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  • 荻上チキ責任編集 “α-Synodos” vol.126 見えないものを掬いとる

    2013-06-15 21:04  
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    荻上チキ責任編集
    “α-Synodos”
    vol.126(2013/06/15)
    見えないものを掬いとる
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    ★今号のトピックス
    1.鼎談/明智カイト×遠藤まめた×村木真紀
    LGBTが生きやすい職場のために
    2.対談/菅原琢×津田大介
    インターネットは日本政治を変えるか?
    3.震災から生き残った人々のためにできることは
    ………………………川口有美子(NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会)
    4.シノドス+α
    昆虫、それって美味しいの?――「昆虫食への眼差し」藤岡悠一郎氏に聞く
    ○編集後記・・・山本菜々子
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    chapter 1
    明智カイト×遠藤まめた×村木真紀
    LGBTが生きやすい職場のために
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    虹色ダイバーシティのLGBTを対象にした調査を参考に
    当事者として、セクシュアル・マイノリティのための活動をしている三方が、
    セクシュアル・マイノリティと「働くこと」について語り合う
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    (写真:左から村木氏、遠藤氏、明智氏)
    http://synodos.jp/wp/wp-content/uploads/2013/06/8d92c4689237f2efef4653f0e8819e4b.jpg
    ◇レズビアンの非正規雇用率は低い
    ――今日はLGBTと仕事というテーマでお話いただきたく、皆さんにお集まりいただきました。最初に村木さんが虹色ダイバーシティで行われたアンケート調査の分析結果についてお話をいただき、その後、議論に入っていただきたいと思います。まずは村木さんから自己紹介をお願いします。
    村木:村木真紀です。レズビアンです。2012年に、「虹色ダイバーシティ」という団体を作り、企業向けのLGBT研修を始めました。この活動がヒットし、いろいろな企業から声がかかるようになったので、脱サラをして、これから本業として頑張ろうと思っています。
    遠藤:遠藤まめたです。地方公務員として働きながら、2010年に明智さんと立ち上げた「いのちリスペクト。ホワイト・リボンキャンペーン」で活動しています。FtMのトランスジェンダーです。主にLGBTの自殺対策をやっていますが、特に労働環境の問題は重要だと思い、就職試験においてセクシュアル・マイノリティが受けている不利益などについて取り組んでいます。
    明智:明智カイトです。私はゲイで、民間企業で働いています。10代の頃にいじめを受けていて、19歳のときに自殺未遂を経験しました。大人になり、同性愛者に対するいじめや自殺をなくしたいということで、遠藤さんと「いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」でボランティア活動をしています。私は、当事者だけが頑張るのでなく、社会全体が生きやすくなるように、法の整備や公的支援の整った環境がつくられるようにしたいと思い、国会議員などにロビイング活動をしています。
    ――ありがとうございます。それでは早速、アンケート調査の分析結果についてお話ください。
    村木:今回は、企業にLGBT対応を推進してもらうための材料としてアンケートを集めました。ウェブフォームを使って収集し、回答者は1125名でした。設問は20問。各年代、セクシュアリティの人から回答がありました。当たり前ではありますが、東京だけ、一部の業界や職種だけでなく、すべての地域、業界、職種に当事者がいました。
    (図:雇用形態)
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    まず非正規雇用率をLGBTごとに見てみると、男性一般の統計と同性愛者では変わりないのですが、女性一般と同性愛者を比べると、同性愛者の非正規雇用率が低くなっています。これは「男に頼らず生きていく」ということで正社員や自営業で働いている方が多いということだと思います。それからトランスジェンダーの中でも、MtFの非正規雇用率は男性一般と比べると高いことがわかりました。
    (図:転職経験)
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    次に転職経験です。一般の51.8%に比べて、LGBTは60%もある。私自身、いま38歳ですが、すでに5回転職しています。私の場合ですが、初めて就職した大手メーカーの企業は、安定している一方で男性中心の雰囲気がある職場だったためにうまく馴染めませんでした。次の転職先である外資系企業は、差別禁止ポリシーを掲げて性的指向による差別を禁止していたので期待していたのですが、結局、日本人マネージャーが運営しているので、他の日本企業と大して変わりがありませんでした。少し残念に感じたことを覚えています。
