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国内の難関コースを走破した先に到達した、肩の力の抜けた「チョイ乗り」の境地|みんなの自転車
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国内の難関コースを走破した先に到達した、肩の力の抜けた「チョイ乗り」の境地|みんなの自転車

2021-06-13 14:00
    ピストバイクブームの黎明期、その最先端にじかに触れようと、一路サンフランシスコへ。

    すぐさま現地のストリートシーンにどっぷりとハマり、縦横無尽に駆け抜けるように。いっぽうで、国内外の名だたるレースやライドイベントにも名乗りをあげ、次々に走破。

    そうして徹底的にのめり込んで、ひたむきに突き詰めた彼の現在の愛車。それは競技用ロードバイクでも、ピストバイクでもありません。

    自転車に乗るときの格好だって、いたってカジュアルなふだん着。いったい、どうして?

    それはひとえに、道を極めたがゆえ。

    回り回ったそのさきに見えてきた、肩の力の抜けたシンプルな選択なのでした。

    名前(職業):日下拓哉さん(BEAMS T原宿 ショップマネージャー)
    年齢:36歳
    愛車:SURLY 「Pacer」
    価格:もらい物
    自転車歴:15年



    獲得標高3,500mの難関コースを、自転車で制覇

    いまやすっかり日本の街にも浸透したピストバイク。そのブームの黎明期に日本だけでなく海外でもライドを楽しんでいた日下さん。

    アメリカのストリートシーンに、とにかく衝撃を受けて。サンフランシスコを拠点とする自転車メーカー・MASHのムービーを観て、いてもたってもいられなくなりました。その後すぐにサンフランシスコへ。

    それからというもの、現地のストリート文化にどっぷりとハマり、年に2回は足を運ぶように。

    毎回ひとりで行っていましたが、現地でかっこよくチャリを乗りこなしていると、自然と、同じような自転車好きが話しかけてくれるんですよね。

    そこから仲良くなって飲みに行ったり、別の東京出身の知り合いを紹介してもらったり。

    いっぽう日本においても、名だたるレースやライドイベントに出場するように。

    たとえば2018年には、「北アルプス山麓グランフォンド」に出場。1日かけて150kmを完走したんだとか。

    150kmといっても、平坦な道なら……なんてことはありません。

    個人がどれだけ坂を上りこなしたかを示す獲得標高が3,500mの難度を誇るコースで、いくつもの激坂をチームで上り下りしなければならないんです。

    筑波8時間耐久レース』という大会にも出場しました。チームを組んで、8時間ぶっ通しでサーキットをひたすら周るんです。

    想像しただけでうんざりするような過酷さ……。でも当の本人は、「いずれも、やっぱり友情が芽生えるっすね!」と、よどみなくきっぱり! 

    じつに15年間にわたって、路上乗りに各国のレースにと、自転車道を全速力で邁進してきた日下さん。

    ところがここ数年は、そんな生活から、とんと距離を置いてしまったのだといいます。いったいどうして?

    こだわりぬいた結果、行き着いた“ふつう”

    めまぐるしく時代が変わって、ストリートの文化も風化してしまいました。

    寂しそうに、それでいてどこか吹っ切れたように話す日下さん。

    要するに、時代の移り変わりやスピード感に、ふっと冷めてしまった。そういうわけです。

    それに、自転車自体もものすごいスピードでアップデートされていくんですよ。最上位のものが、5年もすれば中の下くらいになっちゃう。

    いまや電動なんかも勢いがありますよね。そうしたことを追うのにも、ちょっと疲れちゃって……。

    ビンディングシューズを履いて、スキニーパンツで自転車に乗るあのスタイルも、『はたしてかっこいいのか?』と自問自答を繰り返しました。

    裾を巻き込まないように細いパンツを穿くとか、天候のことを考えてシェルを選ぶとか、そうやって気を遣って乗るのが、むしろイケてないんじゃないかと感じはじめて……。

    徹底的にのめり込んで、こだわりぬいたがゆえ。いまでは肩の力の抜けた“ふつうの”付き合い方ができているのだといいます。

    靴が汚れたら新しいのを買えばいいし、服が濡れたなら丸洗いすればいい。そのほうがふつうかな、と思うようになりました。

    だからこの日も、VAINL ARCHIVEのスウェットを着て、ワイドパンツにナイキのスニーカー。

    なんてことない普段着こそ、日下さんにとっては、回り回って到達したサイクルウェアの最適解。自転車を特別なものと捉えない、力の抜け方がかっこいい!

    愛車は、いまは廃盤になっているSURLYの「Pacer」。「以前、レースで使用していたBMCを盗まれて落ち込んでいた僕を見かねて、友人が譲ってくれました」(日下さん)

    とはいえ愛車には、競技にのめり込んでいた当時の名残がしかるべく刻まれています。



    いちばん体に触れている部分なので、サドルは相性のいいものを選びたくて。

    SPECIALIZEDは、かれこれ10年以上使っていて、これで3代目。ペダルを漕ぐと、お尻の動きに合わせてしなってくれます。

    変速まわりには、SHIMANOのULTEGRAを愛用中。

    このあたりをあえて街乗りの自転車にカスタムするのは、自分らしさかなと思っています。

    自転車から一転、柔術へ

    いまでは、自転車は近所に買い物にいくための移動手段に。そのいっぽうで、最近急速にのめり込んでいることがあるのだとか。

    ここ3年ほどは、柔術ばっかりやっています!

    自転車から、柔術へ。一見すると脈絡のない転身に思えるものの、そこにはすべからく共通点もあるようで。

    自転車も柔術も、仲間の輪が、勝手に広がっていくんですよね。

    たとえば同じ道場を使っているAさんはじつはアパレルブランドをやっている、とか。取引先のBさんも同じ道場、とか。

    そこからまた別の友人が増えていく。ときにはプライベートな関わりや、仕事に発展することだってあります。それが面白いんですよね。

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    日下拓哉(Takuya kusaka)(@takuyakusaka)がシェアした投稿

    日下さんのインスタグラムでは、柔術を行っている写真もpostされています

    それに、過酷なレースや練習をともにするスポーツを介すと、仲良くなるスピードもめちゃくちゃ早いんですよ。

    柔術なんて取っ組み合いですから、なおさら。全力でぶつかるから、相手のことをなんとなく信用できますし。

    つまり、自転車も柔術も、だれかと深いところまで分かり合うための共通言語。国境も、心の距離まで、ひょいと越えてしまう。しかも、超スピードで。

    15年のときを経て、いまでは向き合い方がすっかり変わってしまったように見えた日下さんの自転車ライフ。

    しかし、そのじつ。サンフランシスコで自転車にまたがって、現地のつながりを全速力で育んでいたあの頃と、きっと根っこは変わらないまま。

    Photographed by Masahiro Kosaka

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