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記事 8件
  • ■久瀬太一/8月3日/18時15分

    2014-08-03 18:15  



     オレは八千代の車の助手席に座り、スマートフォンをいじっていた。
     運転席の八千代は、普段よりはやや硬い口調で言う。
    「いいかい、久瀬くん。穏健派はまず、オレたちに照準を合わせてくるはずだ。オレも穏健派側の協会員には詳しくない。顔をみてもわからない。これからは面識のない人間は、一通り敵だと思ってくれ」
    「ああ」
    「奴らは意外に目も耳もいい。真面目に調べれば、すぐに君のことがわかるはずだ。家族にも友人にも接触があるかもしれない。穏健派は基本的には、法を犯すようなことはしないはずだが、警戒はした方がいい。悪魔ってのは、協会内じゃそれくらいでかいことなんだ」
    「わかった」
    「オレもしばらくは、演技に乗ってやる。手を組むのはヒーローバッヂがみつかるまで。それまではオレの言うことに従ってくれ。もう今回みたいな無茶はさせない。いいね?」
    「問題ない」
    「話を聞いてるのか?」
    「聞いてるよ」
    「な

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  • ■佐倉みさき/8月3日/18時

    2014-08-03 18:00  




    「あの辺りでいいわ」
     とノイマンが言った。
     自分がどこにいるのかわからないけれど、なんてことのない街の一角だった。
     ニールが近くのパーキングに車を入れる。ふたりが車を降りたので、私もそれに従った。
    「旅行って、ここですか?」
     あまりに近い。旅行感はない。
    「いいえ、旅行に行くには準備がいるでしょ。鞄と着替えを買ってあげるわ」
     なるほど。なんとなく誘拐犯に服を買い与えられるのは気が進まなかったが、今着ているものもノイマンから与えられたものだ。さすがに着替えがないのはつらいから、いいなりになるしかない。
    「あなたもついてくる?」
     と、ノイマンはニールに言った。
    「んなわけないだろ。ちゃんと見張ってろよ」
     彼は手を振って、どこかに歩いていく。さすがにそうぽんぽんとは瞬間移動しないようだ。
     ノイマンは妙に嬉しげに笑う。
    「じゃあ行きましょう。とびっきり可愛いスカートをみつけ

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  • ■佐倉みさき/8月3日/17時45分

    2014-08-03 17:45  




     後部座席に載せられていた。
     運転席にいるのはニールだ。トランクに詰め込まれはしないだけましだが、数十センチ先に誘拐犯がいるのは、やはり息が詰まる。
    「旅行は好きか?」
     シートベルトを念入りに確認していると、前を向いたままのニールに尋ねられた。
     いきなりなにを言っているんだ、こいつは。
     ニールは気にした様子もなく、鍵を回してエンジンをかける。
    「俺は好きだ。遠ければ遠いほどいい。でも隣の県であれ、知らない土地ってのはそれだけで魅力的だよ。ただし邪魔な荷物がなければな」
     荷物とは私のことだろう。そう思うなら放っておいてほしかったが、きっと言うだけ無駄だ。
     代わりに尋ねる。
    「どこに連れていくつもり?」
     こいつが私と世間話をしたがるとも思えない。旅行の話題を出したのにはなにか意味があるのだろう。とはいえもちろん、プライベートな行楽旅行に誘っているわけでもないはずだ。
     ニ

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  • ■久瀬太一/8月3日/17時30分

    2014-08-03 17:30  



     やってきたのは2人の男だった。
     一方はひょろりとしていて眼鏡をかけている。もう一方は体格が良く、顔に不気味な笑顔を張りつけている。共に、三〇代の前半から半ばくらいにみえた。
     少なくとも彼らは、靴を脱いでマンションの中に入って来た。オレや八千代よりはいくぶん常識的なようだった。
     気がつけば、顔の痛みはもう引いている。あとには甘みに似た、安らかな違和感だけがある。でも安心できなかった。
     ――こいつらは、敵か?
     おそらくはそうだろう。ノイマンのマンションに、味方が現れるとは思えない。そもそもオレにはほとんど味方なんていない。思いつくのはソルたちくらいだった。
     男たちは、ちらりとこちらの足元に視線をやって、それから体格の良い方が口を開いた。
    「貴方たちは?」
     笑みを浮かべて、八千代が答える。
    「ノイマンの友人だよ」
    「友人のリビングに、土足で上がり込むのは感心しませんね」

