しかし、ひとつ路地に入ってみると、子どもたちが遊ぶ公園や住宅街が広がる住みやすそうな街並み。都会の喧騒はどこへ?と疑問に思うほど、治安もよさそうな雰囲気です。
そんな都心へのアクセスもいいながら落ち着いた街で暮らすのが、「ふたりで」を大切にする岡本さんカップル。
名前(職業):岡本隼樹さん(建築設計士)、真依さん(古着屋店員)場所:東京都中野区
面積:1K 32㎡
家賃:約10万円
築年数:約30年
住宅の形態:マンション
昨年10月からふたり暮らしを始めたという隼樹さんと真依さん。名字を伺うとふたりとも「岡本」さんとのこと。
まさかの共通点に、こちらも驚きとトキメキが取材しょっぱなから止まりませんでした。
この部屋に決めた理由
もともとお互いひとり暮らしをしていたと話すふたり。
真依さんが引っ越しを考えていたタイミングで、隼樹さんのおうちに移り住むことからふたり暮らしがスタートしました。
コンクリートの建物でフロアに上がるアプローチも開放感があり、スタイリッシュな建物。それもそのはず、女性建築家のパイオニアである長谷川逸子さんが設計された建物とのこと。
「著名な建築家の設計した家に住んでみるという貴重な経験って、賃貸だからできることでもありますしね。
あとは、もともとコンクリート打ちっぱなしの建物が好きだったということもあり、設計もしてみたいなって思っていて。でも、コンクリート打ちっぱなしってよく暑いとか寒いとかいうじゃないですか。
そういうのっていくら知識として知っていても、やっぱり住んでみないとわからない部分だと思ったから、ここに住んで体感してみようとも思いましたね」(隼樹さん)
しかし、ひとり暮らし同士からふたり暮らしをスタートするのって、それぞれの生活上のルールができあがっているだろうから、ストレスも多いのでは?と気になります。
そんな懸念とは裏腹、ふたりの回答にはお互いの優しさがたっぷり詰まっていました。
「結構私のほうが大雑把な部分があるんですが、彼は几帳面で。変なところが細かかったりして最初は合わせるのが大変だなって思ったりしたことはあったんですけどね。でもお互いの苦手なところとかも補える感じはあります」(真依さん)
「もともと僕の家だし、部屋自体はほぼ完成されていたんですよ。だから家具とかも増やしたくないし、テイストが異なるもので部屋の雰囲気は壊したくないなって。
だから割と処分させてしまったものもあって申し訳なかったですね。それでも彼女は『完成されている部屋だからいうことない』って言ってくれます」(隼樹さん)
お気に入りの場所
友人と設計、組み立てをしたベッド(隼樹さん)「この部屋にある家具はほとんど自分で作っていて」と話す隼樹さん。
見渡すと、たしかにコンクリートの壁に絶妙にマッチしている家具たちが。中でもお気に入りなのが、たっぷりと陽ざしが差し込む大きな窓のそばに置かれたベッドでした。
「見た感じ他の家具と完成度が違うから分かると思うんですけど、大学の同期で家具職人の友人がいて。設計は彼に頼んで、2人でいっしょに作りました。
製作自体は2週間くらいなんですけど、設計期間とかも含めると完成までに半年くらいかかりましたね」
腰を掛けるにもちょうどいい高さで、大きさもダブルのマットレスくらいなら十分おけるくらいのサイズ。これだけシンプルな見た目なのに、機能もたくさん詰まっているようで……。
「こだわりは……言い出したらキリないんですけど(笑)
まずは、ベッドの形ですね。この建物自体が鉛筆の先みたいにとがっている部分があって、外形はそこに合わせました。
あと、ここが隠し収納みたいになっているんです。どうしてもスマホの充電器とかコードとかって生活感が丸出しになってしまうじゃないですか。
せっかくいいベッドなのに、そういうので見た目を悪くしたくないという思いがあって、この隠し収納スペースに集めているんです。フタをすれば、普段は完全に見えなくなっています」(隼樹さん)
なるほど……たしかに、コード類はほこりが被ってしまったり、知らない間に絡まっていたりとベッド回りではストレスが多い部分。いとも簡単に課題解決してしまう機能を付けられるなんて……このベッド、欲しい!
