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台獣物語25(2,243字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 101ヶ月前
25 ぼくたちは、午前の便の連絡船で、皆生港から隠岐の島へと向かった。 この時期は、台獣シーズン真っ只中だったから、台獣見物の観光船は混んでいるのだが、反対に、隠岐の島へと向かう観光客はほとんどいなかった。そのため、連絡船はとても空いていて、隠岐の島の住人か、仕事で行く人しか乗っていなかったので...
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台獣物語24(1,907字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 102ヶ月前
24「きみたちもご存じかと思いますが、この地方には伝統的にヲキやトモが多い。そもそも、ヲキの元祖であるアマノウズメも、この地方出身ですしね」 エミ子は、山神の話に興味深げに頷いた。すると山神は、ふと身を乗り出すと、声のトーンを少し抑えながらこう言った。「……それで、これまでも何人かヲキの方々にお話...
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台獣物語23(2,293字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 102ヶ月前
23 オーナー室に入って、ぼくはびっくりした。そこは、想像以上に広い空間だったからだ。体育館……まではいかないが、その半分はあったろう。しかも、左右正面の三面がガラス張りで、右手には日本海、左手には弓ヶ浜半島の全景を見渡すことができた。「すごい!」 と、エミ子は思わず感嘆の声を上げた。ぼくもつい声...
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なぜ小説が必要とされていない時代に小説を書くのか?(2,207字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 102ヶ月前
先日、『台獣物語』についての感想を読者の方々に質問した。そうしたところ、あまり芳しい評価を得られていないことが分かった。特に、このメルマガで掲載していることに違和感を感じている方が少なからずいた。あるいは、小説を細切れで読みたいくないという方もいた。それで、いろいろ考えたが、『台獣物語』は毎週金...
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台獣物語22(2,238字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 102ヶ月前
22 体育館を出たぼくらは、裏門から学校の外へと出た。すると、そこには白塗りのセダンが停まっていて、ぼくたちが来ると、中から運転手の人が降りてきて後部座席のドアを開けてくれた。 ぼくとエミ子は、おずおずとそこに乗り込んだ。学は、前に回って助手席に座った。 そうして、車は出発した。聞くと、その山神...
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台獣物語21(2,378字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 102ヶ月前
第六章「君の瞳に恋してる」21「――ぼくたちに……用?」と、ぼくは戸惑いながらも尋ね返した。「時田さん……と言いましたか?」「はい」「あなたは、一体誰なんですか?」「ぼくは……ぼくも、あなたと同じ『トモ』なんです」「!」「といっても、それを知ったのはつい最近のことでして――」 そう言った時田学は、よく見る...
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台獣物語20(3,194字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 102ヶ月前
20 それを聞くやいなや、朋美は生徒会室を飛び出して行った。そのため、ぼくらも慌てて彼女の後を追った。 廊下を走りながら、ぼくは並んで走るエミ子にそっと耳打ちした。「彼女も――」「え?」「彼女も、たぶんヲキだよ」「ええっ!」 とエミ子は、思わず立ち止まってぼくを振り返った。それでぼくも立ち止まり、...
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台獣物語19(2,863字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 102ヶ月前
19 やがて台獣は、「人類を恐怖のどん底に陥れた厄災」から、「観察して楽しむ人気者」へと、その立場を急変させていった。そうして、台獣観光ビジネスが一気に花開いたのである。 特に、獣道に隣接した地域は、壊滅状態にあった経済を一刻も早く立て直そうと、そこにあらゆる資源を投入していくこととなった。 台...
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台獣物語18(3,098字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 103ヶ月前
18 それから三〇分くらい待っていると、やがて生徒会室のドアが開いた。そうして、先ほど教壇で話していた女の子――日田朋美が一人で入ってきた。 朋美は、入ってくるなり戸口のところでぼくらのことをしばらくじっと見つめた。その視線の迫力に、ぼくらは気圧されるような格好となって思わず立ち上がった。「お邪魔...
