思い立ったらすぐに海や山へ繰り出せる葉山は、アウトドア好きを中心に人気のエリア。都内で働きながら自然を感じられる場所で暮らしたい、と移り住む人も増えている。都内のような賃貸マンションは少なく一軒家が多いため、賃貸よりも新築やリノベーションを検討する人は多い。
都内のITベンチャー企業に勤務する青木さんが3年前から暮らすのは、ちょうど山と海の間に位置する元・米軍ハウス。かなり古かったという平屋が心地よい住まいへ生まれ変わった、その過程や秘訣をうかがった。
都内から葉山へ引っ越しを決めた理由は?
僕の職場は都内にあって、以前は会社から15分のところに住んでいました。葉山は友人が住んでいたり、昔からよく遊びに来ていたんです。山も海もあっていいところだなと、前から住んでみたいと思っていました。
会社からの距離は、それほど気になりませんでしたね。葉山は人気のあるエリアだし、住んでみてダメだったら売ることもできるなと。まずはとりあえず住んでみようと物件を探しはじめました。
物件はどのように探しましたか?
以前の会社の後輩が働いていた縁で、不動産会社のエンジョイワークスさんにお願いして、葉山近辺で探しました。リノベーションをしてみたかったので、“新築を建てる”選択肢は最初から外してましたね。
この家は取り壊しが決まっていて、土地だけ売りに出てたんです。それをエンジョイワークスのサイトで見つけて、連絡して見に行きました。年配の方が住んでいた家で、とにかく古かった。外観もいまとはまったく違って、外は竹藪が家に覆いかぶさっていて暗かったし……更地にして売りに出すのが通常だと思います(笑)。
取り壊し予定の家をリノベーションすることに決めた理由は?
前職で住宅系の仕事をしていたので、物件はたくさん見ていたんです。実物を見に行かなくても、物件情報サイトで見るだけでだいたい予想がつくくらい。この家はサイトで見た時からピンときました。
平屋をリノベーションしてみたいなと思っていたのと、広さなどを含めてイメージに合致する物件だったんです。ただ、古かったので機能面は心配でしたね。まずスケルトン状態にして、寒さ&暑さ対策で壁に断熱材を施すなど、構造の古さをカバーするプランを考えてもらいました。
リノベーションプランはどのように進めましたか?
ダイニング
きちんと設計するというよりも、話しながらいろいろ決めていった感じです。エンジョイワークスさんに紹介してもらった施工会社ワイズホームさんにお願いして。とはいえ都内に住みながらだったのであまり足を運べず、事務所で会って打ち合わせしたのは3回くらいだったかもしれません。
靴や遊び道具が並ぶ広い土間
あとは主にメールと電話ですね。“こういう家にしたい”というイメージは、雑誌やお店の一角などの画像を撮って送ることで共有させてもらいました。壁の棚やトイレのペーパーホルダーなどの細かいところまで、イメージ通りの画像を探して送ってそれを形にしてもらう、という流れです。
期間や金額はどのくらいかかりましたか?
とくに急いでいるわけではなかったので、ゆっくりの進行でいいですと伝えていました。結局かかったのは、プランの打ち合わせに2ヶ月、施工に半年くらいですね。リノベーション費用は全部で1,200万円で、ほぼ最初に提示した予算通りでした。
リノベーションは予算を上回ってしまうことが多いと聞きますが、リビングダイニングや土間は妥協しない分、キッチンやバスルームなどの水回りはシンプルな造りにして、コストを抑えています。
どんなところにこだわりましたか?
家全体が広く明るいことにこだわりました。天井は元からあった梁を残して、ギリギリまで上げて高さを出しています。
部屋や土間とリビングダイ二ングの仕切りにはすりガラスを使って、空間を分け過ぎないように。フルオープンになるサッシにすることで、外との抜け感が生まれたと思います。
リノベーションを成功させる秘訣はなんですか?
まずはいい物件に出会うことが大事ですよね。この物件でなかったら、まったく違った家になっていた可能性もありますし、運がよかったと思います。
それと優先順位を明確に持っておくこと。予算は限られていますし、照明や蛇口ひとつまで決めなければいけないことがとても多いので、全部にこだわろうとすると途中で疲れてしまったりします。
僕の場合は、リビングダイニングにはだいぶこだわりましたが、キッチンやバスルーム、洗面所はある程度おまかせしました。何度がやりとりしているうちに、施工会社さんもこちらの好みをわかってくれたので、おまかせしても好きな感じになっていたりしました。
キッチンや玄関の照明に使っている船舶用ライトはワイズホームさんのセレクトですし、洗面所の棚も気がついたら他と合わせていい感じにできていました。
家が完成してみてどうでしたか?
できあがってみると想像以上にきれいで、イメージ通りに仕上がったので、ここに決めてよかったと思いました。あのボロボロの家がここまで変わるとは正直思っていませんでした。
新築でも思い通りの家ができるかもしれませんが、リノベーションでもクオリティや快適さは申し分ないし、もともとの素材があって手を加えていくクリエイティブな過程も楽しかったです。町も家もここが気に入っているので、引っ越す予定はありませんが、もし機会があれば次も新築ではなくリノベーションしたいですね。
編集部ノートちょっと出かければ海があり、週末になると都内から友人たちが遊びに来るという青木家。ここに魅了されて、またひとり、またひとりと湘南エリアの住民が増えるかもしれない。
遊びに行く葉山も楽しいが、住む葉山でしかできない体験できないこともある。まずは「この町に住んだら……」と本気で想像しながら、1日を過ごしてみたい。
Photographed by Shinichiro Oroku