「ほかにも、うちにはテレビがないので、映画を観るときはプロジェクターを使っているんですよね。だからプロジェクターを使わないときもあるわけで、そういうときはココに収納しています。プロジェクターがスッキリ入りますね」
「じつはもうひとつ、ポイントがあって、ベッド下にも収納があるんです。マットレスの下はすのこになっていて、それを広げると全部収納になっています。ここには季節ものやお客さん用の布団を収納しているんです。
意外と部屋自体はモノが少ないように見えるんですけど、このベッドにギュッと収納されていますね」
寝心地もいいし、ソファのように座っても快適な、世界にひとつのベッド。ベッド下はすのこになっているから、夏は蒸れることもないんだそう。
服とアウトドアアイテムがぎっしりと詰まったウォークインクローゼット(真依さん)クローゼットの扉を開けると、あまりにもキレイに収納されていることに驚き。
というのも、これだけたくさんの服をうまく収納するためにふたりで工夫したことがあるんだそう。収納に困っている人は必見のアイデアでした。
「ひとり暮らしの彼の家に私が住むとなると、『絶対収納が足りない』ってなったんですよ。それを解決するために、彼が設計してくれて、ふたりでホームセンターに材料を調達しにいき、作ったのがこの収納。
よく見てもらえると分かると思うんですが、木の柱や棚があるんですよ。もともとなかったんですけど、私たちでつくりました」(真依さん)
「だいぶ収納が増えましたね。ステンレスのポールはもともと付いていたんですけど、それを活かした収納を作りました。壁際に柱が立っていて、L字型にフレームを組むと倒れないんです。そこに天板をのせています」(隼樹さん)
賃貸なのに穴を一切開けずにここまでの収納ができるなんて、賃貸の可能性も無限大だな~と感じます。しかもホームセンターですべての材料を揃えらえるということも魅力。
ちなみに、入りきらないシーズンオフのアイテムは隼樹さんのご実家に置いてもらっているんだとか。そのこともあり、ご実家への挨拶もスムーズかつ、関係も良好なんだそう。勉強になるな~。
さらに中古の木のハンガーをふたりで白く塗り、統一感を出す徹底っぷりにも驚きです。
休日によく過ごすキッチンお互い料理をするとのことで、仕事の日は2人分のお弁当を作って、持っていくほどお互いのこと思いやる優しいふたり。
平日だけでなく、休日はこのキッチンで過ごすことも多いんだそう。
「結構コンパクトなんですけど、収納が割と多いんですよ。シンクとは反対側の壁にたくさん収納できるスペースがあって、ぎっちり詰まっています。調理スペースには基本モノを置かないようにしているんです。
反対側でも収納が足りないところは、つっぱり棒を使って収納を増やしています」(真依さん)
「コンロも2口あるし作業スペースもあるし、シンクも広いので、コンパクトだけど十分なキッチンなんですが、ふたりで料理するときは、低すぎない高さで作ってある隣のデスクを作業台としても使っています。食事をするのもここですね」(隼樹さん)
さらに、この部屋がワンルームではなく1Kだと教えてくれたのには、こんなところに理由がありました。
「じつはここにレールがあって、キッチン側とリビング側に分けられる可動式の扉が収納されているんです。扉を閉めて料理をすることもないですし、ほとんど収納したままですね」(隼樹さん)
ちなみにこれは、マドラー立て。
よく作るというフルーツシロップを混ぜるマドラーは頻繁に使用しているとのことから、陶芸をしに行ったときに余った材料で隼樹さんが作ったんだそう。
真依さんがよく使うものをしっかり見てくれている隼樹さんの姿に、取材陣も心がほっかほかに……。
お気に入りのアイテム
リサイクルショップで購入した棚と上にディスプレイしているアイテムすでに完成されている部屋であったことから、家具を買い足すには悩むことも。
