式会社ウエノフードテクノ社より提供を受けました。
8月20,21日に,ジュニアドクター育成塾事業「科学イノベーション挑戦講座」第2テーマ「食品の安全を守る科学技術」を実施しました。今回の講師は,愛媛大学教育学部理科教育講座の大橋淳史准教授が実施しています。
1 はじめに
食品の安全を守る科学技術は,とても重要です。2017年8月現在,病原性大腸菌のニュースが大きく報道されています。
参考URL:O157で5歳女児重体、2人重症 埼玉・熊谷のスーパー販売のポテトサラダ食べる
産経新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170821-00000544-san-soci
人間は食品を食べないと生きていけませんが,おなじように微生物も食品を食べます。人間と微生物が,食品の早食い競争をしているわけです。しかし,微生物は目に見えないほど小さく,空気中をただよって,どこにでも移動できますから,私たちが気づかないうちに,私たちの食べものを先に食べてしまうことがあるのです。
そこで,人間は食品の安全を守る科学技術の開発に力を入れてきました。課題でかんがえたように,乾燥,塩漬け,発酵などのさまざまな方法が開発されました。しかし,残念なことに,これらの技術には解決すべきナゾが残っていたのです。それは,食材のもっている本来の風味や食感です。食品の安全を守るためには,食材の風味や食感はあきらめるしかありませんでした。
ふだん,あまり意識することはないかもしれませんが,いつでも,食材ほんらいの味をうしなわずに,おいしく食べることができる私たちの生活は,ものすごくしょっぱい漬け物ばかりを食べていた昔の人たちが夢に描いた生活なのです。
2 食品の安全を守る科学技術
食品のもつ,ほんらいの味をうしなわずに,長く安全に食品の安全を守る科学技術として,冷蔵・冷凍技術があります。私たち自身がそうであるように,寒いときは微生物の活動がおさえられ,食品を食べる速度はおそくなります。そのため,冷蔵庫は1970年代に三種の神器とまでよばれて,家庭にあるとうれしい家電のひとつだったのです。それらを作っていた家電メーカーの業績がドンドンのびていき,日本は工業技術立国としての立場を固めたのです。
冷蔵・冷凍技術は優れた科学技術ですが,とくに凍った食品はそのまま食べられません。また,冷やすのには電気が必要になります。では,電気をつかわずに,冷蔵・冷凍技術とおなじように微生物の活動をおさえることはできないでしょうか。
そのナゾを解決したのが,食品添加物,なかでも保存料なのです。
3 食品添加物のいろいろ
食品添加物と一口に言っても,いろいろな役割を持っています。
食品の品質を守る役割を持つ保存料や日もち向上剤,食品をおいしくする甘味料や調味料,食品を作るために必要になるにがりなど,さまざまな食品添加物があります。にがりとは,豆腐を固めるときにつかう,あのにがりです。食品添加物は私たちの生活を豊かにしてくれる物質のなのです。
今回の実験講座では,食品の安全を守っている保存料と日もち向上剤の効果について検討しました。
4 研究計画−どうやってしらべる?−
研究計画を立てるときは,第1回で学んだ5W1Hでかんがえてみましょう。学びとは,そこで終わるものではなく続いていくものなのです。
(1)なんのためにやるのか Why
保存料や日もち向上剤は,どのような効果をもっているのかを確かめたい
(2)どうやってやるのか How
紙の上で言われても実感できない!実験で確かめたい
(3)なにについて Who
微生物について
(4)どのようにやるのか What
有害な微生物をつかって,食品添加物があるときとないときで,微生物の活動がどのように変わるのかをしらべたい
(5)いつやるのか When
すぐに
(6)どこでやるのか Where
専用の設備のない場所で
ここでかんがえなければならないのは(4)です。有害な微生物,たとえば大腸菌はニュースになっていますし,黄色ブドウ球菌もニュースになることがあります。あなたは,これらの有害な微生物を「安全に」あつかうことができるでしょうか?