    転職については、MtFの68.3%が転職を経験していて、転職率が非常に高い。さらに3回以上転職している人は41.3%もいました。今回は年収を聞いていないのですが、転職を繰り返す層の中には貧困の問題をかかえる人が含まれているのでは、と思っています。
    遠藤:トランスジェンダーの場合、性別を変える手術など、それぞれの節目で仕事を辞めざるを得ないのだと思います。
    ◇働くことと自らのセクシュアリティには関係がある
    村木:また職場の人間関係も聞いてみました。「悪い」「非常に悪い」と答えたのは全体の8.7%、MtFは20%以上です。具体的に何を言われて嫌だったかと言うと、LGBTについて直接言われることよりは、まず未婚であることについてなにか言われるのが嫌だという回答が多かったです。
    (図:職場の人間関係)
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    遠藤:結婚していないと一人前に見られないことが多くて。あと、セクシュアル・マイノリティに限らず、ジェンダーの問題として「男らしさ」「女らしさ」につまづいている人は多いですね。
    村木:配置転換や退職に追い込まれるといった直接的なハラスメントを受けている例もたくさんありました。これらは戦えば勝てる事案だと思いますが、多くの方が泣き寝入りされています。また相談できる窓口がなかったり、相談したら二次被害にあってしまった人もいました。
    私自身そうですが、LGBTであることと仕事のことをわけて考える人は当事者にも多くいます。ただ働いてみてわかったのですが、たとえば異性愛者の場合、子どもが遠足に行ったとか、運動会を見に行ったといったプライベートを職場で隠さずに話している。これは異性愛者であることの表明なんですよね。一方でLGBTは、誰と遊んだとか、どんな映画をみたといった話は極力しないようにしている。これって不自然ですよね。やっぱりLGBTであることと仕事には関係があるのだと思います。
    その関係がはっきりとでたのが、差別的な言動の有無です。47.7%が差別的な言動があると答えています。他の指標とクロス集計してみたところ、まずストレスを感じていない人は差別的な言動がないと答えていることが多いですね。反対に、ストレスを感じている人は、差別的な言動があると答えています。また職場での公平感、人間関係の良し悪しとも相関関係がありました。
    (図:やりがい)
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    仕事にやりがいを感じているかどうかも聞いています。この「やりがい」を他の指標とクロス集計すると、ストレスが低い、公平感が高い、人間関係がよいと答えている人の多くは、やりがいがあると答えています。これはつまり、差別的な言動の有無、職場の居心地のよしあしがやりがいに繋がっているということだと思います。
    (図:差別的な言動)
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    さて職場で自分のセクシュアリティをカミングアウトしているかというと、LGBT全体では38.5%が上司や部下、同僚のいずれかにカミングアウトしていました。この結果は、アンケート調査に答えてくださった人が比較的関心が高い層だったからかなと思います。私の身の回りはこんなに高くないですね。お二人はどうですか?
    明智:私はカミングアウトしていませんね。
    遠藤:トランスジェンダーは歩くカミングアウトなので言わざるを得ないんですよね。
    村木:確かにMtFとFtMのトランスジェンダーはカミングアウトしている率がトランスジェンダーでないLGBに比べて高くなっていました。あと職場が一番カミングアウトのハードルが高いようで、友人に対しては約9割、家族に対しては約5割がカミングアウトしていました。
    遠藤:へえ、家族が一番低いと思っていました。 

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  • 荻上チキ責任編集 “α-Synodos” vol.125 誰がための「暴力」か

    2013-06-01 21:00  
    262pt
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    荻上チキ責任編集
    “α-Synodos”
    vol.125(2013/06/01)
    誰がための「暴力」か
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    ★今号のトピックス
    1.石井光太×吉本浩二・・・震災以後のノンフィクションに挑む
    2.経済ニュースの基礎知識TOP5
    ………………………片岡剛士
    3.読書、時々、映画日記
    ………………………荻上チキ
    4.スポーツに暴力は必要か
    ………………………山口香
    5.滝充氏インタビュー
    「いじめ対策法」に物申す――いじめの実態を共有するために
    ○編集後記・・・山本菜々子
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    chapter 1
