• このエントリーをはてなブックマークに追加

記事 8件
  • ■久瀬太一/8月20日/24時05分

    2014-08-21 00:05  



     消毒液の匂いがした。
     ――きぐるみの、中身。
     オレは、それをみたのか? みなかったのか?
     どうしても思い出せなかった。長い夢がどこで終わったのか、わからなかった。
     オレは目を開く。白いシーツの上に横たわっている。
     激痛を感じて、左頬を押さえた。顔の半分が、ずきん、ずきんと痛んだ。
     ――ふざけんなよ。
     となにかに悪態をつく。
     眠り過ぎたせいか、寝起きの激痛の影響か、意識がなかなか繋がらなかった。
     ここは。辺りを見回して、わかる。
     ここは病院だ。どうやら個室に入っているようだ。
     ――オレは、どれだけ眠ってたんだ。
     枕元にスマートフォンがあった。それをみて、舌打ちする。
     日づけはもう、8月21日になっている。24日は、目の前だ。
     全身が妙に気だるい。
     でも、身体は動いた。
     なら動かないといけない。走らないといけない。
     ――どこに?
     わからないけれど、余

    記事を読む»

  • ■久瀬太一/8月20日/24時

    2014-08-21 00:00  



     久瀬くんはバスに乗ってるそいつのことをきぐるみって呼んでるけど、ぬいぐるみではないの?人がそれを身につけている感じなの?
           ※
     そういえば、と思い当る。
     人間くらいに大きくて、動いて喋るからきぐるみだと思い込んでいたけれど、ぬいぐるみがしゃべっていたとしても、今さら驚かない。
    「お前、中に人間が入ってるのか?」
     とオレは尋ねる。
    「なんだ、中をみたいのか?」
     ときぐるみは言った。
    「そりゃまあ」
     気にはなる。
    「余計なことに気を取られてる場合じゃないだろ、ヒーロー」
     ときぐるみが言う。
    「オレはヒーローじゃない」
    「そうだよ。みんな嘘だ。それでもお前は、ヒーローになるんだろう?」
    「知らねえよ」
     ヒーローって、なんだ。
     オレはただ、平穏で。みんなが普通に幸せなら、それでいい。
    「頑張れよ」
     ときぐるみが言った。
    「頑張って、頑張れ。この言葉が綺麗に聞こ

    記事を読む»

  • ■久瀬太一/8月20日/23時45分

    2014-08-20 23:45  



     君はどうしたい? いつも、私たちから質問するばかりだ。久瀬くん、君のほうで何か気になること、私たちソルの力を借りたいことはないのかな?
           ※
     ――というメールを読んで、それが思考するきっかけになった。
     ソルたちに対して、気になることは無数にあった。
     一体、どんな集団なんだ? どうしてオレに手を貸してくれるんだ?
     とはいえ、それは純粋な好奇心で、今すぐ手に入れなければいけない情報ではないように思う。ソルたちが何者であれ、これまで何度もオレを助けてくれたことにかわりはない。
     今、オレが目指しているのはなんだろう、と考える。
     なによりも問題なのは、8月24日のみさきだ。バスの窓からみえたあの景色をなんとかしなければならない。
     そのためにオレはヒーローバッヂを探していた。ヒーローバッヂがあれば、メリーと交渉できる可能性が高い、と八千代にきかされていたからだ。
     そ

    記事を読む»

  • ■久瀬太一/8月20日/23時30分

    2014-08-20 23:30  



     ちえりさんに電話をすることがあったら、聞いてください。去年のクリスマスは誰と過ごしていましたか?
           ※
     というメールを読んで、思わず眉を寄せた。
     ――ずいぶん久しぶりに再会したってのに、急にクリスマスの相手を尋ねるのは、ちょっと失礼じゃないか?
     いや、急ににしなればいいのか。
     上手いこと会話で誘導すればいいのか。
     残念ながら、そんなトークスキルはないが、まあ頑張ってみよう。ソルからのメールなのだから冗談だとも思えない。
     なんにせよ彼女が、楽しいクリスマスを過ごしていたならいいなと思う。
           ※
     必死に返信を打ち込みながらメールを読み進めるる。
     グーテンベルクから受け取ったあのちゃちな冊子に関するメールがあった。
     ――それを読んで君はどう感じた?
     難しい質問だ。昔から読書感想文なんてものは苦手だったけれど、そんな問題でもない。
     ――あれには