もちろん,あなたが大学生になって,生物化学系の研究者を目指していれば,有害な微生物を安全にあつかう技術や装置がある場所で実験を行うことができるでしょう。しかし,やるのはいまです。有害な微生物をつかうのはちょっとムズカシイですね。そこで,モデル微生物を導入します。
5 モデル微生物とは
有害な微生物の代わりに,安全につかえる有用な微生物で,食品添加物の効果をしらべましょう。研究では,このような「おきかえ」は良くつかいます。たとえば,薬の人間への効果をしらべるときにも,人間につかう前には,いろいろな「おきかえ」をします。そして,効果をしらべ,安全であることをたしかめてから,人間につかうのです。
今回は有害な微生物,なかでもカビへの効果をしらべるために,これを良い微生物で「おきかえ」てしらべてみましょう。カビの仲間で,私たちにとって身近で良い微生物,それはイースト菌です。そう。課題でイースト菌のアルコール発酵についてかんがえたのは,このモデル微生物をつかった調査をするためだったのです。
6 あなたの日常にもナゾはたくさんある
今回の実験講座では,イースト菌のアルコール発酵をつかって食品の安全を守る科学技術についてかんがえました。
イースト菌,つまり酵母菌は,私たちの生活にとって重要です。
パンをつくるときにパン種をふくらませるのは,アルコール発酵による二酸化炭素です。パンを切ると気泡があるのはそのせいです。
図1 パンにある気泡はアルコール発酵で発生する二酸化炭素でふくらんだ
清酒(日本酒)などのお酒の成分は,アルコール発酵によるエタノールです。そして,お酒は造っているときには,発生する二酸化炭素で泡が出ています。
図2 清酒はアルコール発酵で発生するエタノールによってお酒になる
図3 アルコール発酵で発生している二酸化炭素
あなたがパンを食べるとき,あなたはアルコール発酵とかかわっています。アルコール発酵は,まったくわからないムズカシイ化学反応ではありません。あなたが望めばいつでも観察できる化学反応なのです。では,あなたはアルコール発酵を利用したパン作りについて,どれだけのことを知っているでしょうか?
たとえば,パン作りでは,イースト菌と砂糖,強力粉,バター,食塩などをつかいます。
- 砂糖はイースト菌の食べものです。
- 強力粉はなんの役割をはたしていますか?
- バターはどうでしょうか?
- 食塩は?
塩漬けにすることで微生物の活動をおさえられるのであれば,食塩は入れない方が良いのではないでしょうか。なぜ食塩が必要なのでしょう?
クイズではありませんので,なんとなく答えることに意味はありません。良くしらべ,かんがえることが重要です。思い込みではなく,原理や法則として,それを示すことができるでしょうか?
どうでしょうか。あなたの日常にも,多くナゾがあるとは思いませんか?
「知っている」「わかっている」「なんとなくそう思う」という偏見をすてて,ありのままの自然を見れば,ナゾはどこにでもあります。自然に○と×で答えられる「正解」はありません。もし,世界をすべてふたつにわけることができるとしたら,世界はかんたんになるでしょうが,おそろしくタイクツになるでしょうね。自然は複雑で,豊かな,不思議にあふれる世界です。私たちはなにも知りませんし,なにがおこるかも予想することしかできません。だからこそ,おもしろいのです。それが理系人材の見ている世界です。私たちにとって,世界はナゾとおどろきに満ちているのです。
世界がナゾとおどろきに満ちていることを実感してみたいヒトは,実験講座で紹介した動画でそれを感じることができるかもしれません。
参考URL:あなたの注意力をはかるための動画
https://www.youtube.com/watch?v=vJG698U2Mvo
これは見たことあるぞというヒトはこちらで。
https://www.youtube.com/watch?v=wBoMjORwA-4
7 対照(たいしょう)実験
(4)のWhatは決まりました。
イースト菌のアルコール発酵で,食品添加物が,微生物の活動をどのように変えるのかをしらべる。
これをしらべるためには,まずアルコール発酵がどんな発酵なのかをしらべなければなりませんね。このように研究では,基準(ものさしや温度計の0にあたる)を決めます。これを対照(たいしょう)実験とよびます。この場合の対照実験は,ふつうにアルコール発酵したらどうなるかということです。
イースト菌のアルコール発酵の条件を決めましょう。
温度 40℃
食品(ブドウ糖) 10 g(10%濃度)
イースト菌の濃度 3 g(1パック)
これを基準(ゼロ点)にして,くらべていきましょう。
この実験は,あなたの家でも簡単に行うことができます。家でできることは「かんたん」で,大学ですることが「スゴイ」とはかぎりません。家でもできるような実験をえらんでいますので,あなた自身で,実験してデータをとる,つまり手を動かして学ぶことが重要です。
実験結果については,次回のブロマガでかんがえていきましょう。
課題2 (有効回答数50)
1 アルコール発酵の速度がはやいのは?
