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■佐倉みさき/8月7日/19時30分
2014-08-07 19:30
夕食の時間になっても、私はまだ秋田にいるのだった。
ノイマンの、聖夜協会から頼まれている仕事が佳境とのことで、このホテルでもう一泊することになった。ニールはごねそうだなと思っていたけれど、意外にもあっさり引き下がった。
「あいつは私が苦手だから」
とノイマンはいう。
ホテルに入っている雰囲気のよいダイニングだ。私と彼女は並んで窓辺のカウンター席に座っていた。
「苦手、ですか」
「そ。プレゼントの相性でね」
「プレゼントって、あの瞬間移動のことですよね?」
「ニールのはね」
「ノイマンさんも持ってるんですか? プレゼント」
「ええ」
「どんな?」
「人を夢の世界に連れていくのよ。素敵でしょ?」
よくわからない。
「相性が悪いって、どういうことですか?」
「以前、あいつが私のところに跳んでこようとして、ひどいことになったのよ」
「ひどいことって?」
「簡単にいえば、バグったの -
■久瀬太一/8月6日/21時15分
2014-08-06 21:15
さきほどからずっと、頭がずきずきと痛んでいた。
それに耐えながらオレは、必死にメールの返信を書いた。
でも意識の片隅には、ずっとあのころのことがこびりついていた。
――越智。
あいつらと一緒にいたころ。
たしかオレが、小学3年生だったころだ。
小学3年生の2学期に、オレは愛媛に引っ越して。
それから少しして、あいつらと仲良くなって。
それから、どうなった?
スマートフォンが、ふいに沈黙した。 みると電波が、圏外になっていた。
妙な疲労感を覚えて、オレはベッドに寝転がる。
――あのころのオレは、またすぐに引っ越すとわかっていた。 それが悲しくて、あいつらはタイムカプセルを埋めようと言ってくれて、それを掘り返すときにまた会おうと約束して――
でも、どうしてだろう?
オレにはその先を、どうしても思い出せなかった。
――To be continued
結希 -
■久瀬太一/8月6日/21時
2014-08-06 21:00
またメールが届き始める。
聖夜協会の、「いい子」でいなければいけないルールに関する意見。
謎のアドレス……オレにはみえない。ブログらしい、ということだが、あの40枚のイラストがあるブログとは別だろうか?
その次のメールを読んだとき、目の前で、なにかが弾けたような気がした。
※
愛媛の越智君という友人を覚えていないか タイムカプセルを埋めたらしいけど
※
覚えていた。
越智――たしか、越智幸弘。
当時、転校した学校にいた、仲のよかった3人組のうちのひとりだ。
たしかにあいつらとは、タイムカプセルを埋める約束をしていた。
越智の父親が、山に少し土地を持っていて、そこを自由に使えるから、タイムカプセルを埋めようって。
転校が多かったオレに、そう言ってくれたんだ。
そのことを思い出したとたん、ずきんと、顔の左半分が痛んだ。
少年(ベルく -
■久瀬太一/8月6日/20時45分
2014-08-06 20:45
スマートフォンにメールが届くのが、断続的になってきた。
だが、電波はまだある。
――ソルの方でなにかあったのだろうか?
いや、もう充分に、有益な情報を貰っている。
そう思いながら、次のメールをひらいた。
※
そのメールは、みさきの髪形に関することだった。
――思えばオレは、まだ直接、みさきの顔をみていない。
最近のみさきは、ということだが。
どうやらみさきは最近、髪を切ったようだ。誘拐犯と一緒にいて髪を切るというのも、想像するとあまりいい展開はイメージできなかったが、でもソルたちは「彼女は比較的安全だ」と言っている。すべての聖夜協会員が極端な悪者だということでもないのだろう。
オレが知っているみさきは、あの未来の風景で血を流すみさきだけだ。そのときの彼女は確かに、ショートカットだったように思う。
※
それから、なつかしいことを、少しだ -
■久瀬太一/8月6日/20時30分
2014-08-06 20:30
続いて届いたのは、あの不条理なドラゴンに食われる未来に関するメールだった。
――あんな無茶苦茶な状況、一体オレにどうしろってんだよ?
と思っていたけど、そのメールにはなんらかの確信をもって、あのドラゴンから逃げる方法が書かれていた。
――剣でドアを切れって?
そんなこと、素人にできるのか?
だが、あのドラゴンと戦うよりはずっと現実的だし、たしかに開かないドアと格闘するよりは、ぶっこわしてしまった方が手っ取り早そうではある。
――なるほど、わかった。
とオレは返信する。
※
続いてブログ――おそらく、あのノイマンという聖夜協会員のPCでみた、40枚のイラストがあったブログのこと。
ノイマンの部屋を出てから、あのブログを何度か検索しているけれど、オレにはみつけられない。
でもソルたちにはあのブログがみえているようだった。
どうやらみさきが、ふたりの誘 -
■久瀬太一/8月6日/20時15分
2014-08-06 20:15
ソルのスマートフォンが鳴ったのは、20時をわずかに回ったときだった。
――ソルからだ!