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  • ■久瀬太一/8月3日/17時15分

    2014-08-03 17:15  



     ブログはタイトルの通り、愛媛の話題ばかりだった。短いテキストばかりのブログだが、確かな郷土愛を感じる。
     オレもほんの一時期だけ、愛媛に住んでいたことがある。でも転校が多かったせいか、どの土地にも愛着はない。だからこのブログが少しだけ羨ましかった。
     オレは記事のひとつで目をとめる。
     ――最近、愛媛を離れてずっと音沙汰のなかった弟から急に連絡があった。
     それは珍しく、長い記事だった。
     とはいえテキスト量が多いわけではない。
     こんな内容だ。
           ※
     どうやら絵を描ける人に頼んで、LINEのスタンプを作るんだと。
     自慢げに、それっぽいイラストが添付されてるメールがきた。
     愛媛を捨ててどこをほっつき歩いてるかと思えば、くだらない。
     みかんの絵もないし。
     
     なので、発表前のイラストをここで晒してやろうと思います。
     ザ・不買運動だ!
           ※
     その下

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  • ■久瀬太一/8月3日/17時

    2014-08-03 17:00  



     八千代は躊躇いのない足取りでマンションに入る。オレもその後ろに続いた。
    「どうしてここがわかったんだ?」
     彼はいつもの、こちらの内心を見透かしたような動作で肩をすくめる。
    「協会内には、何人か知り合いがいる。実のところ、君の彼女の誘拐にも知り合いのひとりが関わっている」
    「なら、今いる場所もわかるんじゃないのか?」
    「そう上手くはいかない。さっきの、派閥の続きだよ。悪魔を誘拐を実行したのはオレの友達がいる派閥だけど、そのあとでもう一方の派閥に引き渡された。そこにはどうやら、メリーの意思が関わっているらしい」
    「それで?」
    「ふたつの派閥は対立しているからね。やっぱり悪魔をみつけて誘拐した方としてはおもしろくないわけだ。だから必死に、彼女の居場所を捜していた。そしてここがみつかった」
    「なら、やっぱりみさきはここにいるんじゃないのか?」
    「可能性は低い」
     八千代がエレベーターのボ

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  • ■久瀬太一/8月3日/16時30分

    2014-08-03 16:30  



     八千代は赤い、高級そうな国産車に乗っていた。よくわからない仕事をしているくせに、それなりに稼ぎはあるようだ。エアコンの効きも良くて快適だが、オレは宮野さんの車の方が好きだった。
     移動しながらオレは、聖夜協会について、大まかな説明を受けた。
    「聖夜協会は元々、ジョーククラブとして誕生した。もっともらしい題目を掲げて、真面目ぶった、でもよく聞くと馬鹿馬鹿しい議論をしながら酒を飲むための会だ。年末に集まることが多かったから、ただそれだけの理由でクリスマスが槍玉に挙げられた。最近のクリスマスは間違っている、正しいクリスマスとは――なんてことを話しながらさんざんワインを飲むわけだ」
     オレは頷く。
    「でも、今は違う」
    「そう。聖夜協会はまったく性質の違う組織になった。そもそも聖夜協会を作ったのは、『センセイ』と呼ばれる人物だ」
    「センセイ」
     きいたことがある。
     たしか、最初の誘拐犯が信

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  • ■久瀬太一/8月3日/16時

    2014-08-03 16:00  



     今日も喫茶店でアイスコーヒーをすすっていた。
     目の前には八千代がいる。彼に呼び出されたのだ。
     もちろんまだ、八千代を信頼したわけじゃない。でも、彼の誘いには乗ろうという気になっていた。多少の危険を冒さなければ、なんの手がかりもつかめそうにない。
    「じゃあ、これは知ってるかい?」
     と八千代が言った。
    「アイテム欄の一番下をふしぎなキャンディーにしておく。戦闘中、そのキャンディーを使うと、消費せずに効果を得られる。でもこれにはもうひとつ条件があって――」
     古いRPGの裏技の話だ。
     なぜこんな話になったのかよくわからない。はっきりしているのはなにも得るもののない無駄話だということだけだ。
     オレは声が不機嫌になるのに構いもせず、言った。
    「そろそろ本題に入ってくれよ」
     レトロゲームの話題で盛り上がるために、わざわざ八千代に会ったわけじゃない。
    「そうかい? 敵に追いかけられな

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