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台獣物語17(2,667字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 103ヶ月前
第五章「サバの女王」17 ぼくらは、川から飛び降りた杉並春香という女の子に頼まれて、彼女の手帳を届けに赤松小学校までやってきた。この日は日曜日であったが、学校では子供会の集会があって、そこに会長の日田朋美という女の子が来るらしい。手帳は、その朋美に渡してほしいとのことだった。 そうして赤松小学校...
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台獣物語16(2,827字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 103ヶ月前
16 その手帳を届ける場所は、春香が通う赤松小学校というところだった。そこで今日、午後一時から何かの集会があるらしい。 手帳は、その集会に出席する、子供会会長の日田朋美に渡してほしいとのことだった。 赤松小学校は、米子市の東隣、大山町にあった。 大山町は、もとは農業と大山への観光が主な産業の、人...
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台獣物語15(3,112字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 103ヶ月前
15 二時間後、エミ子は、皆生駅にほど近い米子市立病院の廊下のベンチに一人でポツンと座っていた。そこに、バスタオルを肩に羽織って、ジャージに着替えたぼくが現れた。それで、立ち上がったエミ子はぼくの方へと駆け寄ってきた。「榊くん! 大丈夫だった?」「ぼくは大丈夫。一応検査してもらったけど、なんとも...
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[Q&A]中学生の息子が片付けができるようにするには?(3,277字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 103ヶ月前
[質問]もしドラのアメリカバージョンの進捗状況は最近記事がないので気になっています。[回答]『もしドラ』のアメリカバージョンは今のところ進んでいません。ここだけの話なのですが、舞台をアメリカの高校のアメフト部にしようと思っています。アメフトのシーズンは9月から始まるのですが、そこで9月にアメリカに取材...
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台獣物語14(2,874字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 103ヶ月前
14 それから数日後の土曜日、ぼくはエミ子を連れ立って、二人で日野川の土手道のところまでやってきた。 日野川は、米子市を南北に貫き、最後は日本海に注ぎ込む一級河川だ。河口近くだと川幅が二〇〇メートル以上にもなる、ここらでは一番大きな川である。 そのため、両端には広い河川敷や堤防が築かれており、市...
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台獣物語13(2,509字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 103ヶ月前
第四章「青い影」13 いよいよ、エミ子と度会の対決が始まった。 ただし、ゴングが鳴っても、両者はしばらく見つめ合ったままだった。それは、エミ子はもちろんだが、度会も、初めての対戦相手に慎重になっていたからだろう。 と、そのとき――いきなり、エミ子の方から仕掛けていった。彼女は、遠い間合いからの回し...
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台獣物語12(3,020字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 103ヶ月前
12 その人物は、馬にまたがった格好でステージ上に現れた。全身には、何やら甲冑のようなものを身につけている。さながら中世の騎士のようだ。 しかしぼくは、そんなエミ子を落ち着かせようと、努めて冷静に言った。「いや、あれはそもそも立体映像だから、あそこに本当にいるわけじゃないよ」「あ、確かに……」「そ...
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台獣物語11(2,412字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 103ヶ月前
11 その日の放課後、ぼくらは米子駅から電車に乗ると、一〇分ほど北上したところにある皆生駅までやってきた。皆生駅近くにあるゲームセンターへ行くためだ。 台獣が来るようになって以降、皆生は、この一帯のターミナルとして急速に発展した。 まず、それまで浜だったところが観光客用の港に改築された。おかげで...
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台獣物語10(2,322字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 104ヶ月前
10 驚くエミ子に、ぼくは話を続けた。「昨日、アマノウズメの話をしただろ?」「うん」「アマノウズメは、何をした人?」「それは……天岩戸の前で踊った人」「そう。で、そこで天照大神はどうしたんだっけ?」「興味を引かれて、岩戸から出てきた」「では、なぜ天照大神は岩戸から出てきたの?」「それは、みんなが楽...
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台獣物語09(2,380字)
コメ4 ハックルベリーに会いに行く 104ヶ月前
第三章「ダンシング・クイーン」9 その日は、朝から梅雨のしとしととした雨が降っていた。それでも、ぼくらは昼休みに屋上に行くと、傘を差しながら二人で話した。 あいにくの天気だったけれど、おかげでぼくら以外に人影はなく、秘密の話をするには持ってこいだった。 屋上の北側の縁に立つと、雨で多少けぶっては...