既製品の家具だと綺麗すぎて部屋のトーンに合わないことも悩みのひとつ。そんな中、ふたりが選んだのはリサイクルショップで見つけた棚でした。
「リサイクルショップで購入したこともあり、状態はあまりよくなかったんですよ。たぶん前に使っていた家族に小さいお子さんがいたのかなと思わせる色鉛筆の跡が残っていたので、少しやすりをかけて整えました。
でも、全部は消さずにそれも味だと思うので、ほんのり残しています」(隼樹さん)
「Bluetoothスピーカーは、『Olasonic』というメーカーのものです。あまり値段が高くないのに音もいいんですよ」(真依さん)
「あとはこの一輪挿しですね。ベッドを一緒に作ってくれた彼の友人がプレゼントしてくれたんです。彼はお花にあまり興味がないので、私が入れ替えています(笑)」(真依さん)
「たぶん1つの木を巻き割りみたいに割って、そのままの形として使えるように中に水を入れられる空間を作ってくれていますね」(隼樹さん)
laskoの扇風機とアラジンストーブ「ふつうの扇風機って、“THE・扇風機”っていう存在感があるから避けたいなって思っていたんですよ。でも『lasko』の扇風機は薄型で面白いデザインなんですよね。
ストーブはアラジンストーブを使うのが夢だったので、大家さんに使用許可をいただいたうえで使っています。冬にはお餅を焼いたり、フライパンを置いて焼肉したりしています」(隼樹さん&真依さん)
アウトドアアイテムたち日帰り登山にいくなら……と出してくれたアウトドアアイテムの一部
多いときは、6週連続山登りに行くほど登山が好きな隼樹さんは、絶対に真依さんにも好きになってもらいたかったと話します。そのために、服好きな真依さんへ「登山用の服もお洒落なものが多いよ」と上手く誘い込んだんだとか(笑)
最初は「キャンプ兼登山」として、キツすぎることもなく、景色もよく、いい山だ!と思ってもらえるような山を選んで、いっしょに登山をしたのがふたりの登山のはじまりでした。
今では真依さんも登山にハマってしまうほど。そんなふたりがよく利用しているのがアウトドアブランド「山と道」。
「これは『山と道』でセミオーダーのように作ってもらったバッグパックです。止水ファスナーなど細かいところまで色が選べるんですよ」(隼樹さん)
「ひとりひとりに合うように胴回りを測ってくれるんです。しかも重さもかなり軽くて! ただ、オーダーしてから手元に来るまで4か月くらいかかっちゃうんですが、これで山を登るんだって思うと楽しみになるくらいお気に入りです」(真依さん)
「アウトドア系のファッションアイテムは色味にこだわって選んでいます。アースカラー系が多いですね。意識しているのは『普段着れるデザイン』であることです。
あと、身長もあまり変わらないからふたりで服のシェアもできるんですよ。靴以外はなんでもシェアしています」(真依さん)
暮らしのアイデア
家具や家電は色を揃える部屋の統一感を出すためのアイデアとして、使用する家具家電のカラーを決めているとのこと。
「全体はいい意味で野暮ったくなるようにしています。中間小物はグレー系のインダストリアルっぽいテイストのもの、家電は白、家具は木で揃えていますね」(隼樹さん)
モノを減らすために日常のものもアウトドアアイテムを収納も限られているから、いくら服が好きだからとはいえただ増やしていくにも限界が。そこで隼樹さんが特にやっているのが「仕事着や普段着もすべてアウトドアできる服と兼用すること」。
「山登りシャツや山登りズボンとか、仕事に行くときも休みのときも着れるようなモノを選ぶようにしています。
アウトドアアイテムってひとつひとつの単価が高いから、こだわっているとかなり値が張ってしまうんですよ。でもどんなシーンでも着られるものを選ぶと、収納にも困らないし、選ぶのもラクになります」(隼樹さん)
全身鏡は扉に掛ける直置きするには場所を取ってしまうし、存在感もある全身鏡。
壁に掛けるには穴をあける必要があるし意外と配置に悩んでしまいますが、この部屋ではウォークインクローゼットの扉に“掛けて”収納していました。
