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αシノドス vol.124 基本に戻って問い直す
2013-05-16 11:55262pt━━━━━━━━━
荻上チキ責任編集
“α-Synodos”
vol.124(2013/05/15)
基本に戻って問い直す
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★今号のトピックス
1.対談/湯浅誠×大西連
社会的な綱引きを超えて――これからの生活困窮者支援
2.政治家アウンサンスーチーをどう見るか
………………………根本敬
3.さらさら。
………………………大野更紗
4.東日本大震災――いま、もう一度確認したいこと/目を向けたいこと
………………………標葉隆馬
5.「第三者による検証」という言葉をとらえ直す――事故や災害の検証を行うべきは「誰」なのか
………………………八木絵香
○編集後記・・・山本菜々子
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chapter 1
湯浅誠×大西連
社会的な綱引きを超えて――これからの生活困窮者支援
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ミクロはマクロと相いれないものなのか
生活困窮者支援に携わる二人が
熱い議論を交わし合う
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◇外に伝える
大西:お久しぶりですね。ぼくと湯浅さんは「もやい」で活動していた時期はあまりかぶっていませんが、同じような問題意識をもっているし、同じような問題にコミットしているということで、ぜひ、ゆっくり深いお話をしたいと思っていました。
湯浅さんは今、主に政治決定プロセスに関わっているかと思いますが、一番取り組みたいことというのはどのようなことでしょうか。
湯浅:いくつかありますね。短期のものと、中期のものと、長期のものです。短期は、参院選に向けて。中期は対人社会サービス、それは「もやい」がやってきた領域でもあるんだけど、それを地域活性化の4本目の柱にしていくための取り組み。長期は、民主主義の課題、「政治を語る作法」を豊かにするというプロジェクトをはじめています。
大西:短期の部分で、参院選はすごく大きなターニングポイントになると思いますが、湯浅さんとしてはどうコミットしていくつもりですか。
湯浅:難しいですね。「これだ」と一番言いづらいのが短期の課題です。安倍政権の支持率も高いし、参院選で自分が望む結果がだせるのかというと難しい状況なのかもしれない。たとえば、参加型民主主義の問題を広めたり、選挙とか政治について語れる空間を増やしたり、非常にコアな部分ではある特定候補を応援したりと、その中でできることを模索しているという状態です。
大西:中期では、地域活性化の「4本目の柱」に対人社会サービスを、とのことでしたが、その「4本の柱」とはなんでしょう。
湯浅:日本の地域活性化は、伝統的にカンフル剤として公共事業が使われて来ました。最近、補正予算で、20兆円もの予算がついたけど、それはあくまでもカンフル剤で、長続きするものではありません。
そんな中、公共事業に変わる地域活性化には3本の柱があると言われています。古くから言われているのが、農業・漁業の六次産業化です。2本目は、観光産業で、平泉を世界遺産にするなどさまざまな取り組みが行われている。そして最近は3本目の柱に自然エネルギー産業が言われています。この3つで、地域経済の新しい形の自立をつくっていこうという動きが起きているんです。
そんな中、4本目の柱として、対人社会サービスをすえられないかと考えています。医療・介護や子育てだけではなく、私達がやってきたような、制度に頼れず貧困に陥ってしまうような人達も含めたものです。最近はすごくリスクが個人化されています。親の介護があったら仕事を辞めざるを得なくなって、介護をずっとやっていくうちに介護鬱になってしまったりだとか。
大西:生きづらく、より困難な社会になっているということですよね。