間違いない。
まるで待ち構えていたように、次々にメールが届く。
早く、早く――
焦りながらオレは、そのメールに返信する。
※
まず届いたのは、八千代に関するメールだった。
彼の電話番号とメールアドレスを尋ねられる。ソル相手に秘匿することでもないだろう、と考えて、オレは素直に、彼の名刺に書かれているものを答えた。
それから、気になったのは宮野さんが持ち出したスマートフォンとミュージックプレイヤーのこと。
どうやらあれは、八千代の持ち物だったようだ。
――ドイルと一緒にいるなら渡してもらえるのではないのか?
とソルたちは言っていた。
――確かにそうかもしれない。
宮野さんは強引で、原稿のためなら身勝手だけど、少なくとも悪人ではない。
この数日は彼女と連絡をと -
■久瀬太一/8月6日/16時
2014-08-06 16:00
八千代は当然のように、ホテルのオレの部屋までやってきて、フィッシュバーガーにかみついていた。
「さっさと食えよ。アイス溶けるぜ?」
と彼は言った。
「ああ。そりゃ大変だ」
オレはいまいち食欲がないまま、フライドポテトを口に運ぶ。
フィッシュバーカーの包装紙を丁寧に折り畳んでゴミ箱に捨てて、八千代はサーティワンアイスクリームのロッキーロードを手に取る。
「で? 手紙の内容は?」
「ファーブルって奴が、オレに会いたいってさ」
「どんな条件で?」
オレは手紙の内容を要約して告げる。
「食事をごちそうしてくれるらしい。時間も場所もこっちが指定していい。向こうから来るのはファーブルひとり。こっちから行くのはオレひとり。それから、直接顔を合わせられたなら、ドイルの秘密を教えてやる、ってさ」
「オレの秘密ねぇ」
八千代は紙コップについていた白い半透明のフタを外し、ストローを使わずにコー -
■久瀬太一/8月6日/15時30分
2014-08-06 15:30
八千代に簡単なおつかいを頼まれた。
近所のファストフード店に行って、ふたりぶんのセットメニューをテイクアウトして、帰りにコンビニかどこかでアイスクリームを買い、ホテルまで戻ってくる。それだけだ。
「尾行のコツを知ってるかい?」
と八千代は言った。
「知らない」
とオレは答えた。
「なにも知らない?」
「以前、テレビ番組で少しだけ聞いたことがある」
ポイントはふたつだ。
ひとつめは、相手の靴を覚えること。うつむきがちに、足元だけをみて尾行するのがよい。
ふたつめは、数人のチームで臨むべきだということ。2ブロック進むと次の仲間に交代、さらに2ブロックでまた次の仲間に。その間に、最初の追跡者は相手のルートを予想して先回りしている。そういう風に入れ替わりながら尾行すると、ずっと気づかれづらくなる。
そう説明すると、八千代は頷いた。
「うん、正しい。すぐに両方忘れてくれ」
「忘 -
■秋田の小冊子
2014-08-06 13:30
あさって @sakuashita1
つきました!
ヌマハチ@SOL @_NumaBEE_
現地ソル着いたか!長い距離お疲れ様。
Jill@Sol軍事班 @Noirfennec
@sakuashita1 おつかれさまです!
秋田市は一日雨のようですね・・・
お気をつけて!
ヴァニシング☆コウリョウ @kouryou0320
やはり2980円の靴か…
※Twitter上の、文章中に「3D小説」を含むツイートを転載させていただいております。
お気に召さない場合は「転載元のアカウント」から「3D小説『bell』運営アカウント( @superoresama )」にコメントをくださいましたら幸いです。早急に対処いたします。
なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいておりま -
■佐倉みさき/8月6日/12時25分
2014-08-06 12:251
目を開くと、ノイマンが私の顔を覗き込んでいた。
「やっぱり、どこか悪いんじゃない?」
病院の予約を入れましょうかという彼女に、私は首を振る。
「大丈夫ですよ」
むしろ、気分はいい。
でも少しだけ泣きたかった。
久瀬くんのしたことは、大人からみると馬鹿馬鹿しいかもしれないけれど。でも彼はきっと、ずっと本物の英雄だった。
※
私は適当な嘘のエピソードを語りながら、タイムラインの向こうのみんなにお礼を書く。
――みなさん、ありがとうございます! みなさんのおかげで、エピソードを思い出せました。 と、ニールが隣から、スマートフォンをつかみとった。
つい、あ、と声が漏れる。「もういらねぇだろ」 彼が席を立ったので、ノイマンと私も、仕方なくあとに続く。
この素敵な喫茶店をあとにするのが、少しだけ惜しかった。まるで上品な図書館のようなお店で、ずっとここにいたくな
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