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見るものをアツくさせる対局
金本「今回ほど興奮した対局は久しぶりです」
金本「今回ほど興奮した対局は久しぶりです」
麻雀最強戦2015男子プロ代表決定戦・風神編を終えた後、金本晃実行委員長はそう語った。今回ほど叩き合いという表現がぴったりくる対局も珍しい。その潔く清清しい闘牌をみて、胸躍らされた視聴者も多かっただろう。金本委員長は、対局翌日すぐに麻雀最強戦チャンネルのブログ「男子プロ大会が異様な雰囲気だった」を更新。金本委員長も対局を見てアツくなった1人。その気持ちがさめないうちに記事で紹介したかったに違いない。
今回、その叩きあいを制したのが猿川真寿プロである。予選・決勝とも道中は苦戦を強いられながらもオーラスでの逆転。一撃必殺の見本のような勝ち方だった。
対局は予選から波乱含みの様相が充満していた。予選A卓(対局者は、森下剛任・猿川真寿・阿部孝則・前原雄大)。まず先制したのは森下だ。
東1局 東家・森下のアガリ
リーチ一発 ドラ 裏ドラ
この手に放銃したのは、先行リーチをかけていた優勝候補筆頭の前原である。東1局とはいえ、トーナメントでいきなりリー棒込みの19000点の失点はあまりにも痛すぎる…はずだった。
東場を終えた前原の持ち点は31600点まで回復。恐るべき生命力としか言いようがない。その前原に食われたのが猿川だ。東4局、前原の親リーチに押し返し、親満を放銃。その時点で猿川の持ち点は6600点。並みの打ち手なら「後がない」と冷静さを失い、前のめりになりがちである。だが、猿川はまだ慌てていなかった。
東4局1本場。トップ目の南家・森下が345の三色・タンヤオのカン待ちのヤミテン。一方、猿川も123の三色イーシャンテンの形でじりじりしていた。が、ここでを引いてしまう。
持ち点を考えれば三色の形はキープしたいはず。巡目が深いとはいえ、三色でアガれる可能性はゼロではないからだ。だが、猿川はここでと振り替え、放銃を回避した。
猿川「森下の手を見たときは『が当たるんだ』と少し意外でした。自分のこの手、この巡目からを押すのは場に合っておらず、自分本位だと思います。とはいえ、テンパイ料も欲しい状況なので、森下・阿部の現物のを捨てて粘りました」
次局、猿川はメンピンツモドラ裏の満貫をアガって南2局の親番を迎える。まだラスめながら、この位置なら2着勝ち抜けも狙える位置まで戻ってきた。だが、この親が猿川にとって「負けていたら敗因はこの局」という一局となってしまった。
13巡目、猿川の手はアガリはおろか、テンパイも怪しい状況。ここでツモったのがション牌のだった。
自分の手の都合だけならツモ切ったほうがテンパイしやすい。だが、猿川はここでを切り、森下にのポンテンを許さなかった。この時の心境を猿川は自身のブログでこう記している。
猿川「親が流れたらほぼ負けの中で、とにかく一心にあがり(連荘)に向かうツモ切りを選ぶことも多々ある。ただ、あそこまでの展開を考えると、このは引っ張るべきだという結論に至った。僕の短期決戦を今までみたことがある人ならわかってくれるかも知れないが、ああいう状況でを絞ったのは初めてかも知れない」(猿川真寿ブログ『飲兵衛日記』より)
こういうを絞ったのはほぼ初めてという猿川。じゃあ、なぜ今回は捨てなかったのか。昨年、猿川はプロ連盟のA1リーグを降級した。それが、打ち方を変えた大きな要因の1つだったようだ。
猿川「今の麻雀では通用しないということがわかりました。昨年、マイナスが大きくなった頃から、受けの要素を増やして(降級回避の)粘り混みを狙いました。ただ、頭ではそういう麻雀をできると思っていましたが、実際はできませんでした。能力不足でした。降級してから数ヶ月の間、どういうところを進化させ変えていくかを日々考えていました」
だが、この局は抱えが最悪の結果を招いてしまった。結局、メンゼンでテンパイした森下が待ちでリーチ。この直後に猿川がこの手になる。
ツモ ドラ
結果は一発での放銃。6400点とともに親番を失った。残り2局で、2着目・前原との点差21400を逆転しなければならない。ところが、その1局は森下の攻めによって潰されてしまった。残るはオーラス。前原からハネ満直撃が倍満ツモという厳しい条件となる。
親の前原の下家はトップ目・森下。この並びなら早い巡目でケリがついても不思議ではない。だが、森下がメンゼンでじっくり構えたことで、この局が長引いた。そして猿川は残りツモ2回のところで一通ドラ3のテンパイを果たす。
一発か裏ドラつきならリーヅモで逆転。当然、即リーチをかけた。山には2枚。俄然賑やかになるニコ生のコメント欄。が、1枚のがすぐに下家の阿部からツモ切られた。大体、こういうときはダメな感じがする。だが、麻雀の神様はまだ猿川を見捨てていなかった。残り1枚のが一発で猿川の手元にやってきたのだ。アガった本人がビックリするような倍満を決めた猿川が、絶好調・森下とともに決勝卓に勝ち進んだ。