湯浅:そうですね。たとえば、介護サービスの手が届かないところに、宅配サービスをやるような事業展開をしたり。さまざまな試みが始まっていて、これが都心部から遠い、いわゆる田舎にいけばいくほど、上手くいけば費用対効果というのは極めて高いんです。
大西:産業にもなりますよね。
湯浅:成功している事例もあります。私のイメージだと、山道に舗装道路をはじめて通した時のような費用対効果の高さです。みんな乾いているので、大地に水がしみこむように取り組みが浸透していく。極めて費用対効果の高い事業なんだけども、まだまだ一般的には財政負担としか思われていない。支出すればするほど、負担が増えていくだけだと思っています。ここを転換して、4つ目の柱として位置づけていくというのを、3年~5年位かけてやっていきたいと思っています。それが、中期的な目標です。
大西:ぼくも新宿でホームレス支援をやっていて、同じようなことを感じています。でも、どうやってやったら上手くいくのかなというのは悩んで考えているところです。湯浅さんの中で、答えは見えてきていますか。
湯浅:そのことに関心がない、接点がない、負担でしかないという人達に、どう届けていくのか、それが事業として自立しうるもので、実は費用対効果も高い。だから、あなたが恐れているように、財政負担にはならないし、あなたの負担が増えていくわけではないと、伝えるということが大事だと思います。
1つは、地域の成功事例を連載し世の中に伝えるというのがあります。対人社会的な取り組みが、財政負担だとしか思っていないのは、こうした分野に接点が今までたまたまなかった中間層の人だと思うんです。この人達には、事業として自立しうるものなんだと示さなければならない。そのために、ビジネス紙に成功している事例を紹介していくという連載を考えています。それを積み重ねていって、どこかの時点で書籍化したいですね。
2つ目は、今、費用対効果が高いというのは、あくまでも私の意見なんです。なので、研究者を集めて、研究会をし、数字的に裏付けられるということを試算する。
3つ目は、マスメディアなどと協力し、地域の先進的な事例を日本地図に落とし込んでいくようなイメージを広げたいです。
このようにコーディネートして全体の機運を盛り上げていきたいですね。私以外にもそういうことを言っている人は沢山いるし、メディアでもそういう話が出始めているんだけど。やっぱり知らない人の方が圧倒的に多いので。外に届けていくということをしていきたいし、その準備をしています。
◇感じる違和感
大西:ホームレスのおじさんと接していたり、相談の電話を受けたり現場のミクロな部分で動いている一方で、最近たとえばシノドスなどの媒体に文章を寄稿するようになったり、他の団体と接するようになったりと、湯浅さんのやっているマクロの取り組みの意義をすごく理解できるようになったと思っています。
でも、だからこそ少し違和感を覚えることもあったりして。マクロの取り組みの大切さはわかった上で、湯浅さんはミクロな取り組みについて、どう考えているのかなと。 -
αシノドス vol.123 <鉄の女>サッチャーが遺したもの
2013-05-01 21:00262pt━━━━━━━━━
荻上チキ責任編集
“α-Synodos”
vol.123(2013/05/01)
<鉄の女>サッチャーが遺したもの
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★今号のトピックス
1.対談/常見陽平×今野晴貴
若者はなぜブラック企業に入ってしまうのか――「意識高い系」と「ブラック企業」の交わるところに
2.経済ニュースの基礎知識TOP5
………………………片岡剛士
3.サッチャリズムとは何だったのか
………………………吉田徹
4.新自由主義批判の難しさと北欧型新自由主義の到来
………………………橋本努
5.対談/伊勢崎賢治×大野更紗
9.11以後の世界―平和のための紛争学
○編集後記
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chapter 1
常見陽平×今野晴貴
若者はなぜブラック企業に入ってしまうのか――「意識高い系」と「ブラック企業」の交わるところに
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若者は、「自由の罠」におちいっている!?
