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■久瀬太一/7月25日/22時45分
2014-07-25 22:45
目を覚ました時、オレは白いベッドの上にいた。消毒薬の匂いがしたわけでもないけれど、ここが病院の一室だとわかった。
オレは頭を掻く。全身がまだ痛いが、骨が折れている様子もなかった。とりあえずベッドから立ち上がり、身体が動くことに安心する。
――オレは。
きっと、警官の前で気を失ったのだろう。そして病院に運ばれた。ポケットが膨らんでいて、オレはそこに手を突っ込む。2台のスマートフォンがあった。逆のポケットから、さらに携帯電話がもう1台出てくる。財布も2つあり、オレのじゃない手帳もあった。
脳がずいぶん鈍っているようだ。携帯電話、財布、手帳。それらは、あの誘拐犯から奪ったものだ。警察に提出した方がいいだろう。
――いや、待て。
オレはあの箱を開けないといけない。
アタッシェケースに入っていた、4つの鍵がついた箱。今日の誘拐犯と関係があると考えるのが普通だ。なにか、鍵を開け -
■久瀬太一/7月25日/22時35分
2014-07-25 22:35
オレンジ色のライトが、きぐるみの横顔を不吉に照らしていく。
男性とも、女性ともつかない、無機質なアナウンスが聞こえた。――次は7月27日です。
「おい、明後日じゃないか」
「ああ。いいだろう? 倍も時間がある」
「ふざけんなよ」
オレはバイトと就職活動をしたいんだ。真っ当な大学三年でいたいんだ。
バスがトンネルを抜ける。
※
窓の外にみえたのは、オレの部屋だった。
――またかよ。
どうしてマンションの3階がバスの窓からみえるんだ。
まったく、ふざけている。いまさら常識なんてものに期待もしていないけれど。
暗い時間だ。部屋の中の時計は、午後8時を指していた。その手前で、2人が向かい合っていた。
一方は、オレだ。手にはスマートフォンを持っている。それを、じっと覗き込んでいた。
もう一方は、サングラスをかけた男だ。はっきりとはわからない。だが、今日あの -
■久瀬太一/7月25日/22時30分
2014-07-25 22:30
警察にスーツの身柄を引き渡したところまでは覚えている。
その後は記憶がなかった。オレは上手く、事情を説明できただろうか?
目を開くと、オレは再びあのバスターミナルにいた。人の気配はない。なんの音もしない。目の前にバスが停まっている。そのライトがオレを照らしている。行き先表示は、『8月24日』。ずいぶん先だ。
不思議と、驚きはなかった。なんとなくまたここに来るような気がしていた。
オレはベンチから立ち上がる。
バスに乗り込むと、乗客がひとり増えていた。
昨日、原稿用紙を膝に載せて眠っていた女性の隣に、別の女性が座っている。2人はよく似ていた。顔立ちも、服装も。でも髪の長さだけが違う。原稿用紙の方はロングで、その隣はショートカットだ。
――双子だったのか。
双子で、みさきを思い出した。彼女にも双子の姉がいる。
ショートの方は、手のひらほどのサイズのビデオカメラを持っ -
■佐倉みさき/7月25日/22時20分
2014-07-25 22:201
奇妙に息苦しかった。
周囲は薄暗い。どこか、フローリングの上に転がされているようだ。そう間もなく、また誘拐されたのだ、と気づく。
今度は手足が縛られていた。口にはガムテープか何かがはりつけられている。べったりと頬を覆う粘着面が気持ち悪かった。
首を動かし、辺りを見渡す。
広い部屋だ。高級マンションのリビングのような印象。ずいぶん散らかっているようだ。目の前に、ポテトチップスの空袋がある。
部屋の真ん中あたりのソファに、男性が腰を下ろしていた。私の首を絞めたサングラスだろう。
彼はこちらに背を向け、携帯電話に向かって、ぼやくように何か話していた。
「知らねぇよ、捕まったんじゃねぇか?」
「お蔭で、余計な荷物を背負い込むことになった」
「さぁな。成り行きだよ。なるようになるだろ。……ああ、メリー次第だ」
メリー? なんだ、それ。羊しか思い浮かばない。
ひどく疲れていた。 -
■久瀬太一/7月25日/21時20分
2014-07-25 21:20
ふいに泣き声が聞こえてきた。すぐ手元からだった。
「どうして」
スイッチが入ったまま転がっていた懐中電灯で、スーツの顔がみえていた。
奴は泣いていた。
思い切り顔を歪めて、子供のように声を上げて。
「私は正しいことをしたんだ。どうして、こんな目に合うんだ」
その言葉に、ひどく苛立った。
でも泣いている相手を殴る気にもなれず、オレは拳を宙で止めた。
スーツは掠れた声で、どうして、どうしてと繰り返している。
なんなんだよ、こいつは。
奴のポケットに手をいれてみるが、反応はなかった。
指先に触れたものをひっぱりだし、懐中電灯を掴んで照らす。財布。中には免許証も入っていた。写真は間違いなく目の前のスーツだ。これがあれば、逃げられてもすぐ警察が捜し出すだろう。
携帯電話。手帳。どちらも一応、貰っておく。
ズボンのポケットから、小さな鍵がみつかった。きっとこれが、みさき -
■久瀬太一/7月25日/21時10分
2014-07-25 21:10
スーツが通路の奥へと走っていく。その後を追いながら、オレは110番にコールする。
電話が繋がったとき、スーツの持っている懐中電灯の明かりが消えた。
気にせずオレは、電話につげる。
「女の子が廃墟に連れ込まれています」
相手が何か言っていたが、一方的にどうにか覚えていた町名と、ホテルだった建物だと告げた。ホテルの名前までは記憶していない。
「早く来て――」
ください、という前に殴られた。スーツがこちらに近づいていることは足音でわかったから、覚悟はできていた。スマートフォンが手から飛び出す。
空いた手を、スーツがいるはずの場所に伸ばす。指先に何かが触れる。がむしゃらにそれを掴んで、もう一方の手を握りしめる。思いっきり振ると、とりあえず相手には当たったようだった。低いうめき声が聞こえた。
もう一度、もう一度。おそらくスーツの胸の辺りをつかんだまま、オレは目の前を殴る。うまく -
■佐倉みさき/7月25日/21時05分
2014-07-25 21:05
そろそろ時間だ。
私はノートPCを手に、ドアの前に立った。
――反撃を、相手は予想しているだろうか?