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台獣物語08(1,957字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 104ヶ月前
8 そんなふうに、珍しく楽しんで受けた授業はあっという間に過ぎ、終了した頃には一〇時前になっていた。 それでエミ子は、あらためてお腹がすいていることに気づかされた。(これでは、とても家まで持ちそうにない!) そう思ったエミ子は、近くで何か買い食いしていこうと考えながら塾を出た。 ところが、そこで...
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台獣物語07(2,107字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 104ヶ月前
7 そう言うと、エミ子は苦笑いのような表情になって、首を振ってからこう言った。「ううん、違うの」「え?」「私、お母さんのこと、何も知らなかったな――って、ちょっと反省したの」「そっか……」「でも、嬉しい。今日、お母さんのこと、いろいろ教えてもらえたから」「あ、うん……でね――」 とぼくは、エミ子の態度が...
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台獣物語06(2,169字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 104ヶ月前
6「え?」「『ヲキ』とは、簡単にいえば『芸能を司る能力』、あるいは『その能力の持ち主』のことをいうんだ。一説には、アマノウズメの子孫――なんていわれたりもしている」「へえ!」「あまり知られていないけど、日本にはこのヲキの能力を受け継いだ『家』というのが、古くから――それこそ神代の昔からあってね。その...
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台獣物語05(2,099字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 104ヶ月前
第二章「素顔のままで」5 翌日の月曜日、昨日のことがあってよく眠れなかったエミ子は、珍しく早起きした。 食卓に着くと、智代と英二の三人で朝ご飯を食べた。この日は、目玉焼きに納豆、ご飯に味噌汁といった内容だった。 ご飯を食べながら、英二が聞いてきた。「どうだ? 勉強は捗っているか?」 それで、エミ...
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台獣物語(たいじゅうものがたり)04(2,471字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 104ヶ月前
4 女性は、前に見たときと同じ、般若のような表情で、男装したエミ子を苦々しく見下ろしていた。 それでエミ子は目を見開き、慌てて逃げようとした。しかし、女性に肩を捕まれていたため、身動きできなかった。 女性は、その掴んでいた手に一層の力を込めると、低い声音で言った。「ようやく捕まえた」「……え?」「...
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台獣物語(たいじゅうものがたり)03(2,523字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 104ヶ月前
3 それで、エミ子は驚きのあまりその場で腰を抜かしてしまった。すると、女性はそんなエミ子につかつかと歩み寄ってきた。 そのため、身の危険を感じたエミ子は、慌てて逃げようとした。 ――が、間に合わなかった。尻餅をついていて、すぐには起き上がれなかったのだ。 それで、恐怖に目をつむった瞬間、女性はエミ...
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台獣物語(たいじゅうものがたり)02(2,440字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 104ヶ月前
2 西中へと続くなだらかな上り坂を、エミ子は息を喘がせながら懸命に駆け上がっていた。そのとき、後ろからオートモービルの駆動音が聞こえてきた。そこでエミ子は、スピードを少し緩めると、道の端に避けオートモービルを先に行かせようとした。 このとき、エミ子は俯きながら走っていたので(ただしパンはくわえた...
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台獣物語(たいじゅうものがたり)01(1,637字)
コメ0 ハックルベリーに会いに行く 105ヶ月前
第一章『見つめていたい』1 その日の朝、エミ子のベッドの目覚ましシステムは、都合三度起動した。その度にエミ子は、無意識のうちに布団から手を出し、枕元のスヌーズボタンを押していた。 しかし、その三度目のシステムが起動したとき、布団から出たエミ子の手を、むんずと掴む別の手があった。 それで、エミ子は...
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小説『台獣物語(たいじゅうものがたり)』がスタートします![スタート告知+プロローグ](3,088字)
コメ1 ハックルベリーに会いに行く 105ヶ月前
■スタート告知今週の金曜日(2016年4月5日)から、『台獣物語』の連載がスタートします。思えば、企画は2013年からスタートしていたので、丸3年が経過していますね。その間、イラストレーターさんを募集したり、実際に働いてもらったり、そのイラストレーターさんが働くための事務所を作ったり、描いてもらうための機材...