『「意識高い系」という病 ソーシャル時代にはびこるバカヤロー(ベスト新書)』の著者である人事コンサルタントの常見氏と
『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪(文芸新書)』でブラック企業の危険性を論じた今野氏が語りつくす。
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常見陽平氏
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今野晴貴氏
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常見陽平(つねみ ようへい)
人材コンサルタント、大学講師、著述家。
一橋大学商学部卒業後、株式会社リクルート入社。その後、玩具メーカーの新卒採用担当、人材コンサルティング会社を経て独立。実践女子大学・武蔵野美術大学の非常勤講師をしつつ、一橋大学大学院社会学研究科修士1年にひっそりと在籍中。『「すり減らない」働き方』(青春出版社)『僕たちはガンダムのジムである』(ヴィレッジブックス)など著書多数。
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今野晴貴(こんの はるき)
1983年生まれ。仙台市出身。NPO法人POSSE代表。一橋大学大学院社会学研究科博士課程在籍。
NPO法人POSSEにて、年間1000件近くの労働・生活相談にかかわっている。
著書に『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)など。
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◇なぜブラック企業に入ってしまうのか
常見:ブラック企業に入る人にもいくつかパターンがあるとおもいます。その中で、ぼくが問題に感じているのは、積極的にブラック企業に入社していくパターンです。
ブラック企業は、採用活動が上手いんですよね。まず説明会が上手い。特徴の一つは、社長が出てくることです。もちろん、社長が出てきたから、ブラック企業と断言するわけではありませんが、大手企業の説明会に社長なんて出て来ないんですよ。ビデオレターならともかく。
社長が出てきて「夢」とか「感動」とかいうだけで、本来必要な条件や職種といった情報をすっとばしても、それらしく聞こえるわけです。社長と沢山会ったことのある学生って、ほとんどいないじゃないですか。だから社長がすごい人に見えてしまうんですよね。
しかも、就活中の学生の、7人に1人が鬱という結果がPOSSEの調査で出ています。就活につかれている中、社長の話は福音のように聞こえてしまうのかもしれません。
また、面接も上手い。採用力が強いと昔から評判のリクルート流の手法を取り入れていて、志望動機や自己アピールが下手でも、根掘り葉掘り聞いて整理してくれるわけです。そこで、この人はやっていけそうなのかを見極める。しかも、面接を重ねていくうちに、だんだん入社への気持ちを乗せていきます。
もともと、就活というのは演劇みたいな要素があります。企業は「良い会社」を演じ、学生の側も「良い学生」演じる、ロールプレイング合戦のようになってきています。そこに上手く順応し学生を騙していくのがブラック企業なのかもしれません。
あと、会社説明会ってすごく差別されています。「学歴フィルター」と学生は噂しますが、企業はターゲット校を明確に設定しています。HR総合調査研究所の調べによると2014年度新卒採用では実に52%の企業がターゲット校を設定しています。説明会の予約が取りづらいといった差別が実際におきています。でも、ブラック企業の説明会は予約が取れる。就活生に対して平等なんです。
今野:学生がブラック企業に入ってしまのは、端的に「他に就職先がないから」だと私はおもいます。
ブラック企業と一言にいっても、入り方はさまざまです。私が「使い捨て型」や「選別型」と呼んでいるように、大量採用し、大量離職が行われるブラック企業では、秋採用も活発に行っている場合があります。そこでは、「仕方なく」入社してしまう学生が多いでしょう。
決まらないから仕方がなく入るしかないんです。POSSEで就活生に調査をしたことがあります。就活の最初の時点では、働き方に対しての「希望」や「条件」というのを多くの学生が持っているんです。でも、いくらエントリーしても落とされてしまう、なかなか内定が出ないというのが繰り返されてしまうと、秋になるころには「なんでもいいから正社員」という考えになってしまいます。就職活動がいろんなことを諦めさせていくんです。それを私は「諦念のサイクル」と呼んでいます。
もう一つ、ある種の「個人主義」の風潮が強いという点もそれを助長しているのかとおもいます。
