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■久瀬太一/7月28日/12時
2014-07-28 12:00
父への電話は、珍しくすんなりと繋がった。
挨拶もなにもなく、どこかにやけて聞こえる口調で、「どうだった?」と父は言った。
「なにがだよ?」
「佐倉さんとこの娘さんだよ。連絡あったか?」
「ああ」
「それで?」
「ちえりとは会った。みさきはまだみつかっていない」
電話の向こうで、短い沈黙があった。
それから父は、彼にしては珍しい、硬い口調で言った。
「本当に誘拐されてんのか?」
「そういってるだろ」
「警察は?」
「もちろん動いている。でも、あまり進展はなさそうだ。なにかわかれば、ちえりから連絡を貰えることになっている」
オレは部屋のベッドに腰を下ろし、左手でスマートフォンを持っていた。右手では、あの箱からみつかったクリスマスツリーの飾りを弄ぶ。
「あのクリスマスパーティのことを知りたい」
「どうして?」
「みさきの誘拐に、あれが関係していそうなんだよ」
「わけがわからないな -
■佐倉みさき/7月28日/10時30分
2014-07-28 10:30
長い夢をみた。
なんだか良い気持ちで、私は目を覚ます。
ベッドの上だ。清潔感のある白いシーツに寝転がっている。
「よく寝る子ね」
声が聞こえた。呆れというよりは感心している風な口調だった。
目をこすって、そちらを向く。
長い黒髪が綺麗な女性が、ベッドわきの椅子に座ってこちらをみていた。
「久瀬くんってだれ?」
そう尋ねられる。
どうして、その名前を?
表情から私の疑問を読み取ったのか、彼女は言った。
「寝言で言ってたのよ。ずいぶんはっきりと」
それは。ちょっと恥ずかしい。
私は、どうにか口を開く。
「貴女は」
「忘れたの?」
彼女はくすりと、小さな声で笑う。
「誘拐犯よ」
みや@さとみちゃん愛 @staknnds 2014-07-28 10:32:55
寝言はっきり聞かれちゃって恥ずかしがる佐倉嬢も可愛いけどやはりここは宮野さん推し #宮野派
コウリ -
■佐倉みさき/7月28日/10時15分
2014-07-28 10:151
久瀬くんが私を引っ張る。
同い年とは思えない力強さにびっくりして、私は気づけば彼の後ろについて部屋を出ていた。
「どこにいくの?」
と私は尋ねる。
「もっと綺麗なところだよ」
と彼は答える。
私の手をひいたまま、久瀬くんは走る。廊下で数人の大人に声をかけられたけれど止まらない。パーティ会場にも目もくれず、私たちはホテルを飛び出す。
久瀬くんは足が速くて、私は生まれて初めてじゃないかというくらいの全力疾走だった。行き先もわからないけれど、不思議と不安はなかった。それよりも、久瀬くんに置いていかれないように必死だった。この手を離すことの方が怖かった。
私はじっと、久瀬くんの後ろ姿をみつめる。
久瀬くんは無言で、ただ手を力強く握っている。
その温度に、大丈夫だ、と言われている気がする。
どきん、どきんと鼓動が打つ。
体温がどこまでも上昇していく。
肌に触れる、冷たい -
■佐倉みさき/7月28日/10時
2014-07-28 10:00
夢をみていた。
幼いころの夢だ。
※
当時の私は、両親から勧められたピアノ教室に通っていた。
私はピアノが嫌いではなかった。
下手なりに技術が向上するのはカタルシスだったし、褒められると単純に嬉しかった。
でも、ピアニストになりたい、とは絶対に思わなかった。人前に出るのが苦手だ。綺麗な格好をしてステージで演奏するなんて、なんとしてでも避けたいことだった。
なのに。
――今年のパーティでピアノを弾かないかって、頼まれてるのよ。
と母が言った。
パーティというのは、ホテルで開かれるクリスマスパーティのことだ。私は毎年、それに参加していた。
――大丈夫よね? みさきはピアノが上手だから。
嫌だ。大丈夫じゃない。
本当は首を振りたかった。
でも自分のことのように嬉しそうに笑う母の顔をみると、否定もできなかった。わかった。がんばる、と私は応えた。
後悔
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