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■久瀬太一/8月21日/22時00分
2014-08-21 22:00
ベル、とオレは、口には出さずに呟く。
「アレクサンダー・グラハム・ベル?」
「おそらく、彼からとった名前なんでしょうね。はっきりとはわからない。それは、ベルの物語と呼ばれている」
「それも、プレゼントなんですか?」
ニールの足跡や、ドイルの書き置きに似た名前だ。
「ええ。まだ確認されていない、最後のプレゼント。センセイが初めて、センセイ自身のために用意したプレゼント」
「それを、貴女が護ろうとしている?」
「ええ」
「正体も知らないまま」
「そうよ」
ノイマンは深呼吸のように、細く長く息を吐き出した。
彼女はオレの向かいのチェアを引き、腰を下ろす。
「私たちはゲーム盤の上に並ぶ駒のようなものよ。そのマス目にいる意味を理解してはいない。ただプレイヤーの指示に従って、ルール通りに機能するだけ」
プレイヤー。
その言葉から、連想したものがあった。
ノイマンが笑う。
「貴方の -
■久瀬太一/8月21日/21時45分
2014-08-21 21:45
足音が聞えて、部屋に誰か入ってきたのがわかった。
照明がついて、姿がはっきりとみえた。黒髪が綺麗な女性だ。年齢はよくわからない。おそらく30代だ。でも20代でも、40代でも不思議ではない。ミステリアスな雰囲気の女性だった。
女性が口を開く。
「貴方、だれ?」
とその女性は言った。
「久瀬太一、でわかりますか?」
彼女の眉がぴくんと跳ねる。きっとこちらを知っているのだろう、と予想がついた。
続けて尋ねる。
「貴女がノイマン?」
彼女は頷く。
「どうして、貴方がここにいるのよ?」
「ほかに聖夜協会に繋がりそうな場所を知らなかったんです。八千代――ドイルも電話に出てくれない。ここしかなかった」
「にしても、紳士じゃないわね。勝手に女性の部屋に入るなんて」
オレは鼻で笑う。
「男性であれ女性であれ、誘拐犯は誘拐犯です」
ノイマンは息を吐き出し、向かいの椅子に座る。
「別の -
■久瀬太一/8月21日/21時30分
2014-08-21 21:30
明かりをつけていないマンションの一室で、オレは5回、電話をかけた。
まずは八千代雄吾に。
だけど、彼は出なかった。
※
次にオレは、父親に電話をかける。
しつこくコールしていると、やがて父の、どこか間が抜けた声がきこえた。
「どうした?」
「訊きたいことがあるんだ」
ソルから尋ねるよう言われていたことを、オレは順に尋ねる。
まずはみさきの祖父について。彼は謎が好きだったのか? それと、彼がいなくなった正確な時期について。
「頭を使う問題は、全般的に好きだったよ」
と父は答える。
「よく人に問題を出していた。そういうのを真ん中において、ああだこうだと言いながら酒を飲むのが好きな人だった。いなくなったのは、あまりはっきりとは知らない。10年前の、春ごろだったと思う」
続けてオレは質問する。
聖夜協会に入る方法について。
父は答える。
「さあな。メンバ
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