たとえば、「ブラック企業の見分け方はなんですか」とよく聞かれるんです。もちろん、見分け方が広まって、ブラック企業が社会的に批判されるというのはすごく意味のあることだとおもいます。でも、「見分け方」を論じることで、「入る」「入らない」といった個人の選択の問題になってしまいます。しかし、ブラック企業は社会問題です。先ほどいったように、仕方なくブラック企業に入ってしまう学生もいます。それなのに、結局「見分けられなかったお前の自己責任だ」という話になってしまう可能性があります。
さらに、学生の側でも個人主義がはびこっています。
先日、ある番組で、38人の就活生と話す機会がありました。私はブラック企業についてお話させていただきました。その後の感想で、「自分で選ぶことが大事だとおもいました」「自分を信じればいいとわかりました」と学生達はいうんですね。
さらに、そこでは筑紫野女子学園大学のキャリアセンターの取り組みが紹介されていました。それは、就職課がOGから企業の評判を聞くと、違法行為があるのか調査に行き、あれば企業に警告をし、それでも改善しない場合は、就職課ではその企業の紹介は一切しないというものでした。
しかし、学生は、「ブラック企業だからといって学校が紹介しないのは、ぼく達の可能性を狭めることになる」というわけです。
どうして、そうなってしまうのかなとおもいました。なんだか、その結果どうなろうと自分で選ぶのが一番素晴らしく価値があることだとおもっているようなのです。
ご存知の通り、経済効率とか社会制度といった話をする時に、ふつうの個人の選択が最良を招くことなんてないんですよね。情報に非対称性があるからです。就職活動の場合、選ぶのは学生です。社会で働いたこともなければ、専門的に研究を重ねているわけではない。そんな個人が自由に選択して上手くいくことなんてないですよ。本当なら、「専門家」が間に入るべきですが、実際には「個人の選択」が煽られている。だから、ブラック企業に騙されて入社してしまうんです。
常見さんが良くいっているように、毎年毎年就活生って違う人なんですよね。情報や経験値がたまっていくわけでもなく、今年卒業してしまえば、また素人が来てしまう。それなのに、なぜ自分が選ぶことに意味があるとおもってしまうんだろうかと疑問なんです。自分で見分けるんだ、自分で判断するんだという信念があって。そんな個人主義が社会制度を無効にしちゃっている。あるいは、社会制度の不在の中で、その弊害を拡大してしまっているともいえます。
たとえば、昔の就職活動は就職課やゼミなんかが主役なわけです。先生が企業を選んで、ここだったら信用できるとか、この事業者は知りい合いだからと、就職先を紹介していました。企業の方も、「あの先生の生徒だから大事にしよう」という関係性で成り立っていたわけです。しっかりとした社会環境の中で、若者は働くことができ、経済も順調に周っていくというしくみでした。
でも、今は個人主義が徹底されてしまって、有能なカウンセラーがいようとそれを信じられないし、どんなに大学でいいしくみをつくろうと、自由な選択でなければ「自分の可能性を閉ざしてしまう」と考えてしまう。それがブラック企業を助長する一つの原因になっているとおもいますね。
常見:やっぱり、接続の問題って重要なことですよね。結論からいうと、中堅以下の学校は可哀そう。上位校ならまだ先輩後輩のつながりがあるし、リクルーターがついたりもしますからね。でも、それがないと、ブラック企業に入社してしまう可能性はかなり高まりますよね。
今野:たぶん、筑紫野女子学園大学は、地域で就職する女子学生が大半だとおもうんですよ。だから、地域の企業訪問をして、採用をより分けるようなサイクルを形成しやすいという面があるのだとおもいます。
◇「自由の罠」
今野:過去の就活システムには、ルールがありました。昔は学歴主義で、良い大学や、高校の成績順に、勉強のできる人を取った。そういう人はまじめに働くし、だから企業も発展していくというしくみでした。
これは閉鎖的なしくみである反面、ものすごく効率的だし、ある種の合理性でマッチングしているわけです。成績が良い人=大企業という図式です。
このルールをなくしてしまったら、結局意味がわからなくなってしまうんです。平等にチャンスがあるという「建前」は、大切なことなのかもしれませんが、実際のところ、誰がどういった職種につくのか、というのがある程度学歴によって決まっているといえるでしょうし、嫌な仕事だって誰かが引き受けなければいけない。でも、とりあえずみんな自分で選びなさい、頑張りなさいとなってしまうと、社会が混乱してしまうとおもいます。そして大量エントリー・大量不採用の過程で、しんどくなった若者は鬱病にかかり、企業は本当に入社したい人を探し出すための経費負担が増します。
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