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「新しいリベラル」のための月刊誌 “α-Synodos”vol.297(2022/3/15)
2022-03-15 18:51262pt〇はじめに
いつもαシノドスをお読みいただきありがとうございます。編集長の芹沢一也です。最新号のラインナップをご紹介いたします。
01.吉田徹「〈くじ引き民主主義〉の可能性――「偶然」を人智によって引き起こし、民主主義にイノヴェーションを起こせ!」
21世紀に入って、先進国の政治不信は過去最高の水準に達しています。民主体制の現行OSである「代表制民主主義」は、私たちが「政治家」を、私たちの「代理人」として信頼できて初めて正常に作動します。議会や政治家を信頼できないとすれば、それはこのOSが根底から蝕まれていることを意味します。ではどうすれば、機能不全に陥っている代表制民主主義を補正し、民主主義そのものにイノヴェーションを起こすことができるのでしょうか。そして、民主主義を私たちの手に取り戻すことができるのでしょうか。吉田徹さんが提唱するのが、「くじ引き民主主義」の導入です。吉田徹さんにお話を伺いました。
02.戸谷洋志「人類は存続するべきか、それとも絶滅するべき──ヨナスと反出生主義」
人間がこの世界に誕生することは、よいことなのか、悪いことなのか。この究極の問いが、倫理学の領域において近年、議論されています。現在、ロシアのウクライナ侵攻の帰趨は予断を許さず、その先には核兵器の使用が予想されさえしています。言うまでもなく、われわれは人類を絶滅させるのに十分なほど、核兵器を保有しています。それだけではありません。悪化する気候変動に歯止めをかける見込みは立たず、かなりの確率で後続世代の人々は過酷な自然環境に生きることを強いられるでしょう。そうした中、人類は存続しつづけるべきなのか。この問いをめぐって、戸谷洋志さんがハンス・ヨナスとデイビッド・ベネターの議論を検討します。
03.穂鷹知美「スイスのなかのチベット――「模範的な移民」とウェルネス化する仏教」
理想的な移民の社会的統合とは、一体どのようなものでしょうか。その答えのひとつがスイスにおけるチベット移民の受け入れに見つかるのかもしれません。2018年にスイスのチベット研究所設立50周年祭が祝われた際に、近郊都市の市長がスピーチで、チベット人たちのスイスでの歩みを讃えたのち、「あなたたちはわたしたちに属し、そしてわたしたちはあなたたちに属します」と発言したとのことです。これほどまでに幸福な関係を結びえた理由は何だったのでしょうか。穂鷹知美さんが、スイスにおけるチベット人とチベット仏教の受け入れの歴史をたどります。
04.浅野幸治「T. ポッゲの世界正義論とD. ミラーの国際正義論(3・完)」
T. ポッゲの世界正義論とD. ミラーの国際正義論を検討してきた連載も今回が最終回となります。途上国の貧困を先進国が救済する義務はあるのか、あるいは地球規模での基本的人権はどう保障されるべきなのか。この点をめぐって、国際的な制度的秩序と国内の統治制度のあり方から、さまざまに論じられているわけですが、最後に浅野幸治さんが指摘する「子どもを特別な関心の対象にすべきだ」という意見に、説得力を感じます。「子供は貧しい国に生まれたことに責任がありえない」。そうであるならば、学校を支援事業の拠点にし、貧困の連鎖を断つことは、人類の責務だといえるのではないでしょうか。
05.芹沢一也「今月の1冊――齋藤純一、田中将人『ジョン・ロールズ』+重田園江『社会契約論』」
プーチンがウクライナの街を破壊し、ウクライナの人々を虐殺し、そして国際社会からの経済制裁を招き、ロシアの人々の生活を破壊し、また侵略戦争への批判を封じるために、強権的な取り締まりを発動しているとき、われわれが目の当たりにしているのは「正義の不在」です。国際的な振る舞いにおいても、また国内的な統治においても、いまのロシアには正義がありません。いまこそわれわれは「正義」について再考すべきではないでしょうか。そこで今月はジョン・ロールズの『正義論』を読み解くための参考書として、2冊ご紹介いたします。
最後にお知らせです。「αシノドス」は今後、「新しいリベラル」を立ち上げるべく、その糧となるような知と教養をお届けすることに、さらに力を入れていきたいと考えています。そこで次号から、編集チームに橋本努さんと志田陽子さんにご参加いただくこととなりました。リベラルへの風当たりが強い中、リベラルの最良の部分を引き継ぎ、アップデートしつつ、次世代に手渡すために尽力していきたいと思います。今後ともご愛読のほど、どうぞよろしくお願いいたします。また、リベラルの灯を消さないためにも、ご友人、ご知人に購読をお勧めいただけますと大変うれしく思います。 シノドス代表 芹沢一也
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