ミュージアムグッズが好きだ。それも、旅から戻って日常でも使えるものが。旅先で買うタペストリーのように、その場に行ったことを証明するものであるのと同時に、使うたびに、その時のことを思い出す記憶装置のような役割を果たすから。
それがなんの変哲もないものだとしても、その時々の思い出や感情を、いつも面影みたいにまとっている。
グッゲンハイム美術館で手に入れたマグカップ
購入してから10年以上経つけれど、寒い季節には、いまでも毎日のように使っているマグカップ。大学生の頃、初めてニューヨークに行ったときに購入したものだ。
いわずと知れたフランク・ロイド・ライト建築のグッゲンハイム美術館で、美術館のかたちを模したマグカップを手に入れた。
思い出すのは、初めて訪れたときのこと
マグカップは美術館のかたちを忠実に再現している……とは言い難いけれど、美術館を初めて訪れたときのことを思い出させるには十分だ。エントランスを入ると、中心は吹き抜けになっていて、壁沿いにスロープがゆるやかに天井まで螺旋を描いている。
鑑賞者は、作品を下から順番に眺めつつ円を描いて登っても、まずエレベーターで最上階まで行って、下りながら鑑賞してもいい。最近ではGoogleストリートビューでだって鑑賞できる。
「傾斜で作品が落ち着いて鑑賞できない」なんてことは建設当初から言われているようだけど、カンディンスキーのコレクションにでも見入るあまり、背中から落ちてしまいそうな手すりの頼りなさがいちばん印象に残っている。マグカップにお茶を注ぐたびに、最上階ちかくでその頼りない手すり越しにおそるおそる下を覗いた記憶がよみがえる。
いまでも果たして手に入るのかと、公式のオンラインショップを覗いてみる。フォルムに若干のマイナーチェンジが見てとれるけれど、このマグカップは健在のようだ。マグカップのほかに、同じフォルムをしたガラスのウィスキータンブラー、塩こしょう入れ、シュガー&ミルクポットなど。
昨年、このグッゲンハイム美術館に18金で作られたトイレが設置されたとニュースになった。来館者は誰でも”実際に使用する”ことが可能なのだという。最近訪れた友人が、このトイレのことを「意外とだれも気づいていないようだった」と言うのを聞いて、このトイレを観に(使用しに?)行きたい思いにかられる。
次訪れたときには、このマグカップにも「黄金のトイレ」の思い出が追加されるのだろうか。