私は自身の行動を想像する。とにかく先手を取るべきだと思った。ドアが開くと、すぐに行動した方がよい。
敵に駆け寄る。まず一発殴る。思う存分恨みを込めて。それから、一目散に逃げ出そう。
――久瀬くん。
彼は無事だろうか? できるならこのビル内を駆け回って、彼を探したかった。それは許される行動だろうか? わからない。敵がひとりだけなら、なんとかなるような気もした。そう思うと、はやくこのドアが開いて欲しかった。
ごくり、と喉を鳴らす。じんわりと背中に汗をかく。ノートPCを構える手が震える。それが重さのせいなのか、立て続けに起こる緊張のせいなのか、自分では判断できない。
たぶん10分ほど待っただろうか。いや、さすがにそれは嘘だ。きっと、もっと短いはずだ。私は正常な心理状態では -
■久瀬太一/7月25日/21時
2014-07-25 21:00
爆発のようなでかい音が聞こえた。
「なぜだ!」
スーツが叫ぶ。
部屋はもうどっぷりと闇に落ちていた。
スーツが床においた懐中電灯だけが、まっすぐな光を放っていた。それに照らされて、彼の足元でテーブルが倒れているのがみえる。きっとまた蹴り倒したのだろう。
「なぜ、爆発しない!?」
きっと、午後9時を回ったのだ。
時限爆弾は起動に失敗した。安心して、少し涙が滲んだ。ぼやけてみえる懐中電灯の光は綺麗だと思った。
スーツは部屋の出口へと向かう。オレの存在なんてもう、忘れてしまったようだ。
――きっと、みさきの様子をみにいくんだ。
呼び止めるか? だが、そうしてどうなる?
結局オレにはみさきを救えなかったのだ。
落ち着け、と自身に言い聞かせる。
スーツが部屋を出て、乱暴にドアが閉まる音が聞こえた。。
縛られていて両手は動かないが、足は自由だ。オレは椅子ごと、なんとか -
■佐倉みさき/7月25日/20時40分
2014-07-25 20:40
私はまだ捕らえられている。
それでも、爆弾は止まったのだ。
――きっと、反撃のチャンスはある。
誘拐犯には、私に対する明確な殺意があった。そう仮定する。
なら、時限爆弾を止めたことは、あちらにとっては想定外なはずだ。爆発が起こらなければ、必ずこの部屋の様子をみにくる。間違いない。それが起こるのは、あのタイマーがゼロになる予定だった時間の少しあとだろう。
――この部屋にはドアがひとつしかない。
窓さえない。敵が来る方向はわかっている。
私は部屋の中を見渡す。なんでもいいから、武器になるものが欲しかった。硬くて、そこそこの重量があるもの。
目についたのは、ノートPCだった。
とりあえず画面を閉じ、両手で持って振ってみる。心もとないが、素手よりはましだろう。
興奮状態にあるせいか、恐怖はあまり感じていなかった。人間よりも爆弾の方が怖ろしいと思った。
私は再びノートP -
■佐倉みさき/7月25日/20時25分
2014-07-25 20:25
涙で滲んだ視界で、赤い光が、弾けて消えた。 タイマーから、時刻表示が消えている。
――止まった。
止まった、止まった、止まった。
本当に止まったのだ!
私は胸の中で何度も、止まったと繰り返す。腰の辺りに力が入らなくて、その場にへたりこんだ。
深く息を吸って、吐く。私はまだ生きている。
このまましばらく、へたりこんでいたかった。でも、まずはお礼を言わなければならない相手がいる。
私はノートPCを手元に引き寄せる。
それから、目元をぬぐって、キーボードを叩いた。
ありがとうございます! カウントダウンが止まりました!
皆さんは私の、命の恩人です!!
【BREAK!!/BAD FLAG-02 爆発 回避成功!】
子泣き中将@優とユウカの背後さん @conaki_pbw
お、おおおおおおおお!!!!!!!止まったーーーーー!!!
MAG@実は美少女(ゲス
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