    石井光太×吉本浩二
    震災以後のノンフィクションに挑む
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    作家は、そして漫画家は、3.11にどう向き合って来たのだろうか。
    新進気鋭の両者がノンフィクションについて語り合う。(司会:荻上チキ)
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    写真左から石井氏、吉本氏
    ◇それぞれのスタイルで
    荻上:今日はお二人にノンフィクションの切り口についてお話していただけたらとおもいます。まずは、お二人がそのスタイルを選んだきっかけはなんだったのでしょうか。石井さんはなぜ、ものをかくようになったのですか。
    石井:親父が演劇関係の仕事をしていて、周りにものをつくる人間しかいませんでした。それが当たり前という環境で育ってきたんです。はじめは、映像と文章の世界の両方に興味があったんです。でも映画ってみんなで作りあげていく分、妥協の産物だとおもって。自分の意見ってその中でどうしても消えていってしまいます。でも、本というのは、自分ひとりでつくっていく部分が大きくて、こっちの方が自分に合っているなとおもいました。
    谷崎潤一郎の『春琴抄』に佐助が目を潰す場面があるじゃないですか。それを読んだ時に、文章の方が映像よりもリアリティがあるとおもって。中学生の頃には活字というメディアに魅力を感じていました。高校の頃にはもうこれで行こうと決めていましたね。
    なぜ、ノンフィクションをやっているのかと聞かれたら、別にノンフィクションにこだわっているわけじゃないんです。大学一年生の時に初めてアフガニスタンとパキスタンに旅行に行った時、物乞いがずらっと並んでいるのを見ました。直感的にこれを自分はやらなきゃいけないし、やれば全て上手くいく、という確信を持ったんですよね。あくまでも感覚的なものだったんですが……。それがノンフィクションをかくきっかけです。
    荻上:ミシマ社さんのインタビューで、文章のテクニックの訓練をしていたとお答えになっていましたね。
    石井:親や周りにものをつくる人間ばかりだったので、どこまでやらなきゃいけないのかということがパラメーターとしてわかるわけです。例えば、親父の仕事を見れば、どれだけセットをつくるために絵をかかないといけないかわかるし、オペラ歌手がどれだけ歌い続けてきたのかわかる。作曲家の人達がどれだけモーツアルトを模倣していたかということもわかるわけです。
    文章だってまったく同じ話であって、文芸という世界で生きて行くんだから、それを芸にしなければいけない。誰かを真似したことのない絵描きっていないだろうし。クラシックをやる人間でベートーベンモーツアルトを聞いたことのない人間はいないだろうし。
    荻上:みんな初めはコピーから入りますもんね。
    石井:そうです。文章だって同じ話だとおもうんです。だから、芸を身につけるということを当たり前に考えました。本を一日三冊読んで、短編をどんどん模写していったのですが、それは自分の中で当たり前でしたね。
    荻上:写真も撮られてますよね。石井さんの中で写真ってどういうものなのでしょうか。写真が表紙にも使われていますし、「写真集を出さないか」という話もあるとおもいますが。
    石井:ありますね。でも、ぼくは写真ってあんまり得意だとはおもっていません。訓練もしたこともないですし。ただ、自分の写真がなぜ商品になるのかというと、誰も撮っていない写真だからだとおもうんです。
    つまり、同じ材料を写真家が撮った方がそれは上手いに決まっているんです。でも、写真家は物乞いの写真をとらないわけです。であれば、それを撮ったぼくの写真は作品でなくても記録として成り立つ余地があります。
    なににしても最低限の技術は必要です。ただ、その技術だけではダメ。それにプラスアルファで他の人がやっていないことを、どうやっていくのかということだとおもいます。蔵前仁一さんが『旅行人』という雑誌をつくっていた時、毎月のように「オレの旅行本を出してくれ」という人が来たらしんですよ。彼は「人が怒っている写真を撮ってきたら本にしてあげるよ」といって帰したようです。でも、そんな写真を取れる人なんて誰も現れなかった。
    笑顔の写真だったら、死ぬほど上手いカメラマンが撮っても写真集にはならないわけです。その倍率たるやすごいですから(笑)。でも、怒った人間の写真はなかなかとれないから、その写真集は簡単に出せます。お客さんは写真が上手い下手だけで写真集を買うわけではないんです。
    荻上:吉本さんは、漫画家になられる前は、テレビの制作のお仕事をされていたんですよね。漫画は小さい頃からかいていたんですか。
    吉本:そうですね。漫画はかいてましたけど、ぼくはそんなに画力がないんで。
    荻上:いえいえ。
    吉本:偶々受かった社会福祉の大学に行って、当時流行っていた8mmビデオで映像を撮って、編集して友達にみせたらすごく喜んでもらえて。それでTV業界に入りました。先ほど石井さんもおっしゃっていましたが、映像ってなかなか自分の思い通りにいかないものなんですよ。カメラマンの方に指示を出したりしないといけません。そういうことが性格的に苦手だったので、ひとりでかいた方が自分のかきたいものをかけるかなと思い漫画家になりました。
     

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