回答を以下に示します。温かいときに反応が速いという答えが多かったです。

図1 課題1の回答
以下にいくつかの回答を紹介します。
A 温かい方が良い(回答数43)
- 温度が高かったら、菌が増えると思った理由は、バナナをはやく熟させたい時に冷蔵庫からだすからだと考えました。
- 植物や生き物が気温が高いとき(夏)に活動が活発になるのとおなじように、微生物も気温が高いとき、活動が活発になるとおもう。
- 冷蔵や冷凍などの保存方法がある。それは細菌は温度が低いと活発に動けないということではないか。細菌が活発に動くときは温度が高いときではないか。しかし、この予測は低い温度が0度、高い温度が40度くらいと仮定した予測である。なぜならば温度が100度などでは細菌は大半は死ぬからだ。
- 発酵とは、人間に有用な微生物が働いている過程のことです。 もし、温度が低い方が発酵が早いと考えると、冷蔵庫に入った微生物が活動するということになるので、冷蔵庫に入れると食べ物はくさることになります。それはおかしいので、温度が高い方が速度が速いと考えました。
- 食中毒の菌が多く増えるのが温度が高い時だから、酵母菌も同じように温度が高い時に多く増える(早く発酵させる)。しかし、温度が高すぎると菌が死んでしまう。菌が繁殖しやすいと言われる、30〜40度が適当な温度だと考える。
- 母のパン作りを見ていると、イースト菌を発酵させるのに、暖かい場所に置いたり、電子レンジの発酵モードで加熱するなどしているので。
- 自分は暖かいときは元気で、寒いときは縮こまってしまう。菌も同じで、温度が高いときの方が活発になってどんどん増えていくと思うから。
生活や観察からの回答:バナナが熟する,植物や自分自身が温かいと活発になる
経験からの回答:パン作りでふくらむはやさ
理論や原理からの回答:最適温度や反応速度,代謝
B 寒いときが良い(回答数7)
- 菌は、熱に弱いから。
- 例えば病気になったとき熱を出して菌をやっつけるから。
- 温度が高いと、菌が死んでしまうから。
2 アルコール発酵の速度を調べるための実験方法には,どんな方法がある?(回答数50)
- 同じたくさんのそうちで温度の条件を変えてはかる。
- アルコール発酵の速度を調べるには、温度が高いのと低いので二つ作って時間を時計で計ってそこから計算して、速度を調べる。
- 発酵するときに出る二酸化炭素の濃度を調べる。
- ビーカーにイースト菌と砂糖を入れて0℃~45℃を5℃ずつで20分後に二酸化炭素の気体検知管で二酸化炭素の量を調べて実験する。
- まずシャーレにイースト菌を移して、次にイースト菌に砂糖を与える。それを6つ用意し、温度の違う部屋にそれぞれを置く。それぞれを0度・20度・40度・60度・80度・100度の部屋にする。そして毎日顕微鏡で観察をする(2週間ほど)。
- (1)ボールに温度の違う水を用意する。(2)イースト菌と砂糖と水を混ぜ、ジップロップに入れ空気を抜いてピッタリ閉める。(3)(1)に(2)を同時に入れて膨らむ早さを比べる。もし、実験器具があれば(1)を三角フラスコに入れて水上置換法で出た空気の量を調べるのも良いと思う。
- 初めにイースト菌と砂糖の重さを測る。次に発酵させるとアルコールと二酸化炭素が出来る。二酸化炭素は空中に放出されて、アルコールだけになり重さは減る。その減り具合を調べることで発酵の速度が分かる。
- 手作りパンを作る時の、スーパーで売っているドライイーストを使った実験。 手ごねパンをつくりながら、生地がふくらんで発酵している状態を調べる。(1)材料の水の温度の比較 (2)発酵中の室温の比較、(3)一緒にいれる具材の違いによる比較 生地は強力粉100g、ドライイースト小さじ1、水70gを基本とする。
- パンのタネをつくり、同じ大きさに小さく丸める。透明のふたつき容器にいろいろな温度のお湯をいれ、ボールの中にパンのタネを入れて湯煎する。それである一定の大きさにふくらむまでの時間をはかって比べる。
- イースト菌を入れた密封された容器を日光がよく当たる場所に放置し、十分ごとに顕微鏡で観察する。
- 低い温度と高い温度でアルコール発酵させる。そして、同じ時間待って、それぞれの温度でできた空気を集めて、その空気に石灰水を入れてかき混ぜて、どちらの方が白く濁るか調べる。
- アルコール醗酵と同時に二酸化炭素が出るので、出てきた二酸化炭素の量を調べます。水上置換法を使い出てきた二酸化炭素をメスシリンダーや、ビーカーのような分量を量ることのできる入れ物に集めて、出てきた二酸化炭素の量を量ります。
- 気温が20度、30度、40度と一定の温度に設定されたそれぞれの部屋で、アルコール発酵させる。30分ずつ発酵の量を測る。
- イースト菌を砂糖などと一緒に混ぜて、フラスコなどの中に入れて、フラスコから出てくるアルコールや二酸化炭素の量を2~3分ごとにはかって多くアルコールや二酸化炭素が出てくる時間帯を調べる。
- ネットで調べたところ、キューネ発酵管や試験管を使った実験方法が出ていたが、私には難しかったので、パン作りで考えてみた。同じ分量のパン生地を、それぞれ10℃、20℃、30℃、40℃の温度の違う環境に置いて、同じ時間発酵させた生地の膨らみ方で、発酵速度の違いを調べるというのはどうだろう?