一方のB卓は金子正輝・佐々木寿人・山井弘・井出康平の組み合わせ。ここは「金子ワールド」全開となり、南1局の親で6万点オーバーを叩き出し勝ち上がり濃厚。残る3人の中で井出・寿人が最後の椅子をめぐり争っていたが、寿人が得意のホンイツで逆転勝ちあがりを決めた。
決勝戦。起家より森下・猿川・金子・寿人の並びではじまった。この日「あまり調子は良くないと思っていました」という猿川が珍しく気合いを前面に押し出してリーチをかけた。
こういうテンパイの入れ方は非常に気持ちいいものである。猿川にとってようやく果たせた会心のリーチ。だが金子も追っかけリーチ。そして引き負けてしまう猿川。
金子のアガリ。
リーチツモ ドラ 裏ドラ
こういう引き負けは精神的ダメージが小さくない。果たして猿川の心境やいかに?
猿川「やっぱり今日は厳しい日だと思いました。ちなみに先にが入った場合には単騎でリーチするつもりでした。特にをよく思う理由はありませんが、感覚です」
猿川「相手の速度とあの日の調子からのリーチということになります。調子が良ければ打のところは打になりますので」
これは、猿川自身がこの日の状態が決して良いものではないことを自覚していたことに他ならない。打のところは…のくだりを補足すると、猿川はこの手からを外しているが、
ドラ
好調時の猿川ならストレートに打を選択するということである。
調子が良くないと思ったのはいくつか理由があったそうだ。1つは予選を一緒に戦った森下の調子が非常に良さそうであること。さらに別卓の金子も圧勝でこちらも好調を維持。さらに寿人は、予選の勝ちあがりで金子さんに助けられた感じがあったので、その分運気が高まっているのではないか。逆に自分は、奇跡のような逆転劇で紙一重の決勝進出。そこでガス欠になった感じすらある。
どうみても他の人より状態は悪そうだ。猿川がそれを自覚していたからこそ、リーチ負けのダメージは小さくて済んだといえるのだろう。これ以降、猿川はブレイクのきっかけを常に求めて前線で戦う構えを取っていた。テンパイ時の枚数では勝てそうな局面もあったが、なかなかアガリに結びつけられなかった。
ようやく猿川の手が実を結んだのが南1局である。
南家・猿川のアガリ
リーチツモ ドラ 裏ドラ
この満貫ツモで猿川は2着に浮上。トップ目・森下の持ち点も28700点で十分射程圏内である。だが、ここからベテラン・金子が場を支配する。南2局の猿川の親番では、678のタンピン三色を決め、さらに親で連荘し2着目・猿川との点差を14200点に広げる。
その次局、猿川にチートイツのテンパイが入った。
はスジとはいえ、寿人がソーズのホンイツ模様では出るかどうかも怪しいところ。しかも捨て牌にと並べるのも違和感を醸し出してしまう。リーチをかけたい得点状況であるのは十分承知だが、ここは別の牌を待つしかなさそうに思えた。だが、猿川は打のリーチを決断したのである。
猿川「直撃を狙うなら、相手が想像しづらい待ちにしようと考えました。もう1つは、点棒と巡目の関係で、寿人以外は反撃しづらいという状況だったということもあります。ホンイツ一直線の寿人はドラがなく、メンツ手なら手が遅いとも思っていました。の切り順については、オリ打ち狙いの単騎待ちなら逆に良い捨て牌だと思いました」
少し話が横道にそれるがご容赦いただきたい。
猿川の言葉には理じゃない部分がたくさんある。取材の中で一番使われたのが「感覚」という用語だ。この単騎リーチも、何巡目でこの待ちなら有利とか、そういう根拠ではない。ここでこうアクションを起こしたら自分にとって有利な結果になるはず、というぐらいの理由ではないだろうか。でも、麻雀打ちにとってこれが一番大事な部分ではないかという気もする。全てシステムで判断を下すのも1つの選択であろう。こちらは理由が明快で、それを聞いた視聴者も腑に落ちやすい。逆に猿川のような感覚派のコメントは、つい「何で?」と突っ込みたくなる要素が満載である。だが、天才のプレイヤーが必ずしも名コーチになれないのと同じで、感覚というのは言葉で伝えにくいものなのである。だが、言葉で説明しないとファンは納得しない。今、猿川はそこを何とか上手く伝える方法はないかともがいているに違いない。
閑話休題。この猿川のリーチの待ちは、森下からあっさり出た。あまりにもすっと出たので、ちょっと淡白かなという気がしないでもなかった。で、あらためて森下が放銃したときの手をみるとこんな感じ。
ドラのも打てない。ダブルメンツを嫌ったようにもみえるのでも当然切れない。そうなればなるほどという牌を切りたくなるのである。で、興味深いのは猿川自身がこういう状況を想定していたことである。これは牌理とか統計データでは決して下せない決断だ。長年、麻雀を打ってきた体が覚えている感覚が下した決断なのである。私個人としては、この単騎リーチが猿川麻雀を象徴的に現しているようにも思えるのだ。皆さんはこれについてどう思うだろうか?