内側に掛けると、扉を閉めたときには見えなくなるうえに、掛けることで場所も取らない。おまけに、服を選ぶときにはすぐ傍にあってとても便利なんだそう。
ピーコンを使ってDIYコンクリートの壁にうまく棚を取り付けたり、フックを付けたりしてDIYをしているふたり。コンクリートの壁にある穴のピーコンを活用して、自転車までも上手くディスプレイしていました。
「ピーコン穴用のネジはホームセンターで揃えたんです。穴はコンクリートの壁を作るときにどうしても出てきてしまうんですよ。
ふつうは中に埋め込んで隠しちゃうんですけど、ここの設計者は『自由に使ってね』ということからか、ところどころ穴を埋めずにそのままにしてくれていているんです。ありがたい配慮ですよね」(隼樹さん)
残念なところ
テラスが欲しかった間取りを選ぶときに大きなテラスがあることが夢だったと話す隼樹さん。洗濯物を外に干せないことやベランピングも楽しめない点は、諦めたところだったそう。
洗濯物はピーコンを活用してチェーンを吊るし、干しているとのこと。これもこれで、洒落てるな~。
ユニットバスであること(真依さん)築30年以上経っていると一切感じさせないこの家の中で、唯一年季が入っていると思わせるのがユニットバスであるところ。
真依さんが移り住んでくるとき、はじめはユニットバスに対してマイナスに感じることもあったようですが、今となればいっしょに掃除ができるラクさに気付き、初めに抱いていた感情はなくなっている様子。
駐輪場がないふたりとも1台ずつ持っている自転車は休日になると乗ることも多いんだそう。自分たちの部屋までは階段の上り下りが発生する分、やはり駐輪場があったほうが体力的にも便利なようで……。
「今は階数的にもギリギリですかね。駐輪場がないと家に入れるしかなくて。自転車は2段にしてディスプレイするような形で置いています。この自転車自体があまり重くないので、金具の耐荷重的にも耐えられるものを使っています」(隼樹さん&真依さん)
コンクリートのおうちならではの「寒さ」実際に住んでみてわかるのが部屋の温度。暑いのはもちろん、寒さが特にこたえるよう。
スタイリッシュで洗練された空間が作れるコンクリート壁の部屋でも、我慢する点もありました。
「暖房とかは効くんですけど、真冬に帰宅したときは外よりも寒いなって感じます。夏は熱がこもってすごく暑いんですけど、それよりも寒さの方が厳しいですね。
エアコンやストーブで暖を取るので、ふつうの部屋よりは電気代もかかるかと思います」(隼樹さん&真依さん)
これからの暮らし
手作りの家具たちとたくさんのアウトドアアイテムたち、何をするにも“ふたりで”を大切にする隼樹さんと真依さんのこれからの暮らしは、一体どのようなものを描いているのでしょう?
「僕はこの家に住み続けるにしても引っ越すにしても『好きなものに囲まれる』暮らしがいいですね。ふたりで住むにはこの部屋も狭いけど、気に入っているんです。どれも妥協がないものばかりで」(隼樹さん)
「私はベッドと近くに大きな窓があれば十分ですね(笑)」(真依さん)
たとえ賃貸であっても妥協をせずに「何かできることはないか」と様々な工夫をして、上手く自分たちの暮らしの形にフィットするものを作り出すふたり。
すでにあったであろうお互いのルールを強制せずに、受け入れながら新たにふたりのルールを作っていくその姿からは、学ぶことがたくさんありました。
限られたもので自分たちが十分満足できるものを探し、ひとつひとつのモノをふたりで分け合う。
何をするにもどこへ行くにもお互いのことを思いやり、優しい気持ちでいることが、同棲して1年経った今でも円熟した関係でいられる理由なのかもしれません。
Photographed by Kayoko Yamamoto
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