- イースト菌水溶液を50℃と20℃のものを作る。それをパン等が入った試験管に入れる。その試験管を50℃と20℃の水が入ったビーカーにしばらくつける。また、ビーカーには温度計を挿しておいて、初めの温度が保たれるよう、熱したり冷やしたりして調整する。
3 その方法が良いと思う理由(回答数50)
- 速度を調べるには、そうやったら上手くほかの条件が整って、きれいに整理された結果がでると思ったから。
- 低い温度から高い温度で試すとイースト菌がどこで二酸化炭素が一番増える場所は、どこか分かるから。また、イースト菌が増えると二酸化炭素が増えるから二酸化炭素の気体検知管を使って二酸化炭素の濃度を調べたらイースト菌が一番増えたのがどこか分かるから。
- このアルコールの発酵する速度を測る実験のために、お酒を作る大きな工場を作るよりも、簡単な方法でできるから。アルコールにとって一番活発に動ける温度を調べられるから。毎日観察を続ければ、たくさんの記録が取れるから。温度が一定に保てる状態を作れるから。
- 重さを2回測って計算するだけで簡単に分かるから。
- 直接お酒(アルコール)を発酵させる実験は、材料や道具、時間もかかるけれど、同じ酵母であるドライイーストは、スーパーで売っているし、手作りパンは母と作ったことがあるけれど、慣れるとぼくにもできるからです。 それに、パンの実験だと、材料の水の温度、室温、材料の具の比較など、実験の幅も広がるからです。
まとめ
いろいろな方法を提案してもらいました。どの方法も非常に興味深いですね。実験講座では全員がちがう実験をすると,まとめることができないため方法はおなじものをつかいましたが,あなたがかんがえた方法が,ほんとうにうまくいくのかは,ぜひ試してかんがえてほしいところです。
なぜなら理系分野では,たいていの場合「頭のなかでかんがえたことは思いどおりにはならない」からです。そんなとき,どうやって「うまくいくようにするのか」が理系分野で必要とされる力です。今回の実験講座で,家庭でもつかえるイースト菌(日清スーパーカメリア)とブドウ糖をつかった実験をえらんでいるのは,そういった理由からです。大学でしかできない高価な機械,ムズカシイ実験をやっても,なにをやっていたのかを理解できなければ,あなたの力はのびません。
あなたがふだん目にしていることにこそ,ナゾはあります。しかし,多くの人は,そのナゾに気づくことはありません。課題を「やらされる」のではなく,課題をとおして「学ぶ」ことで,広く興味関心をもつことが,ナゾに気づくために必要です。
約束を守ろう!
かんがえるのに必要な情報は動画のなかにあります。そして,わからないことがあれば,自分でしらべることが重要です。
このブログでは,国立大学法人愛媛大学が国立研究開発法人科学技術振興機構から受託している愛媛大学ジュニアドクター育成塾を紹介していきます。 科学や科学研究のおもしろさや重要な点を紹介し,科学者という仕事のおもしろさを伝えていければと思います。
大橋淳史准教授
愛媛大学教育学部理科教育講座で化学を担当しています。元々は合成化学や分析化学,生物化学などをやりながら博士(理学)を取得して研究畑から,教育関係に来ました。専門研究者として11年,科学教育研究者として12年,研究人生はちょうど2分されています。いろいろなことをやってきたからこそ,何にでも興味をもてるという感覚を,みなさんにも理解してもらえればと思います。
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