    記事を読む»

  • ■久瀬太一/8月20日/23時15分

    2014-08-20 23:15  



     次のメールは、こうだ。
     ――きぐるみに、いつ生み出されたのか聞いてください。
     生み出された?
     なんだか、少し違和感のある表現だ。でも今、目の前にきぐるみがいるのだから、いつか生まれたのは間違いないだろう。
     念のためにオレは、メールの通りの言葉を使って尋ねる。
    「おい、お前が生み出されたのは、いつだ?」
     きぐるみは首を傾げる。
    「生み出されたってなんだよ」
    「知らないよ。とにかく、いつ生まれたのかって訊いてるんだよ」
    「そういう難しいことをきくなよ」
    「どこが難しいんだよ?」
     自分の生年月日くらいわかるだろう、誰だって。
    「言い方次第だけどさ、ま、『ここ』からみると、『まだ』生まれてないよ、オレは」
    「意味がわからないよ。ここってどこだよ?」
    「みりゃわかるだろ。ここだよ」
     そう言っていぐるみは、辺りを見渡す。
    「生まれてないのにどうしているんだよ?」
    「だから、難しい

    記事を読む»

  • ■久瀬太一/8月20日/23時

    2014-08-20 23:00  



     それからしばらくは、「プレゼント」に関する情報が続いた。
     八千代はやはり「ドイルの書き置き」というプレゼントを貰っていた。
     それは、彼の幼馴染みから受け取ったもののようだ。
     メールの内容をまとめると、こうだ。
     プレゼントは、センセイから直接、手渡されるわけじゃない。
     センセイは、「良い子」を選ぶ。
     その「良い子」からの贈り物が、特別な力を持つ「プレゼント」になる。
     そういう構造みたいだ。
     メリーは次の「良い子」だとされていた。だから協会内で大きな力を持っていた。誰もが、メリーからのプレゼントを求めていた。
     でも、あの雪という女性はいった。
     ――ヨフカシだけが、本物の良い子を知っている。
     なら、メリーは偽物だということになる。
     ソルはメールに、「聖夜協会へのカードになり得えること」と書いていた。
     確かにその通りだ。
     一方で、使いどころが難しいカードでもあっ

    記事を読む»

  • ■久瀬太一/8月20日/22時45分

    2014-08-20 22:45  



     はやいペースで、次々にメールが届く。
     オレはそれに、必死に返答していく。
     メールの中で気になったのは、「アカテ」と呼ばれる人物に関することだった。
     アカテ――八千代の友人?
     どうやらその人物が、越智や、白石や、山本に、あのタイムカプセルを埋めさせたようだった。
     一方で、ホールへの書き置きを残したのもそのアカテ。
     なにがしたいのか、見当がつかない。
     行動が矛盾しているように思う。
     ――アカテって奴は、誰かにヒーローバッヂをみつけさせたかった?
     例えば、ホールに?
     いや、それはおかしい。
     アカテがヒーローバッヂを隠したのなら、直接その場所をホールに伝えればいい。そもそもいちいちタイムカプセルを埋めたりせず、直接、ホールにそれを手渡せばいい。
     結果、ヒーローバッヂはソルの手に渡った。
     それはアカテが望んだことなのだろうか?
     だとすればどうして、現場にホールを呼

    記事を読む»

  • ■久瀬太一/8月20日/22時35分

    2014-08-20 22:35  



     こんなところにいる暇はないんだ、とわかっていたけれど、オレはまだあの停留所にいた。
     周囲を歩き回っても出口はない。道路はどこまでも続いているけれど、どれだけ歩いても、どこにも辿りつけない。振り返るとすぐ近くに停留所がみえる。バスもモノレールもやってこない。観覧車さえ動かない。
     オレはベンチで何度か眠って、同じ回数、目を覚ました。
     ここが夢の中だというのなら、夢の中で眠るというのもおかしな話しだ。眠っているあいだの記憶はなかった。夢もなにもみず、頭の芯に残っているまどろみの感触で、寝ていたとわかるだけだった。
    「落ち着けよ」
     ときぐるみが言う。
     でも、落ち着いていられる場合でもない。
    「さすがにそろそろ、目を覚ましたい」
    「うん。そろそろだ」
    「どうしてわかる?」
    「なんとなくだよ。でも、ヒーローが目覚めないまんまなんてことはないだろ?」
     オレはベンチの上でため息をつく。

    記事を読む»