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■久瀬太一/7月29日/14時
2014-07-29 14:00
めまいがするくらいに暑い日だった。
夏のなにげない路上の景色が、膨れ上がった空気でゆらゆらと揺らいでいた。
オレは深緑色の軽自動車の助手席で、エアコンの風に手のひらを向けながら、ぼんやりそれを眺めていた。
「なんの用よ?」
と宮野さんは言った。彼女は運転席で、緑色の瓶に入ったラムネをちびちびと飲んでいる。
「スイマの調査、どうなったのか気になって」
「もう話したでしょ。大阪に行って、アパートからスマートフォンとミュージックプレイヤーを借りてきて」
「盗んできて、の間違いでしょう」
「返すつもりはあるわよ」
「なにか目ぼしい情報はみつかりましたか?」
「まったく」
宮野さんは首を振る。
「スマートフォンの方は、着信履歴がいくつかあっただけよ。電話をかけても繋がらない」
「番号は?」
「そんなの聞いて、どうするのよ?」
「オレもスイマに興味が出てきましたから」
「あいにく、暗記 -
■佐倉みさき/7月29日/10時
2014-07-29 10:00
その女性はノイマンと名乗った。
彼女の部屋での生活は、これまでとは雲泥の差だった。
久々にシャワーを浴びることができた。シャンプーなんか私が普段使っているものよりも高級品だった。まっ白なタオルと新品の着替えが用意されていて、1日に3度人間味のある料理を食べ、夜は清潔なシーツと膨らんだ枕で眠った。口にガムテープを張られることもなかった。
なによりも嬉しかったのは、ようやく両手を自由に動かせるようになったことだ。私は枕元に畳まれていたジーンズのポケットに手を入れた。そこには、きちんとあのキーホルダーが入っていた。
――よかった。
それがあるだけで、少し救われる。
私には悲しいことなんて起こらない、と、こんな状況でも囁ける。
よし、と気合を入れた。それから私は、寝室の窓を開く。
「助けて!」
思い切り叫ぶと、後頭部を叩かれる。
いつの間にかすぐ後ろに、ノイマンが立ってい
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