そして迎えたオーラス。猿川の条件はハネ満ツモ。満貫ツモには400点足らない。ラス親・寿人の連荘や脇からのリー棒も見据えた対応が求められる。オーラスはリーチをかけた寿人の1人テンパイで続行、待望のリー棒が残ったので猿川には満貫ツモOKという状況になった。
そして南4局1本場。これがこの対局の最大の見せ場となる。極端なことをいえば、この局だけでも十分アツくなれる戦いだ。
先手を取ったのは親の寿人。
ツモ ドラ
色々不満の残るテンパイ形だが、まず子の足を止めることが最優先。このテンパイでもツモって裏ドラがなら優勝になるリーチがかけられるのだ。
そして次に金子にテンパイが入った。
役なしのカン待ち。通常ならば無難に現物を捨てるべき状況である。だが、それはあくまで通常の話。ここはタイトル戦の決勝戦。アガれば優勝が決まる局面なのだ。ハイリスクだろうが最大級のリターンが待っている。私は過去、こういう場面で無謀にみえる勝負を挑んで勝ってきた人をたくさんみてきた。オカルトめいた話で恐縮だが、金子がここで押さなければきっとこの後も押し切られてしまうだろう。そんな気がしていた。ツモから考えること2分。「うん」と意を決した金子はを捨ててリーチをかけた。この瞬間、私は金子の勝利を信じて疑わなかった。
だが、そこに第三の男がやってきたのだ。金子がリーチ棒を出すことにより、猿川に満貫出アガリOKの条件ができたのである。
13巡目、猿川が追いついて追っかけリーチ。三つ巴の争いを制したのはまたも猿川だった。寿人の捨てたでファイナル行きのチケットを獲得したのである。
優勝を決めた瞬間、猿川はいったいどう考えていたのか?
猿川「勝てたって感じですね。金子さんは好形テンパイだと思っていたので勝機は薄いと思っていました。ただ、自分からが3枚見えているのでがいたらいいなと~。(対局を振り返って)
勝ちたい気持ちはありましたが勝てるとか勝てないとかは特に考えませんでした。
打ってる時は本当1シャンテンが長く苦しかったです。本音をいえば楽に勝ちたかったのですが、今回のように苦しいところからも巻き返せるという自信につながりました。ずっと自分はコンスタント型のつもりでしたが、最近は『短期決戦のほうが向いているのかも?』と思っていたたのでチャンスはどこかにくると思っていました
」表彰式では、この2ショットが非常に印象深かった。個人的にはあそこまで頑張った金子を応援していた気持ちがある。だからこそ、それを倒した猿川の優勝の価値は高いといえるだろう。
猿川にとって最強戦ファイナルといえば2013年に苦杯を嘗めている。決勝卓に残りながら、沢崎・魚谷の優勝争いに全く加われないまま敗れてしまったことは決して忘れてはいないはず。その借りを返すチャンスが再びやってきたことについては、
猿川「ファイナルもトップ取りが2回なので分は悪くないと思っています。後悔の残る負け方をしないように頑張ろうと思っています」
と淡々と語った。苦しいところを勝ち上がってきた打ち手の勢いは決して馬鹿にはできないもの。最強戦ファイナルでの猿川の活躍は間違いないだろう。
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